作業着と機関銃
全身を暴力の欲求が支配していた。冷静に考えれば、俺なんかの出る幕じゃないだろうに、体が勝手に動いていた。理屈じゃない。脳みその芯から湧き上がる衝動だ。
広い通路に出たところで、一旦立ち止まるつもりだったが、リノリウムの床に裸足では踏ん張りがきかず、滑ってずっこけそうになる。腰の高さにある金属パイプの手すりに掴まって止まる。おかげで勢い余って吹き抜けのガラスに突っ込まずに済んだ。
廊下の向こう、開けた空間の手前で、アーマージャケットを着た若い男が、しゃがみこんだ看護婦に短機関銃を突き付けている。顔だけこっちを向いている。急に視界に現れた俺に一寸気を削がれた感じだ。すぐに看護婦から俺に狙いを変える。咄嗟に身構えたものの、俺が丸腰なのを見て、気を緩めたようだ。
手すりを掴んだまま、ゆっくりと体制を立て直す。男が何事か早口でまくし立てる。英語…ではなさそうだが、どこの言葉だ?銃の構えが固まる。撃つ気満々じゃないか。
手すりに力を込めるが、踏ん張りが効かないので体が壁の方へ引き寄せられる。
タタタ
短く発射音。俺の居た位置を弾が抜けていく。撃ちやがったな。では、こちらも遠慮無しに行こう。
壁際に足を付けて手首に力を込め、手すりを捻りながら引っこ抜く。破壊音と共にひしゃげてS字になった鉄パイプが2メートル程の長さで壁から引きはがされる。
銃を構えた男が、呆気にとられる。一瞬、何が起こったのか理解ができず、撃つのを忘れて立ち竦む。
毟り取った手すりを、そのまま無造作に男に向けて放り投げる。爆発的な加速力を得て、ゆがんだ鉄パイプが瞬時に男を連れ去る。男は5メートル程吹っ飛んで仰向けにひっくり返り、かつて手すりだった凶器は、更に10メートル程奥の方に飛んで行って転がり、派手な音をたてた。
投げた反動でコケそうになりながらも何とか踏みとどまって、看護婦の方に近づく。「大丈夫かい?」目が驚愕に見開かれている。開いた口が塞がらずに、小刻みに震えている。まるで化け物を見ているようだ。傷つくなぁ。
看護婦は放っておくことにして、奥の開けたところ、待合室のような空間まで進む。ここは一階。左手前方の玄関らしきところに男がふたり現れる。入り口の見張りにツーマンセル。鉄パイプの転がる派手な音を聞きつけて様子を見に来たんだろう。先に来る奴は先程と同じ短機関銃。後ろのもうひとりはアサルトライフル。装備は似たりよったりだが、さっきの小僧と違って動きがプロっぽい。
ふたり同時にこちらに気が付いた。「いよう!派手にやってるじゃぁないの」手を挙げながら、この状況下では最大限、紳士的に声をかける。ふたり揃って無言で銃を俺に向ける。あぁ、やっぱりね。俺は右足に全体重を乗せて、足元の背もたれが無い4人掛けソファーを蹴り上げた。銃弾を受けながら、ソファーがひとり目に襲い掛かる。7~8メートル程の距離を飛んで男を攫ったソファーは、すぐ後ろの柱に激突した。もうひとりが目をこれ以上ない位見開いて、潰れた相棒に気を取られた。俺は猛然と襲い掛かった…つもりだったが、またしても素足が災いして体制を立て直すのに一寸遅れた。奴に手が届く前に、アサルトライフルが火を噴く。
AKの7.62㎜弾が一張羅の胸の真ん中に3つの穴を穿ち、俺の動きは男の直前で塞き止められた。一瞬の静寂。立ち竦む俺の胸元に突き付けけられた銃口が僅かに下がった。
予備動作無しに右フックをお見舞いする。男の下顎が消し飛び、追従するように体が宙を舞う。行きがけの駄賃とばかりに銃弾がバラ撒かれる。1発だけ左肩に命中し、後の2発は柱と天井にひとつづつ穴を空けた。やっぱりプロは違うなと感心しつつ、俺は次の目標に向かうことにした。




