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第三十二話 陰の努力

「珍しいな、柚衣が俺の朝ランに付き合いたいって言い出すなんて」


 早朝、まだ日が出ていない頃、柚衣は遼と一緒に広めの公園で準備体操をしている。

 遼は毎朝走っているらしいのでそれに付き合わせてほしいと頼んだのだ。

 

 彼氏としては釣り合わなくてもせめて琴美の友達でありたい、居場所になってあげたい。

 故に何か努力はしたいと柚衣は考えた。

 それでうってつけだったのがランニングだった訳だ。

 運動のできる人は頼もしく見えそうという何とも単純な考えから生まれたが今はそれで良い。

 自らに試練を課すことで体だけではなく心も成長していくからだ。

 

「すまん、付き合ってもらって悪いな。何せ運動あんまりしてこなかったから」

「別にいいって、むしろ走ってくれる仲間が増えて嬉しい」


 柚衣は他人の努力はかっこいいと思うが自分の努力は見られたくない派だ。

 必死にもがいて何とか成長しようとしている姿など見せたくないと思っている。

 他の人の努力はかっこいいが柚衣自身の努力となるとダサく思える。

 

 琴美にそんな姿は絶対に見せたくないし、遼であっても同じ。

 だから一人で走ろうと考えたものの、運動のノウハウもわからないので遼に頼った訳だ。

 それに絶対に三日坊主になるので仲間がいたほうが良いと考えた。

 遼の足を引っ張ってしまうのに快く受け入れてくれたことに柚衣は感謝している。


「それにしてもなんで急に走ろうと思ったんだ?」

「......単に俺もそろそろ運動しないとなって思っただけだ。年も変わったし今年は頑張る」


 琴美に恋愛感情を抱いていることを悟られたくはないので誤魔化しておく。

 遼はそういうものかと頷く。


「何にせよ、運動するのは良いことだ。じゃあ走るか。柚衣のペースより少し早いくらいのペースで走るからついてこいよ」

「わかった」


 そうして公園のランニングコースを遼と共に走っていく。

 走って数分もしない内に体が悲鳴を上げ始める。


「きっつ......い、いつもどれくらい走ってるんだ?」

「ここのコース二周くらいだから大体五kmくらいだな」


 まだコースの半分しか走っていないが息が荒れ始める。

 一方で遼の方を見れば余裕の表情だ。

 柚衣よりほんの少し早いペースで走ってくれているのでキツくともペースは落ちていない。

 一人でやっていれば自身のペースがわからずに段々と落ちていたところだ。

 しかし柚衣の限界が来てついていけなくなるのも時間の問題。


 走っていると弱音が何度も出始めるがそんなものは気合いでどうにかするしかない。

 柚衣は無我夢中で走った。


「......もう無理」

「ほい、水買ってきたぞ、俺の奢り」

「あ......ありがとう」


 何とか柚衣は五kmを走り切り、公園のベンチで息を整えていた。

 遼から手渡された水を飲み、水の冷たさが熱くなった体に浸透していくのを感じる。


「それにしても走り切るとはな、初めから無理してたら三日坊主になるぞ」

「かもしれないけど......この達成感は悪くない」


 柚衣はランニング中、何度も挫けそうになった。

 しかしそれでも自分の限界を超えて走り切ることができたのだ。

 

 思った以上に完走後の達成感は心地よいものだった。

 遼はケロッとした顔をしているのでレベルの差を実感するが自身のペースで体力をつけていけば良い。


「だよな、限界超えて走りきった後の達成感といったらたまらないよな......じゃあそろそろ帰るわ」

「ん、なら俺もそろそろ帰るか。息も整ってきたし」


 日も完全に出ていて時刻はちょうど良い時間となっている。

 帰ってもろもろの身支度をしたら登校時間になりそうだ。


 遼はそう言って柚衣の帰り道とは別の方向へ歩き出す。


「あ、そうだ、言い忘れてたけど家帰ったらストレッチしとけよ。筋肉痛が酷くなるから」

「わかった」


 柚衣も達成感を胸に帰路についた。


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