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不思議屋へようこそ  作者: I.D.E.I
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06 世界樹の種とウッドゴーレム

 お茶を堪能した翌日の朝。


 七人は戦闘装備だった。


 一応エプロンはしているので、朝食はしっかり作る様だ。


 なので先ずは丸っぽいパンを二つずつ焼かせ、塩漬けされた肉、つまりハムを提供して焼き上がりのパンの大きさに二枚ずつ切らせる。目玉焼き用に金属の輪っかの型枠を十四個出して皆に二個ずつ配り、丸い目玉焼きを二つずつ作らせる。ハムもコショーを振って焼かせ、特別ですよとトマトを出して、それぞれが輪切りトマトを二切れずつになる様にする。


 焼き上がった丸いパンを上下に分割し、パンにバターを塗り、ハム、トマト、目玉焼きをパンに挟ませる。今回はソースは無し。コレで食べてもらう。


 出来上がったハンバーガーは二つ。


 お湯を沸かさせて好きなお茶を煎れさせ、一つを朝食として食べて貰う。


 皇女殿下も含めて、皆がハムスターのようにパンにかじりついて咀嚼する姿をケーゴは生暖かい目で見ていた。


 ハンバーガー用の丸いタッパーとミリタリーな水筒を各自に渡し、夕食前には帰ってきてくださいね、と言って送り出す。


 嵐のような朝が終わった。


 「世の中のお母さんは凄いなぁ」


 などと適当な感想を言うケーゴだった。


 ケーゴ自身とクマクマの朝食が終わり、久しぶりに静かな時間を堪能した。しかし、ケーゴの予想通りのお客がやって来た。


 神獣。


 明らかに獣とは違う。


 しかも小型とは言え竜だった。タイプは龍では無くドラゴン。しかし鱗では無く金色の毛が生えている。大きさは、四つ足の肩の位置が乗馬用の馬の肩と同じぐらい。長い首をもたげれば高さは二メートル半にはなるだろうか。それ以上の大きさでは、聖域や審判の森では大きすぎると思えるので、おそらくギリギリの大きさなのだろう。


 侵入者警告を受けてケーゴとクマクマがやって来ると、そのドラゴンはクマクマに対して威嚇の声を上げた。どうせ聖域の守護者の立場を渡せ、とでも言っているんだろうとケーゴは勝手に想像する。


 威嚇を受けてもクマクマは臆さない。体格的にはクマクマの一倍半だが、クマクマは静かに前に出る。


 「クマクマ。申し訳ありませんが、まずは私にやらせてください。でもヤバそうなら手を貸してくださいね」


 ケーゴはそう言ってクマクマを下がらせる。そしてツールバッグから従魔石を一個取り出して前に突き出す。


 「展開!」


 ケーゴの中から力が抜けるような感じがして、見えない膜が周囲を囲んでいるのを感じる。


 「コレが従魔術のフィールドですか」


 ケーゴの感想をよそに、ドラゴンはケーゴに対して目の色を変えた。


 従魔術の支配範囲に入ると、対象は使用者に敵愾心を持つ、と言う情報のままに、ケーゴはドラゴンに敵判定されたようだ。情報通りに状況が進んでいる事を確認し、ケーゴは従魔石をポケットに入れる。


 ここで、ドラゴンにスタンガンを撃つ事はしない。少なくとも、戦いの中でケーゴが攻撃を放った、と言う事がはっきり判らなければ、ドラゴンはケーゴに従わないだろうと考えたからだ。


 だけど、ドラゴンに攻撃をさせるわけにもいかない。おそらく十歳児相当のケーゴではドラゴンの攻撃を耐えるどころか、避ける事も出来ないだろう。


 そこでケーゴは、まず警棒型と拳銃型のスタンガンを取り出して、それを良く見せるようにしながらスイッチを入れる。


 何かを感じたのだろう。ドラゴンが身体を低くして警戒を強める。


 そして先ずはドラゴンの噛みつき攻撃。


 『ブレスじゃ無くて助かった』


 そう思いつつ、近づいてくるドラゴンの顔に向かってスタンロッドを構える。


 バチチ!


 警棒はぶつかった衝撃で弾き飛ばされたが、高圧電流はドラゴンの顎にしっかり流れたようだ。一瞬で一気に引き下がるドラゴン。相当驚いたようだが、落ち着きを取り戻させるわけにはいかない。と、ケーゴはドラゴンに向かってダッシュしながら、拳銃型をドラゴンに向けて引き金を引いた。


 ビクビクビク!


 特に派手な音も無く、ドラゴンが痙攣しながら倒れた。


 拳銃型の端子はまだ突き刺さったままなので、もう一度引き金を引けば、また電流が流れる。


 ケーゴはドラゴンの目に注目する。


 ボクシングで言えば、ダウンじゃ無い! スリップだ! という主張だったら、まだ戦闘は継続と言う事になる。


 そしてドラゴンが勢いよくケーゴに噛みつこうと頭を上げた。


 その瞬間を狙って、再び引き金を引く。同時にドラゴンが激しく痙攣した。


 これで、このドラゴンはケーゴに『倒された』事を認識しただろう。そう判断して、ケーゴはドラゴンに話しかける。


 「我に従え! 其の名はドラドラ!」


 一瞬、ドラドラが驚いたような顔をしたような気がしたが、何故か遠い目をしてからその姿が消えた。


 ポケットから従魔石を取り出して見てみると、従魔石の存在感が変わっているような気がした。さらに従魔石を覗き込むと、中にドラドラが存在している事が実感として判った。


 気がつくと従魔術のフィールドが消えていた。


 息を吐いてからクマクマの元へと戻る。ケーゴの手に持つ従魔石を、クマクマが生暖かい目で見ているような気がするのは何でだろう? と思うケーゴであった。


 「あれ? 魔石に従魔を入れたままだと、使用者に負担がかかり続けるんじゃなかったっけ?」


 従魔術を展開した時の脱力感が全く感じられなくなった事に疑問を持つ。なので、と、鑑定を行う。


 【神獣を収納した場合は神獣の力で収納される なので使用者の負担は無い 魔獣ならともかく神獣を出しっぱなしはさすがに拙いでしょ】


 「いや、大型の魔獣とかも拙くない? あ、そもそも大型の魔獣だと、餌とかの維持費が馬鹿にならないから、持てるヤツは限られてるか」


 そう納得した所で、一度ドラドラを従魔石から出してみる。


 出てきたドラドラは地面に伏していた。収納した状態のままだから、当然と言えば当然なのだが。


 「先ずは治療だな。ヒールタブレットとスタミナタブレットで良いか?」


 素直に頷くドラゴンに、タブレットを三粒ずつ食べさせる。暫くしてドラドラは四つ足でしっかりと立った。その姿を確認してから、ドラドラ自身を鑑定する。


 【魔獣の神が審判の森の聖域の守護獣として作った神獣 ドラゴンタイプでドラゴンにとっても最高位に位置する 食事も睡眠も必要無い なので収納しっぱなしでも問題無し ケーゴの従魔になった事で自由度が上がった お使いにも最適】


 やっぱり他の神に対して悪意を隠そうとしてないなぁ、と思いながら、お使いって何なんだよ。夕飯の魚を買ってきて、って出来るのかよ、と考えた所でケーゴが止まった。


 「そっか、夕飯の魚を買ってきて、は難しいかも知れないけど、夕飯の魚を狩ってきて、なら出来るって事か」


 使える! と喜んで、ドラドラを収納する。


 そうして喜んでいたら、次の神獣が聖域に入ってきた。


 白馬だ。しかも白い馬用の鎧を身につけている。


 それを見てクマクマが遠い目をしたのは何故だろうとケーゴは考える。が、答えは出なかった。


 「クマクマ。今度はクマクマが相手をして頂けますか?」


 とケーゴからのオーダーにクマクマが張り切る。


 ちなみに、敬語と素の話し言葉が混ざっているのは、本人は気付いていない。


 「展開!」


 ケーゴが新しい従魔石を取り出して、従魔術の領域を展開する。そしてクマクマと鎧白馬との戦いが始まった。


 鎧白馬はケーゴを狙う。それをクマクマが迎撃すると言うスタイルになった。


 鎧白馬は足を使って周囲を走りながら近づくタイミングを狙う。クマクマはケーゴを守らなければならないので、鎧白馬が回り込む度に位置を変えなければならない。


 なかなか面倒な戦いになった、とケーゴは思う。


 パワーならクマクマだ。だが早さで鎧白馬に負けている。当たらなければどうと言う事も無い、をこれでもかとやりのけている。見事だ。だが、ケーゴの目は鎧白馬の動きをじっと見ていた。


 「早いが、所詮は前進専用の汽車だ。前進に速度を振ったせいで、その他の方向へはほとんど動けない。既に急制動でさえ、足に負担がかかりすぎる速度になっている。ここまでだな。いくよクマクマ」


 そう言ってケーゴは前に出た。


 両手を挙げ、振り下ろすポーズを決める。実は何も持っていないし、それでどうなるとかも無いのだが、戦いの場では攻撃の一環だと想定しないワケにもいかない。


 まさかクマクマに守られているケーゴからの攻撃があるとは思わなかった鎧白馬は、想定される攻撃に対してどうするかを一瞬躊躇った。その一瞬でバランスが崩れ、進路がずれた。


 そのずれた先にクマクマが攻撃姿勢で待っていた。


 片手の振り下ろしだ。


 掠る程度でしか無かったが、力の差は歴然。鎧白馬は弾き飛ばされて倒れたまま、ズザザザザ、と地面を滑った。


 聖域の芝生の上だったので、ヤスリで削られるような被害は無かったが、起き上がろうとした所にクマクマが全身で覆い被さってきた。


 さすがに動けない。


 そこにケーゴが歩み寄り、勝負はここに決した。


 「我に従え! 其の名はウマウマ!」


 ああ、やっぱり、と言う表情をするクマクマと、驚愕する鎧白馬。


 マジで? と言う顔でクマクマを見る鎧白馬に、クマクマは下を向いたまま首を横に振った。


 諦め、遠い目をした鎧白馬が消え、従魔石に収納された。


 「これで二体目か。こんな調子で次々来るんだろうか?」


 さすがに連続で何体も来られたら堪らないとケーゴは思うが、ウマウマを調べる前に次の神獣が聖域に侵入して来た。


 今度も四つ足。大雑把な見た目で判断すると犬系かとケーゴは考える。しかし、と思い直し、鑑定を掛けた。


 【神獣 武術の神が聖域の守護獣として作った神獣 狼タイプで群れを統率する能力を持つ 食事も睡眠も必要無い なので収納しっぱなしでも問題無し 群れとしての狼の数がいれば巨大な魔獣でも倒せる】


 「狼ですか。おおかみ…、おおおお、と言うのも…」


 ケーゴの呟きに困った感じのクマクマだった。表現するのなら、冷や汗がつつーっと一筋、と言う感じだろう。


 狼はクマクマよりは一回り小さい。しかしケーゴが知るどの大型犬よりも大きかった。森の中で見かけたら熊と思う程の体格だ。狼というよりはコリー犬かと思われる長毛で、胸の部分の毛が大きく盛り上がり貫禄を見せている。


 全身は真っ白だ。


 「クマクマ、私と二人で対処します。武術の神の神獣ですから、一筋縄ではいかないでしょう。気をつけてください」


 実は群れを統率する事が主題だったため、個体としての戦闘能力は特出していなかったのは後で判明する。


 従魔術のフィールドが展開され、ケーゴに対して敵愾心を持ったために神獣自身も混乱した。ケーゴを主として仰ぎながら群れを統率する戦い方を仕込まれていたためで、闘争本能と主に従う本能とで身動きが取れなくなった。


 なのでクマクマの一撃で撃沈。


 ワケも判らぬままに従魔として従う事になった。


 「我に従え! 其の名はウルウル!」


 クマクマは『ああ、そう来たかぁ』と言う目で見ていた。


 ケーゴはウマウマとウルウルを従魔石から出して、二頭にヒールタブレットとスタミナタブレットを与える。


 ウマウマには鑑定を掛けていなかった事を思い出して、知っておくためにもと鑑定をかけた。


 【伝令神が聖域の守護獣として作った神獣 情報伝達を確実にこなすための武術も身につけている 伝令神にとっては不得意分野なので完成度も微妙 誰かに使われる事で真価を発揮  すると思う】


 「鑑定って、何だっけ?」


 少し黄昏れるケーゴであった。


 これから、この従魔化した神獣をどう扱うかを考えながら、ウマウマとウルウルを従魔石に収納。店へと戻ろうとした所で侵入警報が鳴った。


 「まだ来る?」


 振り返って見上げれば、空中からおりてくる一羽の大きな鳥。クジャクよりも大きいだろうか、とケーゴの感想。


 それは鮮やかに輝く赤い羽毛を持つ鳥だった。飛び難そうな飾り羽根が何本かたなびいているのに、ゆっくりと余裕を見せながら地面に降り立った。


 「鳳凰かな? いや、火の鳥とかフェニックスかな?」


 微妙な違いはあるが、一応赤という名前で表現される色合いで統一された羽毛を持つ鳥だ。なので極楽鳥の系統では無いとあたりを付けつつ鑑定。


 【神獣 火の神が聖域の守護獣として作った神獣 炎身と実身を切り替えられる 実身が傷ついても炎身になれば修復される 炎身の炎が全て吹き飛ばされると大ダメージを受ける 岩をも溶かす程の温度から紙さえ燃やせない温度まで自在に出し続ける事が出来る 食事も睡眠も必要無いが 炎状態を維持するには体力を必要とし自然回復には時間がかかる 食事で回復させる事が可能 脂分の多い穀物類などが好み】


 「料理に便利そうなのキター!」


 料理では無く、剣や槍が通用しない炎を操る神獣であるはずが、今のケーゴに言わせると料理専用となるらしい。


 しかし、と考える。鳥自身の戦闘能力はそこまで高く無さそうだが、防御と攻撃の両用になる炎は接近しただけで致命傷になる。つまりこちらからは攻撃できないのと一緒だ。

 炎を攻撃するために氷混じりの冷水を浴びせかけても、鳥の身体に届く前に蒸発してしまうだろう。


 戦術や戦略などで油断を引き出す事は可能だろうが、炎に関する事であれば油断するとも思えない。炎対炎というような少年漫画のノリは、火の神の作った神獣相手には通用しないはずだ。


 「アレ? いきなり行き詰まった?」


 唯一の攻めどころはエネルギー消費だが、基本的な力量や体力量を知らないのでは意味が無い。


 されとて時間が無い。今はまだ聖域に到着して、自分をアピールしている状態だが、そのうちクマクマに対して何らかのアクションを起こすだろう。その前に従魔術を起動させたいが、起動させるとケーゴとの戦闘が開始される。


 「何か無いか?」


 ケーゴは急いで古物商ツブツブ屋のサイトを開いて武器関連を見ていく。そして思い出す『氷結の投げナイフ』。


 ケーゴは直ぐに取り寄せ、氷結の投げナイフを鑑定する。


 【水の神が作った 温度を奪い凍り付かせる投げナイフ 何度でも手元に戻って来て 連続で投げられる 刃部分に触れたモノを問答無用で凍り付かせるので取り扱い注意 一緒に作られた鞘だけが能力を封印できる】


 「ヤバそうだけど、コレしか無いな」


 そしてポケットからドラドラの従魔石を取り出して召喚する。


 「クマクマは下がって! ドラドラ頼む! 雷か吹雪系のブレスは出来るか?」


 「わぎゃっ!」


 ケーゴに両方できると言うドラドラの意思が伝わる。


 「判った! 全力で撃ちまくってくれ! じゃあ、行くぞ! 展開!」


 新しい従魔石を取り出して『展開』と唱えると、従魔術のフィールドがケーゴ達と赤い火の鳥を包み、赤い火の鳥の目の色が変わった。


 赤い火の鳥が実身から炎身へと変わる。今までは赤い色の羽毛が見えていたが、戦闘態勢になると全身が炎で形作られた映像のような儚さを見せる。同時に周囲の温度が上がった。


 さらに温度を上げられたらケーゴに勝ち目は全く無くなる。


 「攻撃開始!」


 ドラドラへの合図として叫び、ケーゴも氷結の投げナイフを赤い火の鳥の足下へと投げつける。


 同時にブリザードがドラドラの口から放出され、赤い火の鳥は飛び立って空中に退避した。ドラドラはブリザードのブレスを止めず、下方向から空中の火の鳥に向かって放ち続ける。


 火の鳥も温度を上げてブリザードに対抗しようとするが、温度が上がる度に上昇気流が強くなって行く。そこへケーゴの氷結の投げナイフが下から突進してくるので横方向へと飛ぶが、ブリザードブレスが止まらずに当たり続けるので姿勢制御と温度管理に乱れが生じる。


 しかし、ドラドラもブリザードブレスを放ち続けるのも限界に達し、ブレスを止め、大きく脱力する。


 その穴を埋めるがごとく、ケーゴは投げナイフを投擲し続ける。十歳児相当のケーゴだから、投擲されたナイフは遅く、突き刺さる勢いも無いが、周囲の空気さえ凍らせながら突き進んでくるナイフは火の鳥にとっても脅威だった。


 ほとんど、狙いなどは付けずに、火の鳥がいるあたりに投げれば良い、と言う感覚でケーゴが投げ続ける。体力は既に限界だ。


 しかし、ここでケーゴがある事に気付いた。


 投げたナイフが空中で操作可能だった。


 一カ所に留めておくのは無理でも、投げた後に方向を変えて何度も火の鳥を狙って追尾する事は可能だった。


 投げた勢いが無くなれば落ちるしか無いが、そうなったら直ぐに手元に戻し、また投擲すれば良い。この方法なら投擲回数が五分の一に減らす事が出来た。


 氷結の投げナイフがクルクルと空中を舞って火の鳥の体力である炎を消していく。


 ならば氷結の投げナイフ自体を溶かしてしまえば良い、と火の鳥は温度を上げた。しかし乱れた上昇気流が巻き起こり火の鳥は上昇しながらバランスを壊す。


 っと、そこで火の鳥は従魔術のフィールドの端にまで来てしまった。


 風も温度も炎も水も抜けるが、従魔術を使用している者とその対象は抜け出す事が出来ないフィールドだ。


 温度を上げれば上昇気流が火の鳥を押し上げ、従魔術のフィールドがそれ以上上に行く事を阻害する。火の鳥は空中で身動きできない状態にされた。


 ケーゴの投げナイフも上昇気流のおかげで苦も無く火の鳥のいる高さまで到達でき、滞空時間も増えた。火の鳥はドンドンと体力を減らして行く事になった。


 そこへ、長い息継ぎを終えたドラドラが復活し、再びブリザードブレスを放つ。


 そんな一方的な攻撃が数回続いた。


 そしてとうとう火の鳥は負けを認めた。


 自らの温度を下げれば上昇気流は無くなる。


 火の鳥の様子が変わった事に気付いたケーゴがドラドラの攻撃を止め、その様子を見つめる。


 地面に降り立った火の鳥は羽根を広げてうつ伏せになり動かなくなった。


 「我に従え 其の名はトリトリ!」


 トリトリは素直に従魔石へと収納された。同時にフィールドが消え、焼け焦げた地面が修復され始める。


 「ドラドラ、ご苦労さん。少しそのまま回復するか?」


 従魔石に収納されると、収納された時点の状態で時間経過がほとんど無くなる。なので疲れた状態で収納されれば、次に出てきた時には疲れたままと言う事になる。


 それ故、収納されて待機状態になる場合は万全の状態になっておくべきである。


 「トリトリ!」


 ケーゴはたった今収納したばかりの火の鳥を召喚した。トリトリも収納された状態、つまり体力を使い果たし、地に伏した状態だ。


 共に疲れ切った二体の従魔になった神獣にヒールタブレットとスタミナタブレットを三粒ずつ与えて、二体共に立ち上がらせて身体に異常が無いかチェックさせる。


 「よし、これからよろしくな」


 チェックが終わったら従魔石へと収納する。


 あまり神獣を出しっぱなしにはしたくないケーゴだった。


 もともと神々の虚栄心で新たに作られた神獣たちなので、出来れば自由に遊ばせたいとは思ったが、この聖域では単に昼寝をして過ごすしか無いのでは無いかと考える。ならば初めの予定通り、誰かと共に森の外へと行かせて、活躍なり、苦労なりを経験した方が良いのかもと思う。


 「それは、まぁ、追々と、だな」


 そう呟いて、クマクマと一緒に店へと戻ろうとした時、突然クマクマが顔を森へと向けた。


 「がう」


 ケーゴにそう一声掛けて、クマクマはスタスタと歩き出す。


 「呼ばれたから行ってくる? あ、ああ、呼んでるのか。迷子にでもなったかな?」


 直ぐにアミナ達が森の中からクマクマを呼んだのだろうと理解した。そもそも聖域を取り囲む審判の森には道なんて無い。太陽の位置も見失いやすい密林だ。通販もしてない。


 そんな場所で方向を見失えば、余計に迷子になるだろう。だからクマクマを呼んだのは正解だ。


 クマクマも、ドラドラを始め、四体の従魔がいる今のケーゴなら、一時的に離れても問題無いと判断したのだろう。

 実際、ケーゴも同じ判断だ。


 納得したので一人で店に戻ろうとする。その前に、むき身で持っていた氷結の投げナイフを鞘に収める。


 炎のように、空間的に作用する熱のフィールドに対しては、氷結の投げナイフの刃に触れたモノの温度を奪うという仕様はとても役に立った。


 これが、ナイフが切り裂いたモノを凍り付かせる、とかだったら、なんの効果も無しに通り過ぎていた可能性まである。


 だが、投げナイフを投げる時に、柄では無く、ナイフの刀身をつまんで投擲する方法もある。そんな事をすれば自分が凍らされるワケだから、取り扱いはかなり熟知しておかないとならない。


 前の持ち主は、刃のごく一部に触れた場合にのみ、氷結の作用が起こる、と勘違いしていた可能性がある。


 「諸刃の剣、どころじゃ無い程の凶器だよなぁ」


 凶器の凶の文字がよく似合う、と思うケーゴだった。


 ついでとばかりに、ケーゴはトリトリが燃やした地面の芝や、ウマウマが蹴り飛ばした場所を見てみるが、既に綺麗に元通りになっていた。


 炊事場の井戸周辺や温泉宿の裏などで、ケーゴが地面を穿った場所はいくつかある。だがそこは穿った状態のまま残っている。


 これは、従魔術のフィールドの特性か、ケーゴの意思が聖域に反映されているのか、後ほど検証が必要だな、とケーゴは頭の隅に入れておく事にした。


 店に戻り、小上がりの板の間に大の字で寝転がる。


 いつの間にか時間が経過しており、いつもなら夕食の準備をする頃合いだ。その連中もクマクマが迎えに行ったので、まもなく帰ってくるだろう。


 「軽く汗でも流しておくか」


 通販で新しい作務衣を購入しようと、身体を起こしてスマホを覗き込む。


 【侵入者警告:聖域に一体の入場を確認:歓迎 排除】


 「またぁ?」


 今日はもう勘弁してくれよ、と思うケーゴであったが、直ぐに起き上がって店を出る。


 「この調子で夜にも来られたら堪らないな」


 そう言えば何体ぐらい神獣が放たれたのか聞いていなかったと思い出す。


 そして聖域に侵入してきた存在を確認する。遠目でも判る程巨大な人型だ。人族的な形では無く、ロボット的な四角っぽさが有る。もしくはごついゴリラ系かな? とケーゴは予測を立てながら鑑定をかける。


 【え? ウッドゴーレム? なんでぇ? あ あれ 魔獣の魔石がいくつか入ってる 古代の魔道士でも作れないよぉ こんなの どうしてぇ?】


 もはや鑑定では無い。ケーゴは既に諦めている。


 小走りで近寄り、ウッドゴーレムの前に立つ。ウッドゴーレムもケーゴを認めて立ち止まった。


 ケーゴの知識では、ゴーレムは魔法使いが作る動く人形で、単純作業をこなすロボットと同じと考えている。だが、目の前にいるゴーレムには、自らの意思を持つ者としての存在感がある。


 「いらっしゃいませ。聖域の何でも屋、不思議屋へようこそ。何かご入り用なモノはございますでしょうか?」


 久しぶりな感じのご挨拶をしてみるケーゴ。しかしウッドゴーレムは動かなかった。


 「もしかして、聖域の守護獣の立場をお望みでしょうか?」


 そのケーゴの言葉に、ウッドゴーレムはゆっくりと首を横に振って答えた。


 「? どのようなご用件でしょうか?」


 どうやら、ケーゴの言葉はしっかりと伝わって、コミュニケーションは取れると言うのは確定だな、と考える。しかし、ウッドゴーレムの来た用事が考えつかない。


 すると、ウッドゴーレムがゆっくりと拳を持ち上げて来た。そしてケーゴの頭の高さに合わせた状態でケーゴに近づく。何か、ケーゴに渡したいモノがあるらしい、と判断したケーゴが両手を揃えて突き出す。


 ウッドゴーレムの拳の中に何かがあるのが見えるが、色合いがウッドゴーレムと同じなので判断が付かない。


 判断に困っていると、ポロっとその何かがウッドゴーレムの拳から落っこちた。


 慌ててそれを掴まえる。


 「おっとっと!」


 結構重かった。


 それはラクビーボール程の大きさと形を持つ何かだった。表面は、栗の内側にある渋皮みたいな色合いだ。


 ウッドゴーレムはケーゴの手に収まった事を確認して拳を引き戻す。


 ウッドゴーレムはなんとなく、役目を終えた、と言う雰囲気で落ち着いている。ケーゴはどうしたら良いのか判断に困り、手の中のラグビーボールを鑑定した。


 【な な なんでー!? なんで世界樹の種があるのー! 完全に失われたはずなのにー! なんでー?】


 もうチャットで良いんじゃ無いかと、鑑定の項目が必要なのかと、渡されたスマホの機能について考察するケーゴであった。


 「この世界樹の種をどうしたら良い?」


 ケーゴはウッドゴーレムに聞くが、ウッドゴーレムは静かにケーゴを見つめるだけだった。


 目があるのかも怪しいが。


 しかし行動を放棄したわけでは無く、ケーゴの次の行動を注目している、と言う感じは受ける。


 ケーゴはスマホを掲げ、今度はチャットを立ち上げる。


 「で? コレって世界樹の種でいいんだ?」


 【前の大戦で お互いの陣営が相手の影響下にある世界樹関連のモノを尽く殲滅しあってたんだよー】


 「えっと、そもそも、世界樹って何?」


 【簡単に言えば 魔法使いが魔法を使う時に使用する 世界に影響を与えるエネルギーを生み出して循環させる樹木のようなシステム って感じ】


 「それが無くなっていたんだ? じゃあ魔法使いは魔法を使えなくなった?」


 【世界樹が無くなってもしばらくは影響無かったよ ただゆっくり無くなって行ってるから ドンドン使いにくくなってるはず】


 「どんな影響が? 魔法使いが悪さ出来なくなって、少しは平和になった?」


 【悪さ出来なくなった ってのは有るけど 同時に 治療魔法とか 移動魔法 環境を整える系も使えなくなったんだよ だから 一気に文明が後退しちゃった 今のこの世界は 昔は良かった と言う状態だね】


 「でも、ヒールタブレットとかは作られているから、まだある程度は使えるんだろ?」


 【魔力溜まりに生える癒やし草とかが取れるウチはね その魔力溜まりも世界樹の循環システムが無いからドンドン濁ってるんだ】


 「で? 創造神様はどうしたい? 世界樹を復活させて、魔法の世界を再構築する? それとも、完全に魔法の無い世界を多くの犠牲を払いながら一歩ずつ成し遂げていく?」


 【魔法の力が無くなれば 神々も地上に影響を与える事は出来なくなる ボクは別だけどね】


 「魔法の『ある』世界を作ったんだから当然だよな。でもその下の神々はいなくなるって事か?」


 【存在が薄くなって そのうち何の影響も 意思も無い 単なるエネルギーに落ち着くかな】


 「まぁ、戦争容認の神々にとっては自業自得だけど、それ以外の神も影響力が無くなったら、それこそ全てやり直しかぁ」


 【うん だから 世界樹の種をどうするかは 全てキミに任せるよ】


 「やっぱそうなるかぁ。そもそも、そう言う判断をさせるために俺を呼んだんだろ?」


 【ごめんね でも キミの決定に従うよ】


 ここでケーゴは落ち着いて考えを巡らす。


 戦争の神とかはどうでもいいが、芸術系や知識系の神が影響力を失うのは問題が大きいかも知れない。そもそも魔法ありきで作られた世界だ。その魔法が無くなれば世界のあり方まで変わるはず。

 創造神は言及しなかったが、魔獣にも影響があるはずだし、それを狩る冒険者達も仕事形態が大きく変わる。


 ケーゴは、ケーゴの世界の『昔』を歴史の授業から思い出してみる。


 『昔』は、マンパワーとしての人材は必要だったが、その人材全てを豊かにする力は無かった。だから奴隷階級という必要悪が長く続けられてきた。

 その奴隷を使う歴史が長かったために、人の魂は濁ったままだ。その濁りが無くなるのはいつになるか判らない。


 その状況にこの世界も陥るかも知れない。


 技術革新などが起これば豊かにはなるかも知れないが、それも環境破壊などの多くの犠牲を払ってからの結果になる。


 創造神はそれらが嫌で魔法を採用したんだろう。だけど、結果は滅びのサイクルが短くなっただけだった。だから、ケーゴを呼んで、その結果を判断して欲しかったんだろう。


 「うん。判った」


 ケーゴは思索の海から戻り、顔を上げた。


 「世界樹を復活させよう!」


 ウッドゴーレムとスマホが、心なしか震えたような気がした。


 【また同じ過ちを繰り返す?】


 「魔法が無くなっても同じ過ちを繰り返すさ。一度それで滅んだ、と言う歴史が無駄になるよりは、教訓としてしっかり残しつつ、また同じ過ちを繰り返せば良い。そうすれば少しぐらいは前に進める。だから、ここの聖域の何でも屋は、それをバックアップする場所になれば良いんだ」


 過ちを繰り返すのは愚かな事だ。賢者は歴史から学び、愚者は経験から学ぶ。と言う言葉はあるけど、人なんて愚かなモノだ。経験をしても何も学ばない事も多い。


 だけど、経験しないと判らないのだから、経験をする機会は必要だ。


 それは人が人に対して言ってはいけない言葉。


 たとえ親が子供に対しても言ってはいけない言葉だ。


 人が人に対して言うのなら、先人の経験の過程と結果だ。それが教育というモノであり、躾だ。


 だが、神ならば、滅ぶまで行って経験を積みなさい、と言える。この人の死を経験として割り切る言葉を言えるのは神だけだろう。


 いや、おそらくは、それが神の本当の役割なのだろうな。


 だからこそ、この神が作りし聖域で人が奇跡を行う、と言うこの場所がバックアップとして必要だ。


 ケーゴはそう結論づけた。


 「この場所は、昔の事も教える機能も加えた方が良さそうだな」


 【ケーゴ    ありがとう】


 「………………」


 創造神を幻視したシアラは、創造神は愁いていた、と言った。その愁いは、下の神々の事では無かったかも知れないと思うケーゴだった。


 「さて、世界樹を復活させるにはどうしたらいい?」


 【待って 今 世界樹用の場所を作るから】


 「世界樹って大きくなるんだよな? どのくらい? ここの場所って大丈夫か?」


 【万全になった世界樹は高さ十キロを超えるよ】


 「十キロって、ジェット機の高度限界じゃないか」


 エベレストが約八千八百メートル。ジェット機の高度限界が約十キロ、そして十キロから五十キロが成層圏と呼ばれるエリアだ。


 【それぐらいかな】


 「木、なんだよな? 自立できるのか? いや、その根元は関東平野ぐらいは必要なんじゃない?」


 【そもそも魔力の流れに支えられるから自重は関係無いよ 根元は トーキョー二十三区ぐらいで充分だよぉ】


 「意外と狭い範囲で済むんだな」


 【場所はこの聖域の裏にするけど 位置的には確定しないでおこう ある程度成長したら 都合の良い場所に場所を設定し直すよ】


 「つまり、この聖域からしか入れない亜空間って事か。でも、どこかに移転なんてしたら、その場所に居る人や獣に大被害が及びそうだな」


 【移転時は そこまで大きくなってない筈だから大丈夫だと思う せいぜい この聖域ぐらいの広さがあれば問題無いよ その後の成長では大きく影響を与えると思うけど 数十年単位だしね】


 「ここと同じって事は、サッカーグランド二面分ぐらいか。ならちょっと人のいない山間に、って事も出来そうだな」


 【よし出来た! この聖域の、ケーゴの屋敷の裏からしか入れない空間を作ったよ 世界樹の育成にも最適にしてあるよ】


 ケーゴにはかなり嬉しそうにしていると感じた。喜んでるならそれで良い、と結論なケーゴだった。


 「じゃあ、この種をそこに植えたらいいんだな? その後の世話とかは?」


 【あの空間ならほとんど世話は要らないよ そう言う空間にしたから】


 早速行って、種を植えようとしたが、そこでケーゴは目の前のウッドゴーレムが動かない事に気付いた。


 「ウッドゴーレム? お前、これからどうするんだ?」


 ウッドゴーレムは全く動かなかった。


 「どう言う事?」


 今度はスマホに聞いてみる。


 【ゴーレムは命令に従うだけ おそらくは世界樹の種が植えられたのを見たら その役目を終えるんじゃないかな】


 「おい…」


 当然なのは当然なのだが、ケーゴは大役を果たしたゴーレムに対し、それは酷い扱いなのじゃ無いかと思った。


 「なぁウッドゴーレム。この後は役目を終えて朽ちるだけか?」


 それに対してウッドゴーレムは静かに頷いた。


 「ウッドゴーレム。お前に聞きたい」


 そう言って、先ずは右手を挙げてスマホを見せる。


 「とても大切な役目を終えたから、機能停止して朽ちて眠りたいか?」


 今度は左手を挙げて世界樹の種を見せる。


 「まだ活動を続けて、世界樹の成長を見てみたいか? どっちを選ぶ?」


 右手のスマホ、左手の世界樹の種を出したまま、動かずにウッドゴーレムの動きを待った。そして暫くして、ウッドゴーレムはおずおずとケーゴの左手に向かって拳を突き出した。


 「良し! お前に新たな命令を与える。これより、お前は世界樹の守護者になって、朽ちるまで世界樹に尽くせ」


 ケーゴの言葉にウッドゴーレムは片膝をついてお辞儀をした。ここに世界樹を守護するガーディアンが生まれた。


 「これでウッドゴーレムは大丈夫かな?」


 【良い判断だったよ あのタイミングじゃ無ければ 朽ちるルートで終わってたかも 後はコッチで付け足しておくから安心して】


 「ありがと、じゃあ種を植えに行こうか。案内して」


 スマホが自動的に地図になる。示された場所は庭園になっている方の裏庭だ。ウッドゴーレムを伴って屋敷に戻り、庭園の方に回り込む。すると、大きな石造りの鳥居が目に入った。


 庭園の端に、邪魔にならない感じで置いてあるが、鳥居の向こう側は普通に壁だ。異空間の出入り口にはとても思えない。


 ケーゴは、おそらく不思議な、なんちゃらかんちゃらな理屈で通じているのだろうと予測し、考えるのを放棄してその石の鳥居をくぐった。


 案の定。くぐった先は広く、何も無い草原だった。


 「聖域と同じぐらいの広さなんだろうけど、何も無いと広く感じるな」


 スマホを見ると地図のままで、まだ目的地に到着していない様に見えた。後ろを見ると石の鳥居があり、その向こうは屋敷の外壁の塀と同じ壁が左右に伸びている。

 直感的に、その壁の向こうは何も無いんだろうと判るが、だからこそ安心と言えた。


 ケーゴはさらにゴーレムと歩き、地図の目的地に進む。


 おそらく、この空間の中央なんだろう、という位置に到着したが、その場所には特に何も無かった。


 「つまり、ここに穴掘って種を埋めろってワケか。ゴーレム、この種に丁度良い大きさで穴掘ってくれる?」


 ゴーレムの腕なら一掬いで穴が空きそうだと思っていたが、ゴーレムはゴーレム自身が埋まりそうな程の大きな穴を掘って行った。そして、地面の底にうっすらと水が染み出る。そこにゴーレムは泥をかき寄せ、台座を作った。


 そこでゴーレムはケーゴに手を差し出す。


 察したケーゴが種を渡すと、ゴーレムは水に濡れないギリギリの位置に作られた台座の上に種を置き、その種を埋めて行った。


 埋めるとは言っても、掘り起こした土を軽く乗せていくだけなので、元の平らな地面では無く、柔らな土が盛り上がった状態で落ち着いた。


 そしてゴーレムは、その場所から一メートル程離れた場所に立って、地面を見つめて動かなくなった。


 「ご苦労様。世界樹を頼むな」


 そう言うケーゴに、ゴーレムはしっかりと頷いた。直ぐに世界樹の方に向き直ったが。


 世界樹の空間から聖域の空間へと戻り、屋敷から店方向に歩いていたら、クマクマとアミナ達が戻ってきた。


 「お帰りなさい。狩りの成果はいかがでした?」


 そう聞くと、結構ニヤニヤした感じで袋を掲げた。おそらく魔石が入った袋だろう。


 「良かったようですね。では早速お風呂に向かってください。装備品は炊事場の奥に置いたままで構いません。後で洗ってくださいね」


 これから夕飯の準備だ。なので狩りから帰ったままと言うワケにもいかない。


 「おー。店長も一緒に入るかー?」


 ダイナのテンションが高いと感じるケーゴ。おそらく、かなり危ない状況もあったのかも知れない。


 「私もお風呂に行きますが男湯です。ゆっくり入らせてください」


 「お? 店長お疲れ? なんかやってた?」


 「はい。新しいアイテムが入ったので試していました。それは、まぁ、後で。今はさっさと汗を流しにいきましょう。夕食が遅くなりますよ」


 「おお、そうだな」


 そして皆が炊事場の裏へと向かう。そこはいつも洗濯をしている場所。汚れた装備を洗うために脱ぎに行った。


 「かなり危なかった見たいですね。お風呂に入って、心を落ち着けられれば良いんですが」


 五人の精神状態が落ち着かないのを知った。やはり彼女たちは冒険者としては限界に達しているようだ。それは肉体的な力や反射速度では無く、危険を顧みない挑戦する心が疲弊している事を表す。


 恐怖を感じるとその場所に近づかない様になる本能がある。


 これは犬や猫はもとより、ネズミまで持つ危険回避の本能だ。それは場所だけじゃ無く、状況にも同じ事が起きる。つまり、剣を振り回して戦っている状況で感じた恐怖も、剣を見ただけでその恐怖を思い出すと言う本能が働くと言う事だ。しかも大抵はやり過ぎな恐怖を思い出して、心に重い負担を掛ける。恐怖を感じた場所であり、状況であるのは判っていて、あえて挑戦したとしても、動けなくなる程の恐怖を思い出してしまう。


 その対処は、恐怖で動けなくなった身体を無理矢理動かすしか無い。戦闘中に動けなくなったら死しかないからだ。息が出来なくなる症状であれば、窒息する恐怖と苦しみを受けながら力ずくで呼吸を行わなければならない。


 生きるためにあえて行う、恐怖という本能との戦い。


 ダイナはそれをしていた可能性が高い。いや、もしかしたら他の者たちも。


 実際、女性五人のパーティでこの聖域にまで辿り着いた事が奇跡だ。おそらく死の恐怖に曝されながらここまで逃げ延びたのだろう。

 だから彼女たちの心は恐怖で疲弊仕切っているはずだ。だからこそのハイテンションなんだろう。


 ここで料理を習って街へと帰れば、おそらく冒険者は引退するはずだ。


 それが一番良いとケーゴは考える。きっかけがこのタイミングだっただけだ。


 アミナ達が街へと帰る時は、ウルウルを護衛に付けて送り出そうと考える。そうすれば無事に街に辿り着くし、再び審判の森に入る事も無くなるだろう。

 皇女殿下にはウマウマを護衛に付けよう。それで森を脱出するまでは心配が無いはずだ。


 このタイミングで従魔石が手に入ったのは幸運だった。


 そうケーゴは考えながら男湯でのんびりした。隣の女湯からは色々台無しな台詞が聞こえるが、聞かなかった事にする。


 風呂から上がり、一度店に戻って夕食の準備をする。今回は疲れ切ったはずだから、朝とお弁当にと好評だったハムを使ってのステーキにしようと勝手に決める。それだけでは寂しいので、トローモ(ジャガイモ)シン(タマネギ)アーカ(ニンジン)に干し肉、牛乳、小麦粉、ブイヨンを入れた簡単シチューでいこうと計画。


 各自に作らせるからそれぞれ一人前ずつになる。なので比較的時間はかからない。道具の片付け自体の方がかかるかも知れないぐらいだ。


 と言う事で、炊事場にどのくらい余っているかが判らないので定量用意して炊事場に向かう。


 が、皆へばっていた。


 聖域に戻って安心した上に風呂に浸かったせいで疲れが一気に出てきたらしい。


 仕方なし、としてケーゴが準備する事になった。


 今回石窯は使わないので、竈を二カ所に火を入れる。が、薪に火を付けて火が安定する時間ももったいないのでトリトリを召喚する。


 「て、店長! な、なんだ! それ!」


 アミナが驚きながらもなんとか、と言う感じで聞いてきた。


 「新しいアイテムで、従魔石という魔獣とかを従魔にする石が手に入ったので、丁度聖域に寄ってきた火の鳥を従魔にしてみました。トリトリ、竈の薪に火を付けてください。一気に燃やさないでくださいね。薪に安定して火が付けば良いです」


 ケーゴの真横で竈に向かって啄む仕草をするだけで、薪が爆ぜるぐらいの火が付いた。


 「トリトリ、火が偏らない様にまんべんなく燃えるように調節してくださいね」


 「ピー!」


 意外と可愛い鳴き声に女性陣が和む。でも、やってる事は異常だった。そもそも、火の魔法を使う魔獣はいるが、魔法を使うように放ってくる獣ばかりだったはずだ。しかも森ではあまり見かけない。

 しかも、ペットのように横に侍らせて、便利に使っている。


 「ああいう事が出来るのは、テイマーってヤツだけだと思ってた」


 「はい。ですが、店長は確かにアイテムと言いましたし、従魔石と言いました。つまり、見かける事も珍しくなったテイマーと同じか、それ以上の事を誰でも出来ると言う事でしょうか」


 ベルダの言葉にルイナル皇女が答える。それを、人数分のハムステーキに塩コショーを振りながら聞き耳を立てているケーゴであった。


 『テイマーはいるのか。でも、珍しい存在になってる、と。ふむふむ』


 「あ、コッチの竈は強火でお願いします」


 シチューの下準備が終わった後の、水の入った鍋は、水を湧かさないとならないので強火にしてもらう。湯になったら中火にして、牛乳と小麦粉を加えたら弱火にする必要がある。


 ステーキはステーキ用の金網を使って、網目が少し焦げるのを理想として焼いていく。ついでに小さな鍋に細かく切ったハム、シン(タマネギ)のみじん切り、潰したニンニクを入れてじっくり焼き、そこにワインを入れて煮込む。本当は醤油を使いたかったが、今回は断念。じっくりトロトロ煮込んで、一味足り無いステーキソースの出来上がりだ。


 ハムステーキは金網の焦げ目が付いたモノから順次引き上げ、ステーキソースを掛けていく。それが終わったらシチューに小麦粉を水とブイヨンで溶いたモノと牛乳を加えて、仕上げの煮込みを行う。


 ステーキを配り終わり、シチューをよそって、残った分を皆に見せる。お代わりは皆で話し合ってくれ、と言う意味だ。ナイフ、フォーク、スプーンを配り終わり、配膳は終了だ。


 「では、お上がりください」


 女じゃ無い。飢えた獣だ。皇女殿下まで…。ケーゴはこのことは日記には書かない事にしてあげようと思った。


 既にお代わりの奪い合いが始まっているのを横目に、使った調理器具を洗っていく。美味しい食事は生きる活力。とは誰の言葉だったか。まぁその言葉の証明は目の前で行われてる。


 「トリトリもご苦労様」


 そう言ってトリトリにナッツの山盛り皿を与えて労う。トリトリは、ナッツは細かく砕いた方が好みのようだった。


 「使った食器は溜めた水に浸けておくか、寝る前までに洗ってください。また明日からいつも通りで行きましょう、ではおやすみなさい」


 屋敷に戻ったケーゴはクマクマにも食事を与え、ケーゴ自身は自称チャーシューと言い張るペラペラな薄切りハムのような肉が入ったカップのチャーシュー麺を、通販で取り寄せたチャーシューのブロックを三切れ追加で乗せて、美味しそうに食べた。


 実に幸せそうだった。


 その後は世界樹やウッドゴーレムの事についてチャットで確認する。


 世界樹については他の神にも内緒にして、暫く様子見らしい。ウッドゴーレムは食事も必要無いし、内臓している魔石に力を加えたから、少なくともケーゴの孫の世代までは元気で動き続けるそうだ。そのうち、補給できるシステムも考えて追加する予定だと言う。


 ケーゴも疲れたのか、その後の記憶が無かった。


 そして次の日の朝を迎える。


 ダレていた。


 いや、パッと見の印象はごく普通なのだが、全体的に動きにキビキビした感じが無い。やはり、昨日の審判の森での狩りがキツかったのだろう。


 しかし、夕べは甘やかしたが、今日ここでも甘やかすのはちょっと違うとケーゴは感じた。なので、キツくは無い作業はしっかりと行わせようと決意する。


 なのでパンは朝食、夕食分を普通に焼かせる。


 おかずはトローモ(ジャガイモ)のステーキだ。輪切りにしてたっぷりバターで炒めて塩コショーしていく。カップ一杯分のワインに砕いたニンニクと砂糖を入れて、少しずつ炒め中のトローモに絡めていく。


 『付け合わせが足り無いなぁ』


 とは思うが、あまり色々な事をさせるのも拙いと思い、それだけの朝食になった。


 パンにはジャムもあるし、意外にトローモ(ジャガイモ)のステーキは好評だった。


 朝食後は食休みと片付けで小一時間ほど空け、従魔石の説明を行う事になった。


 まずは既に従魔にしてある四体の紹介。元々聖域には特別なモノしか入る事が出来ない。そう説明しても、四体の顔ぶれには恐れと驚きの表情を向ける七人だった。


 「すっげー! ドラゴンとか、初めて見た!」


 「火の鳥って、昨日の鳥ですよね」


 「ウマウマ。美しいです」


 「ウルフとは、あのように精悍な存在なのですねぇ」


 概ね好評のようだ。


 そこで従魔石の使い方を説明する。そして、一人に一つずつを渡して見て貰う。


 「御自分たちで使っても構いませんし、金策の元手にしても構いません。使う者の力量を見られるので、その点はご注意ください」


 「あのドラゴンを店長が倒したのか?」


 「ええ。クマクマと一緒に、ですが」


 実はスタンガンを使いまくったとは言わない。


 「従魔石を砕けば魔獣を解放する事も出来ます。ですが、従魔石は失われますね。使いどころが重要になってきます」


 「そうか。使わなくなったから解放する、となったらそれっきりって事だな」


 「例えば、山猫系とか、フクロウ系だと、お店のネズミを狩ってくれるのである程度清潔を保てるかも知れませんね。維持費自体もあまりかかりませんし」


 「あ、街でドラゴンを使う、って感じの事ばかり考えてた。そっか、そう言う使い方もあるか」


 「ドラゴンはさすがに使い勝手が悪いですね。ドラドラも、審判の森に国の兵隊が攻めてきた時に無慈悲に殲滅させるために使うつもりですし」


 「うわー。聞かない方が良かったのか、聞いておいて良かったのか、微妙な台詞が来た」


 「この四体はクマクマと似たような、精霊に近い存在です。なので本来なら皆様には従魔にする事自体が無理と言えてしまいます。ですが……」


 そこでスマホが電子音を鳴らした。


 【侵入者警告:聖域に一体の入場を確認:歓迎 排除】


 聖域に侵入して来たのは、真っ白な虎だった。一般の虎の成獣としての大きさの二回りは大きい感じを受ける。


 「早速ですね。では従魔石の使い方を実践でお見せします。えっと、クマクマ、お願いします」


 神獣四体と七人は近づかない様に言って、クマクマと白い虎に向かって歩いて行く。


 「いらっしゃいませ。聖域の何でも屋、不思議屋へようこそ。失礼ですが、聖域の守護獣の立場をお求めでしょうか?」


 「ゴォォロロロ」


 大型獣のドスの効いた低音の響きの中に、猫の特徴を感じさせる声で答えた。


 「ですが守護獣は追加させる気も交代させるつもりもありません。それでも、と言うので有れば、私の従魔として便利に使わせて頂く事になります。よろしいですか?」


 「グァァァォォォォ!」


 「不服ですか。では強行させて頂きます。従魔術展開!」


 新しい従魔石を取り出して、手に持ったまま突き出す。すると薄い膜のようなモノが通過してフィールドがドームを形成するのが感じられた。これで、ケーゴ、クマクマ、そして白い虎だけの戦いの場が出来上がる。


 同時に白い虎が姿勢を低くして目の色を変える。


 「グァァァァァ!」


 「クマクマ! 戦闘開始です!」


 ケーゴの言葉にクマクマが虎に飛び込む。それを虎が優雅に避けるが、クマクマの爪を警戒して虎自身が攻撃できないでいた。やはり、速度では虎が有利だが、力ではクマクマが圧倒している。


 切り裂いて手傷を与えて体力と行動力を奪う『鋭さ』の攻撃を持つ虎と、一撃で昏倒させてしまう『重さ』の攻撃を持つクマクマの対決だ。

 さらに、虎はクマクマよりもケーゴを狙おうとするのが判るので、クマクマも遅れを取らない。その点はクマクマも学習していた。


 ケーゴに少しだけ余裕が出来た。そこで虎を鑑定してみる。


 【風の神が審判の森の聖域の守護獣として作った神獣 風身と実身とを切り替えられる 風になると自由度は上がるが攻撃力は下がる 実身が傷ついても風身になれば修復される 食事も睡眠も必要無いが 風状態を維持するには体力が必要となり自然回復には時間がかかる 食事で回復させる事が可能】


 火の鳥の風バージョンだ。火の鳥と似たようにかなり厄介な相手だろう。


 風身になると攻撃力が下がるとあるが、単に体積比の話かも知れない。風になって分散されれば、攻撃力は下がるだろうけど、こちらからの攻撃が効かない事を意味する。見た目も透明になるのであれば、攻撃し放題だ。


 おそらく、そんなに都合の良い事ばかりでも無いはず。何か落とし穴になる様な事があると想定して、ケーゴは虎の様子をうかがう。


 「おかしいな。何故風身を使わない?」


 虎はクマクマの攻撃を避けつつ、ちょいちょいクマクマをひっかいている。しかし、風になって見えない位置に移動してから実体化するなどの攻撃は行っていない。


 「可能性としては風になる事にかなりのリスクがあるって事だよな。風になる事自体に相当なエネルギーを消耗するのか、もしくは風から実体になるためにエネルギーが必要なのか」


 ならば試しに、風にならないと仮定して攻撃してみるか。とケーゴは警棒型のスタンガンを出してスイッチを入れた。


 位置はクマクマの真後ろ。虎がクマクマの攻撃を避けて右に動いたら、クマクマの左に移動してクマクマの影に隠れるような位置にいるように心がける。

 虎がその事をしっかり認識してからが勝負。

 ケーゴがクマクマの影に回ったと思い、クマクマを飛び越えてケーゴを攻撃しようとした所で、ケーゴ自身もクマクマの背に乗り迎え撃つ。


 一瞬だけでも警棒の金属端子部分が触れれば良い。


 それだけを目指したカウンター攻撃だった。


 「グャン!」


 悲鳴を上げて弾き飛ぶ虎。ケーゴも弾かれて吹き飛ぶが、初めからそのつもりだったので大きなダメージは回避できた。


 そして訳のわからない衝撃を受けて意識さえもフラフラする虎に、クマクマが渾身の張り手を打ち込んだ。


 弾け飛んで地面を転がるケーゴは見逃してしまったが。


 起き上がって状況を確認すると、クマクマが虎を抑え込んでいた。


 「我に従え! 其の名はトラトラ!」


 「「「「あぁ~、やっぱりー」」」」


 何故か女性陣から溜息のような声が聞こえたが無視する。


 しっかりとした敗北を感じた白き風の虎は、ケーゴの突き出した従魔石に収納されて消えた。


 フィールドが消えたのを確認し、従魔石を持ってトラトラを召喚する。そしてヒールタブレットとスタミナタブレットを与えて労う。ついでに何故風にならなかったのかも鑑定。


 【トラトラ 風の神が作った神獣でケーゴの従魔 風身と実身を切り替えられる ただし自然の風の吹いている場所に限られる 風になると自由度は上がるが攻撃力は下がる 実身が傷ついても風身になれば修復される 食事も睡眠も必要無いが 風状態を維持するには体力が必要となり自然回復には時間がかかる 食事で回復させる事が可能】


 「風が無いと駄目なのかぁ」


 と大きく納得するケーゴだった。従魔術のフィールドは風をせき止めはしないが、聖域自体が微風しか吹かない特殊空間だ。そこで風になっても、微風ぐらいの力しか出ないか、力量の足しにはならなかった、と言うワケだ。初めの鑑定に出なかったのは、聖域の環境を気にしていなかったからだろう。自然の空間でならあり得ない事だった。


 火の鳥も風の虎も、限定空間では戦いにくい存在という事だ。


 「お前も風の無い所じゃ戦い難かったよなぁ」


 そんな事を言いつつ、虎の頭を撫でる。


 「ゴロゴロゴロゴロ」


 猫なら可愛い喉鳴らし。でも虎の重低音で鳴らされるとちょっと怖いと思うケーゴだった。


 そして従魔の四体と七人がいる場所へと、クマクマとトラトラを伴って歩いて行く。


 「新しく従魔になったトラトラです。皆仲良くしてください」


 従魔四体に向かって言う。が、既にシアラとエリスはトラトラにしがみついていた。


 そして戦いについての解説を要求された。


 今回は聖域という特殊な環境だったために、風の虎であるトラトラにとっては実力の半分も出せない状況だった。だが、敗北を状況のせいにする愚か者でも無いので、この状況で戦う事になった自らの負けを認めて従魔になった。と言うケーゴの説明に、トラトラも頷いていた。シアラとエリスとダイナを貼り付けたまま。


 敗北等の条件は従魔石に仕込まれているので、魔獣であってもフィールドに包まれ戦闘が始まれば、勝ち逃げするか負けて従魔になるしかない、と言う事は納得すると言う。


 「いかがでしたか? ここに来たのは精霊に近い存在なのですが、一般の魔獣でもやり方は同じです。ただ、魔獣の場合はかなり賢さが落ちる事はご了承ください。ある程度なら教育も可能ではありますが」


 「普通の魔獣では、貴族に売るのにはちょっと押しが弱いか? ベテラン冒険者には、売れる場合と売れない場合がありそうだが」


 それがアミナの分析だった。


 「貴族では、強い魔獣を従魔にしている者を雇う、と言うのが精一杯でしょう」


 とルイナル皇女。


 「城の騎士に、馬型の魔獣を従魔にしろ、と言うのはどうでしょう?」


 「あ、それなら」


 「荷物搬送能力が大きい従魔や、偵察が得意な魔獣も多いでしょう。強く派手な従魔を持つ事に憧れはあるでしょうが、仕事や役割に合った魔獣を従魔にする事をお薦めします。でないと、世話だけで一杯一杯になってしまいます」


 「あたし達には猫やフクロウなんかのネズミを捕る従魔。騎士には馬の従魔かぁ。特別なアイテム、ってワケにはならないが、結構必要とするのは多いかもな」


 「なぁ? その従魔石ってのは作れないのか?」


 「え? どうでしょう? ちょっと鑑定して調べてみます」


 【か 考えて無かったよー ちょっと待って って え? うん そう 人族系統に うん そうだってば え? 無理? 普通の従魔とか獣とか え できるんじゃん そう言ってよ で? ああ そっか うん あ 繋がってた えっと じゃあ 従魔石 廉価版の魔獣と獣にのみ使える えっと 何か良い名前付けといて で 人族に作成可能 木くずを利用して作った 動物由来の材料を使わない紙に 鉛筆を使って術式を描いて 魔石合成すると出来る  詳しくは後でね】


 ケーゴは頭を抱えて蹲ってた。


 とても大事な事を話す雰囲気じゃなかった。気を取り直すために、今夜のご飯はカレーライスにしようと心に決める。


 「店長? 大丈夫か?」


 「申し訳ありません。鑑定の結果に頭を抱えたくなっただけですので、身体的には問題ありません」


 「そ、そうか? 大丈夫ならいいんだが」


 「とにかく。判りました。この精霊に近い存在を従魔にする従魔石は特別すぎて簡単には作れないそうです。ですが、一般的な魔獣と獣であれば、似たように出来るモノは人族にでも作成可能です」


 「人族には、か…」


 アミナが呟くがケーゴには届かなかった。


 「えっと、それでですね。どなたか、腕の良い魔法使いはご存じ無いでしょうか?」


 そこで全員が互いに顔を見合わせる。そして素直に全員が首を振った。


 「有名どころの魔法使いって、皆過去の物語だよなぁ?」


 「唯一の知っている魔法使いだったのが、メイムナのアレだったのですが」


 「ああ、第五皇女の…」


 「店長。魔法使いは年々減っています。魔法使いは世界の魔元の枯渇が原因だと言っていましたが、店長は何かご存じですか?」


 「ああ、えっと、昔、魔法も魔道具も沢山作った国がいくつもあったのはご存じですか?」


 とケーゴ。


 「子供の寝物語に、色々な話がごっちゃになってるのがあるが、太古の魔道帝国とかって良く話の元になるよな」


 「拡張箱とか、タブレットとかもそう言う魔法の国の遺産だそうだな。だがはっきり、どこに国があったとかが判ってないとか」


 アミナやベルダが答える。そこに皇女が追加情報を出す。


 「いくつか文献を見た事があります。この大地のほとんどを国として治めていたとか。小さな国も多かったようですが、盟を結び、大きな二つの勢力に別れて戦ったと記されていました」


 「はい。お互いの勢力が魔法を良く研究して、一般の生活から戦いまで、幅広く活用していました。しかし、国の戦を統括する部門が魔法で大量に人を殺す研究を推奨し、多くの金と人材を投入しました。結果は皆さんがご存じの通り、国があったかも不確かになる程の大惨敗の双方共倒れでした」


 そこで全員が押し黙った。ケーゴが、魔法を発展させると国が全滅すると言っているのを感じたからだ。


 「その太古の国は色々研究されていたようで、魔法の元になる、えっと魔元でしたっけ? それを生み出す存在を見つけました」


 「あ、店長。それって世界樹ですか?」


 シアラが叫ぶように聞いてくる。


 「ご存じでしたか?」


 「はい。神殿で教える物語の一つに、神が世界の柱となる大樹を作り、魔力の元を産み、巡らす流れの管理を託した。それ、すなわち世界樹。という一節があります」


 「素晴らしい。良くその一節が残っていましたね。ですが、残念な事に、太古の国もそれを見つけ、世界樹を管理し、複製を作ろうと研究を始めてしまいました。そんな中、戦争が始まったので魔法関係は一番に狙われました。つまり世界樹関連は一番の攻撃目標だったのです」


 「え? え? じゃあ…」


 「はい。世界樹はもとより、その苗や葉の一枚でさえ、戦争初期に全滅してしまいました」


 「それでは、この世界に新しい魔元は生まれて来ないと言う事ですか?」


 「いえ。魔元自体は人の活動や魔獣が生きているだけでも生まれてきます。ただ、世界樹が担っていた魔元の濁りを取り除くと言う行程は存在しませんので、魔力溜まりなどはドンドンと濁って行っています。神聖樹が少しは肩代わりしていますが、さすがに世界樹の代わりを果たす程では無いようです」


 神聖樹は基本的に浄化が目的のモノだ。


 なので魔力の濁りは専門外。一部の濁りは浄化の対象外としてそのまま放置している場合もあるらしい。


 「濁ってしまうとどうなるのです? やはり魔法が使えなくなるのですか?」


 「はい。簡単に言えば使い勝手が悪くなります。例えば十の魔力があって、そのうち五が濁っていた場合、魔法使いは十の魔力を使う力量が必要なのに、五の威力しか達成できなくなります。魔法使いにとっては、魔力があるのに、威力が弱くなった、と言う感想を持つようになるでしょう」


 「そこら辺は簡単に想像出来るな。じゃあ、単に魔法使いが居なくなっていくだけか?」


 「現在がまさしくその状態ですね。ですが魔獣は普通に生まれています。魔獣の使う魔法擬きも効果は高いままです。ですので、結果として人族は相対的に弱くなっていると言わざるを得ません」


 「いつかは、国の兵隊が集まっても、魔獣に対抗出来なくなると言う事か」


 「いつか、と言うか、既に、と言うべきでしょうね。例えば魔力溜まりが濁れば結果としてヒール、スタミナタブレットが作れなくなります。さらに、コレが本題なのですが、従魔石の劣化版である服魔石を作る事も出来なくなります。かなり魔法の素養を必要とするようですので」


 「どんどん手札を失っているワケか。魔法使いをここで教育出来ないのか?」


 「大元の魔元が薄くなり、濁って行っていますので、教育云々の話では無いですね。逆にシアラさんに神様から神託でも得られないかと期待する所なのですが」


 「わ、私ですかぁ?」


 「ああ、失礼しました。創造神では無く、魔法の神様のような存在と接続できる方で無いと得るものが無いかも知れませんね」


 「魔法の神様って、何してるんだろうな?」


 「そうですね。魔法が発展したのは喜んだのかも知れませんが、結果として世界樹を失ったワケですから、人族に対して呆れているかも知れませんね」


 「ああ、あたしでもそう思うわ」


 「創造神様も愁うワケですねぇ」


 「まぁ、そんな訳ですから、服魔石については少しお待ちください。何か別の方法があるかも知れませんし、解決方法が見つかるかも知れません。私もこの世界から魔法が失われるのは非常に良くない状態だと考えますので」


 「うーん。従魔は従えてみたいが、とりあえずは諦めるか」


 「ああ、何でしたら、この子達をお貸ししましょうか?」


 「「えっ?」」


 「貸すって、譲渡できないんじゃ無かったのか?」


 「ええ。まぁ、この子達だからこそ出来る裏技と申しますか。基本、私が従魔にしましたので、私に服従します。それは変わりません。ですが私の命令で、アミナさんに従え、と命令すれば、アミナさんに従ってくれるという訳です。もちろんアミナさんの命令よりも私の命令を優先するワケですが」


 「い、いいのか?」


 「審判の森を抜けて街に帰り着くのも危険が伴いますし、魔石も一緒にお渡ししますので、不都合が起きましたら魔石を砕いてくだされば、この子達はここに戻ってきてくれます。この子達ならば、魔石に入れっぱなしでも不都合はありませんので、負担はほぼ無いと思いますが」


 どうでしょう? と聞く前に、五人は頭を寄せ合って相談を始めた。


 「皇女殿下も、ケジメを付けに戻ると言うので有れば、そうですね、ウマウマあたりをお貸ししましょうか?」


 「い、良いのですか?」


 実はずっとウマウマを狙っていたのは気付いていた。見て見ぬ振りをしてただけだ。たぶん五人も気付いてただろうな。


 そして、改めて五体の能力の説明をする事になった。


 それぞれ特殊能力がありすぎて、説明をしっかりしておかないとどんな混乱が起きるか判った物では無い。


 で、さすがにドラドラは連れていけないとなり、トラトラも見た目が怖すぎるとなった。よく見ると可愛いのに、と言うのはケーゴだけの意見では無かったようだが。

 そしてアミナ達はウルウルとトリトリを連れていく事になった。皇女殿下はウマウマだ。


 ウルウルは単体では狼の魔獣の中では一番強い存在という事になるが、他の神獣と比べると力は落ちる。それは群れを統率する能力に高いポテンシャルを与えられているために、単体で力がある必要は無いと判断されたためだ。だが、人族であるアミナ達も群れの一員と成せば、その統率力でアミナ達の戦力を大きく引き上げてくれるだろう。

 トリトリは無敵の火の鳥だが、狭い環境ではアミナ達にとっても諸刃の剣にしかならない。使いどころが難しい従魔という事になる。


 ウマウマは直線の走りに関しては敵無しではあるが、そのせいで細かい方向転回は苦手になってしまった。通常はウマウマに最高速度を出させない様に抑える事が重要になる。


 それぞれの魔石を渡し、返納は百年後でも二百年後でも構わないと言っておく。子供や弟子に託しても構わないと。


 ドラドラとトラトラを魔石に収納し、クマクマと一緒に店に戻る。七人は従魔と戯れているので夕食の準備までは好きにして良いと言っておいた。


 店で誰もいない事を確認してスマホを確認する。


 チャットで今後の事を相談したかったが、メールが入っていたのでまずそちらを読む。


 【件名:考え中

  本文:服魔石というのはどうかと思うけど 今はまだ いいや それと やっぱり 魔力関係は何か考えないとね 世界樹が成長しても 人が居なくなってたら意味ないし 繋ぎとして 人が魔法を使い続ける事が出来ないか 考えてみるよ もう少し待ってね】


 とりあえず、相談するのはある程度考えがまとまった後で良い、とケーゴも納得し、その兼は保留にする。そして開くのは古物商ツブツブ屋のサイトページ。


 ツブツブ屋で売っている魔石を利用して動く魔道具を物色してみる。


 そして魔石動力で回転する道具を見つけた。つまり魔石モーターだ。


 早速いくつか取り寄せてみる。


 古物商ツブツブ屋だから、基本は中古品だ。だが、仕組み自体は経年劣化の影響を受けにくいモノだった。つまり、導線と術式を刻んだ魔石と、動力源になる魔石、さらに動かす仕組みだけだ。


 基本的に、汚れは付くが『故障』する仕組みは無かった。


 魔石モーターの場合は羽根が付いた軸が有り、その羽根と周囲に反発を意味する術式が描かれている小さな魔石が組み込まれている。その魔石に導線が付いて、大きな魔石と繋がって居るだけだ。


 その道具を持って、魔石にほんの少しの魔力を流すと、それに刺激されて魔石の魔力を導線送る。すると反発術式が起動して羽根が付いた軸が回転する。

 仕組みはほとんど電気で回るモーターと同じだ。


 他にも無いのかと見てみると、ゴーレムの腕だけのパーツがあった。これは修理用か、それとも壊れたのでパーツ取りで剥がされたのか。


 コレも取り寄せて、簡単に分解してみると、指定された位置に移動するだけの術式だった。モーターという回転の仕組みを使わなくとも、腕を曲げたり伸ばしたり出来る仕組みだ。


 他にも熱を発生させる物。熱を奪う物。認識としての目、耳、角度の認識や接触の認識、温度の感知もあった。


 さっそくケーゴは、魔石に刻まれた術式をノートに描き写し、その解説文も丁寧に書いていく。ついでに、描いた術式はスマホで取り込んで、テキストも入れて、ノートと同じ物を作っていく。


 ケーゴとしては、これで冷蔵庫、温蔵庫、エアコン、洗濯機、水の汲み上げ器、コンロなどが出来ると喜んだ。


 さっそく、先ずはコンロを試しに作ってみようと考えて、カセットボンベ方式のコンロを購入した。そのガス関連の仕組みを取り除いて、魔石その他を組み込むつもりだ。


 熱発生部は、術式を刻まれた魔石から少し離れた部分というのが判り、断熱素材を敷いた上に魔石を固定して出来上がった。


 しかし、想定通りに熱を発生して湯を沸かす事も出来たのだが、作動させる魔石に触れていないとならないのは手間だった。


 「これが魔道具がいまいち流行らなかった原因とか? いや、ゴーレムとか拡張箱とかが有るんだから、魔石に触れていないと発動しないってのは安全措置と考えるべきか」


 そこで魔石に描かれた術式を見比べてみる。そして認識関連の術式に、動作のオンオフスイッチを見つけた。


 「結構簡単に描かれてるな。判りやすさを基準にしてるのか、それともコレが精一杯だったのか?」


 そこで、ケーゴなりの解釈で図式を描いてみるが、魔石に刻みつける方法で躊躇した。


 「素直に金具で削っていっても良いのか? それとも特別な道具が必要なのか?」


 困った時は検索! と言う事でスマホを検索モードにする。


 【削るだけなら何を使っても大丈夫! 削った溝に特別な物を流し込む時もあるので 削り方には注意】


 となっていたので、通販で太めの鉛筆の様に持てるミニルーターを購入。USB接続の電源でも可能だったので、モバイルバッテリーもいくつか買って充電しつつ作業を始めた。


 『ルーターって、俺が死ぬ間際はプラモや個人の木工関係でよく使われるアイテムになってたけど、俺個人としては、歯医者の思い出しか無いんだよなぁ』


 と、半ばヘコみながら、商売の取引として引き取った魔石の一つに術式を刻み込んでいた。


 ルーターは付け替える刃の種類が多くあったので、幾度かの試行錯誤の後、最適な細長いツールを見つけて作業は終了した。


 「あれ? もしかして、発電する魔道具を作れば、色々終わってたんじゃね?」


 と間抜けな感想を言うケーゴであったが、発電できても定量の合わない電流をそのまま流す訳にもいかないので、別の手段を間に入れる必要がある事は、この時は気付いていかなかった。


 そして一応完成。


 一度触れるとスイッチが入り、もう一度触れると切れる仕組みを追加したコンロが出来上がった。


 簡単に点火して、消してを繰り返す。問題無し。


 「後は温度調整と安全装置か」


 強火、中火、弱火ぐらいの選択は欲しいと考える。さらに、昔、お湯を沸かそうと火を付けて、そのままテレビを見ていたら火を付けた事を忘れていた、と言う苦い記憶を思い出し、異常高温検知や連続稼働チェックも絶対に入れようと心に決める。


 温度感知とカウンターの術式は存在する。問題はどこの温度を測るか。


 「そう言ったことを計測する、実測用試験機を作って調べるしかないか」


 理屈で考えても実用には向かない方式はいくらでもある。なので強行するのは悪手だとして、搭載する前に実験を繰り返す事にした。

 丁度、実験材料は多くいる事だし。と言う本音は心の奥に秘める。


 コンロにも搭載する予定の、カウンターの実験機も作成してみる。


 小さく砕いた魔石に術式を刻み込んで、大きな魔石から魔力を貰い、ただひたすら、数字の一の足し算を繰り返していくだけ。


 一番初めの試作機は、ひたすら足し算をしているはずだったが、それを表示する仕組みが無かったので、何をやっているかも判らない物になった。


 「まぬけだ…」


 自分で言って、少し気が軽くなったケーゴであった。


 まぁくつぅは一つカウントされたら一回腕を上げる、と言うのを繰り返す方式にした。


 そう。カウンターが早すぎて、腕を上げっぱなしになって動かなかった。


 「おばかだ…」


 三号機はぜぇたちゃんと名付けて、百カウントに一回だけ腕を上げる仕組みにした。


 「携帯のバイブレーション機能に使えるな」


 だぶるぜっと君は、三千回に一回の割合にした。


 「これでやっと、一秒に一回か。厳密に言えば一秒でも無いんだろうけど」


 ちなみに、全て、小さいとは言え、魔石にルーターで溝を掘って作ったモノだった。


 「回数を指定出来る仕組みがあった方が良かったか? それとも今回のように一つ一つ作った方が効率良かったのか? どちらが作成的に得だったか判らないが、とりあえず練習にはなったな」


 と自分を慰めるケーゴであった。


 そこに侵入者警告。


 道具類は出しっぱなしで外に出て、クマクマと合流して侵入者のところへ向かう。そのケーゴを見た皇女殿下がクローナを後ろに乗せたタンデムでウマウマと共に近づいてくる。他の五人はいない。別の場所で遊んでいるのだろう。


 「店長? アミナさん達を呼びましょうか?」


 ルイナル皇女がそう聞いてくるが。


 「いえ。クマクマもいますし、いざとなればドラドラもいます。皆さんの手は煩わせる事は無いでしょう。皇女殿下も下がっていてくださるようお願いします」


 そう言って侵入者と対峙するケーゴ。


 ケーゴの前には、赤い皮鎧を着たように見えるカバがいた。


 カバだ。河馬とも書く。ヒポポタマスとも言う、あのカバだ。


 鎧を着た河馬、と言う字面から見ると、恐竜の一種にありそうな感じだが、鎧のデザインがどう見ても人族の考えたような意匠なので、恐竜とは全く関係無いのは直ぐに判る。どちらかというと、人族の儀礼用の皮鎧を無理矢理装着された被害者にも見えてしまう。


 しかし、実際は神獣だ。鎧も、単純に皮が厚くなっただけ、と言うワケでは無いだろう。


 まだフィールドは張っていないので戦闘状態じゃ無い。なのでこの隙に鑑定をしてみた。


 【神獣 水の神が聖域の守護獣として作った神獣 水身と実身を切り替えられる 実身が傷ついても水身になれば修復される 水身の炎が全て吹き飛ばされると大ダメージを受ける 淡水の水の中でならほぼ無敵だが、水で身体を浮かす事が出来ない地上では動作が緩慢になる 食事も睡眠も必要無いが 水状態を維持するには体力を必要とし自然回復には時間がかかる 食事で回復させる事が可能 水草などが好み】


 「なるほど。水や風と同じように、状況に左右されるという訳ですね。では遠慮無く行かせて頂きます」


 そしてフィールドを展開し、互いに戦闘モードになる。


 ケーゴは警棒型のスタンロッドと射出型のスタンガンを持って、クマクマと前に出た。


 そして意外な速い速度で河馬が突進してくる。その勢いにクマクマと分断されてしまった。当然カバはケーゴを狙うが、その尻にクマクマが張り手を入れる。


 しかし、やはりと言うか、クマクマの張り手は分厚い皮鎧に弾かれて終わった。


 カバは大きな口を開けてケーゴに迫るが、ケーゴは余裕でスタンロッドを鼻先に叩き付ける。


 その電撃にカバの身体全体が跳ねる。


 スタンガンは、電撃だけの威力では十歳児相当のケーゴの身体であっても浮かす事も出来ない。しかし、電撃を受けた者は、全身を回る電流という、神経伝達に衝撃を与える刺激で全身の筋肉が激しく痙攣する。


 つまり、スタンガンを受けた者は、自分でも予期しない方向へ、自分で跳ね飛ぶのだ。


 瞬間的にだが、モノを考える頭脳も混乱し、手足の感覚どころか身体全体の情報も判らなくなる。


 微細な電気信号で思考して身体を動かしている生物の、絶対的な弱点の一つだ。


 短い時間だが、完全な身体制御の放棄は、致命的な隙になる。


 倒れたカバの首元をクマクマが噛みつき、喉が潰れて行っているのではないか、と言う音が響く。さらにクマクマは大きく振りかぶった張り手をカバの頭に何度も叩き付ける。


 クマクマの判断では、それが必要なのだろう。


 純粋な二頭の獣同士の争いに、皇女殿下もかなり引き気味だ。


 そしてカバが動かなくなった。だが荒い息は繰り返しているので、死んだ訳ではなさそうだ。


 そこにケーゴが走り寄り、カバの目の下に手を添える。


 「我に従え、其の名はカバカバ」


 直ぐに魔石に収納されるカバカバ。しかしケーゴは直ぐに召喚する。


 「ヒールタブレットとスタミナタブレットです。直ぐに飲んで!」


 大きな口が開いたので直ぐに放り込むと、小さなタブレットを器用に飲み込んでいるのが判った。


 暫くし、起き上がったカバカバが一回だけ身体を振って体調を確認したのを見て、ケーゴも息を吐いた。


 「これからよろしくお願いします」


 そう言ってカバカバを魔石に収納した。


 そこへ皇女殿下が寄ってくる。


 「店長。その、なんと言いますか、大変ですね」


 「もう少しすれば落ち着くはずです。お騒がせして申し訳ありません」


 「あ、いえ。わたしたちの方は良いのですが、それよりも店長の方が大変なのでは無いのですか?」


 「まぁ、あの子達も可哀想な子達ですので、これぐらいなら軽いモノですよ」


 心配ないですよ、と言う意味を込めてにっこり笑って言う。しかし、心の中では、本当に悪いのはアイツだがな! と悪態を吐いていたのは、知る人ぞ知る事だった。

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