天才姉妹と一夫多妻
2杯目を一口飲んでから、カウンターに肩肘をついて、林が言う「お兄さん、あんまりあの娘には近づかない方がいいと思うよ~」口元はニヘラ笑いのままだが、目が笑っていない。
「向こうから来たんだ。俺から近づいた訳じゃない」
「あくまで老婆心ってぇやつですが、ありゃぁ碌なもんじゃぁない」
「教えてくれ。あいつら何者だ?あんたは外の連中と同じ目的だと言っていたが…」
「厳密に言えば、ちょ~っと違うと…あぁ、そ~だぁ…よ・け・い・な事を言うと、叱られちまうんだっけ…」小娘の口調をまねて言う。目が嗤った。
「余計な事かどうかは俺が決める。具体的に何かを言うなと言われた訳じゃないだろう?」
「御尤もで。それじゃぁ、基本的なところから」勿体つけて、グラスの残りをあおると、一呼吸置く。俺は黙って3倍目を注いでやる。
「虎一族ってぇのは、南海の孤島を拠点に経済面から世界を操る古の血族で、元は秦国の宰相の末裔だと言われてます。一族ってぇ言っても、今は総帥と呼ばれる老人を頭に、孫娘が6人。たったこれだけで。経済界に張り巡らした根っこの大きさ、強靭さは桁違いですが、血脈としては風前の灯火ってぇ訳です」
俺は嫌な予感が…と言うか、既に小娘の目的が明らかになった気がして、ウンザリした。「要するに、俺の”血”が欲しいってことか…」確かに、他とはちょ~っと意味が違うようだが。
「察しのいいこって。んで、次世代を担う6姉妹の上3人は、既に経済界に根を下ろしていて、まだ学生の彼女がその4番目スーちゃんですな。近々デビューを控えたニューフェイスってぇ感じですかね」3杯目が空になる。すかさず注ぎ足す。が、面倒なので、なみなみと注いでやり、先を促す。
「彼女、あぁ見えて、弩級の才女なんですが、何でも12歳で北京大学、14歳でMITの課程を修了したのに、何故か今は東京大学で遊び惚けているようです。上の3人も似たり寄ったりの天才少女だったし、下の妹ふたりもまだ学生で、彼女らの学業記録を塗り替える天才ぶりで活躍中なんですが、彼女だけは活動目的が見えない変わり種扱いなんですよ」
「そりゃ凄いな。」頭が良さそうだと思ってはいたが、そんなレベルじゃないようだ「是非お姉さまを御紹介いただきたいもんだ」紹介してくれるとは言っていたが、違う方向でお願いしたい。
「あ~ぁ、紹介も何も、彼女らは、あんたを共有するつもりですよ。姉妹全員でね」
俺は目が点になった。「は?…共有?って何だよ」
「あ~でも、最終的には一番下の妹が本命なのかなぁ~」天井を見上げて言う。その小芝居にはどんな意味が?
「一番下…だと…?アレが18だとすると…」
「確か13だか14だったかと」
「冗談じゃぁない。ロリどころか、ペドじゃないか!」いや、またしてもそこじゃない感が…「俺はガキには興味が無いんだってば!」姉の方ならいいと云う訳でもないんだが。
「いやぁ、あたしに言われてもねぇ~」こいつ、絶対面白がってるな。「彼女ら姉妹、25歳の長女を筆頭に13歳の末妹まで、6人でひとりですからねぇ~」
「ん?それはどういう…」仲良し姉妹は男も共有するってか?
グラスを置いた林は、ゆっくりと言う。色々とブッ飛びすぎた話でオーバーフローぎみの俺に言い聞かせるように。
「つまりね、彼女らは、生物としては別個体ですが、情報つまり記憶と意識はひとりの人間なんですよ」