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豪徳寺弥彦と15人のフィアンセ  作者: 水野葬席
【第一章・Ⅱ】
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【82話】とぅんくΩ、来る

とぅんくΩのΩの部分は発音しません。


弥彦(やひこ)


「いや、流石に凄い人だかりだな…。」

空も青く澄み渡る日曜日、俺と珠希(たまき)がやってきたのは『イグニッション東京予選・スペシャルブロック』の会場、この銀龍(ぎんりゅう)市が誇る『豪徳寺(ごうとくじ)野外ステージ』である。


昨日は遠巻きに見えただけのこの会場だが、今日はまるで別の世界。

人が溢れかえり、その熱気で既に汗が止まらない程だ。


そしてその溢れかえる人の中には暑苦しいのもそれなりに混ざっている。

法被に身を包み団扇やペンライトを振り回している集団がそこかしこ。

推しのグッズを戦国武者の鎧のように身に纏う者も所々に目立つ。


「こういうイベントは初めて来たけど、すげえな。何て言うか、熱がさ。」

「いくら『イグニッション』と言ってもこんなに盛り上がるのは流石に今日くらいじゃないかしら?何せ今年は大本命【TAKE OFF(テイクオフ) GIRLS(ガールズ)】がいるんですものね。」


【TAKE OFF GIRLS】、東北エリアの推薦枠で今日出場するローカルアイドルだ。

センターを務めるのは3年前に優勝した【81Club(エイティワンクラブ)】当時のセンター、凶谷(きょうごく)マユ。

その電撃的な復活劇に注目が集まるのもむべなるかなという訳だ。


そして俺の一番の楽しみも実はそれだったりする。

AIRU(アイル)やそれを応援しに来た珠希に悪いとは思っているのだが。


恐らく今ここにいる観客の3割は【TAKE OFF GIRLS】目的だろう。

メンバーカラーの法被の背にはデフォルメされたメンバーが描かれている。

そしてそんな人間が視界に映るだけでも両手の指では数え切れない程にいた。


とりわけ注目の的である凶谷マユのイメージカラーは赤だが、その赤の法被が特別に多い訳でもない。

メンバー7人7色分、どの色も偏りなく見受けられる。

それが示すのは少なくとも凶谷マユ以外のメンバー6人もまた彼女同様に推される立場であるという事実。

断じて凶谷マユありきのユニットではないということだ。


このステージに立つまでに頑張っていないアイドルなんていない。

AIRUだってそうだろう。また他のアイドルだって1人の例外なくそうに違いない。

【TAKE OFF GIRLS】も7人全員の実力が合わさって『イグニッション』という実を結んだのだ。


そう考えると胸の期待はより膨らむ。

『イグニッション』開幕まで、残り1時間。


◇◇◇


「すみません、急に来て頂いて。」

「構わん構わん、仕方ねーじゃん。」

スーツ姿に身を包んだ茶髪で細身のサングラスの男が黒の高級車から降りた。

年齢は中年くらいか。伸びた背筋と引き締まった体系が立ち姿を様にする。


この男、とぅんくΩ。

アイドル界隈ではその名を知らぬ者はいない大物プロデューサーである。

【ミッドナイト小娘。】や【サンキュー!プロジェクト】、【81Club】等、聞けば誰でもその名を知っているようなアイドル達の総合プロデュースを務めている。

またそれらを通して音楽シーンにも絶大な影響を与え続けている男だ。

そして『イグニッション』の中枢に関わっている男でもある。


本来ならば、今日彼がここに来る予定は無かったハズだった。

しかし審査員の一人が急遽来れなくなってしまった故、お呼びがかかったという訳である。


「とぅんくΩさん、資料は要りますか?」

「いや、車ン中で目ェ通しておいた。本命は凶谷マユもとい【TAKE OFF GIRLS】なンだろうけども、でも誰が勝ちあがンかわかんないね。今年はレベル高ェよ。」

その言葉に違わず、とぅんくΩは内心わくわくしていた。

『イグニッション』の時は毎回そうだが、今年は特にだ。


かつて【81Club】で面倒を見た凶谷マユ。

彼女のアイドルとしての姿を再び直に見れるのだから。


「あれ?とぅんくΩさんの本命は【81サテライトF】ではないんですか?」


【81サテライトF】、その名の通り【81Club】の系列ユニット。

福岡を中心に活動しているローカルアイドルで、いずれメジャーデビューした暁にはとぅんくΩによるプロデュースがほぼ確実視されている。

彼女らも【TAKE OFF GIRLS】同様、今回の『イグニッション』には招待枠として参加している。


が、とぅんくΩは首を横に振った。

「そりゃ頑張ってンのは知ってンけどね。あの子らも技術は高ェ。次世代アイドルとしては文句なしの期待大よ。…でも相手があのマユだからなあ。」


「俺、実は【TAKE OFF GIRLS】よく知らないんスけど、そんなに凄いんですか?その凶谷マユって…。一度は【81Club】をクビになった子なんでしょう?」


スタッフの質問を聞いた瞬間、とぅんくΩはそれまでヘラヘラしていた表情を一変させ彼を睨みつけた。

睨まれたスタッフは自身の発言が何か癪に触ったのだと即座に実感し、謝罪する。

「す…すみません…。」


「君、この仕事辞めたら?モグリが過ぎンだろ、その仕事の癖に。」


とぅんくΩは彼を睨みつけたまま続ける。

「凶谷マユは紛れもない天才だ。アイドルとは何かを誰よりも理解してンし、そのスペックも近年は類を見ねェくらい高い。その上で努力だって人一倍する。だからあいつは【81Club】のセンター張って『イグニッション』優勝したンだよ。」


「そのマユが【TAKE OFF GIRLS】を引っ張って地元でずっと頑張ってたンだろ?動画も見たけど、あのユニットは凄まじいぞ。今の【81Club】とだって余裕でサシでやれる。」


『イグニッション』は知名度や昔取った杵柄で勝てる程甘くはない。

だがとぅんくΩは再び上って来た凶谷マユが未だ錆びていないことを知っていた。

次回投稿10月14日(祝)です。

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