【83・5話】楽屋のTAKE OFF GIRLS
◇◇◇
AIRUのステージ終了直後、【TAKE OFF GIRLS】の楽屋は静まり返っていた。
きっと他の全ての楽屋でも同じであることは想像に難くない。
「何よ、これ…。」
口火を切ったのはヨシノだった。
その目はモニターを見たままである。
しかし表情はまるで信じられない物を見たという顔である。
否、実際に信じられない物を見たのだ。
AIRUをチェックしていたヨシノ自身にさえ現状は予想外と言う他なかった。
歴戦の彼女すらそう思ってしまう程にAIRUはアイドルとして完璧だった。
「うっひゃあ~…、こんなのバリバリ優勝候補じゃないですかあ~…。」
ミユも目を丸くし、その光景から瞬きなどできやしなかった。
既にそれはナメたら負けるなどという次元ではなかった。
「ちょっと、運がどうこうって話はどうしちゃったのよ。」
そう言うカヤにも勿論わかっている。そんなレベルの相手ではないことが。
運など所詮は付加的要素に過ぎない。
実力で及ばなければ多少の追い風向かい風など意味はない。
運も実力の内…とはそれを言葉にする者の負け惜しみであり言い訳である。
AIRUのステージは全てのライバルにその言葉を刻み付けるが如しであった。
それは勿論、今ここにいる【TAKE OFF GIRLS】を含めて。
そしてこの圧倒的な実力は1番手であれば俄然に映える。
そういう意味では逆に運を持っていたとさえ言える。
「すごいね…。」
AIRUの魅せたパフォーマンスに怖気づいているアイリ。
その手は固く握られ、声だけでなく体も震えている。
「ちょっと!皆何ビビってんのよ!」
凍てついた暗い空気の中、声を張り上げたのはナナミだ。
「私たちの目標は何!?【81Club】に一泡吹かせられるようなトップアイドルになることでしょう!?確かにこの子はすごいけど、今こんな所でビビってたら全然話にならないじゃない!!」
ナナミの声を聞いてメンバーの脳裏に過るはかつての雪辱の記憶。
元【81Club】センターの凶谷マユありきのユニットだと言われた日々。
【81Club】との共演の場で実感させられた余りに圧倒的だった実力差。
今でこそ持て囃されたりもする立場にもなった。
しかし一昔前までは辛酸と苦渋を舐めさせらるばかりだった。
無論、片時さえ彼女たちはその悔しさを忘れたことなどありはない。
ナナミの言葉で各自の表情が引き締まる。
一介の挑戦者である以上、強敵などあって当然である。
今まで困難を乗り越える度に彼女たちは強くなっていった。
そして今回も、そうだ。
「うん、その通りだね。ありがとう、ナナミ。…ねえ皆、私たちなら大丈夫だよ。今までやって来たことを信じて、最高のステージにしよう。」
「ぃよぉーしっ、燃えてきたぁーっ!」
マユの言葉を受けミナミが椅子を倒しながら勢いよく立ち上がる。
そんなミナミの様子を見て残りの6人はクスッと笑う。先程までと比べれば雰囲気はかなり和らいだ。
後に伝説と称されるこの日のステージと勝敗の行方。
それはまだ世界の誰も知らない物語。




