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豪徳寺弥彦と15人のフィアンセ  作者: 水野葬席
【第一章・Ⅱ】
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【85話】7 Girls War

弥彦(やひこ)


大本命【TAKE OFF(テイクオフ) GIRLS(ガールズ)】、堂々降臨。

深い青と濃い黄色を基調とした衣装は爽やかさや凛々しさに重きを置きつつ、更にアイドルらしい可愛らしさも内包している。


自信に満ち溢れた表情、揺れる肩章と髪飾りとスカート。

スポットライトも相まってか一身に光を浴びて、この夜の闇の下で星の如く眩しく輝く7人の姿がそこに在った。


左から長めのツインテールの子、背丈の低いポニーテールの子、ミディアムボブの子…と並ぶ。

その次、7人グループであるが故に中心にいるのは意外にも凶谷(きょうごく)マユではない。

俺の覚えが確かなら彼女がこの【TAKE OFF GIRLS】リーダー、灰川(はいがわ)ヨシノ。

斜めに切った前髪が印象的なショートカットに加え、その目線もキリッと鋭い。


続いてまたも背の低いお下げの子、ブロンドのセミロングの高身長の子と並ぶ。

そして一列に並ぶ右端、セミロングの彼女こそが凶谷マユその人だ。


かつて【81Club(エイティワンクラブ)】センターとして輝いていた彼女。

病室のテレビで見た瞬間、まるで心臓を打ち抜かれたような衝撃に襲われたことを今でもよく覚えている。

画面越しでも理解できてしまうくらいに他の誰よりもキレのある歌とダンスで俺は圧倒された。

退院した日には思わずCDを買いに行った。初めて買ったCDがそれだ。


その凶谷マユが今、目の前のステージに立っている。

間違いなく俺が今日最も期待していた光景だ。


リーダー、灰川ヨシノが挨拶をする。

「エントリーナンバー20番、【TAKE OFF GIRLS】です!今日は一生懸命頑張りますので、よろしくお願いします!」


「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!」


AIRU(アイル)の時にもあった歓声と拍手喝采。

それだけ誰もが期待しているのだ、彼女たち【TAKE OFF GIRLS】に。


辺りをこれだけの音が支配している。

しかしステージの上には確かに張り詰めた空気があることがわかる。

7人は自身に満ち溢れた表情で『イグニッション』大トリという大役に挑む。


イントロが流れ始めると同時にパフォーマンスが始まる。

その瞬間、客席が全体的に少しどよめいたような気がした。

きっとそれは事実だった。俺もそのどよめきの中の1つだった。


そして段々に実感させられていく。本当の意味で、理解していく。

【TAKE OFF GIRLS】というアイドルが何たるか、その問いの答えを。


歌い出しはリーダー、灰川ヨシノ。

彼女が中心に立ち、それを軸に左右対称(シンメトリー)になるように周囲で6人が踊る。

踊る、と言ってもシンプルな腕だけのフリ。しかしそれ1つを取っても6人全員がピッタリ、まるでロボットのように揃っている。

これだけ見ても動きが洗練されていることを素人目ながらに理解できる。


複雑に動く立ち位置と1人1人バトンリレーのように紡いでいくソロパート。

滑らかに流れるようにスライドしていくそれらは観客にしてみれば一瞬一瞬。

だが瞬間の中に派手さと華やかさを爪痕として刻んでいく。

多人数であるが故のメリットだ。彼女たちの強みだ。


動きのメリハリ、伸びやかな声、そしてフォーメーション。

それら全てに一切のブレがないからこそ、彼女たちのパフォーマンスは1つの芸術の領域に昇華しているとさえ感じられる。


凶谷マユのソロパートが始まった。他の6人全員が直線的に横並びになる。

真正面から見ているのにその直線が定規で引かれたように綺麗だと認識できる。

そしてそれさえ凶谷マユの誰よりも響く声の前では主役を引き立たせる端役だ。


7人のソロパートを凶谷マユが締め括り、そして遂に迎えるサビ。

凶谷マユを中心に前3人、後ろは4人がそれぞれ横並びになる。

今度は体格差まで考慮に入れ、先ほどよりも更に対称に近い。


その7人がその陣形を維持したまま左へ右へと動く。

当然のように7人の隙間はより離れることも近づくこともない。

まるで1つの塊を動かしているかのように、その体制は崩れない。


1つの塊の様であるのは、その響く歌声もだ。

7人の声が重なって1つになる。今まで聞いたどの声とも違う美しさ。

勿論1人1人だってアイドルとして惚れ惚れする程素敵な声だったが、それを7人分束ねるとハーモニーが生まれ、また新たな音色へと変身する。


凶谷マユの魅力の1つであるその歌声。

だが残りの6人の声も何1つ劣っていない。故に成り立つ御業。

凶谷マユの輝きはあの時よりも更に進化しているのに、しかしそれでいて尚、【TAKE OFF GIRLS】の中では等しく輝く個性の1つである。

彼女らは7人であるが故に【TAKE OFF GIRLS】なのだ。


瞬きなどとうに忘れた。呼吸さえも忘れそうだ。

だが忘れてもいい。忘れたい。よりこの光を浴びれるならば。


アイドル史にその名を刻まん勢いで7人のアイドルは燦然と輝く。

夜だと言うのにそれを忘れてしまう程、今の彼女たちは眩しい。


このアイドル同士が競う場において、きっと誰もが既にそれを忘れていた。

他の事なんて考えられなくなるくらい【TAKE OFF GIRLS】の光が強かったから。


或いはそれこそ、このアイドル戦国時代に刻む彼女たちの生き様なのだろうか。


【TAKE OFF GIRLS】のパフォーマンスが終わった時、一瞬場が静まり返った。

それはまるで終わったという事実を受け止められないかのようだった。


それからまたしても地響きが如く拍手と歓声が止まない。

今日の今までのどんなものよりも大きな拍手と歓声だった。


AIRUのパフォーマンスとどちらが良かったか決めきれない。

或いはそれを俺が口にする事さえまるで冒涜のように感じられる。


間もなく結果発表が始まる。

隣の珠希(たまき)が俺の手を握りしめる。その手は汗ばんでいた。

遂に勝者が決まる『イグニッション東京予選・スペシャルブロック』、勝利の女神は果たして誰に微笑むのだろう。

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