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豪徳寺弥彦と15人のフィアンセ  作者: 水野葬席
【第一章・Ⅱ】
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【79話】弥彦と珠希のショッピング(3)

弥彦(やひこ)


珠希(たまき)の破廉恥な下着ファッションショーがもう小一時間は続いている。

よくもまあ恋人でもない男を相手にそんなに肌を見せられるものだ。

俺としてはこんな所を他の誰かに見られたらたまったものではない。


「うふふ、強がってる割に目線はちゃーんと動いてるじゃな~い?」

「うるせっての…。」

これは男の生理現象だ。断じて邪な感情を抱いている訳ではない。

絶対に。間違いなく。神に誓って。【豪徳寺(ごうとくじ)】の名に誓って。


「次で10着目だぞ?買う気あるのか?」

「何?早く帰って()()()()したいのかしら?」

珠希がその手の発言に抵抗がないのは今に始まったことではない。

しかし女子としてはその躊躇の無さというのはやはり凄いと思う。

別に尊敬をしている訳ではない。


因みに俺が早く帰りたいのは当たっている。

別に隠していないどころか直接言っているのだが。

腕時計を見れば時刻は既に14時を回っているようだ。

きっと(らん)は美味しい食事を用意して待ってくれていることだろう。


その蘭の優しさに報いてやる為にも早く帰りたいのだ。

朝早く起こされ今に至るまで飲まず食わずなのだから腹も減っている。

既にメインの用事も終わっている以上、いたずらに長居する理由はない。


「ま、確かにもう良い時間だし次で最後にしようかしら?」

俺としては別にその次とやらが無くても一向に構わない。

そんな俺の思いは汲んでもらえる訳もなく…。


「あ、これなんかエロエロで好きなんじゃない?」

カーテンを隔てて聞こえる珠希の楽しそうな声。

勿論エロエロが好きだと言った覚えはない。


「じゃじゃ~ん、アラビアン風で~す。」


珠希の言葉と共に開かれる試着室のカーテン。

そして現れた彼女が纏う衣装はその台詞に違わない。


カップの部分に連なるは金色の水の雫の形のような装飾。

腰の部分にも同じ装飾の付いたアクセサリーが付けられている。

…もっと正確に言うとそれしか付いていない。余りに際どすぎる。

恐らく前後に垂れ下がった長い布の下にパンツ部分があるのだろう。


「…それ下着っていうかコスプレだろうが。」

セクシーさに負けず落ち着いてツッコめた俺、偉いぞ。

商品の種類が幅広いとはいえよくもまあそんなものを見つけたもんだ。


「あらぁ?こういうのはキ・ラ・イ?」

珠希はわざとらしいポーズも忘れない。

茂布川(もぶかわ)なら興奮で死んでいたかもしれない。


「私、何を着ても様になっちゃうのよね~。」

そう言いながらその場で一回転してみせる珠希。

靡く装飾や布がスタイルの良い珠希を軸に回る様は確かに画になる。


「そりゃ確かに似合っちゃいるけどさ…。」

一体そんな物を買ってどこで着るつもりなんだろうか。

少なくとも俺にはその派手な衣装が活躍する機会が思い浮かばない。


「結構これ気に入ったかも。ねえ、買ってくれない?」

「…俺が?」


しかし返って来る珠希の表情は先程と同じく不機嫌である。

「何よ、服を見繕ってあげた上に目の保養までさせてあげたじゃない。」

珠希はそれのお礼代わりと言わんばかりだが、どちらも別に頼んでいない。

というかこれに付き合うのが服を見繕った礼だってさっき言ってなかったか?


なんて言ったところで、か。

たかが下着くらい、大した値段ではないだろう。


「…仰せの通りに。」


珠希の買った下着が全てブランド物であるのを俺はレシートで知った。

そしてアラビアンのコスプレ衣装はそれらより更に桁が1つ多かった。

俺からすれば別に痛手ではないのは、それはそうなんだが…。

幾ら何でもカップラーメン半年分って、お前なぁ…。


◆◆◆


金閣(きんかく)町に到着した時、既に14時30分を少し回っていた。

「すっかり腹ペコだよ。早く帰ろうぜ。」

「デザートはお前だ…って?」

「言ってねえよ。」


相変わらずのやや疲れる軽口を交えながら俺たちは歩く。

地元の見慣れた風景が何だかんだで一番安心するものだ。


「ところで何で俺を音楽イベントに誘おうだなんて思ったんだ?」

気が付けば明日に迫る『イグニッション東京予選・スペシャルブロック』。

どうして俺がそんなものに誘われたのか、実は前から気になっていた。

俺はAIRU(アイル)もとい玄楼島(げんろうじま)亜以流(あいる)と一度も会話したことがない。

珠希が彼女と仲が良いことは日常の様子からわかっていたが。


「あの子に言われてたのよ。なるべく多くの人を誘ってほしいって。」

「ああ、そりゃパフォーマンスする側ならそう言うよな。」

帰ってきた答えは特に何か変わっていた訳でもなかった。

多くの人に見てもらいたい。アイドルなら当然の欲求。


「でもそれだけじゃないの。」


「…と、言うと?」

珠希の顔は少なくとも今日見た中では一番真面目そうだった。

どうやら珠希は珠希で何かこのイベントに思うところがあるようだ。


「私自身が思ってるの。AIRUを色んな人に見てほしいって。そのパフォーマンスを見ればきっとわかってくれると思うのだけど。」


「あいつ、そんなに凄いのか?」

玄楼島に歌や踊りが上手だなんて印象はないのは当然。

そして何より、彼女は特にクラス内で目立っている訳でもない。

寧ろアイドルに求められる素養とは正反対の地味さとも思えてしまう。


しかし珠希がそんなことで嘘をつく理由もない。

その口ぶりから実際にアイドルとしてのAIRUの姿も見たことがあるようだ。

その珠希がそう言うのだから、俺はそれを安直な忖度だとは思いたくない。


「ええ、勿論。きっと驚くことになると思うわ。」

その珠希の台詞や表情から窺えるのは並々ならぬ自信。

友人ということもあろうが、相当に玄楼島に入れ込んでいるようだ。


こんな会話をしていれば当然に期待は膨らむ。

玄楼島がどんなステージを見せてくれるのか今から楽しみだ。

何気に凶谷(きょうごく)マユのパフォーマンスを直に見るのも初めてだしな。

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