年齢不詳と傷心の美女
俺もちょっとばかり変わり者である自覚はあるが、何やら大きな誤解を受けているようなので、ここは断固、言っておかねば。「断っておくが、確かにこの2年程で、いくつかの揉め事にかかわっちゃいるが、俺はどの事件にも巻き込まれただけで、自分から首を突っ込んだことは一度もないぜ」
グラスをつまむようにかかげながら、林が言う。「確かに、同種類ってぇ括っちまうには、あたしとこのお兄さんじゃぁ、コトに対する向き合い方ってぇもんが違うようですがね」
正面の壁を見つめながら、小娘は言う「傍から見たら大差ないわ。全部暴力で捻じ伏せてるだけじゃない」
「あ~そりゃぁそうかも。最終的にぜ~んぶぶん殴ってやっつけちまうってぇとこはいっしょだね」って、嬉しそうに言うんじゃない。
「いや、だから俺は自分から進んで殴りに行ってないってば。殴られるのが嫌いなだけで…」
林が小娘に流し目を送る「好きな奴がいるもんですかぃ。ねぇ」
壁から天井に視線を移しながら小娘「でも、殴るのは大好きって訳ね」
何だこいつら。
「そのおかげで、今や全国のお友達の監視対象ってぇ寸法ですな」
「あんたの方が遥かに沢山やらかしているのに、表には一切出てこないってところも、違うと言えば大違いね」俺に視線を移した小娘が、林と同じようにニヤケて見せて言う「ねぇ、知ってる?この男、1960年頃から暴れまくってるのよ。それも世界中のほとんどすべての国でね」
「え?ちょ…あんた、一体いくつだ?」俺はギョッとして、改めて林を見た。それが本当なら、少なくとも70歳、普通に考えて80歳は越えていなければならないが、見た目は50歳そこそこ。先程の身のこなしかられば、もっとずっと若いはずだが…
「いやいや、確かに多少の術は心得ちゃぁいますが、どこにでもいるようなただの趣味人でさぁ」あぁ、やっぱり魔法使いなんだ。もしくは妖怪…こっちの方がしっくりくるな。妖怪爺ぃだ。そんじょそこらにこんなもんが居てたまるかよ。
ピー・ピピー。小娘が何か言いかけたところで、外からアラーム音が聞こえた。凍り付く小娘。小馬鹿にしたような笑みが消えている。
ドアのすぐ向こうで、大男の起き上がる気配がする。数秒後、寝起きの体で飛び込んできた大男が、足元の姉御に躓きそうになる。体制を立て直してこちらに向き直った時には、右手に拳銃が現われていた。おぉ、プロっぽいぞ。ちょっとばかり間抜けだがな。
「しまいなさい!」小娘が叱咤する。
一瞬、状況を図りかねた大男は戸惑ったようだったが、すぐに銃を脇のホルダーに収めると、背筋を伸ばしてボソリと言った「お時間です」
「分かってるわよ!」忌々し気にスツールを降りると、俺の顔と林の顔を交互に睨見て、何か言いかけた。
「おやぁ?門限かぃ?良家の子女は辛いねぇ」ニヤニヤ笑いの林が言うと、親の仇を見るような目で睨みつけられるが、どこ吹く風だ。「あぁ、そいつはコレを抜かないと起きないよ~」小娘の方を見たまま、自分の首筋をトントンとつついて見せる。
足元の姉御を抱き起こしにかかっていた大男が、ギョッとして林を見て、次いで姉御に目をやる。今まで全く気が付かなかったが、姉御の首筋、耳の後ろの少し下に、何か刺さっている。店に入って来た時に林が咥えていた爪楊枝だ。大男がそれを無造作に引っこ抜くと、途端に姉御が目を覚ます。これが魔法じゃなければ何だ?妖術?何れ人間業じゃぁない。
頭を2~3度振ると、ようやく覚醒した姉御は、大男の手から爪楊枝をひったくると悔し気に林に投げつけてきた。目に刺さる直前、人差し指と中指でそれを受け止めると、事も無げに「しばらくは体の自由が利かないからね~。足元に気を付けて帰ってね~」と宣った。
ブチギレた姉御が立ち上がろうとするが、生まれたばかりの小鹿のようにフラついて、大男に支えられる。呆然としつつも、歯を食いしばり、目には涙が滲む。
林が畳み掛ける「いいねぇ~。グッと来るねぇ~」同感だ。是非裏の大四畳半へ…
「やめなさい!あんたたちが束になったって敵う相手じゃないわよ」小娘がぴしゃりという。ニベもない。俺に向かい「今日はもう帰るけど、また近いうちに来るから!」そりゃどうも。嬉しくはないがね。
次いで林に向かっては「よ・け・い・な・事は言わないでよね!」と睨みを効かせて…効かせたつもりで…言うと、さっさと出て行ってしまう。
いいところの無いSPふたりも続いて出ていく。大男に支えられた姉御の傷心ぶりが、その背中が、えも云われず艶っぽい。『いいねぇ~』思わずハモってしまった。目を合わせて頷き合う。こいつとは気が合いそうだ。
目の高さでグラスを合わせ、お互い一気に流し込んだ。