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通学の風景。

第二章スタートです。


それでは、どうぞ。

「おはよ、トモちゃん!」

「おはよう、朋」

「おは、緋登美、涼花」

 

 多田野緋登美らが通う日ノ本大学付属多摩高校は、やや人里離れた丘の上に位置するため、一部の自転車登校者を除けば皆、各電車最寄り駅からバスで通うことになる。


「それにしても……毎朝、これがキツいし」

「わたしは電車も似たような感じだから、少し慣れたかも」

 

 学校にたどり着くためのバス路線は、緋登美らが利用する多摩川セントラル駅発以外に二ルートあるが、いずれも登校時間は同校の学生たちでごった返す。

 初日の痴漢被害時がそうであったように、緋登美は自身の最寄り駅から多摩川セントラル駅までの短期間とはいえ超混雑状態の電車に乗るため耐性ができつつある。


 一方、都心方面から郊外へと向かう電車で通学する小山内朋にとって、このバス通学部分が「ラッシュの洗礼」を受ける唯一の区間だった。


「今日は座れるといいねえ」

「それは運次第。でも、座れそうな流れ」

「涼花マジで⁉」


 多摩川セントラル駅バスターミナルには毎朝、バスを待つ学生たちが長蛇の列を作る。停留所前には当番の教師が立っており、パンパンになるまで一台のバスに詰め込まれる。

この「バスがいっぱいになるライン」が、学校までの道のりを快適に過ごすための鍵だ。


「スズちゃんのそういうの、結構当たるから期待しちゃうかも」

「うんうん。マジでそう」

「……過剰な期待はしないで」


 座席を確保できるかどうかは正しく、運次第。ギリギリ詰め込まれてしまうのか、列の先頭付近で後続バスを待つことができるのか。

 列に並んだ時点でその区切りを見極めるのは事実上不可能なので、多摩高生たちは毎朝、祈るような気持ちで列の最後尾につくことになる。


「ハア。座れる並び位置をナビってくれるアプリ開発されたら月額千円でも買うのに」

「トモちゃん、それ、多摩高生以外に需要なくない?」

「しかも、全員が使いだしたら意味がない」

 

 爽田翔琉と茶井雷太による「ボディガード登校」は予定どおり一日で終了したが、その後も緋登美と音無涼花は地元駅で待ち合わせて登校していた。

 逆方面から来る朋もおおよその時間をあわせ、多摩川セントラル駅改札付近で三人が揃う、という形がなんとなく続いている。


「お願い、なんとかわたしたちの前で……」

「大丈夫、私たちの二人手前くらいで止まりそう」

「おお、涼花マジでヤバい!」


 涼花の予言どおり、緋登美たちの目前で前のバスがいっぱいとなり、そのまま出発。先頭から二番目という好位置で次のバスを待つことになった。確実に座れるだけでなく、三人横並びで最後列の座席を確保することも可能だ。

 前に並んでいた生徒たちはそれぞれ一人掛けの席に座ったため、緋登美たち三人は希望どおり、最後列の横並び座席についた。


 「いやー、朝からツイてるねえ」

 「涼花、明日もよろ!」

 「私の秘められた能力とかじゃないから無理」

 

 ちなみに爽田と茶井は、そもそもバス始発の最寄り駅として多摩川セントラル駅を利用していない。電車はもちろん、バス区間ですらも定期券外から通学しようとしていたわけで、時間と手間とコストまでをかけた「男気」は高く評価できる。

 

 「ところでさ。阿須田と天音さん、朝のバスで一度も見かけないんだけど」

 「言われてみれば。今日から部活はじまるし、聞いてみるよ」

 「……七色先生が車で送ってるとか」

 「え、そんなんあり⁉まさか、明日からは緋登美も⁉」

 「そんな新聞部特権があるとは聞いてないけどなあ。逆に居心地悪いから断ろっかな」

 「それは勿体ない。せっかくの特権、使ったほうがいい」

 「うーん。でもさ、やっぱりトモちゃんとスズちゃんと、三人でバス乗るの楽しいし、このままでいいかも」

 「それね。でも、あたしと涼花も七色先生が送ってくれるようになれば、なおエモい」

 「……トモちゃん?」

 

 緋登美のジトっとした視線を受けつつ、朋はグッタリと前座席の背もたれに項垂れる。自分たちも一緒に送ってくれるものなら送ってほしい、というのは半ば本音のようだった。

 

 「そもそも、あの二人が本当に七色先生の車に乗っているのかわからない」

 「そうだよ。それもそれで目立つしさ。ただでさえ、目立つ二人なのに」

 「まあね。でも目立つ二人だからこそ、朝見かけたことないのは不思議だし」

 

 朋が指摘したとおり、バスを待つ学生たちの群れに紛れても、彼らがいれば一目でわかりそうなもの。それでも見かけたことがないのであれば、そもそも並んでいない、と勘繰るのは妥当な判断だった。

 

 「とにかく、部活のときに聞いてみるからさ。後で報告するよ」

 「りょうかい。で、車の件、頼めたら頼んでおいて」

 「トモちゃん……」

 「朋、しつこい」

 「うっ。じょ、冗談だし」

 

 友人二人から冷たい視線を向けられ、さすがの朋も前言を撤回した。

 泣く泣く諦めるもガックリした様子の友人をよしよしと慰めつつ、緋登美は「謎多き二人(七色佳織を含めれば三人)は通学までも謎に包まれているのか」とある意味感心し、この日の放課後から始まる新たな生活サイクルに思いを馳せた。

 

 通学開始から丸一週間。いよいよ、新一年生たちの部活動が解禁される。



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