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激突。(下)

21話、かな?よくわからなくなってきました。

それでは、どうぞ。

 屈強な大男たちが慌てて距離をとった様子を見て、緋登美は彼らに囲まれた恐怖を忘れて唖然としていた。

 

 上品なような下品なような「お言葉」だけで飛び退かせたわけではあるまい。横にいた緋登美にはよくわからなかったが、言葉とともに美琴から何かが発せられたような、そんな感じの下がり方だったことは間違いない。

 

 先ほどまで圧し掛かっていた威圧感が完全に霧散し、現在、自分は安全地帯にいる。


 ただ、その安全地帯がどのように生み出されたものなのか。それを全く理解できず、また戸惑うことすらできず緋登美が目を丸くしているうちに、状況は動き出す。


「グハっっっ!!」


 三人の正面に立ち、威圧するように進路を塞いでいたリーダー格の飯山が、体をくの字に折り曲げて後方に吹っ飛んだ。

 今度は美琴が発した「不思議な何か」で吹き飛ばされたわけではなく、銀髪赤目の少年がボディに強烈な掌打を打ち込み、物理的に吹き飛ばしたのだ。


 眼前で繰り広げられる圧倒的な暴力に、緋登美の視線が吸い寄せられる。

 ホテルの一件で慣れた、ということではない。ただ、あのときにも少しだけ感じられた、暴力に及ぶ際における猟人の信念のようなもの。

 少なくとも彼は、自分たちを守るために暴力を振るっている。思えば、あのホテルの際も、彼が暴力に及んだのは相手から自分に下卑た発言をぶつけられたタイミングだった。


 あるいは、彼自身には大した考えはないのかもしれない。自分を特別に思ってくれている、なんていうのは、現時点では思い上がりも甚だしい妄想だろう。

 そうとわかってはいても、自分を守るために振るわれている暴力に目を奪われる。自分と美琴には敵を近づかせない。暴力的な立ち回りなど見たことがない緋登美ですら、そんな彼の意志をしっかりと感じ取ることができていた。


 一方の猟人。図らずも緋登美が感じ取っているように、囲んでいる敵を二人に近づけるつもりはない。だが同時に、たかだか一般の高校生が「今の美琴」に近づくことなどできるはずがない、ことも理解している。

 それでも油断なく、間違っても敵が女性陣に近づくことができないよう立ち回っているのは、戦闘に対する彼の経験値ゆえだろう。


 吹き飛ばした飯山がもはや戦闘不能とみるや、猟人は次の標的に狙いを定める。すでに指揮系統のトップはつぶした。見たところ、後を引き継ぐ指揮者は見当たらない。

 飯山の左に立っていた男の脇腹に左肘をめり込ませ、動きを止めずに右側に立っていた男の顔面に裏拳を食らわせて昏倒させる。


「すでに戦闘状況は開始されているぞ。自分たちから仕掛けておいて、ボヤッとするな」


 残る敵六人に発破をかける余裕を見せたのは、猟人なりの言葉による威圧だ。発した内容ではなく、射貫くような猟人の視線を受けて、敵の足が縫い留められる。

 そのすきにまた二人、猟人によって意識を刈り取られた。


「ヤツを囲め!正面からやりあうな!」


 残り四人になったところで、残っていた二年生部員が慌てて指示を出す。

 指示に従い、アメフト部員たちは猟人を囲むように動こうとしたタイミングで、また一人。猟人の後ろ、つまり女性陣に近づくような動きをみせた部員が、先回りするように懐に入り込まれ、強烈なボディ一撃で地面に沈んだ。これで、残り三人。


 ボディ攻撃で軽く吐しゃ物をまき散らした仲間をみて怯んだひとりがまた一歩、後退。それを見て取った、先ほど指示を出した二年生が「下がるな!」と注意する前に、猟人の右掌底が二年生部員の顎を捉える。


「カハッ!」


 動きの止まった二年生部員の顎に連続して左右の掌底がヒット。著しく脳を揺さぶられ、地面に膝をつく。その位置の下がった顎をめがけて、猟人の膝が降りぬかれた。


「う、うわぁ!」

「ま、まいった!もう勘弁してくれ!」


 戦意を失い、腰を抜かしかけている部員の首元に、猟人の右上段回し蹴りが炸裂。最後のひとりは踵を返して逃げ出そうとしたが、素早く襟元をつかまれて引き倒され、顔面にとどめの一撃を落とされて意識を消失した。


 結果。1分と少々で、新聞部の三人を取り囲んでいたアメフト部員九人が全滅した。


 猟人は周囲を軽く見まわして「生き残り」がいないことを確認する。油断なく気配を探り、危険が去ったことを確認したところで、美琴に片手を繋がれたまま唖然としている緋登美に視線を向けた。


「おまえ、大丈夫なのか」

「へ?」


 大丈夫か、ではない。大丈夫なのか、と聞かれた。

 その妙な違和感から、緋登美は即答することができない。


「多田野緋登美さんなら、心配ありませんよ。わたくしが手をつないでおりますので」

 

 緋登美に代わって答えを返した美琴の説明は、一見すると違和感がない。自分が手をつないであげたから、緋登美を落ち着かせることができた、ともとれる。


 だが、答えとしてどこかがおかしい。

そ のおかしさを緋登美は理解できずにいたが、猟人は納得したようだ。


「なるほど。自身が触れている相手は威嚇の対象外か。俺にはしっかり届いているのに、隣にいたその女が平然としているのは妙だと思ったんだ」

「わたくしごときであなたは怯まないのでしょう?遠慮はいらないかと思いまして」

「まあな。わかりやすく戦闘のスイッチ入れられたから、むしろ良かった」

「……助かった、とは申しませんのね?」

「お前が何をしようが、結果は変わらんからな」

「そうですか。余計なことをして申し訳ございませんでしたね」

 

 猟人は無表情、美琴は微笑んだまま。あまり表情を動かさない二人だが、美琴のほうは少し、不満気な様子を見せる。

 

 一方、緋登美は冷静でいられる状況ではない。

 

「待って、ちょっと待って!へ?なに??威嚇とかなんとか、どういうこと???」

 

 先ほど、バス車内で交わしたスマホの件とは比較にもならないほど、二人のやりとりがまるで理解できなかった。

 緋登美にとっては極めて不思議な現象が、二人にとっては息をするように普通の出来事であったかのような会話。疎外感だなんだと言っている場合ではなく、そのままスルーすることなどできるはずがない。


「その女が、軽く周囲を威嚇したんだ。それでおまえは大丈夫なのか、と確認したんだが、心配なかったようだな」

「え、ああ、うん。わたしは大丈夫。って、え?その威嚇とかってなに⁉」」

「威嚇は威嚇ですよ。わたくしに敵対行動をとろうとするなど、許されざることですから。ただ、あなたまで威嚇しては申し訳ないと考え、わたくしが触れている相手には威嚇の対象外となるよう、力を調整したのです」

「なるほど、意味があってわたしの手を握ってくれたんだね。ただ、安心させてくれようとしたのかと思ったよ。って、だから、その威嚇ってなんなのってば!」


 一瞬納得しかけた緋登美だったが、まるで理解できない説明であることに変わりはなかった。


 そんな緋登美を見てやれやれと首を振った猟人は、実にわかりやすい説明を繰り出す。


「その女は下界……いや、人間界の者ではないからな。普通の人間がそいつに威嚇されると、最悪の場合は命を落とす」

「…………は?」

「あら。失礼ですね。このような輩どもを相手に、お命を頂戴するほどの強い威嚇はしておりませんよ。幼子の悪戯を叱る程度の、極めて小さなものです」


 なんということもない事実のように告げられた、衝撃のカミングアウト。

 下界の人間ではない?最悪は命を落とす?


「ブッ殺す、とか言ってなかったか?」

「この世界では、定型句みたいなものでしょう。ねえ、多田野緋登美さん?」


 にこやかに微笑みかけられても、緋登美に「うん、そうだね」と軽く返せるほどの余裕はない。頭の中では、彼らと出会ってから今までにあった出来事が走馬灯のように駆けめぐる。同時に、埋められなかったパズルのピースが少しずつ、埋まっていく。


 天音美琴が普通の人間ではないのであれば。


「えっと、じゃあ、その、阿須田くんも?」

「俺は人外の力など、一切使っていない。そういうルールでここにいるからな。そいつはどうも、そのあたりのルールが徹底されていないようだが」


 緋登美の質問とは微妙にズレた回答が戻ってきたが、おおよそ、知りたかったことの答えは得た。


「そうでしょうか?あのような戦闘能力、下界の人間では簡単に得られないものだとわたくしには思えますが」

「簡単ではなくても、不可能ではない。現に、俺ができているんだからな」


 なんとなく子ども扱いされた気がした美琴が不満気に言い募るが、猟人は事も無げに切り返す。


 普段通り、まさしく「マイペース」な二人。そんな二人を見ていると、混乱にまみれた緋登美の心が徐々に落ち着いていくから不思議だ。

 この二人には裏事情があっても、裏がないのだ。発言がそのまま、二人の意思を示している。悪意も底意も、秘められていない。


 朋や涼花、爽田(茶井は微妙)にも、自分への悪意や底意がないことは信じられる。ただ、この二人とは根本的な何かが違う。


 圧倒的強者のみに許される、開けっぴろげなマイペース。二人のそんな部分に自分は惹かれているのだ、と緋登美はなんとなく理解できた。


 緋登美がさらなる質問を繰り出すべく頭を整理していると、バスターミナルに見たことのある黄色いスポーツカーが入ってきて、緋登美たちの近くで停まる。


ドアを開けて降りてきたのは緋登美の予想どおり、新聞部の顧問・七色佳織だった。



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