モノ好きと千客万来
カウンター越し、俺の右手には魔法使いの小男、左手には押しかけ女房気取りの小娘が腰かけている。そして、入り口ドア前には、可哀そうなSPのお姉ちゃんが突っ伏している。ここからは見えないが、ドアの外には同じくSPの大男がひっくり返っているだろう。いまだかつてない程の千客万来。それがこの有様だ。なんてこった…
できれば、小娘よりは余程俺のタイプであるSPのお姉ちゃんを、裏の大四畳半へとお連れして、ゆっくりじっくりと介抱して差し上げたいところなんだが、そーゆー空気じゃぁないんだよなぁ…
話の腰を折られた小娘は、むっつりと押し黙ったままだ。話の先は、この小男には聞かれたくないんだろう。そりゃそうだ。
仕方なく、ニヤニヤと何事かを面白がっている風の小男に話しかけてみる。「あんた、ナニモンだ?」入り口の方を顎で指して「お外の連中とは違う筋らしいが、大方目的は似たり寄ったりなんだろう?」
小男は一寸意外そうに肩をすぼめて見せて言う。「おぉっとぉ、これは失礼。まぁ、客にいらっしゃいませの一言も無いんだから、失礼はお互い様ってぇこって、いいよね?」だと。いや、色々と気にしなさ過ぎだろう。
小娘の前のグラスをチラ見して、「あ、私ゃ酒ね。それでいい」半分ほど残っている”本日の一本”を指さして「ダブル。氷はいらないから」と言うと、急にまた目の色が冷えた。「私ゃぁ林ってもんで。まぁ、あんたの言うところの”その筋”界隈では、それなりに知られているはずのもんですがね…」小娘の方を横目で見る。
小娘の方も反応した。「ハヤシ?あの”さすがのハヤシ?」天井を仰いで「どうりで…」って、どう云う意味だ?有名人ってのは事実のようだが。
「はい。そのさすがの林さんで。以降お見知り置きを」ニヤニヤ嗤いが戻ってきた。「今日はやっと暇ができたもんで、予てより来てみたかった人気の店に吞みに来たって訳です。はい。お外の沢山の客じゃぁないお友達連中や、このお嬢さんのみたいな目的があって来た訳じゃぁありゃぁしませんよ」
グラスに酒を注いでやりながら、しらばっくれて言ってみる「当たり前だろう、気持ち悪い。俺はロリコンじゃないが、おっさん趣味でも無いんでね」
林が豆鉄砲でも食らったような顔になる。一々業とらしい。「ロリっ?って?…あぁ、ナルホド!。そ~~ゆ~~コトかぁ…フムフム…」独りで納得している。
小娘がキッと睨んでくる。「余計な事言わないでよっ!」
ここはもう少し突っ込んでおこう「余計な事も何も、俺にはお前らが何者で、何の為に争っているのかも何にも知らされてないんだから、図り様がないだろう」
小娘の目が更に吊り上がる「じゃぁ教えてあげるわ。このハヤシって男はね、どの国家にも、どんな組織にも属さず、世界中の揉め事に私的に介入する正体不明の男、要するにあんたど同種類のモノ好きよ」