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第四十八話 添い寝という煩悩

琴美視点です。

「なに、ボーッとしてるの?」


 二時間目の体育、男子側がバスケットボールをしている様子を少し眺めていると頭に軽く衝撃が走る。

 そして自分の足元にボールが転がってくる。

 琴美はそのボールを拾い上げ、投げた本人であろう皐月にボールを返す。


「やっぱり好きなんでしょ? 花沢くんのこと」

「好きとかそんなものでは......」

「もういいよ、わかってるから」

「うう......」


 琴美が無意識に柚衣のことを目で追いかけているとそのことに気づかれてしまったらしい。


 柚衣に自分の好意は気づかれたくない。

 誰かに言ってしまえばそれだけリスクが高まる。

 それに何より好きな人がいるとバレてしまうことが少々恥ずかしいと琴美は思っている。


 ただ、どうも恋愛感情ばかりは隠し通せないらしい。


「顔が恋する乙女だもん」

「......そうですよ」


 琴美は半ば投げやりのように言い、皐月から顔を逸らす。


「ごめんごめん、そんな拗ねないでよ......それで結局電話はしたの?」

「......はい、皐月さんのアドバイス通り電話してみました」

「お、いいじゃん、どんな感じだった?」

「どんな感じと言われましても普通ですよ。いつもの会話をしていました......途中からは眠たくてどんな会話をしていたかあまり覚えていないんですけどね」

「ふーん、恋バナとかは?」

「してないですよ。本当に普通の会話です......大体、柚衣くん恋愛に興味なさげですし」


 柚衣はそういう素振りを一切見せない。

 異性というよりおそらく友達として見られている。


 (......柚衣くんは私のことをどう思ってるんだろう)


「嘘だ、絶対に琴美ちゃんのこと好きだって」

「......多分意識されていないと思うんですよね」


 意識されるとしても少し攻め気味にからかった時だけ。

 それでも後から羞恥が押し寄せてきて琴美の方が顔を赤くしているまである。


 思い返してみれば柚衣は琴美を出会った時から色目で見ていなかった。

 

「もしかして柚衣くんの好みではないのでしょうか」

「え? そんなことは......」

「自分の容姿には自信がありますし、意識してもらえるように色々と試しています。でも好みやタイプって人それぞれですし、友達としか見られないという場合もあるじゃないですか」

「......たしかに」

「だったらこのまま友達の方がいいのかなって」


 柚衣が琴美の抱く感情と同等の感情を抱いていなければ、自身の好意に気づかれた時点で気まずくなるだろう。

 だから柚衣に自身の好意を気付かれたくない。

 好きな人ともっと一緒にいたいと思うのは当然だろう。

 しかし欲張って一緒にいられなくなってしまう方が琴美にとっては嫌なのだ。

 

「どっちでもいいんだけどさ、とりあえず今の調子で頑張ってみたら? 焦る必要はないっていうか......異性の中で仲が良いのは琴美ちゃんだけでしょ?」

「......そうですね」

「電話とか新しいことやってみたりさ、意識させれるかどうかは琴美ちゃん次第だから」

「電話はもうやりませんけど、そうですね、頑張ってみます」


 半ば諦めかけていたが友人のアドバイスのおかげでまた頑張れる。

 とはいえ電話はこりごりなのでやらないつもりだ。

 

「ん、なんで? 電話、続けたらいいじゃん」

「私の心が多分保たないので」

「な、なんで? いつもの会話と変わんないって言ってたじゃん」

「実は、電話している時に寝落ちしてしまって......ですね」

「寝落ち? まあ、よくあるよね」

「それでその夜、夢で柚衣くんと添い寝......い、いえやっぱり何でもないです!」


 思い出すだけで顔が赤くなってしまうので出かかった夢の記憶を再び封じ込める。

 そして夢の内容が現実になればと思っている自分の中の煩悩をかき消す。


「そ、そういえば先ほどから皐月さんも大園さんのこと目で追っていますし......やっぱり好きなんですよね?」


 琴美は話題を変えようと皐月に話を振る。

 すると皐月は顔を赤くして全力で首を横に振る。


「ないない、好きじゃないし! 友達としては好きだけど、意識したことないから! て、ていうか急に話逸らさないでよ!」


 顔を赤くしながら否定している皐月の姿を見て思わずクスリと笑ってしまう。

 やはり皐月は柚衣の次にからかい甲斐がある。


「と、とりあえずバレーボールの練習しよ。次の授業から試合でしょ?」

「そうですね、練習しましょうか」


 琴美も男子側から目を逸らし、練習に集中することにした。

 

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