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ベタな再会。

第二話です。

登場人物紹介編、その①みたいな内容でしょうか。


それでは、どうぞ。

 遅刻にならないギリギリのタイミングのバス発車時刻に間に合った緋登美は、やや慌て気味に教室へと駆け込む。


「おはよ、トモちゃん」

「おは、緋登美。どしたん、初日からギリじゃん?」

 

 挨拶を交わした小山内朋は、入学式後のオリエンテーションで話かけられて友人になった、という程度の短い付き合いではない。

 

「それがさ、朝からちょっと、痴漢されちゃってさ」

「はあ!?」


 少なくとも、朝の「衝撃的な出来事」(?)を気軽に報告できる程度には近しい友人だ。

 

 緋登美と朋は小学四年生からの三年間、卒業まで同じ小学校に通っていた。当時の家も割と近所で、互いの家には何度も遊びにいったことがある。

 現在の朋は都心部のマンション住まい。元々の出身はそちらで、家庭の事情で三年間だけ、父方の祖父母宅で生活していた。

 小学校卒業とともに親世代の二世帯同居が解消され、本来の自宅マンションへ転居。中学三年間を都心部で過ごし、現在もそこから高校へ通っている。

 

 「多田野さん、いま、痴漢されたって聞こえたけど。大丈夫だったのかい?」

 「マジで!?俺、そういうのマジ許せないタイプなんだけど!!」

 「あ、うん、大丈夫は大丈夫」

 

 女子生徒ふたりの会話を聞きつけて、近くにいた男子生徒たちが会話に加わってくると、緋登美はやや引き気味に応じた。

 男子生徒がここぞとばかり会話に食い込んできたのは、朋とお近づきになりたいからだろう、と緋登美は考えている。


 朋は中学三年間を都心部で過ごしたためか、見た目にも垢抜けた少女だ。

 やや明るく染めた髪を肩の下あたりまで伸ばし、耳元にはピアス。ブラウスのボタンはやや多めに外され、そこに除く胸元にはお洒落なネックレスが光る。

 プロポーション自体は平均よりやや上、という程度だが、持ち前のアンニュイな雰囲気と相まって、同級生とは思えないほど、そこはかとない色っぽさが滲み出ている。

 

 そんな朋に男子生徒たちがお近づきになりたいのは当然だろう、と緋登美は考えていたが実のところ、緋登美自身もなかなか魅力的な少女だ。

 もともとの童顔、耳に届く程度の短いサイドテールを明るい色のシュシュでまとめた髪型は幼い印象に拍車をかけ、お化粧も制服の着こなしもまだ野暮ったい雰囲気が残る。

が、とにかく「出るところが」出ている。一言でいえば、ロリでエロい。

 

 このアンバランスなルックスこそが今朝方電車内で発生した騒動にもひと役買っているわけだが、都内とはいえ比較的のどかな郊外地域で暮らしてきたため自身の魅力を実感できるような経験はなく、男子からの熱烈アプローチにも慣れていない。

 華のある緋登美と朋が、決して小さくない声で気になる会話を交わしていれば、周囲は当然、聞き耳を立てている。

 特に男子生徒たちは誰もが会話に割り込む隙をうかがっていたが、なんの躊躇もなく入り込んだ爽田翔琉と茶井雷太もまた、クラスの中心人物となるにふさわしい雰囲気の持ち主だった。


 そんな男子生徒たちに割り込まれても、朋の関心は緋登美から全く逸れていない。

 

 「で、犯人は?ちゃんと捕まえたん?」

 「捕まえたことは捕まえたんだけどさ、うん、なんかいろいろあって」


 朋は小学生のころから面倒見のいいタイプで、他の女子生徒たちからの相談にも乗るクラスの中心的な存在だった。

 現在ほどの「色気」はなかったが、多くの男子たちから憧れに近い恋心を寄せられており、中学での転校が決まったときには男女問わずガッカリする小学生たちで溢れていたという。


 「いろいろって?ああ、僕らが聞かないほうがいいことなら、席を外すよ」

 「へ?あ、ああ、そういう……」

 「う、ううん、別にそういうのじゃないんだ」

 

 爽田翔琉が紳士な機転を利かせて席をはずそうとすると、緋登美は慌てて誤解を否定する。

 なにを誤解されたのか緋登美自身にもわかっていないが、訳知り顔でうなずいた茶井の様子から、何やらよからぬ想像を招いたのではないか、と感じたためだ。

 

 「で、結局どうしたん?ま、細かいことは後で聞くわ」

 「う、うん、ありがと、トモちゃん」

 

 もはや時間切れ、とばかり朋が会話を締める言葉を口にすると、教室に予鈴が鳴り響く。

 そして、チャイムをBGM替わりにひとりの男子生徒が教室の扉をくぐると、クラス中の視線が彼に集まった。

 何しろ、目立つ容姿の少年だった。中肉中背、顔もイケメンといって間違いはないが、それ以上に銀一色の髪が生徒たちの視線を引き付ける。

 

 「(あっ!さっきの!!)」

 

 とりわけ驚いたのは、先ほど、浅からぬ関係を築いてしまった緋登美だろう。

 少年は視線を向けられることに慣れているのか、一斉に集まった視線を気に留める様子はなかったが、大きく目を見開いて口に手を当てていた緋登美の視線だけは気に留まったのか、やや訝し気な表情で立ち止まり、無遠慮な視線を向けてきた。


 「あ、あの、今朝はどうも」

 「ん?ああ、おまえか」

 

 少年は納得したように訝し気な表情を解くと、悠然とした足取りで空いていた自席へと向かった。

 

 「緋登美……誰?」

 「へ?あ、うん、知り合いというか、今朝知り合ったというか……そんな感じ?」

 

 朋の当然のごとき質問にも、緋登美は明確な答えを持ち合わせていない。

 

 「食パンくわえて角を曲がったところでぶつかった、とか?」

 「あ、あはは……。とにかく、後で説明するよ」

 

 少し口元を緩ませながら追及してくる朋を軽くかわしているうちに、担任教師が登場。ホームルーム開始の合図を聞きながら、彼との関係を友人にどうわかりやすく説明したものか、と頭を悩ませていた。



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