対人恐怖症の苦悩
注意事項1
起承転結はありません。
短編詐欺に思われたら申し訳御座いません。
注意事項2
異性愛、同性愛、何方も受け入れられる。
けれども当事者になったら、きっ……。
いいえ、言っちゃ行けない。その言葉は。
本当に何でも許せる方向け。
至る所に地雷があります。
今生、誰かを愛した事がない。情を、口付けを交わすことは愚か、触れられる事さえ嫌だった。でも……私に触れてくれる人は皆、愛情を持ってくれた。だから……だから……こんな事を思っては……。
俺の知人は男性恐怖症である。いや対人恐怖症、接触恐怖症も混じっていると言っても過言では無いかもしれない。
基本的に目が合うことも、微笑を浮かべる事も無い。声色だけは優しく、何時も一生懸命に言葉を紡ぎ、終わると安心した顔でその場を後にする。それはまるで、平然とした態度を貫く事で精一杯だと言うように。
落し物を拾って、肩を叩いた時、僅かに竦み上がって此方を恐る恐る振り返った事を思い出す。恐怖と警戒が入り交じった顔は今でも忘れられない。あぁ、本当に……駄目なのだ。
しかし数ヶ月間、長い時を掛けて会話を繰り返すうちに、彼女の方から話しかけてくれるようになった。他愛のない話を沢山した。けれども、対人恐怖症、接触恐怖症に関する事だけは口を開いてくれなかった。
「お前、対人恐怖症だし、接触恐怖症だろ」
ある時俺の方からそう語り掛けると、彼女は初めて会った時のように全身を竦み上がらせた。口を真一文字に結んで、地面を睨む。答えたく無いようだった。受け入れたくもないようだった。しかし彼女は何かを克服したように、ゆるりと首を上げると一度深く深呼吸をした。
「まぁ訳は色々……。目を合わせた途端に相手から睨まれる、校庭で先生の話を聞いていたら、小石を投げられる、皆で私を取り囲んで野次を飛ばす。担任の男性教師からは不用意に顔を触られる。全部小学生の時の記憶。今でも男の人と目を合わせる度に思い出す。全員が全員、そうじゃないって分かってる。取り分け、私の周りの人達は皆優しくしてくれる……でも」
「怖いのか」
俺が問いかけると、少しだけ背筋を伸ばして、また縮こまった。それから数秒と呼ぶにはかなり長い時間をかけて、また口を開く。
「マシにはなったよ。以前は男の人の笑い声を聞くだけで震えていた。触られた箇所を血が出るまで掻きむしる事もなくなった。ちゃんと……こうやって……」
必死になって目を合わせようとする。過去の地獄と相対しながらも、懸命に向き合おうとしている。けれども途中、電源が落ちた様に項垂れた。
「でもこんな状態なの。だから、男の人だから駄目なのかと。女の人となら……」
そう言った途端、ギリっと歯噛みをした。今の言動を咎める様に、右手が首元まで伸びる。それから首を締め付ける様に手に力を込めた。
よく、異性恐怖症ならば同性愛者だろう。と、簡単な理屈で片付ける奴もいる。けれども目の前の彼女を見ても果たして同じ事が言えるだろうか? こんなにももがき、苦しんでいるのに。
「想像しただけで……き………。きっ……。き……」
「無理するな」
「異性愛者や、同性愛者を蔑んでいる訳じゃないの。実際どっちも無心で読める。恋愛事で悩んでいるなら同情する事だって出来る。でも……私自身が当事者になったら、トイレに篭ってしまいそうなの。刃物を持って自傷行為をしてしまいそうなの。こんな自分が本当に気持ち悪い。人の愛を受け入れられない私自身こそが、蔑みの対象だ。何処まで自分本位なんだ!!」
そう言って、長い間ずっと泣いていた。触られる事を拒む彼女にしてやれる事と言えば、黙って傍に居てやる事だけだった。
「ごめん」
女は疲れ果てた様に頭を降った。それから溜息をついた。全てを諦めたように。
ここまで暗い話って、心身枯らしますね。
彼女が言い詰まった言葉は作中にでてきます。
今まで沢山言われ続けた罵倒の言葉。
それは『蔑んでいる訳じゃない』という言葉からもお分かり。
この子、虐められていた子にあったらナイフ振り上げるんじゃないかな。セクハラしてきた男教師にも。
でもこうやって自分から話し掛けたり、他愛のない話をしたり。
そう出来るのは周りの愛情のお陰。
だからそれに報いる様に、彼女なりに一生懸命に相手に対して接してます。