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不思議屋へようこそ  作者: I.D.E.I
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07 鑑定能力とルイナルたちとの別れ

 新たな神獣のトラトラやカバカバを迎えた後。


 ケーゴは従魔石の扱いをルイナル皇女に説明する。


 「もうすぐ夕食の準備の時間ですね。そろそろ、ウマウマを収納する準備を行ってください。例えばですが、自分が目をつむって、再び目を開いた時、いきなり全力で戦わなければならない状況を想像してください。収納された従魔は、まさしくそれを感じます。ですので、一応は身体全体をチェックしてから収納する事をお薦めします」


 「は、はい、そうですね」


 「はい。全て終了しました。足の爪、身体全体の毛先に至るまで、全てチェックし終わりました。問題ありません」


 ルイナル皇女が慌てて答えたが、その直ぐ後にクローナが全てを終えていた。これが有能な従者としてのクローナの通常なのだろう。凄いメイドさんだ。あとで馬のグルーミング用具を二セットぐらい渡しとこう。


 「では、ウマウマ、収納します」


 そう言うだけでウマウマ自身が魔石に収納される。次呼び出した時は今の状態というわけだ。


 ルイナル皇女とクローナ、そしてクマクマを伴って炊事場に向かう。すると、アミナたち五人がその場にいたが、なにやら深刻そうな雰囲気だった。


 「そろそろ夕食の準備の時間ですが、いかがしました?」


 「あ、店長。実はシアラなんだが…」


 シアラもその場にいる。しかし少しうつむき加減だった。


 「どうしました?」


 「実は神殿で祈ってたらしいんだが、なんか能力を貰ったって…」


 アミナが怖ず怖ずという感じで説明する。


 「能力ですか? また、余計な事しましたねぇ。返品とか出来ませんかね?」


 「い、いや、店長? 多分だが創造神だぞ?」


 「どうでも良いですね。で、どのような能力なのですか? 使わずに畑の木の裏に埋めておければ良いのですが」


 「は、はは。店長は強いな…。あ、ああ、シアラが貰った能力ってのは人の鑑定みたいなモノらしい」


 「鑑定ですか? 例えばどのような事が判るのでしょうか?」


 「試しにアタシを鑑定して貰ったんだが、【知 統 火】と言う事らしい」


 「ふむ」


 気になったので、ケーゴもアミナを鑑定してみた。


 【アミナ ルーエの街の商人の次女 店は長男が継ぐので結婚して出て行くつもりだったが 紹介された男が愚かに見えたので家を出て冒険者になった 現在 五人でパーティを組んでいる 聖域の弟子 組織的 社会的な考えを持つ事が出来る『知恵』を持つ 火の属性との相性が良い】


 「なるほど」


 と言って、アミナの鑑定結果を教える。


 「さ、さすがに店長の鑑定は凄いな。つまり、シアラの鑑定は、かなり限定的って事か」


 「限定的と言うより、特性のみ、と言う感じですね。例えば成人の祝いや生まれた時のお祝いなどで、アミナさんは知恵を伸ばして人を統べる統括的な職業に就いた方が伸びます、とか神託するような感じですか」


 「「「なるほど!」」」


 アミナとシアラ以外には納得の言葉だったようだ。


 「子供の行く末を心配する親御さんは多いですから、幼い頃にシアラさんの鑑定を受けると無駄な方向に進む杞憂は減るでしょう。ですが、必ずしも親御さんのご期待に添う結果にはならない、と言うのは覚悟が要りますか」


 「あー、それは有るなぁ」


 アミナ自身が、おそらく長男よりも商才があった可能性がある。しかし、慣例というか、周りから見た一般的な取り組みとして、長男が店を継ぐのが当たり前と見られる。もしも、長男にも商才があると鑑定されたら、どちらを、と言う問題にもなる。


 「本人にとっては、才覚が発揮されない仕事をさせられるよりは、良い仕事に出会えそうですが、単純な話として、迷惑でしか有りませんよね?」


 「アタシもそう思うわ」


 アミナはケーゴの意見に完全に賛成のようだ。


 「ちなみに、アミナさん以外の結果はどうだったのです?」


 「ああ、ベルダは【力 武 風】で、ダイナが【器 賢 土】、エリスが【魔 心 水】だったな」


 「あ、ああー、そういう事ですか~」


 結果を聞いた敬語が天を仰ぐように溜息を吐いた。


 「どうした? 店長?」


 「ベルダさんは、この五人の中で、唯一戦いに恐怖を感じていませんね?」


 「え? 恐怖を感じてたら戦えないだろ?」


 「ええ、ですが、他の皆さんは、結構死の恐怖を感じながら、心を抑えながら進んでいたんです」


 「そうだったのか?」


 ベルダが驚いて見回す。すると、アミナは苦笑い、ダイナは目線を合わせず、エリスも俯いてしまった。


 「全員の人生に関わる事なので、自分だけが怖いから森に入りたくない、とは言い出せなかったのですね。そこは責めないであげてください」


 「せ、責めるなんて、逆だ。あたしが気付いてやれなかったのが悪いんだ」


 「いえいえ、そんな事はありません。わざとベルダさんに気付かれないようにしていたのですから、誰が悪いとも言えません。ですが、ここでの料理教室が終わりましたら、皆で街に帰り、冒険者は引退する事になるでしょう。その時に、ベルダさんは冒険者の仕事を継続させたいと思うかも知れません。それは、ベルダさんの特性が力であり、武である、と言う事に起因します」


 「つまりあたしは戦い続ける事に向いている、ってワケだな」


 「完全にそうだとは言えません。例えばですが、皆で料理の店を経営する時に、基本は料理店の手伝いを行いながら、新人冒険者の指導も行うのはどうでしょう? 新人にとって必要なのは知識です。それは皆さんも充分に判ったはずです」


 「あ、ああ、そうだな」


 「別にコレが正解、と言うワケではありませんので、折り合いを見つけて、幸せになる道を探すのが一番だと思います。結果としてですが、いつかは引退しなければならないワケですしね」


 「ああ、判った」


 「次にダイナさんですが、実はダイナさんには、魔道具などの細工物を作る様な才能がありそうなのです」


 「え? アタシがか?」


 「魔道具に限った事では無いでしょうが、要は器用さと、それを扱う賢さを伸ばした方が良い、と言う結果ですね」


 「ああ、その手の仕組みとかを気に掛けるのは、いつもダイナだったな」


 「まだはっきりとはしませんが、服魔石などは今まで誰も手に掛けていなかった物です。それらの作成に携わって欲しいと、あんにゃろが期待したのかも知れません」


 「あ、あんにゃろ…」


 「そしてエリスさんですが、魔法使いになれる素養があるかも知れません」


 「あ、やっぱり」


 「どんどん魔元が失われて行っている状況ですが、それでも魔法使いの知識は残さないとなりません。エリスさんにはその可能性が誰よりも高いので、今回、シアラさんに鑑定能力が備わったのも、エリスさんに伝えるための可能性がありますね。あくまでも可能性だけですが。出来れば聞きに行って、一発殴りたい程です」


 「は、ははは」


 エリスは笑ってしまった。


 世界樹が復活するのはまだまだ秘密だ。もしかすると、エリスの人生が天寿を全うしても、世界樹は保護対象のままだという可能性も高い。だから、世界は濁った魔元しか無い、魔法使いにとっては生き難い世界のままだ。それでも魔法使いという存在が、魔法を行使して威力を見せつけない事には、この世界から魔法が消えてしまうだろう。


 「そして、おそらくですが、シアラさんの素養鑑定能力で、街にいる魔法使いに成れる素養をお持ちの方々を捜そうという意図も垣間見えます」


 素養とは教育や覚えた事による下地の事だ。例えば親が冒険者なら、自然と親の行動や語られる知識が身につき、他の者よりも冒険者になって生き残れる可能性が高くなる。親に限らず、周りに学者の様に考え、語る者が多ければ、学者の素養を持つ者に成長する。


 だが、全ての者が同じように成長するとは限らないので、必ずしも周りの影響だけで決まる物では無い。


 「素養があっても、魔法の知識が無いんじゃ教えられないだろうけどな」


 「いえ。誠に残念な事に、こちらでお教えできます」


 「残念なんだ?」


 「皆さんには、もう少し自由に人生を選んで欲しかったのですが、こちらに入らした事で、これからの人生を勝手に決めつけてしまった結果になったのがとても残念です」


 「あ、あー、それはなぁ」


 アミナにしても、自分の事はもとより、他の四人の人生が勝手に決められたというのは、あまり歓迎するべき事態でもないだろう。


 「まぁアタシは別に構わないけどなぁ。でもシアラはどうだ?」


 ダイナは魔道具を作る細工師に不服は無いようだ。しかしシアラはここの神殿の管理をしたいと言っていた。その望みはどうなるのだろう、とダイナは考える。


 「正直に言います。シアラさんは、好きにして構いません。と言うか、素養鑑定の事とか無視してください。その能力があるから、その能力を生かさなければならない、などと言う事はありません。ご自分がしたい事をしてください」


 「店長は、シアラがハーレムの嫁候補から抜けるのが嫌なんじゃないのか?」


 ダイナがケーゴをからかうが。


 「もし、私を愛し、私の子供を産み、私の子供を育てる事よりも、神託の巫女の方がやりたい事でしたら、私はハーレムの嫁には迎えたく有りません。全てはシアラさんにとっての一番が大事です」


 「さすが店長。いい男!」


 「当然です」


 そこで、皆の間が空いてしまった。誰も言葉を出さずに考えている。


 「あ、あの、シアラさん。誠に申し上げにくいのですが、わたしを鑑定してくださいますか?」


 ルイナル皇女が意を決してシアラに語りかけた。


 「え? わたしより、店長の方がよろしいかと思うのですが」


 「ええ。後で店長にも見て貰います。ですがシアラさんにも見て貰いたいのです。よろしいでしょうか?」


 「はい、判りました。では行きます『鑑定』」


 シアラの鑑定はかなりあっさりしたモノだった。神殿関係者だと、金取れないからもっと荘厳に行えとか言うかも知れない。


 「はい。ルイナルさんは【真 人 地】でした」


 「あの、わたしもよろしいでしょうか?」


 「はい。クローナさんは【支 配 地】でした」


 「あの、店長? 解説をお願いしてもよろしいでしょうか?」


 思わず笑ってしまったケーゴだった。


 ルイナル皇女の【真】は真実という意味の真だ。おそらく、嘘と虚飾の世界の中で、何が真実かを見極めようとして真実を見る目、と言う素養が付いたのだろう。【人】は支配者では無く、被支配者でも無く、欺す者でも無く、欺される者でも無く、賢者でも無く、愚者でも無い。そう言った心構えから人で有ろうとする心が育ったのだろうと話す。するとルイナルの成長を見てきたクローナはかなり納得していた。


 クローナの【支】は支えると言う意味の支だ。決して支配すると言う意味では無い。【配】も適材適所を心がけて采配する能力が高いと言う事だろう。

 その解説にルイナルも納得していた。


 「言っても仕方の無い事なのですが、ルイナル皇女は本来は裁判官などの職業に適性があったかも知れませんね。クローナさんは、軍隊でも政治でも、その状況を作り出す参謀などが能力を発揮できたかも知れません」


 「店長が解説してくれるとかなり納得できるが、それが無いと微妙な気がするなぁ」


 アミナがシアラの能力が悪いと言うわけじゃ無いと言い訳しながら言った。


 「街の神殿で渡す言葉なら、コレで充分でしょう。私のような解説が入ったら、それでその人の人生が決定してしまう事にもなりかねません。あくまで素養があるだけで、それに服従しろというわけじゃ無いのですから」


 「なるほど。少しぐらい判らない方が良いワケか」


 「例えば、皆さんが作り上げるお食事処で、サービスの一環で子供の素養を見てあげる、と言う程度ならば、このぐらいが丁度良いと思うのですがね」


 「店長は神殿は嫌いみたいだな」


 「神殿などは、楽して利用しようとする者の温床ですからね。例え真実一路で清く正しく美しくを貫く神殿があったとしても、直ぐに別の神殿に食い物にされてしまうでしょう。ですので出来るだけ関わって欲しくは無いですね」


 「アタシが見てきた神殿だと、その言葉が納得出来ちゃうんだよなぁ」


 「ですので、シアラさんにはしっかりと身の振り方を考えて貰いたいと思います」


 「難しい話だよな?」


 「そう思います。ですがもう少しだけ時間はあります。じっくり考えてください。時間が無い問題が別口で迫っていますので」


 「え? なに? なんかある?」


 「はい。夕食作りの時間が減って行っています」


 「「「ああ~…」」」


 今回はひたすら油を絞って貰った。原料としての穀物も大量に通販で仕入れた。


 各自に絞って貰う量は、約五百ミリリットル。


 夕食は油を使った揚げ物だ。


 ケーゴが用意した食材は、一人あたり、トローモ(ジャガイモ)三個。厚切りロース肉一枚。三日前のパンがほどよく固くなっているので、パン粉はそれをおろしてもらう。後は小麦粉と卵があれば良い。


 二十数センチのミルクパンよりも少し大きい蓋付き鍋を使う。竈を使うので、油に火が付く可能性を考え、直ぐに蓋を閉められる小さめの鍋にした。


 トローモ(ジャガイモ)は縦にだけ包丁を入れて貰い、棒状に太さを揃えて貰う。肉は筋切りしてから肉叩きハンマーで少し叩く。本来は筋切りしてあれば叩く必要が無いのだが、皆の筋切りも半端になっている可能性があるので両方させてみた。

 次に小麦粉をしっかりと付けさせ、溶いた卵に浸けて、パン粉を押しつけるように貼り付けさせる。


 後は油で揚げるだけ。


 まずはトローモ(ジャガイモ)だ。切ったトローモを一度小麦粉にまぶしてから油に投入する。小麦粉はべったり付けすぎないのが肝心だ。パチパチパチと跳ねるが、直ぐにジュワーっと泡立つ音に変わる。直ぐに引き上げたくなるが、じっくり火が通るのを待つ心が肝心。


 次にロースだ。トローモで勝手が判ったので、落ち着いて投入できた。


 カツから余分な油を切っている間に、お湯を沸かして好きな茶を煎れさせる。


 今朝作ったパンとジャムを揃えさせて、カツとポテトを揃えて完了。和式のカツなので、包丁であらかじめ切って出したかったが、まだ馴染みが無いだろうと、ナイフとフォークでいちいち切らせる事にした。


 「では、お上がりください」


 油は温度が高いので片付けは後にさせて、直ぐに食べて貰う。


 皆の食いつきっぷりを見ると、『油物は太りやすいんですよねぇ』とは口が裂けても言えないと思うケーゴだった。


 一度クマクマを連れて屋敷に戻り、ケーゴ自身とクマクマの食事を用意する。


 ケーゴの夕食はスタンダードなカレーカップ麺。カレーライスを作る気力は無くしていた。


 ゆっくりと食べ終わり、炊事場の皆のところに戻ると、皆は熱心にノートを取っていた。


 「いかがです?」


 「あ、店長。とても美味しくて、いくらでも食べられると皆で言っていた所です」


 「ああ、一つ言い忘れていた事があります」


 「はい?」


 「油物は太りやすいです」


 ピシッ!


 その場には七人全員がいたが、七人全員の動きが凍り付いた。


 「もちろん、今日ぐらいの一食を偶に食べるぐらいではほとんど影響はありませんが」


 「あ、あは、そうですよね?」


 「はい。本当です。ですが、美味しいからと毎日続けると、ほんの少しずつですが、確実に『お肉』が増えていきます。少しずつ、時間を掛けて増えるので、なかなか気付きにくいのですが」


 「そ、そ、そう、ですか」


 『お肉』の所で、再び全員が微かに痙攣したようだ。


 「残念な事に、ほとんどの生き物はワザと太りやすい身体に作られています。野生では次にいつ食べられるかが判らないので当然の事です。人族もコレに当てはまります。悪政を敷く国の場合を考えれば、直ぐに想像出来ると思いますが」


 「な、なるほど」


 「美味しいとは、すなわち太れる。と考えてもよろしいかと」


 「て、店長!」


 アミナは半分泣きそうだ。


 「はい?」


 「店長のところに痩せる薬はないのか?」


 「ありません」


 「そ、そんな」


 「先ほども申しましたが、太ると言うのは生き物の基本です。つまり健康で身体が整っている状態です。それを阻害するのは毒と言う事になりますが、痩せるだけの毒は存在していません。命を削る毒ならば、痩せるという副次効果も有りますが、苦しい上に死んでしまうのでは意味がありませんね」


 「つまり、太る、と…」


 ああ、コレが絶望の表情なのか、と言うのが判りやすいアミナだった。


 「太らない方法もあります」


 「店長!」


 「食べるというのは、身体を作る材料と、身体を動かす力を体内に取り込む作業です。大人になって成長が止まった後は、身体を作ると言う所が身体を動かす力を蓄えると言う意味に大きく変わります。なので、身体を動かす力を使ってやれば良いのです」


 「なるほど」


 他の者たちは、ノートに一生懸命にメモっている。とても大事な事のようだ。


 「料理でも、他の作業でも、汗をかくぐらい一生懸命に身体を動かして仕事をすれば、自然と蓄えられた『お肉』は減っていきます」


 「お、おお」


 「食べない、と言う方法もありますが、コレは良くない手段です。食べて身体を動かす、と言うのが一番ですね」


 「そ、そうか。判った」


 他の者もあわせて、一応全員が納得したようだ。


 「知識という物が、とても大事だという事が、身に染みて判りました」


 ルイナル皇女の言葉に他の者たちが頷く。それほどか!


 「今回使った油は、まだ二、三回は使えます。ですが油というのは、俗な言い方をすれば疲れて来るのです。揚げるために投入した食品や、それについていた小麦粉やパン粉なども焦げた状態で中に落ちています。そして揚げた食品の匂いも油に滲んで出ています。そのような疲れた油で揚げた食品には、色々な匂いが臭みとして付いてしまい、せっかくの食材が台無しになると言うモノです」


 「じゃあ、疲れた油は捨てるしか無いって事か?」


 「基本はそうです。ですので、油を使った料理は、基本的に割高になると考えて貰った方がよろしいかと」


 「肉とかの食材だけじゃ無く、油を絞った豆とかも結構使ったよなぁ」


 「大きな鍋に油を大量に使えば、作られる料理の数も増えますから、一つあたりの料理にかかる費用は少なくする事も出来ますね」


 「ああ、そういう計算もしなくちゃならない、って事かぁ」


 「はい。どのような形態でも店として取引を行うのならば、価格設定の計算からは逃れられません」


 「店長。計算とかも教えてもらえるか?」


 「はい。喜んで」


 「計算は主に、あたしの役割なんだろうなぁ」


 アミナが疲れた顔を言う。それを他の四人は和やかに見ていた。心の中では『任せた!』と叫んでいるのだろう。


 「それと、疲れた油の処理なのですが、基本は燃やすしか有りません。川などに流して捨てれば、川が腐って、悪臭を放つようにもなりかねません」


 「扱いが大変そうだな」


 「ですが一手間加えて、中のカスなどを取り除いて臭みも取れば、皆さんが洗濯で使っている洗剤を作る事が出来ます」


 「「「アレが?」」」


 「今お使いのモノは、色々手を加えられてありますので、同じモノとは言いがたいのですが、アレの大元になった洗剤、と考えてくださって結構です」


 「それも教えてくれるのか?」


 「お教えしないと無駄なゴミが増えるだけですので、是非知っていてもらいたい知識です。今使っている油を後数回使って疲れましたら、竈の灰と水を使って基本的なモノを作ってみます」


 「知識が大事だってのは判るが、アレもコレも、とか、手が回らなくなるなぁ」


 「知っておくのは大事ですが、全てを一人で行う必要は無いでしょう。例えば疲れた油の処理ですが、洗濯用洗剤を作る業者を作ってしまって、その業者に疲れた油を買い取って貰う、と言う方式にしてしまえば良いのです。洗濯用洗剤はその業者から買う必要はありますが、手間を考えれば損をすると言う事は無いでしょう」


 「あ、お茶か」


 以前、お茶を作る業者を作って、お茶の品質向上を目指させるとかの話をしていた。それを思い出したのだろう。


 「まぁ、今はそう言った知識を集める事に集中してください。あ、油は蓋をしてそのままで構いません。食器は洗って頂きますが、油が落ちにくかったら、竈の灰を少し擦り付けて洗うと言う方法もあります。それが終わりましたら、お風呂に入ってゆっくり寝てください」


 と言う所で話を切り上げた。


 一度店に戻り、魔石加工の道具を片付けて屋敷に戻る。そして自室に戻って寛ぎ、スマホのチャットを立ち上げる。


 「で? どう言う事よ?」


 いきなりの第一声がコレだった。要はシアラに対する神託と、素養鑑定能力の事なのだが、細かい説明をする必要も無い、と言う事でコレだった。


 【ごめん! ごめん! ごめん! ごめん! ごめん! ごめん! ごめん! ごめん! ごめん!】


 ごめんの言葉が延々と続いて出てきた。


 呆れたケーゴはスマホのスイッチを切ってちゃぶ台の上に置き、台所へ行ってお湯を沸かしてコーヒーの準備を始めた。ゆっくりとこだわりの煎れ方をして、納得の味を楽しむ。


 飲んだコーヒーは一杯だけ。後は洗って片付けてから自室に戻った。


 再びスマホを手に取る。


 「で?」


 【本当にごめん でもアレってボクも知らないうちにやられちゃったんだよぉ】


 「え? 他の誰かが創造神の代行とか出来るのか?」


 【えっと 代行というか ボクは その 皆の直系の一番上だよね?】


 「原初の初めの一体、すなわちザ・ワンだろ? ジワン様?」


 【そう その通りなんだ だから ボクが地上の民と繋がるルートというか基本というか、主軸になった感じかな 他の皆は結局ボクの亜種になったって感じなんだ その関係で ボクのルートを皆が使える状態なんだ】


 「普通逆じゃないのか? ジワンが他の皆のルートを使えて、他の皆は自分のルートしか使えない、とか」


 【それも考えたけど 結局ボクって 皆に任せるって事で 引っ込んじゃったワケじゃん? だから ボクの主軸は皆が相談するルートになればいいな って思って そのままにしてたんだ】


 「相談っていうか、シアラによると好き勝手に喚めくための窓口になってるみたいだがな。この際、俺が来たのは知られているんだから、そのルートは閉じてみたらどうだ? ジワン様の本気度が皆に判るんじゃないのか?」


 【う そうかな? 結局 皆も ボクが作ったボクの子供達なんだけどね?】


 「子供ならなおさら、責任持って躾けないとだめだろ」


 【判ったよぉ よっと これで ボクのルートはボクにしか使えなくなったよ 皆は 騒ぐかな?】


 「直に聞いてくるのがいるかどうか、だな。閉じられても構わないとか、閉じた事に気付かないとかは放っておいても良いはずだけど、もう一度開けとか言ってくるヤツは、大神としてのジワンを利用してる連中って事になるんじゃないのか?」


 【うう なるはずも無いんだけど お腹が痛くなってくるような気がするよー】


 「で? 今回シアラに余計な事したのは何者だ?」


 【今回は魔法の神だよ まぁ ボクもあの子の気持ちは判るから 強く言えないんだよねぇ】


 「魔法かぁ。まぁそうだと思ったけど、直球だったなぁ。他の神とかはちょっかい掛けて来てないのか?」


 【それは大丈夫 何しろ魔法の神が知ったのも ボクが服魔石に関して人に作れるかどうかを確認したからだしね】


 「それは俺にも原因があるな。で、服魔石に関しては?」


 【少し余裕が出来たよ と言ったら もう少し考えるとか言い出したんで さっきの作り方は変わるかも知れないんだ】


 「それは良いけど、大丈夫なのか?」


 【実は魔法の神は 世界樹が有ってこその神で 世界樹が魔元を巡回させるのを監視して調整するのが仕事だったんだ 人が使う魔法の術式の事なんか 本当は門外漢なんだよぉ】


 「うわ。純粋に人族の被害者じゃないか。創造神様が少し融通を利かせてあげたくなるのも判るなぁ」


 【そう言ってもらえると 少し助かるよ あ ツブツブ屋に昔の魔法の本とか追加しておいたからね】


 そしてチャット終了。古物商ツブツブ屋を確認すると、魔法の教本や秘術の辞典の様な本や、禁書や焚書された本なんかもあった。一つ取り寄せてみると、数人がかりで気象を操るモノや、海を割って海底の特別な場所へ行く方法なんかも有った。


 「うん。禁書だ。閲覧不可だ。燃やしてしまおうか?」


 魔法は結局、『出来ない』を『可能』にする強引なチートだ。それでも、そのチートが有ったからこそ、知恵有る命が続いてきたのだから、今更無くしてしまえと乱暴に言うのは避けたい。


 なら、便利で都合の良いチカラだけど、その凶悪さはしっかりと伝えなければならないだろう。


 どうせ時の権力者は、他国よりも強い単純なチカラを求めるのは変わらないはずだ。だが、それは乱暴で頭の悪い方法だと、皆が認識して、皆の常識がそのあり方を許さない、と言う社会を形成するように手助けすれば良い。


 エリスの世代だけでは無理だろうけど、何世代も掛けて、そう言った知恵を蓄えるための下地を作るべきだ。


 そんな事を考えながらケーゴの夜は更けた


 そして、深夜。


 珍しくケーゴがトイレに起きて、LEDランタン片手に外のトイレに行ってきた帰り、ちゃぶ台の上に置いておいたスマホが侵入者警告を出した。


 しかし、微妙におかしいと感じた。


 スマホの表示は【侵入者警告】としか出ていない。いつもなら何名とか何体とか、排除するか? などと表示されるのに、それが無い。


 試しに【侵入者警告】の表示を押してみると、マップに切り替わった。どこのマップだ? と左上の表示を見ると【世界樹エリア】とあった。


 「ヤバイ!」


 と思って掛けだし、縁側から飛び降りて裏庭に走った。


 それを目撃したクマクマが慌てて走り、付いてくる。小規模な庭園になっている裏庭に入り、不似合いに置かれた石造りの鳥居に飛び込む。そして中央を目指して走った。


 世界樹の種は大丈夫か? ウッドゴーレムは大丈夫か?


 と心の中が焦りでグチャグチャになりかける。


 そして中央に近づく。


 そこには。


 一人の子供が踊っていた。


 たぶん、子供。


 小人かも?


 もしかしたらキジムナーかも?


 ウッドゴーレムは前に見た位置でじっとしていた。いや、一応子供が何かしないかの監視はしているようだ。子供は十歳児相当のケーゴよりも小柄で年齢的には七~八歳と推定される。しかし、見た目通りの年齢では無さそうだ。


 そしてケーゴは、クマクマを横に侍らせて、第一声を出した。


 「誰?」


 その声で、ようやく子供がケーゴに気付いたようだ。ケーゴやクマクマの足音は無視されたのか、踊っていて気付かなかったのか。


 「やぁ! やぁ! やぁ! えっと、ケーゴだっけ? アリガトー、アリガトー。本当に感謝だよぉ-」


 そう言ってケーゴに抱きついてきた。


 「で、誰? キジムナー?」


 「きじむなぁ、って何だろ? えっと、僕は魔法の神だよー」


 そう言って、自称魔法の神はケーゴから離れて、世界樹の種が埋まっている、掘り返した土の山の周りで踊り出した。


 「そっか。魔法の神か。キジムナーじゃ無かったんだな」


 色々納得したので、屋敷に帰って寝ようとする。時間はまだ真夜中だ。このエリアには擬似的な月が出て、淡く周りを照らしているが、もう、そこら辺はどうでも良いと思うケーゴであった。


 「あ、ちょっと、ちょっと! なんで、そんなに淡泊なのぉ! 魔法の神だよ? 神様だよ? 色々感動とか尊敬とか崇拝とか有るでしょう?」


 「でもキジムナーじゃ無いんだよね?」


 「えっと、きじむなぁ、って何?」


 「じゃ、明日にして。おやすみ」


 「待って、待って、待って-! 話を聞いて-!」


 「えー?」


 「何でそんなにやる気が無いんだろ?」


 ここでケーゴは、手に持っていたままのスマホを、ようやく目の前にあげた。


 「で、どうゆう事?」


 【世界樹が生き残ってた事が魔法の神にバレちゃってねぇ なんでも世界樹を保護する とか意気って自分の分身を作って乗り込んじゃったんだよぉ】


 「あ、ジワンだ」


 直接スマホの画面を見なくとも、ジワンの台詞は感知できるようだ。


 「分身って、他の神に知られるとかは、大丈夫なのか? 神々の世界樹争奪戦とか、勘弁して欲しいんだけど?」


 「あ、それはねぇ、僕のこの分身は、完全に機能分離した最小限の端末なんだ。一応本体とも繋がっているけど、めっちゃ細い線だから、ジワンの作った聖域とかこことかなら僕に気付く神はいないよぉ」


 「と、言ってるけど?」


 【まぁねぇ でも神の端末だから 直接見れば判っちゃうよぉ】


 「うっ、それは、まぁ、見られないように、これから工夫するとか?」


 「世界樹の保護に来たんだろ? なら、ここの世界樹のエリアに引き籠もるのか?」


 「それなんだけどぉ。ケーゴは聖域で魔法使いの素養のある人族に、魔法を教える事になったでしょう? だから僕がそれを担当してあげようと思ったんだぁ」


 「お断りします。じゃ、明日も早いんで、おやすみなさい」


 「待って、待って、待ってー! 何でそんなに邪険にするのさぁ!」


 「聖域でおおっぴらに活動するとか、見られるリスク増大だろ? 逆になんでそんなリスク取りたいのか聞いてみたいんだが?」


 現時点でも、聖域の守護獣とか言う名誉称号を得るためだけに神獣を作って送り込んでいる程だ。その神獣と作った神が少しでも繋がっていたら、見ただけでも魔法の神がいると判ってしまうだろう。その後はなし崩し的に世界樹の事まで知られる可能性がある。


 「いや、マジで、魔法使いの存在そのものの危機なんだよぉ。魔元が少なくなっちゃって、威力が落ちてるから禁呪とかに手を出す魔法使いが多くて、魔法使いの印象も最悪になりかけてるしぃ」


 「魔元を復活させる何かとかは無いのか? 別に恒久的にやる必要も無いワケだし、一時的なモノでも構わないから何かないのか?」


 「一時的って…、あ、世界樹が育てば良いワケだから、ホントに一時的でも良いんだ。そっか、そっか、ならアレが使えるかな?」


 「方法があるなら、そっちで頑張ってくれ。ここで必要の無い危険を冒すとか、本気でやめて貰いたい」


 ただでさえ綱渡りしている感が大きいのに、それ以外の要素なんて不要だ、とケーゴは心の底から思う。


 「ケーゴって、かなり辛辣だよね? ジワンの薫陶?」


 【残念ながら ボクも虐められてるよ もう少し神に優しくても良いと思うんだけどねぇ】


 「ケーゴぉ。そんなんじゃモテないよぉ?」


 「誰に?」


 「神に」


 「じゃ、おやすみなさい」


 「待って-、って、このやり取りやめない? まぁそれより、魔法使いの印象が良くなるように強力してよぉ」


 「魔法使いは陰々滅々で何をやってるか判らない上に呪いや禁呪を使いまくって誰がやったのかも判らないように人を殺し続けています。はい、魔法使いの印象でした」


 「じわん~! ケーゴが虐めるよー!」


 【いや ケーゴ そこは助けてあげて ホント 頼むよぉ】


 「印象良くする方法ってあるのか?」


 「ある! 治療魔法とか、植物の成長を促す魔法や、農地の栄養状態を整える魔法もあるよ!」


 「確かに印象は良くなりそうだけど、相手が農民ばかりになるから儲からないよね? 苦労して儲からない魔法使いになるかな? 攻撃魔法でも覚えて冒険者になった方が儲かるんじゃ無い?」


 「う、うう、ううう。そうなんだよぉ。何かなぁい?」


 遂にケーゴにすがりついて泣き始めた。


 「なら、そっち系統の魔法を神聖魔法とか言って分けてみたらどうなんだ? 魔法の神の神殿やジワンの神殿でしか授けられない特別な魔法としておけば、神殿関係者が取得するのが当たり前、って風潮にならないかな?」


 「お、お、おお! じ、ジワン?」


 魔法の神は、子供状態の身体でケーゴの身体をよじ登り始めた。


 【なるほど 別に普通の攻撃魔法とかも覚えて良いけど 神聖魔法は神殿でしか取得できないかぁ 結構面白いかも?】


 「神殿関係者が儲けるための餌になるだけ、ってなるのが問題だけどねぇ」


 「ああいう連中はある程度餌が無いと動かないでしょ。それは仕方ないと諦めるしかないんじゃ無いのかな」


 ケーゴの背中にオンブされている状態で言う。


 「それと、治療魔法は農地改良とか植物育成での経験がある程度溜まらないと取得出来ない、とかが良いかな」


 【それだ! 広域治療呪文なんかは それこそ社会貢献度が高くないと取得出来ない方が良いよね】


 「す、凄いよケーゴ。神様みたいだ」


 【ケーゴ 神様やらない?】


 「おやすみなさい」


 「待って~!」


 【この仕組みが定着すれば 魔元を浄化させるアレが機能するだろうね】


 「? それってどういうの?」


 「まぁ簡単に言えば人力水車で水を汲み上げる道具みたいな感じかな」


 遂に肩車になった。


 「水の汲み上げが魔元の浄化。人力ってのは人が動かしてやらないとならない、って事か。だから神殿とかに管理させて、名誉職みたいな仕事にさせよう、ってワケか」


 【大正解 それを自動でやってくれるのが世界樹だったんだけどねぇ】


 「まぁとにかく。それを神殿にどうやって持って行くかだな。それと、その仕組みをどう納得させるか」


 「それは、やっぱり、シアラちゃんとエリスちゃんでしょ」


 ケーゴの頭を抱えながら、髪の毛の感触を楽しんでいるようだ。


 「あ~、やっぱりぃ?」


 「なんか、ケーゴって、あの子達にそう言う役割を押しつけるのが嫌そうだよね」


 【ハーレム要員が減るから?】


 「現時点でもアノ連中は一杯一杯だと思うんだよ。押しつけて責任を背負わせたら、耐えられなくなって潰れるぞ? そうしたら全てがおじゃんだ」


 【あ ありそう そうか 人族って弱いんだよね ケーゴ見てると忘れがちになるけど】


 「繊細でか弱い俺は、もっと労った方が良いと思うぞ?」


 「ケーゴ、寝てる?」


 「おやすみなさい」


 「わー、待ってー! なんならハーレム要員は僕が斡旋してあげるから。何だったら、僕がボンキュッボンのせくしぃがぁるになってイヤラシぃ奉仕してあげても良いよぉ」


 「義務や仕事でハーレムに加わるようなのは願い下げだ。って魔法の神は男の子ってワケじゃ無かったんだ?」


 「男でも女でも無いよ。それこそ一個体ってワケでも無いしね。子供なのは、他の連中に気付かれないようにリソースの割り当てを最低限にしてあるせいで、言葉遣いとか考え方も子供っぽくなってるけどね」


 「考え方が子供っぽいのは拙いんじゃないのか?」


 「大元とは繋がってるから、思考の整合性は取れてるよ。じゃあせくしぃがぁるになってみようか?」


 「いや。今はいらん。まだ俺自身の性欲は目覚めてないからな。異性の事を知りたいとか言う欲求は知ってるって事で無いから、変な成長の仕方にならないように控えてる最中だ」


 【ケーゴって固いんだよねぇ 多少は早まっても 身体的には問題無いはずなのにねぇ】


 「人って、そういうのを早めたら、なんか問題あるの?」


 【基本は無いよ 早めようと思っても 反応しないか 反応するかの違いしかないしね ただ 変な空撃ちを繰り返すと 内部構造を傷つける可能性は少しだけあるかな まぁそれもヒールタブレットで治るんだけどね】


 「だってよ。ケーゴ? 人生楽しんでみない?」


 「うっ、揺らぐ。って、それを交渉材料にする気なんじゃないのか?」


 「そんな事無いよぉ~♪」


 「わざとらしく視線を逸らして口笛を吹くのをやめろ、って。それより、姿を変えられるなら、見られても構わないようには出来ないのか?」


 ケーゴが頭を振って魔法の神を振り落とす。それをクマクマが優しくキャッチして地面に降ろす。


 「それはコッチが聞きたいよぉ。相手は同じような神だからね。出し抜きは結構難しいかな」


 「繋がっててもおかしいとは思わない存在とかないのか?」


 「神獣とか? でもケーゴの従魔石に従うと、その繋がりも絶たれる事になってるから、僕が神獣になって聖域にいたら結局バレちゃうね」


 「じゃあ、その繋がりを一時的に切って、スタンドアローンで行動するのは? この世界樹のエリアに中継器を置いて、日に二度ぐらい端末情報を更新するとか」


 「す、凄いよケーゴ。それは思いつかなかった。基礎情報は全てダウンロードしておいて、活動内容だけをやり取りすれば負担も少ないし、いざとなったら中継器と直結して繋がった状態のままにしても良いかも」


 「それでも、神獣形態で従魔って事にしておいた方が安全性は高いだろうな」


 そして、神獣、中継器、魔元の浄化装置、服魔石など、用意する必要があるモノが目白押しの状態なので、この会合は一時お開きとなった。


 世界樹のエリアから消えた魔法の神を見送ったケーゴは、クマクマの背中に横たわり、屋敷までクマクマタクシーで帰っていった。


 次の日の朝。


 「おはよう店長。って、大丈夫か? なんか、どよんでいるが?」


 炊事場でケーゴを見つけたアミナが挨拶をしてくる。


 「おはようございます。どよんでいるとは新しい言葉ですね。明確に意を得ているので反論のしようもありませんが」


 「どうした店長? 寝不足か?」


 「寝不足なら添い寝してやろうか?」


 「添い寝されたら、余計に寝不足になりそうですので遠慮させて頂きます。さて、先ずはパン作りから始めましょう。今日も夕食の分までお願いします」


 軽い挨拶からいつもの作業に入る。


 皆がいつもの作業に入った事を確認してからケーゴが口を開く。


 「作業を続けたままで構いませんので、少し聞いてください」


 とりあえず話さなければならないのは、シアラとエリスの事だ。シアラには神殿関連の新たな取り組みを伝えて貰わないとならないし、エリスには神聖魔法を取得して貰って、ある程度以上活躍して貰わなければならない。

 しかし、それも本人次第。やりたくない事をやらせる事は絶対にしない。


 「まず、今日の朝食ですが、この後鶏肉を配ります。それを昨日のように油で揚げるのですが、小麦粉を塗しただけで揚げて頂きます」


 「油モノは太るんだったよな?」


 「美味しいですからね。きっと、お店では人気メニューになるはずです」


 「………」


 なんとも言いようのない顔になるアミナたち。コレが食堂経営のジレンマだよなぁ。


 「朝食が終わりましたら、皆様全員で計算のお勉強です」


 「え? あたし達も?」


 「はい。全員参加です」


 「いや、でも、あれ、計算はアミナの分担じゃなかったっけ?」


 「物を買うにしても、作って売るにしても、計算は必要です。おつりを誤魔化されない様に、基礎的な計算は皆さんに習得して貰います」


 「でも、あの、なぁ?」


 「極簡単な形式からお教えしますので、この際、習得するのも手ですよ」


 「絶対?」


 「はい」


 で、ダイナも抵抗を諦めたようだ。


 「その後は、シアラさんには神殿でして頂く事。エリスさんには魔法関係での覚えておくべき事をして貰います。ダイナさんには道具作りのための道具の取り扱いを覚えて貰います」


 「あの。わたしたちはいかがいたしましょう?」


 ルイナル皇女が怖ず怖ずと聞いてくる。


 「皇女殿下には、そろそろ国に帰る準備と、向こうで行う事の予想を立てて貰います。まず、どの村に向かい、そこでどのように行動するか、から始まり、出会うだろう貴族やご姉妹達との会話などを想定して、どんな方針で行くかを具体的に書き出して貰い、その心の準備をして貰います」


 「なるほど。はい、判りました」


 そして鶏の唐揚げが出来上がった。少し焦げるかな? と言う程度に揚げて貰ったが、その口と心の複雑な関係は中々壮絶なモノを感じた。


 「う、動くぞ! 食った分は動くんだ!」


 片付けはとてもキビキビしたモノだった。


 そして皆に渡すのは九九の書かれた表。そして紙とボールペン。メモ用に渡した物とは別に、計算の勉強に使う用に新たに渡した。

 一桁の足し算、引き算を普通にやらせ、次に筆算と呼ばれる、数字を項目ごとに縦に配置していく方式だ。


 「こうすれば意外と簡単じゃん」


 とはダイナの意見だった。ルイナル皇女は多くの数字を扱う関係で、縦に並べる書き方は経験があったので、それほどの感動は無かったようだ。

 しかし、かけ算の概念を説明して、二桁の数字の下の一桁目に数字を置き、九九の表を見ながら計算させた所からかなり食いついてきた。


 「八倍とは、八回足さなくても良いのですね」


 とは初めの感想だ。何度か、二桁掛ける一桁を繰り返し、二桁掛ける二桁、三桁掛ける三桁になると、目から鱗状態だった。


 「このように便利ですので、この九九の表は全部覚えてしまうのが一般的です」


 実際は九九の表の内、一の段は必要無いし、一の行と十の行も必要無い。突き詰めれば「五掛ける九」以降も重なる部分があるので覚えるのを最小限にしたければ四十二だけですむ。


 まぁ逆に四十二だけにする方が面倒だと思うので、二から九までを二から九までの六十四を覚えた方が捗るだろう。後はリズム良く口ずさみ続け、覚えて行くしか無いが。


 そして九九の表を覚えてくれと言って、本日の計算の授業は終わった。


 計算の後は、それぞれの分野の勉強になる。


 まずルイナル皇女はクローナとそしてベルダを伴って、皇族の動きを考えてもらう。門外漢のベルダの意見は、意外に貴重な意見になると思う。

 アミナは計算ドリルを渡して計算を続行。数をこなしてもらうしか無い。

 ダイナには、昨日ケーゴが弄っていた魔道具を分解した物も含め、一通り渡して、昨日の研究結果を説明してから渡す。

 そしてシアラとエリスの二人には魔法と神聖魔法の区別から教えようとした所で、スマホの侵入者警告が鳴った。


 「申し訳ありません。少し待っていてください」


 そうして、店の前の広場になっている場所に向かうと、そこには真っ白なフクロウがいた。


 フクロウとしては少し大きいが、今までの神獣に比べるとあまりにも小さい。気になり鑑定を起動。


 【あいつや ぶん殴ってやれ】


 と言うお墨付きを貰ったので、ケーゴは白いフクロウに向かって走り出した。


 走りながらいつもの定型文を口にする。


 「いらっしゃいませー! 聖域の! 不思議屋へ、ようこそー!」


 と言う言葉と共に、白いフクロウに蹴りを入れる。


 いきなり蹴られるとは想像もしていなかったフクロウが、驚きのあまり動けずに蹴りをもろに喰らう。


 そして蹴られて吹き飛んだフクロウが地面に伏した所で、ケーゴはその上を踏んづけた。


 「従魔フィールド展開!」


 え? 順番は? と疑問に思う、シアラとエリスだった。あ、ついでにクマクマも眺めてた。


 「我に従っても良いけど、従わなくても良いぞー。えっと、其の名はフクフク!」


 白いフクロウは、完全に目を回していて、ケーゴの台詞を聞いていなかった。


 二、三度踏み込んで、フクロウの様子を見るケーゴ。


 「フクフク? 死んだか? 鶏の唐揚げは今朝作っちゃったんだよなぁ」


 あまりの言い草だった。


 「う~ん…」


 「あ、生きてた。フクフク!」


 暫くして、ようやくフクロウは従魔石の中に収納された。


 そして歩いてシアラ達の元へと戻る。


 「おまたせしました」


 「いえ、ほとんど待ってませんが…、その、良いんですか?」


 シアラが遠慮がちにケーゴの持つ従魔石を指さす。


 「特に潰れてはいませんので大丈夫です。っと、このままじゃ判りませんね」


 そう言ってフクフクを従魔石から召喚する。


 地面に羽を広げて踏み潰された状態のフクフクが現れた。


 「さて、フクフク起きてください。何寝てんですか?」


 それはどうだろう、と思うシアラ達だった。


 「仕方有りません」


 そう言い、ケーゴはヒールタブレットとスタミナタブレットを取り出して、フクロウの口の中に無理矢理ねじ込んだ。


 暫くして目を覚ますフクロウ。そして、羽ばたくとケーゴに向かってバサバサと飛びながら羽をぶつける。


 「酷いよ! なんであんなことするのさ! めっちゃ痛かったよ!」


 羽根をぶつける攻撃をするフクロウを抱えるように抑え込んで、動けないようにする。


 「紹介します。従魔のフクフクです。お二人に魔法についてお教えする教師になります」


 「え? その、フクフクはしゃべれるんですか?」


 「はい。誠に残念ながら、知恵を重視で作られた従魔ですので、戦う力は全く無いのですが、魔法の知識だけは与えられた存在になります」


 「残念、なんですか?」


 そのフクフクは、ケーゴに抑え込まれて、口を手で覆い隠されて声を出せないでいた。目を見開いて、必死に顔を左右に振っている事から、呼吸もままならないようである。


 「残念ですね。事、魔法の知識に関しては、私も含め、誰よりも詳しいのですから」


 ケーゴも苦しそうにしてくる。


 実はフクロウも必死になって振りほどこうとしているので、ケーゴもかなり本気で押さえつけている。今、ここに、十歳児相当のケーゴと、フクロウとの力と力の戦いが繰り広げられていく。


 あ、フクロウが勝った。


 ケーゴは振りほどかれた勢いで尻餅をついている。


 「ぶはー! さ、さんそがおいしぃ。はぁ、はぁ、はぁ」


 「死なないのじゃ無かったのですか?」


 「死ななくても苦しいのは苦しいよ! まったく!」


 「えっと、鑑定で魔法の知識を持っていて、それを教える事が出来るのは判りましたが、詳しい事をお聞きしてもよろしいでしょうか?」


 「え? 僕に言ってるの? うん。元々僕は図書として作られたんだ。作ったのが何者かは判らないけどね。神様か、精霊か、それとも多くの魔法使いか。まぁ僕の存在理由が記憶した事を伝えるって事だから教えるのは問題無いよ。じゃあ、魔法についてどんな事から話す?」


 「いえ、私では無く、この二人にお願いします。教えるのは魔元の濁りを消す方法や、治療魔法などの人の役に立つ魔法を中心で」


 「え? 攻撃魔法をガンガン行っとかないの?」


 「ああ、それで滅びた太古の大国の話もお願いします。教訓となればいいのですが」


 「結構めんどくさい事言うねぇ。判った、えっとこの二人だよね?」


 「はい。創造神の巫女であるシアラと魔法使いの素養を持つエリスです。では、お任せしてよろしいでしょうか? 一応昔の魔法が掲載された書物は、いくつかありますので後ほどお持ちします」


 そして芝生の上に直に座っての青空教室が始まった。


 計算や魔道具の研究、魔法教室なんかは、店の商談室でも良いのではないかと思うケーゴだった。


 『あ、いや、お客が来たら対応出来ないな。なら、教室、ってモノも必要なのかなぁ』


 それから、ケーゴは皆のところをローテーションで巡りながらアドバイスを入れていき、誰よりも忙しい時間を過ごす事になった。


 個別勉強会が二時間ほど経過した後、ケーゴの号令で今日の勉強会は終わった。夕食準備まで暫くあるので、休憩と簡単な復習をしろと言っておく。


 ただ、ルイナル皇女たちだけは、想定した内容をチェックした後、必要になりそうな酒や薬を揃える事になった。


 まだルイナル皇女は弱毒の治療は続いているが、皇女という立場もあるので時間を掛けるワケにもいかない。皇国に残った連中がルイナル皇女の死亡説を唱える前に、生きている事だけでも知らしめないとならない。


 まぁ、死亡説は皇女が森に入った途端流れているだろう。でも、決定的な証拠が無い状態なら、生きている事を望む者たちを説得する事は出来ない。それが出来るのは時間だけだ。その時間が過ぎ、さすがにもう生きてはいないだろう、となったら本格的に動き出すはず。そうなったら後から生きていました、と登場しても偽物扱いされて闇から闇に葬られるだけだ。


 少しのんびりしてしまったが、ウマウマを使えば森からの脱出に時間はかからない。


 森から歩いて脱出する時間内は、まだ死亡説は有効では無いはずだ。皇女の話では、森から抜けるだけでも早くて十日。もしも兵隊達と一緒なら十五日ぐらいは当たり前にかかるらしい。


 『この店って、結構酷い所にあるんだなぁ』


 とはケーゴの感想だった。


 実は皇国方面と王国方面ではかなり距離的な違いがあるのだが、魔獣との遭遇率や森での戦闘にどの程度慣れているかなどで認識の違いがありすぎて、正確に捉えている者はほとんど居ないのが現状だった。


 それでも審判の森の中央付近までは運が良ければ十日から二十日程度というのが周辺住民の認識だ。


 神獣とはいえ、密林の中を進むのは簡単では無いはず。それでも神獣単体ならばかなりの速度が出せるとは思うが、皇女とクローナを乗せての移動では、二人を気遣った速度がどのくらい出せるのか、と言う問題になる。

 従魔にはしたがウマウマの実力を知らないでいたのは、無責任な手落ちだったと思い知るが、実際はその余裕も無かった事なので、反省はするが後悔はしない事にする。


 「どうですか? 一応従業員枠と言う事で、大幅値引きしますので、持って行きたいモノがあればおっしゃってください」


 「ありがとうございます」


 そして日本酒、ブランデーを中心とした酒類、ED治療薬、ステンレス鋼で硬度が高いコンバットナイフを二十本を追加で拡張箱に入れていく。


 ついでとばかりにクローナの使うメイド服もクラシックタイプという物を何点か入れたが、ゴシックロリータ調とか言うミニスカートのメイド服はどうするつもりなのだろう。


 ケーゴが聞いた所、是非着せてみたい娘がいるそうだ。それにはルイナル皇女も賛成していた。


 その時ケーゴは、一緒に行く事を真剣に検討した。それはもう、血の涙を流すのじゃ無いかと言うぐらいに。


 「あ、あの、見たいのですか?」


 クローナが怖ず怖ずと言ってくる。


 「それはもう。ただ、一回見ればそれで満足するとは思う程度ですが。まぁアレが似合うという者を見てみたいという興味本位です」


 「そ、そうですか。その、て、店長がお望みであるのなら…」


 「いえ。クローナさんがお似合いだと思うのは、こちらのタイプかと」


 と言ってケーゴが取り出したのは、コスプレコーナーにある様なセクシーメイド服だった。


 「………」


 思わず何も言えなくなってしまうクローナ。しかしルイナル皇女ははっきりと言った。


 「店長! わたしたちは必ず帰って来ます。絶対です」


 「ルイナル様。このタイミングで言いますか?」


 クローナは今のタイミングでルイナル皇女が断言した事に不服がある様だ。


 「では、もっと布の面積が小さい物を用意してお待ちしましょう」


 ルイナル皇女も一緒にウンウンと頷いている。


 「ルイナル様? ここに帰って来た時には、ルイナル様も私と同じ立場になる、と言う事をお忘れですか?」


 「ルイナル皇女には、別系統がお似合いだと思うのです。ええ、布の面積は変わり無く、ハンカチとタメを張れるぐらいで」


 「て、て、て、店長! あの、あの、その、そ、それを着る時は、店長と二人きりですよね?」


 「おお、さすがですルイナル皇女。そうです、お客さまを接客する時の衣装も用意しないとなりませんね」


 「「………………」」


 「お二人ともスタイルがよろしいのですから、そこは強調した方が良いですよねぇ」


 とケーゴが思索する。


 「え、えーと、店長?」


 「まぁ、衣装の事は置いておきましょう」


 「無しにはならないのですね?」


 「とにかく。もしもここへの帰還よりも優先する事がありましたら、無理に帰ってくる事はありません」


 「店長?」


 「お二人が一番何をしたいか。何をすれば幸せな人生として生涯を送れるか。まずはそれをお考えください。もちろん生きていてこその人生ですから、あまり無理はなさいませんようお願いします」


 そしてケーゴは従魔石の一つをクローナに渡す。


 「トラトラです。基本は使わないようにして、いざという時には躊躇わずに活用してください。ウマウマにしても、トラトラにしても、お二人がここへ帰還する事をおやめになったとしてもお持ち頂いていて結構です」


 そもそも従魔石自体、神獣を誰かの手に委ねて、世界中にばらまくつもりだったのだ。持ち逃げされても、それが目的、と言えてしまうだけだった。


 「店長。お聞きしたいのですが、ここの、聖域の何でも屋とは、一体なんなのでしょうか? 頼り切ったわたしが言うのもなんですが、採算は度外視ですし、存続させる労力だけでも常識を逸しています。私には理由が一切判らないのです。おそらくですが、ウマウマとトラトラ、いえ、他の従魔達も神が使わした神獣だと思うのですが、ここは神の園なのでしょうか?」


 「そうですね。では、一つだけ。ここに店を作ったのは、世界をメチャメチャにするためです。コレは初めから有る基本方針ですし、これからも変わる事の無い店の存在理由です」


 そう言って、ケーゴは優しく笑いかける。


 ルイナル皇女もクローナも、ただ、それを見つめ、何も言えなくなってしまった。


 「か、神は、わたしたちに、死ねとおっしゃられておいででしょうか?」


 微かに震えながらルイナル皇女がか細い声を出す。


 「それは知りません。何を考えて、何を言うんでしょうね。なんと言ってくると思われますか?」


 「え? て、店長はご存じ無いのですか?」


 「神が何か言いたいとしても、それは神託の巫女であるシアラさんでしょう。私に何か言われましても、私は好き勝手に店を回しているだけですけどね」


 「その…、て、店長は、わたしたちに生きて幸せになれとおっしゃいました」


 「はい。もちろんです」


 「ですが、世界をメチャメチャにするのですよね?」


 「メチャメチャにしますが、皆さんを殺し尽くそうなどとは思っていませんよ? 襲いかかってきたのならば、相応以上の対応をさせて頂きますが、こちらから直に手を下そうなどとは微塵も思っておりません」


 「では、どうやってメチャクチャにするのですか?」


 「判りませんか? アミナさん達をご覧になっていますよね?」


 「それは判ります。彼女たちは、かなりの財産を持たされ、そのまま街へと帰る事になるでしょう。そして混乱と策謀に取り込まれる事になると思われます。ですがおそらく、それきりになるのでは無いかと思われます」


 「彼女たちには、危険そうなら情報は隠匿し、自分たちだけで利用しろと、再三言ってあります。そしてアミナさんが率いるのなら、危険は必ずあるでしょうが、ほとんどを回避できると予測します。それに、彼女たちだけではありません。彼女たちが呼び水になって、次の者たちがこの聖域に訪れるでしょう。その数が増える事によって、彼女たちはドンドンと安全になっていくはずです」


 「それは、ここで、次々と人を育てるという事ですか?」


 「ここはそのための店です。それに、もうお判りですよね? ルイナル皇女。貴方もその内の一人です」


 「「……………」」


 「判りますよね? この店は世界をメチャメチャにするためにあります」


 「はい。ですが、人を幸せにしようとする店でもありますね?」


 「………」


 今度はケーゴが笑って沈黙を守った。


 「わたし。絶対に戻ってきます。その時はこのお店で働かせてください」


 「はい。お待ちしております」


 そして、急いだ方が良いと結論づけて、皇女の出発は明日の昼となった。途中、審判の森の中で一泊する事になるので、ケーゴが取り寄せておいたタープテントもクローナに渡す事になった。キャンプ用だがリクライニングできる折りたたみの椅子も四脚持たせる。審判の森では熟睡などは出来ないだろうし、場合によっては置き捨てる事も考慮した。


 アミナ達とも明日の朝までの関係になる。もしも皇女が戻ってきたとしても、その時はアミナ達が街に帰っている公算も高い。なので今夜が最後の夜という事になる。


 「なんか急だなぁ」


 「いや、そもそも、あたし達の方が長居してるだけだからな」


 「でもせっかく仲良くなったのにぃ…」


 「はい。わたしたちも、しがらみ無く知己になれたという事はとても素晴らしい体験でした。お別れする事になるのはとても残念です」


 「では、今夜はお別れ会と言う事で、私が腕を振るいましょう」


 「え? え? て、店長? もしかして、油物か?」


 「美味しいですよ」


 「てんちょー!」


 アミナが謎の悲鳴を上げる。なんでだろう、と首を傾けるケーゴであった。


 材料や細かい下準備は全てケーゴが取り仕切り、焼く、揚げる、煮るはアミナ達に任せて、パーティセットが出来上がった。


 餃子の皮を作ってそれに食材を入れ、焼いたり、揚げたりした物は、アミナ達の注目の的にもなった。ピザやグラタン、野菜やベーコンを入れてチーズで覆った鍋料理も好評で、腸詰めのボイルもあっという間に無くなった。

 唐揚げも小麦粉を塗すだけでは無く、片栗粉を塗したり、素揚げした物に片栗粉で作ったアンを絡めた物も大盤振る舞い。


 食後のデザートにはカステラを出してお開きとなった。


 「片付けはやっておきますので、皆さんはお風呂にどうぞ」


 とケーゴが皆を温泉に送り出す。


 「はぁ。温泉もしばらくはお預けです」


 一通り洗い終わって、湯船に浸かったルイナルが溜息を漏らす。


 「あたしらは、ここから帰ったらもう入れないんだよなぁ」


 「ウルウルたちの守りがあるとしても、気軽に来れる場所じゃないからな」


 「あ、で? 店長に迫る計画はどうなった?」


 「軽く躱されてしまいました。私の呼び名も皇女のままでしたし」


 「店長は焦ってないから、ケジメはしっかり、とか言うのを押すからなぁ」


 「ですが、とても好感が持てると思います。私としましては、惚れ直したと言っても過言では無いですし」


 「クローナがそんな事を言うなんて。決め手はやはりメイド服ですか?」


 「それはそれ、です。まぁそれは、ルイナル様とお揃いでも着ようかと」


 「メイド服ってなんだ?」


 「あのですね…」


 古風な温泉宿に黄色い悲鳴が響き渡った。


 「き、危険な状態というワケでは無いですよね?」


 片付けをしながら、飛び込むべきかで悩むケーゴであった。クマクマは顔も上げなかった。


 次の日の朝。


 皆の希望で、ルイナル皇女が帰郷の途中で食べられるハンバーガー造りを。と言う事になり、それ以外にも飴やクッキーなどの日持ちする物を大量に作る事になった。


 ケーゴから金貨などを換金して貰ってあるので、皇都へ向かう途中の手間賃や報償は充分すぎる程持っている。それ以外に、小姓や小間使いへと渡す軽い報償代わりに飴が入った小瓶やハンカチにくるんでリボンで巻いたクッキーを渡すためだ。


 意味のわからない家訓の書かれた木片を渡されるよりは、飴の方が喜ぶ、と言うのがクローナの主張だった。そして小間使いなどへの労い賃に金を渡すのは厳禁だ。それは雇い主への批判に繋がる。


 一番喜ばれるのは実用品だが、旅をしている貴族が実用品を恩賜で渡す事はほとんど無い。だが、それ故、実用品ならば喜ばれると言う事だ。そこで、ケーゴからの提案で、全長が二十センチ程度の、革の鞘が付いた小型ナイフをいくつか持っていく事にもした。領主や貴族が信用できない場所で、素直そうな小間使いを懐柔するためのアイテムにする、と言う意味だ。


 森を出てから皇都までなら、ウマウマを使えば一日程度で到着する距離なのだが、普通の馬での行軍であれば最低限十五日はかかる。それは途中の街などで必ず滞在して接待を『受けなければ』ならない為で、行きと帰りでは同じ話題を話して確認し合うのも通例だからだ。


 この世界、もちろん写真も無いし、絵姿がある場合もあるが、いつも最新の物があるとも限らない。特徴や経歴を書いた物は出回るが、それもかなり曖昧な表現が多いのでそれだけで本人の確認は出来ない。一度皇宮で式典に出席した時に挨拶したぐらいでは初対面と同じだ。だからこそ、合った時の会話の内容などが大事になる。


 対面で相手を確認し合い、あの時はこうでしたね。と言う会話が本人証明になる。


 さらに、今回に限っては滞在した街から次の街と皇都への早馬を出して貰わないとならない。生きていた事を知らせる為というのも有るし、次の街への先駆けという意味もある。

 大部隊を持っていた頃なら自前で用意したのだが、今回は完全に頼らないとならない。なので滞在は必須だ。


 街の長や領主への報償は必要ないが、世話をしてくれる小姓や小間使いには礼を与える者も少なからずいる。本来であれば大部隊だったはずなので、その時は輜重部隊の兵が礼や経費の実費も払ったが、今回はたった二人なので一晩泊めてもらう礼に長や領主に金貨一枚。その小間使いたちに飴の瓶やクッキーの包みを一つずつ、と計算した。


 ケーゴの意見で、金を剥き身で渡すのは品が無い、として、レースの飾りと花の刺繍が入ったハンカチにくるんで渡す事になった。ケーゴ的にはポチ袋のイメージなんだが、ルイナルとクローナには、かなりの『品格』の有る行動として映ったようだ。


 今回通る街は四つ。行軍でなら街と街の間でも野宿しなければならない距離だが、ウマウマには無いも同然だ。


 逆に早すぎるために、途中で息抜きをどの程度入れるかで悩む程だった。朝一で出発して、朝という時間の内に次の街に到着、では、一晩泊まらなければならない身としては、余った時間の使い方に悩むと言う物だ。


 街の長や領主に渡す日本酒とブランデーもたっぷり用意。ケーゴ的には下から数えて何番目、と言う感じの品質なのだが、皇女に対して擦り寄りを始めるだろうと予測している。それがプラスになるか、マイナスになるか判らないが、しっかりと利用して貰いたいと考えるケーゴだった。


 そしていよいよ出発の時間になった。


 先ずは審判の森を出たあたりか、出る直前ぐらいの位置までを理想として移動してもらう。ウマウマの能力では無く、背中に乗る二人の体力の問題で、だ。


 ここでケーゴが大サービス。


 「これは本来売り物にはしない予定の物なのですが」


 そう言って、ケーゴは皆の記念撮影をしていった。プリンターで写真画質のプリントを行い、UV処理された写真立てをいくつかと、L判の写真アルバムを全員に送った。


 ケーゴとのカラミの画像も全員から所望され、果ては神獣たちの画像まで求められた。


 なぜか、神獣達のカメラ前でのポーズが完璧だったのが気になるケーゴであった。


 「何があっても、一番大事な事を見失わないでください」


 それが最後のケーゴの別れの台詞だった。


 そして、七人全員が涙でグチャグチャの顔で別れを済ませ、残ったのは、ウマウマの突進で森の中を進むルイナル達の悲鳴だけだった。


 「「ギャー!」」


 「元気に行ってしまいましたね」


 「悲鳴だったけどな…」


 「まさか、ウマウマがあんな走り方をするとは思いませんでした」


 「ああ、あたしもだ」


 ウマウマは、ケーゴの胸ぐらいしかない灌木の葉の上や木々の枝の上を蹴って走って行った。いや、ほとんど跳んでいったと言った方がしっくりくる。今までは芝生の聖域の中でしか走らせていなかったが、まさかあんな走り方をするとは思わなかった。


 「あれなら今日中に森を抜けられそうですね。良かった良かった」


 「良かった、のかなぁ…?」


 何故かアミナには納得出来ない様だった。

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