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トラブルは再び舞い降りる。

第5話です。ここで主要な登場人物が揃うので、物語を動かしはじめます。

それでは、どうぞ。

 「なるほど、それで一緒に登校をしてほしいの?」

 「うん。お願いできない?巻き込んじゃう形になっちゃうんだけどさ」

 

 放課後。明日からの集団登校を前に多摩川セントラル駅へと向かうバスに乗る一行に、新メンバーがひとり、加わっていた。


 「音無さん。僕らからも頼みたい。さすがに多田野さんひとりと僕らふたりでは、彼女も気おくれしてしまう」

 「音無ちゃん、よろしくっ!」

 「……わかった。いいよ」

 

 さわやか系イケメンと体育会系チャラ男の懇願に押し負けた、という風でもなく、音無涼花は無表情でこくりと頷いた。

 

 緋登美と涼花は友人、というほどでもないが顔見知りだ。

 小・中学校の同窓生ではないが、中学時代に通っていた学習塾が同じ。ともに自転車で通える程度の距離だったため、つまりは最寄り駅も同じ。

 前髪をきっちり揃えたセミロングの黒髪に黒縁眼鏡という真面目そうな風貌が示す通り口数も少なめで、男子生徒たちはもちろん、緋登美や朋とも明らかにタイプが違う。

 ちなみに涼花本人はひとりでいることが全く苦にならない強メンタルの持ち主で、実際に小・中学ともボッチ街道を突き進んできた。

 人嫌い、会話嫌いというわけではないが、調子よく相手にあわせるといった「円満な友人関係維持スキル」にあまり意味を見出せず、結果的になんとなくひとりでいることが多かったためだ。

 当然、学習塾でもほとんど接点のなかったが、翌日からスタートする「男子に囲まれて同伴登校」に気を重くしていた緋登美にとって、最寄り駅が同じことを知っていた涼花の存在は正しく救いの女神だったと言える。

 多摩川セントラル駅へと向かうバス停で涼花を見かけると、緋登美はすかさず声をかけ、阿須田猟人との関わりを含め一気に事情を説明し、協力を願い出た。

 そこに爽田と茶井が加わり、見事、本人の承諾を得たというわけだ。

 

 「よかったし。音無さんが協力してくれなきゃ、マジであたしがおじいちゃん家からしばらく通うことにするトコだった」

 

 緋登美を心配しつつ、男子たちと登校することへの気おくれもある程度読み取っていた朋は、満足げに笑顔を浮かべて緋登美の背中を軽く叩いた。

 実際、翌日だけは祖父母宅から登校する腹を決めていた朋だったが、それ以降も続けるとなると祖父母と折り合いの悪い母親の手前もあり、朋にもそれなりの覚悟がいる。

 

 男女五人組となった一行は、バスで多摩川セントラル駅へと移動。そのまま緋登美の最寄り駅へと向かう前にファーストフード店で交流を、と茶井が勢いよく提案すると、あまり人付き合いが得意でない涼花も「少しならいいよ」と乗る。

 どこか重苦しかった先ほどまでのムードが本格的に解消されていき、新高校生の船出にふさわしい、明るい雰囲気が戻りつつあった。


 が、彼女らに迫るトラブルの種は、すでに芽吹く直前まで迫っていた。

 

 五人がバスを降りたバスターミナルで、降車する学生たちを見張るように周囲をうかがう二人組の男性。ほどなく、誰かを探すように目を光らせていた中年男性が緋登美に目を留めると、その横にたつ神経質そうな眼鏡の男性に声をかけ、呼び止めるよう指示を出す。


 「そちらの女子生徒の方、少し、お時間よろしいでしょうか?」

 

 指示を受けて近づいてきた髪をきっちりと横分けにしたスーツ姿の男性は、五人の前に立ちふさがるような位置で止まると、眼鏡の位置を軽く修正しながら緋登美に向けてそう切り出した。

 

 「はい?どなたでしたっけ?」

 「今朝方、こちらの男性とトラブルを起こしたでしょう?その件で」

 「あ!」


 眼鏡の男性には見覚えがなかったが、後ろから近付いてきた中年男性には見覚えがある。

 朝、自分に痴漢をしてきた中年男性だ。


 「朝の痴漢の人!」

 

 そうはっきりと断言されると、中年男性は露骨に渋い表情を浮かべた。


 「ええ、正しくその件で。今の発言も含め、あなたは男性の名誉を著しく棄損しています。つきましては、詳しいお話を伺いたいのでご同行を願えますか」

 

 言いながら、男性は緋登美に名刺を差し出す。


 「申し遅れました。こちらの男性の会社で顧問弁護士を務めております、鷺沼です」


  差し出された名刺には「エース法律事務所 鷺沼敏」とある。


 「べ、弁護士さん⁉で、でも、その人は……」

 「ええ。あなたは自身の思い込みで男性を痴漢犯罪者扱いし、公衆の面前で取り押さえて騒ぎ立てるなど名誉を著しく棄損しました。場合によっては裁判も辞さない構えですが、まずはあなたからの謝罪を含め話し合いの場を持ちたいとお考えです。つきましては、私の方で場を用意しておりますので、そちらへご同行を願えますか」

 

 眼鏡の男性・鷺沼はもう一度丁寧に要求を繰り返す。中年男性の方は憮然とした表情をうかべたままだが、ひとまず声は発してこない。

 

 「ど、同行って、どこに?」

 「こちらで用意した話し合いの場です」

 「ちょっと待って!そんな場に、緋登美ひとりで行かせるわけにいかないし!あたしらもついていくけど、それは構わないよね?」

 

 突然の弁護士登場から蚊帳の外に置かれていた友人たちの中で、まずは昔馴染みの姉御肌・朋が再起動して異議を申し立てる。

 

 「いえ。極めてプライベートな案件ですので。部外者の参加はご遠慮願います」

 

 鷺沼は朋らを冷たく一瞥すると、にべもなく提案を却下した。


 「(爽田くん。弁護士さんの名刺、一応、確認して)」

 

 いつのまにか男子生徒ふたりの陰に隠れるような位置に移動していた小柄な涼花は、弁護士に聞こえない程度の小声で指示を出す。

 

 「(確かに!)多田野さん、その名刺、お借りしていいかい?」

 

 指示を受けた爽田は涼花の意図を感じ取り、緋登美の手から名刺をサッと抜き取ると、おもむろに自身のスマートフォンをポケットから出した。


 「失礼。こちらも女子生徒の同行を認めるにあたり、そちらの素性を確認させていただきます」

 

 爽田はさわやかな笑みを浮かべてそう宣言すると、名刺にある電話番号を迷わずプッシュした。


 『はい。エース弁護士事務所です』

 「すみません。少し確認させていただきたいのですが。そちらに鷺沼さんという弁護士は在籍しておりますでしょうか」


 涼花の指摘を受けて「偽弁護士では?」と疑い、本人を目の前に確認電話をかけるあたり、爽田もなかなか豪胆だ。

 一見すると豪胆そうな茶井の方は案外気が小さいのか展開についていけないのか、額に汗を浮かべながら黙って見守るのみだ。


 『鷺沼先生にご相談でしょうか?少々お待ちください。……申し訳ありません。鷺沼は現在、席を外しております』

 「……そうですか。では、またかけなおします」

 

 残念ながら、鷺沼弁護士は実在した。

 爽田が目の前で電話をかけても眉一つ動かさなかった様子をみて、涼花も「偽物説は望み薄かも」と感じていた。ただし、爽田の「聞き方」については「本人確認が甘い。別人が名乗っている可能性はあるのに」と思った。

 

 「気は済みましたか?ではお嬢さん、改めてご同行を願います。あちらに車を用意しておりますので」

 「え?あ、はい……」

 

 本物の弁護士による、同行願い。緋登美を含め、高校生になったばかりの少年少女たちにこれ以上、拒否は難しい。

 不安そうにおろおろする緋登美をみて、朋は悔しそうに口をゆがめるが、直前に「本物」であることを確認できてしまっただけに、ここからの巻き返しが思いつかない。

 

 「しかし、女子生徒ひとりを行かせるわけには」

 「いま、あなた自身が確認したでしょう?私は弁護士事務所に所属する正式な弁護士です。こちらも身分を明かしている以上、取り立てて心配するようなことはありませんし、守秘義務もあるので関係者以外の同行を認めるわけにもいきません」

 

 なおも食い下がる爽田の要求を、鷺沼はばっさりと切り落とす。

後ろにたつ中年男性も、小馬鹿にするようにフン、と鼻を鳴らした。

 そんな弁護士と中年男性を睨みつけつつ、なんとか緋登美を守らなくてはと使命に燃える朋の制服の袖口がつん、と引かれる。

 朋が振り向くと、いつの間にか隣に移動してきていた涼花が、朋の視線をうながすように一定の方向を指さしていた。


 「あれ。関係者いた」

 「あっ!」

 

 涼花にうながされて目線を向けた、その先。

 緋登美たちが乗っていた次に到着したバスから、圧倒的な存在感を放つ銀髪とともに、明らかな「関係者」が降りてきた。


 「阿須田くん!阿須田猟人くん!!」


 朋が大声で呼びかけると、阿須田猟人は赤みがかった目を呼びかけられた方向に向ける。

 そして一瞬、怪訝そうな表情を浮かべると、続けて緋登美、弁護士の鷺沼、中年男性と視線を移し、ハア、と小さくため息をついた。

 

「なるほど。トラブルってのは、一度関わるととことん付きまとうもんだと忘れていた」

 

 近づいてきた猟人は、朋の説明を聞くこともなくつぶやいた。

 

「あのさ、阿須田くん。この後、時間ある?悪いんだけど、緋登美……この女の子と一緒に、弁護士さんたちとお話してきてくれない!?」

 

 猟人のつぶやきを聞き取れなかった朋は、とりあえず自身の要求を一気に伝えてから、その隣についてきた少女を見てドキリとする。

 猟人の隣には「なぜ見落としたのか」というほど人間離れした美少女がニコニコと微笑をたたえてついてきていたのだ。


 「阿須田猟人くん。よくわからないけれど、わたくしも同行してよろしいかしら?」

 「いいわけねえだろ。で、なんだ?今朝の件で、場所をかえて話したいってこのおっさんどもが言ってんのか?」

 

 猟人は美少女の要望をすげなく一蹴すると、同行依頼を出した朋ではなく当事者であろう緋登美に問いかける。

 

 「あ、うん。なんか、関係者以外は立ち入り禁止だとかでさ」

 「ふむ。それなら俺は文句なしの関係者だな。いいぞ、同行に応じよう」

 

 いきなり乱入してきたにも関わらず状況をあらかた把握し、かつ展開を主導しはじめた猟人の応諾に、これまで表情をほとんど動かさなかった鷺沼が少々慌てた様子で中年男性を振り返る。

 判断を仰がれた中年男性はギリっと奥歯を噛みしめ、渋々といった顔で頷いた。

 

 「で、では、そちらの少年も関係者ということで同行を認めましょう。どうぞ、車を用意しておりますので」

 

 鷺沼は猟人に気圧された様子で移動を促すと、先導するにように駐車スペースへと移動しはじめる。中年男性は軽く舌打ちしてそれに続いた。


 「阿須田くん。緋登美のこと、お願い!」

 

 猟人は軽く頷くと、緋登美にもついてくるよう視線で促してから歩き出そうとするが、小さな手が制服の後ろをつかんで歩みを止める。

 

 「阿須田猟人くん。やはり、わたくしもご同行してよろしいかしら」

 「しつこい。ひとりでさっさと帰れ」

 

 制服をつかむ超絶美少女・天音美琴の手を軽く振り払った猟人は、シッシッと追い払うような仕草をみせて同行を拒否し、気持ちゆったりとした足取りで男性らを追った。



話の長さを一定にするの難しい。。。

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