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不思議屋へようこそ  作者: I.D.E.I
19/19

19  世界の未来

この話で『不思議屋へようこそ』は一応の完結とさせて頂きます。ここまでお付き合い頂きありがとうございました。


------------------------------

 「ちなみに、この世界、かつては魔法が広く普及していましたが、調子に乗った国や人によって大戦争が起こってその技術はほとんど失われてしまいました。その中には、排泄物を処理する魔法も有ったのですが、それを再度普及させる方向で調整中です。まだ一般的ではありませんですが」


 ケーゴにしてみても、衛生に関する技術は出来るだけ早く普及させたい。しかし無理強いしても空回りするだけなのでしっかり段階を踏もうと考えている。


 「それと、現在、魔法について新たな試みを行い始めた所です」


 そこで、以前の魔法国家が魔法力を独占するために世界樹に手を掛けてしまい、世界樹が失われたせいで世界に循環していた魔素が濁り始めている事。そのために魔法使いたちでさえ魔法を使いにくくなっている事を説明した。


 それに対処するため、神殿で魔素を浄化する仕組みを取り入れ、見返りとして神殿に魔力を奉納すれば、新しい体系の魔法を取得しやすくする仕組みを作ったことを話した。


 「丁度良いですから、ここにいる全員で神殿に行って見ましょう。この屋敷の直ぐ隣にありますからね」


 「あの、わたしたちもでしょうか?」


 ルナテリアが聞いてくる。


 「はい。多少疲れるのですが、一日の終わりに奉納する事を続ければ魔力操作やヒールぐらいは取得出来ますよ」


 ヒールは魔力操作から数えて六番目なのだが、ケーゴは簡単に取得出来るような事を言った。実際、この聖域にある神殿でなら街に設置する予定の魔力浄化装置よりは効率的に取得出来るので、あながち間違いでは無いのだが。


 そして全員で神殿に行き、創造神のシンボルの右、斜め前にある魔力浄化装置の前に立つ。


 「コレが魔力浄化装置です。コレに手をつき、身体の中にある力を譲渡するつもりで力を込めれば、魔力というモノを理解出来る様になるはずです。理解にはある程度感覚的なモノを感じ取る能力が必要なのですが、数回繰り返せば判るようになります」


 先ずはルナテリアとマリカが試すことになった。


 装置に手をつき、祈るように目を閉じる。


 「あっ」


 ルナテリアが一瞬声を出したが、何事も無く手を放して終わった。


 「いかがでしたか?」


 「はい。体力は移動しなかったのですが、確かに魔力だけが移動して吸い込まれました」


 「はい。私も同じように感じました。これは魔力の喪失からくる疲れでしょうか? 体力は減っていないのに動かす気力が出ない様な感じがします」


 ルナテリアに続きマリカが答える。


 「はい。正常に魔力の譲渡が行われたようです。次からは、移動する魔力の量を絞って、ゆっくり譲渡するとか、一気に送り出すなどの動きを加えれば、魔力操作のコツがよく判るようになるはずです」


 「はいはーい。その魔力吸収装置は、単純に魔力移動が判りやすいようになってるだけだから、魔力譲渡の時に悪戯しても大丈夫だよ~」


 ケーゴが安心させる目的でルナテリアたちに答えたのをフクロウのフクフクが引き継ぐ。


 「悪戯ってなによ?」


 ケーゴが頭の上のフクフクに聞く。


 「例えば、譲渡の時に魔力を引き出されないように引っ張るとか、逆に吸い出そうとか。まぁ絶対に吸い出すことは出来ないんだけど、魔力の引っ張り合いをすると、魔力操作の経験値も上がるよー」


 「魔力って体内循環させて鍛えるんじゃ無かったんだ? それとか、魔法をバンバン使うとか」


 「うん。それの方が上達するけどね。でも魔力操作も判らないレベルから始めるなら、コレ使って魔力に慣れてからの方が良いと思うよ」


 「なるほど。導入のきっかけが判りやすい様に作ってあるワケだ。ちょっと試して見ようか」


 「あー! ケーゴはダメー!」


 「ええ? なんで?」


 「なんででもダメなモノはダメなのー!」


 「???」


 フクフクの説明が不自然なので、ケーゴは魔力浄化装置の大部分を占める魔力吸収装置をスマホで鑑定してみる。


 【人の体内魔力の七割を自動吸収する その際 吸収する魔力の流動をフードバックし提供者に魔力の移動を強く感じさせる 魔力操作のレベルに合わせて流路を形成し 状態異常を修正する仕組みを覚えさせる効果がある ケーゴはボクと繋がってるからケーゴが譲渡しようとするとボクの保持している魔力が流れ出て 装置がパンクしちゃうから触らないでね】


 「あ………なるほど」


 フクフクが必死に止めるはずだと確認出来たが、ならいっそのこと、創造神ジワンが世界の魔力の濁りを払ったら良いのでは無いのか? と言う疑問がケーゴの頭をよぎる。


 【一カ所だけで浄化しても焼け石に水だからね 全体的に長く浄化を続けないと意味が無いんだ もしもボクが全部をやるとしたら 世界そのものを書き換える事になっちゃう 下手したら世界バランスが崩れて種族のいくつかが絶滅するなんてこともある 最悪なのは人類絶滅もあり得るから自重しないとならないんだ あ ちなみに 魔法の神や戦いの神 水の神とかが全て集まって力の半分以上を注ぎ込めば一時的には濁りは消えるけど 根本的な解決にはならないんだ それにアノ連中が力を半減させる事をするワケも無いしね】


 「ふむ、なるほど、なるほど」


 「あの? 店長? どうされました?」


 スマホを見て独りごちしていたケーゴをルナテリアが訝しむ。


 「あ、すみません。神の力で一気に濁りを取り除くことをしようとすると、世界そのものを壊してしまうそうなので、中々上手く行かないなぁと考えていました」


 「魔力の濁りとはそれほどの事なのですね」


 「はい。実は大事ですね。ではトアさん、魔力の譲渡を行って見てください。トアさん達のような、あのロボットでギリギリの状態で戦う方々には、魔法による治療は是非とも取得して貰わないと、と考えます」


 「あ、ああ」


 トアが少しだけ躊躇いつつ、浄化装置に両手の平を置く。


 「あ…、引っ張るんだったか…む、強いな、真空バキュームのようだ…」


 「「え?」」


 いきなり魔力の引き合いを始めたトアにケーゴとフクフクが驚きの声を上げる。


 「本当に引き合いしてる」


 フクフクは独自に魔力の流れが見える。なので本当にトアが吸収する装置に抵抗して魔力を引っ張っているのが判った。


 「ふ、フクフク? トアさんの魔法適性ってどんなモン?」


 「えーっと。アレ? もしかしたらいきなりヒールが出来ちゃうかも? む? そこまでは無理かな?」


 ケーゴの頭の上で、片目だけ半眼になり頭そのモノを前に突き出してトアを見つめるフクロウ。中々レアな格好だがケーゴからは見えない。


 「で、どんなモン?」


 「既に流路が形成されてる。大地浄化と植物育成は確実に出来る様になってる。あ、水質浄化も形成された」


 そこでトアが装置から手を放して一息ついた。


 「流石に疲れたな」


 「いかがでしたか? トアさんはかなり魔法のセンスがある様で、この世界の人たちでさえ早くて二十日、平均で四十日程度続けなければ取得出来ないレベルまで到達してしまった様です」


 「あ? そんなにか?」


 「はい。既に汚れた水を綺麗に浄化する魔法は使えるようになっているはずです」


 「うーん。使えるはず、と言われてもなぁ」


 自分の手の平を見つめるトア。


 「今日は魔力をほとんど出し切ったはずですので、試すのは明日が宜しいかと。ではキノさんとティカさんにも試して頂きましょう」


 トアからコツを聞いているみたいだが、感覚的なモノだからコツというモノも無いだろうなぁ、と思いながら二人の準備が整うのをゆっくりと待つ。


 そして先ずはキノから。


 トアと同じように手をついて魔力の引き合いを始める。


 「うわ。魔力的にはトアよりも弱いけど、魔力操作は彼女の方が上手いかも。あ、解毒魔法が流路形成されそう」


 フクフクがキノの習得能力の高さに驚く。


 「トアさんよりも一歩先行っという感じかぁ」


 「あ、今日はここまでだね」


 魔力の譲渡が完全に終わった所でキノも手を放す。


 「疲れたけど、コレ面白いネ」


 「お疲れ様です。では最後にティカさんも」


 「え~? ウチもやらないとダメ~?」


 ここへ来て何故かティカがごねるような言い方をしてきた。ティカとしてはこの魔力譲渡が何らかの罠だった場合の危険回避のためにあえて行わないと言うモノだった。しかし、それはあっさり了承された。


 「はい? 特に強制でも義務でもないので、無理に行う必要はありません。とりあえず魔法の存在と新たな試みとして、このような形式の魔力浄化装置兼用の魔法習得装置がある事をお知らせできれば良かっただけですので」


 その言葉でルナテリアがケーゴに質問してきた。


 「あの、この装置の事はアミナさんたちに?」


 「はい。アミナさん達が地元で落ち着いたら、最寄りの神殿に行って装置を置いてくる様に頼みました」


 「どのくらいで普及、というか認知が浸透するでしょうか?」


 「さて。私も現地の神殿の利権事情は把握しておりませんので、どのくらいになるかは読めないですね。アミナさん達を鑑定すれば現状は判ると思いますが、この場にいない方の鑑定はいささか行儀の悪い行為だと思いますので基本的に行わないつもりですので。とりあえず他の地域にはここを訪れた方々を媒介にして神殿等に置いて貰うように依頼するつもりです」


 「王国は手始め、と言うところですか?」


 「私はここを訪れる方々が多くなると予想しています。それはきっと王国や皇国だけの話では無くなるでしょう。そのための種はアミナさん達やルナテリアさん達が蒔いてきてくれましたからね」


 王国は元より、ルナテリアが騒がせてきた皇国も必死に聖域に人を送るだろう。その動きを周辺国が見過ごすはずも無く、聖域の争奪戦が起こるはずである。しかし、聖域がそれに応じるはずもなく、小出しでも聖域に入れる条件を示していけば直ぐに落ち着くはず。それからが本当の始まりになるのだろう。


 「つまり、わたしたちがこの聖域に来る客人にどう対応するかが、この世界にとってとても重要というワケですね?」


 「正解です。さらに異世界から黒い悪魔などと言う厄介事までやって来ました。なので急がないとならない状況というわけです。この聖域に来て、有意義な何かを取得して帰って行く方々の数が、この世界の命運を担うというわけですね」


 「早く、多く来て貰うための方策などは?」


 「今のところはありません」


 「そ、それじゃ…」


 「あくまでも今は、と言うところです。私もこのまま何もしないで済むとは思っていません」


 「そ、そうですか、申し訳ありません」


 「いえいえ、この世界が滅ぶと聞いていたたまれない、と言うのは充分伝わりました。さて皆さん、今日はもう、だるくて何かを行うのも辛いでしょう。夕ご飯は私が準備しますので、それまで寛いでお待ちください」


 それからトアはキノとティカを伴って機甲兵の整備コンテナを見に行き、そのついでに三人が寝泊まりする居住コンテナの部屋割りをすると言って歩いて行った。


 ケーゴはフクフクに屋敷の個室をルナテリアとマリカに割り当てて、生活用品をケーゴの代わりに通販で取り寄せる様に依頼した。とは言え、ルナテリアたちは収納バッグを持っていて、皇国に戻る前に取得した生活用品のほとんどを持ったままのはずなので、足り無い、もしくは放出してしまった品の補充で良いはずだった。なので、ルナテリアたちが寝床の確保が出来たら、トアたちのところに行ってトアたちの普段着や下着などを提供してきて欲しいとも頼んだ。


 キノとティカは、一応子供とは言え男の子のケーゴに、自らの下着などを頼むのがはばかれるだろう、と言う配慮だった。


 「部下たちに配慮できる上司。これぞ出来る上司! 夢でしか見たことの無かったホワイト企業を目指そう!」


 【                】


 食材の取り寄せのために開いていたスマホが無言のチャットを見せてきた。


 ケーゴは無かった事にして食材を購入していく。さらに食器を平皿を中心に十枚セットで何種類か取り寄せる。今まで食事はカップ麺だけで済ませてきた弊害がここで露わになる。


 テーブルクロスからカトラリーセット、ナプキン、そしてそれらを収納しておくボックスなどを人数分以上取り寄せなければならなくなった。


 「うーん。今回は急な事として台所で済ませるのは良いとしても、正式に座敷にテーブルを置いておもてなしをする方式も確立しておかないとダメだなぁ」


 ケーゴの望む形式は、書院造りの畳敷きの大広間で、畳一畳と同じぐらいの大きさのつやのある黒檀の座卓を置き、中央がへそのようにヘコんだ中綴じがされ、四隅に房がついた大ぶりの座布団を置き、床の間には生け花を置くと言う形だ。


 もちろんケーゴが親と同居で住んでいた家はそんなに豪華でもなかったが、たまに行く田舎の本家では親戚筋が集まるとそんな形式で持て成してくれた。


 ケーゴにとっては憧れであり正式であると感じられる形式だ。あくまでケーゴにとっては、だが。


 そして盆に載せられた料理が入れ替わり立ち替わり運ばれ続ける光景が理想だった。


 もちろん、家族だけで行うようなホームパーティのようなこぢんまりとした形式も好きだが。


 「店長、お手伝いします」


 アレもコレもとあたふたしていたケーゴの元へ、同じ形式のメイド服を着替えたマリカがやって来た。


 「お疲れでしょう? 休んでいても良いのですよ?」


 「いえ、食事の準備の仕方を学ぶ良い機会ですから、こちらに携わる方が落ち着きます」


 「そうですか。ではお願いします」


 そこでマリカにはテーブルを整える方面を頼み、ケーゴは一口大に切った鶏肉や一人前に切られた牛肉や豚肉をビニール袋に入れて、それぞれ別のタレを入れて口を閉じていく。


 ケーゴは作業を続けながら、マリカに食事の形式を色々と説明していく。


 前菜から始まり、一品ずつテーブルに出される形式や、何枚もの大皿で一気にテーブルに出されたのを小皿に取り分けたり、個別に一人前が盛られた小皿がそれぞれに並べられる形式について説明した。


 「食事に色々な形式があるというのは、かなり豊かな国なのでしょうね」


 マリカは一応は貴族と言われる家の出だ。それでも一日の食事は二回で、腹が一杯になるというのは年に一度あるかないかというレベルだった。一般庶民に至っては推して知るべきという、この聖域での食事事情とは天と地程の違いがある。


 「はい。ここに食料生産を学びに沢山来て欲しいです」


 この世界は人の国と人の国同士の戦いは少ない。一番の戦う相手は魔獣だ。単なる獣であれば頑丈な柵を作ることで被害を防ぐことが出来る。だが魔獣だと垂直の壁でさえ楽に登る肉食獣も多い。単なる柵などでは、魔獣の使う魔法で叩き壊されてしまう。


 そう言った理由から農業や牧畜は規模を少なくせざるを得ない。


 栄養価の高い土地があっても、城の城壁並みの壁で守り、熟練の戦士たちによる見回りも必要という状況だ。


 現状は、比較的弱い魔獣が出る方面を選んで開拓し、その開かれた土地を兵士や冒険者が巡回するので精一杯だ。さらに、穀物生産などが豊作になってしまうと魔獣が現れやすくなると言う悪循環もある。


 農村などでは育てる穀物の周りに魔獣が嫌う草花を育てて誤魔化しているが、それでもモグラ型の魔獣やネズミ型の魔獣などの被害で収穫率は高くない。


 「やはり、魔法で結界とか張れるようになって貰わないと」


 聖域に辿り着いた者が結界魔法を習得して帰れば、一気に食糧事情が改善するはずだと考えながら口にする。


 「結界ですか?」


 「はい。ここの聖域のようなモノで無くても、魔獣を入りにくくするだけでもかなり効果的ですよね」


 「確かにそうですね。人が魔獣に怯えなくて済むようになるなら…」


 「あ、ダメだ」


 「はい?」


 大き目の中華鍋をコンロに置きながら、ケーゴは否定した。何がダメなのか判らないマリカが反射的に聞き返す。


 「簡単に結界を張れるようになって魔獣を追い出せるようになると拙いですねぇ」


 「え? 夢のような話だとは思うのですが?」


 「ええ、弱い人にとっては理想的な話です。ですが将来的には人は結界の中に引き籠もり、魔獣と戦う術を無くしていくでしょう」


 人に限らず、生き物は余計な力を使わないようにするのが基本だ。態々魔獣と戦わなくとも余裕で生きていける状況になったら、文字通りの命がけの戦いを繰り返す戦士や冒険者が減っていく事になる。

 余裕が出きて人が死ななくなれば人口が増えていくだろうが、そのために結界を増やして土地を広げていくだけの未来も容易に想像出来る。結果として結界を張れれば良いと言う風潮になり、尚更戦う者が減るだろう。


 その反面、魔獣は生活する場を奪われ続け、凶暴さを増す結果になりやすい。


 凶暴さを増すのは食料になる弱い獣が減るため、多くの獣や魔獣が飢えに苦しむ結果だが、もしも苦しみの中から結界を破る程の魔獣が出現したら人は簡単に滅ぶことになる。


 極簡単にだがケーゴはそう説明した。


 実際は地域によって魔獣が滅ぶ場所も、魔獣全体の力が弱くなる場所も、強い個体ばかりになる場所もあるだろうが、強い個体ばかりになる場所が一カ所でもあれば人族全体の脅威と言う事になるので割愛した。


 「つまり快適な生活は人を弱くすると?」


 「極論ですがそう言えますね」


 一リットルのポリ容器に入った食用油を中華鍋に入れながらそう返答する。


 「では、人は魔獣に苦しみながら生きていくしか無いのですか?」


 「少しずつ強くなって行けば良いのですが、きっかけがあれば知恵を絞って楽をする方法を築き上げていくでしょう。そして痛い目に遭って、滅びそうになる。もしくはほとんど滅んだと言っても良い状態になる。ですが、それで良いのです」


 「良いのですか?」


 「滅び掛けて、失われた技術を再び与えるのがこの聖域の役割ですから」


 「あ、ああ」


 「ホンのわずかでも滅び掛けた事を教訓にして貰うために聖域は技術を教えます。まぁ、この聖域に辿り着く事がその対価みたいな状態ですが、一応は取引という体裁をとりますけどね」


 「そのために、この聖域は世間と隔絶しているワケですね」


 「はい。教訓にならないような滅び方をされると困るので、教える技術は選ぶ事になりますが」


 「なるほど。では結界は教えないのですか?」


 「維持する為に多くの魔石を必要とする魔道具ならばと考えます」


 「結界を維持する為には魔獣を狩らなければならない、と。何か本末転倒な感じもしますが」


 「それぐらいから始めるのが丁度良いと思います。それはともかく、ルナテリアさんはどうしています?」


 油を張った中華鍋を乗せたコンロに火をつけながらケーゴが尋ねる。


 「ルナは、その、ちょっと考え事を…」


 「やはりトアさんが気になっているようですね?」


 「あ、店長もお気づきになられましたか?」


 「目が合いそうになると目を逸らし、そうじゃ無ければ凝視に近い見つめようでしたからねぇ。それをティカさんが視線で牽制していたのがとても面白かった……、あっ、いえ、とても怖かっ……、えー、いえ、とても興味深かったですねぇ」


 「あの、その、申し訳ありません。店長に生涯を誓ったというのに…」


 「え? どうしました? 別に謝る事ではないと思いますが?」


 「ですが、店長のハーレムに入るという約束で色々して頂いたのに…」


 「前にも言いましたが、本意でも無いのに嫁がれるなんてまっぴらです。元々後で約束を翻すつもりだったのなら別ですが、聖域に来て、聖域の従業員になる予定のトアさんに惚れたとなれば、大凡で約束を破ったとはならないと考えます」


 「そうなのですか?」


 「はい。結局は聖域に嫁いできた、と言う事になりますしね」


 「そう言う見方も出来るのですか」


 「トアさんにもハーレムを作って頂きましょう」


 肉をタレに漬け込むビニール袋をニギニギと揉みながらニヤニヤと笑うケーゴに少し引いたマリカであった。


 その日の夕食は山盛り唐揚げ、サラダチキンの混ざった生野菜サラダ、バターロールパン、そしてリンゴ、オレンジ、野菜ジュースとトアたち向けにビールからワイン、ブランデー、日本酒を用意して始まった。


 集まったトアたちは、トアたちの元の世界で着慣れた普段着に着替えていた。


 下着から普段着までフクフクを経由して異世界通販で取り寄せた物だ。トアは始めはこの世界に永住するのならこの世界の衣服を、と考えていたようだが、実際にこの世界の一般人が来ている下着や衣服を見てその考えを捨て去った。それはもう、あっさりと。


 ケーゴの世界の衣服なら大丈夫だったが、この聖域での生活に慣れるまではトアたちの元の世界の製品を使う事で落ち着いた。特に顕著だったのがキノとティカで、トアとは別の部屋で色々と元の世界の製品を取り寄せていた。


 一応そのために、ケーゴ自身が取り寄せに携わるのでは無く、フクロウのフクフクに対応を頼んだワケだが。


 食事内容に対しては、ケーゴの用意した品々で一応の満足を示した。


 欲を言えばトアの世界の調味料を使って欲しかったようだが、それだとルナテリアたちの舌が合わないと考えたようだ。実際ケーゴの味見でも、色々な味が混ざり合った上で調和した濃厚な調味料なのだが、ケーゴの舌でさえ強すぎる味と感じてしまった。もしもルナテリアたちが食べたら、極端に甘いか、辛いか、苦いとしか感じないだろう。


 結局、食事に関してはケーゴの基準で通す事になった。


 後々の話だが、ケーゴの世界レベルの味付けに慣れた頃には、トアの元の世界の調味料をトアたちも受け付けなくなっていた。食材の味付けそのモノが基本的に濃いモノばかりだったという事に改めて気付いたと言っていた。トアの世界でも素材の味をそのままに使う、と言う調理はあるが、大抵は濃い味付けのソースなどで素材の味なのか、ソースの味なのかよく判らなくなる料理が多いそうだ。


 濃い味付けでも、それ自体で理想的な配合バランスを持っていれば濃すぎるという感じを受けないのだろう、とケーゴは納得した。


 その反面、ルナテリアたちに取ってはケーゴの味付けは少しだけ濃いと感じたようだ。


 ルナテリアたちは普段から身体を動かす戦士職であるため、ケーゴの味付けでも旨いと感じたが、文官系の身体を動かさない者であれば濃すぎるように感じたかも、と言っていた。


 「トアさん達には濃いめの味付け、ルナテリアさんたちには薄味を心がければ良いですかね」


 「いや、そこまで気を遣わなくても構わない。俺は料理に関しては門外漢だが、キノとティカなら…」


 トアがキノとティカを振り返ったと同時に二人は同じタイミングで視線を逸らした。


 「…あー、世話になる」


 トアは直ぐに諦め、ケーゴに頭を下げた。


 「はい。幸いこちらのマリカさんが私の料理に興味を持ってくれましたので、二人で回していこうと思います。それにいざとなればある程度の出来合いの物やジャンクフードなども購入出来ますしね」


 「ジャンクフードか。なら、ベイスとかも購入出来るのか?」


 「ベイス、ですか?」


 聞き慣れない言葉に、ケーゴはスマホを取り出して通販サイトで検索する。するとチョコチップクッキーで作ったハンバーガーのようなモノがヒットした。商品名はベーファ社のベイスと表示されており、カロリーとフーム味という謎の味の表示もあった。


 面白そうだとケーゴは十二個を購入してみる。


 「これですか?」


 「あ、あってるが、多過ぎじゃないか?」


 ハンバーガーサイズのベイスが十二個は流石に多かったようだ。


 「どうせなら皆で味見をしてみようと思いまして。まぁ余ったらトアさん達の宿舎の保存庫にでも入れて置いて、おやつ代わりにしてください」


 そしてルナテリアたちをも巻き込んでの味見大会になった。が、ケーゴ、ルナテリア、マリカは一口で撃沈した。


 「な、な、な、なんですか、この、一口だけで色々な味が押し寄せる嵐がごとき味覚の暴力は!」


 ケーゴが悶えながらもようやく味の感想を紡ぎ出す。その内容にルナテリアたちも同じように悶えながら頷いて同意する。


 「あー、やっぱりなぁ」


 「やっぱりなぁ、って…」


 「すまん。言うタイミングが無かったが、コレは俺たちの所でも問題になった食い物で、成人前の子供には禁止にするかと議論が盛り上がっていたジャンクフードなんだ。だが一部の者たちには人気で禁止論に真っ向から反論して大騒ぎになってる。そんなモノでも取り寄せる事が出来るか、と聞きたかっただけなんだが」


 「な、なるほど…。ではコレは保管しておいて、機会があれば武器として使用しましょう」


 「武器って…。まぁ判らなくは無いが」


 「え~? おいしいよ~?」


 撃沈しているケーゴたちを尻目に、ただ一人黙々とベイスを食べていたティカが不思議そうに聞く。当然残りの全員の注目を集める事になった。


 「確かに総合評価する味としては美味しいと言っても良いのだと思いますが、全ての旨味を一気に味わっているような暴力的な味なのですが?」


 「え~? おいしいよ~?」


 「そうですか、はい」


 諦めた。


 ケーゴは残ったベイスを全てティカに渡し、自分たちが一口囓ったベイスは泣く泣く廃棄処分する事にした。


 「食べ物を粗末にしてごめんなさい。食べ物を粗末にしてごめんなさい。食べ物を粗末にしてごめんなさい」


 ブツブツと呟きながらゴミ箱用にした段ボール箱に入れていく。


 「食い物を粗末にするな、と言うのは判らなくも無いが、随分と神妙だな」


 「この世界。ほとんどの者たちが飢えています。このベイスでも口に入るのであれば頭を地面にこすりつけてでも欲しがる者も多いのが現状です。まぁ、無理をする必要はありませんが、出来るだけ無駄にはしたくないですね」


 「そうか。すまん」


 「いえ。美味しい食事を教えて、食に対する意識を上げるという対策もとっていますので徐々に改善する見込みです。改善……するといいなぁ…」


 「大丈夫です! 店長! きっとアミナさん達が料理を広めてくれます!」


 ケーゴがヘコんだ仕草をしたところでルナテリアが勢いよく励ましに来た。


 ルナテリアはケーゴとマリカが話していた結界の事は聞いていないので、料理だけがケーゴの成した手段だと思ったようだ。結界の魔道具についてはフクフクと詳しく話し合うつもりなので、あえてここでは話さなかった。


 「ありがとうございます。アミナさん達には期待しています。それはともかく、トアさんたちの世界での食事事情をお聞かせくださいますか?」


 既に夕食は終了し、マリカが皆の食器を片付け始めた。ケーゴはテーブルを布巾で拭きつつ、お茶の準備を始めながら聞いた。


 トアによると、食糧自給は需要を大きく上回っているそうだ。基本的に大企業が工場という形態で農作物を栽培して、ほとんどの作物で人の手が入らずに出荷される。同時に化学的合成での食品も多く出回り、自然界には存在しない食材も当たり前の様に流通している。先ほどケーゴがのたうち回ったベイスもその一つだそうだ。


 そして余った食材は分解して合成用の素材にするらしく、無駄に廃棄する事もないそうだ。


 「無駄にしないというのは良いですねぇ」


 「合成素材は薬品、衣服、燃料などに作り直せるから、備蓄素材としても優秀だな」


 「私から考えたら、その状況で戦争をするなんて意味ないような気がしますが」


 「単純に領土拡大だな。なかなか人が死ななくなった上に個々人が良い暮らしを望むようになった。しかし生活を支える仕事自体が少なくなって、あぶれる者も多くなった。結果として、人の命は何よりも軽くなった。倫理的な問題はあるから細心の注意を持って人命保護の処置を施されているが、戦争の目的は領土拡大と口減らしだ」


 「なるほど。食料品の価格から比較して、戦争でしか使わないはずの兵器類が安いのはそのためですか」


 戦争に使う兵器は、いかに相手を出し抜くかに掛かっている。殺戮用の兵器であり、しかも自分の陣営には被害を出さないと言う理想を相手の軍隊も求めてくるのでイタチごっこの繰り返しだ。故に兵器の開発は多くの金と時間を要する事になる。


 それが技術的なブレークスルーが起こらずに頭打ちになった時点で低価格化が始まった。


 倫理的な問題は多くあるが、使い捨てにしても余る程人は多い。結果として戦争規模の拡大が起こり、恒常的な戦争の繰り返しが当たり前の状況になり、さらに兵器のコストダウンが行われた。


 「食い物や物資と言った事には不自由しないが、俺たちの所も殺伐とした世界って事だな。まぁ、一部の連中は平和と幸せを謳歌してるがな」


 「それは何処も同じ、という感じですねぇ。トアさん達の世界では、成り上がりや下克上は無理ですか?」


 「チャンスがあるのは軍人のみだな。だからこそなり手には事欠かない」


 「今回の件も、それが仇になった、と言う事なんでしょうねぇ」


 軍人が出世欲に駆られて禁忌や倫理を無視した行動に出た、と言う話には事欠かない話だろう。特にトアの世界なら尚更だ。


 「あの、トアさんは元の世界ではどのような生活をしていらしたのですか?」


 ルナテリアが聞いてきた。


 「どのような、と言われてもな」


 トアたちにとっては当たり前の状況を説明するのは逆に難しいのかも知れないと、質問をケーゴが引き継ぐ。


 「トアさん達のご両親は、今は?」


 「ああ、たぶんどこかで生きてるんじゃ無いかな。二人とも軍人だから、死んだとしても連絡が直ぐに来るとは限らないしな」


 トアによると、トアの国は成人に対しては保障があって最低限の生活をするだけなら困らない。最低限から抜け出したければ働かなければならないが、個人の能力に見合った職はなかなか見つからず、結局は軍人になるしか無い。


 幼児に対しては保障は存在せず、保護者に一任される。つまり子供を持つのならば仕事をしなければならない。しかし、そのための職は軍人以外は狭き門なので、子供を養護施設に預けて軍務につくのが一般的だ。さらに軍人で無くとも共働きなら預ける形態が出来上がり、一部の上級市民以外の一般人はほとんどの養育を任せっきりにする習慣になっていた。


 トア自身も幼少期は同年代の子供たちと共同生活をし、偶に親の休暇に合わせて親と過ごす時間があっただけだった。


 それでも親子の情はあったが、トア自身が成人してから軍人になった段階で、関係は薄くなった。


 お互いが軍人であり、所属部隊が別の状態ではメールにも検閲が入るので、軍事機密の塊である宇宙戦艦に乗っている場合は知らせる話題もほとんど無い状態だ。無理に連絡を取ろうとしても、『元気ですか? 自分は元気です』と言う文しか書く事が無い。そんな内容も中継基地をいくつもたらい回しにされるので、数ヶ月前の情報というのも良くある。


 トアも入隊してから、『入隊した』と言う連絡は入れたが、それ以後は互いに連絡を取っていない。


 トアが幼少期に両親に聞いたところ、その両親も同じような境遇だったらしい。


 「何と言うか、軍人の養殖場のような国ですねぇ」


 「上手い事を言う」


 「いや、その返答はどうかと思いますが」


 「軍人になって戦いの中で死を意識すると、子供を作って残したいと言う欲求が湧き上がるらしいしな」


 「その理屈は判りますが、ほとんど生物的な欲求のみで子供を増やしているだけですよね?」


 「大筋はそんなモンだな。一応は避妊薬や精力剤、感度上昇薬とかは出回ってるし、欲求を処理するためだけの行為自体は互いの了承があれば問題無いんだが」


 「ますます欲求の吐き捨て場状態ですねぇ。トアさんもキノさんやティカさんとそう言った関係に?」


 「いや。表向きには三人での恋人関係という事にしてあるが、言い寄られる二人のための避難所的なモンだからな。別にそうなったとしても良いんだが、特にそう言ったきっかけが無かったしなぁ。二人が良い相手を見つけたらそっちに行って貰っても構わないし」


 「おや? トアさんはお二人に興味が無い?」


 「二人とも器量好しだから、好いて貰うのは嬉しいぞ。ただ、今までは何時死ぬかと言う状況で、気持ちを持って行かれる事が怖かった、ってのがあったからな」


 「なるほど。肉欲に溺れて戦いがおろそかになる心配があったと」


 「言い方…」


 「言い方はともかく、トアさん達が落ち着いたのならここで子供を育てながら仕事をする、と言う状況を真剣に検討して頂きたいと考えますが」


 「むぅ。俺が子供を持つ…かぁ。お、俺はともかく相手のある事だからな」


 「それでは聞いてみましょう。ティカさん。トアさんとの間に子供を作って育てていきませんか?」


 「ふぇ? う、ウチ? え? いえ、その、いや、あの…」


 「期待してたのにいきなり直撃したから焦ってるネ」


 慌てふためくティカをキノがからかう。


 「ティカさん? トアさんと裸でネチャネチャ、グチュグチュ、グニグニ、モニュモニュした生活を想像してみてください」


 「………」


 ティカはケーゴの台詞で顔を真っ赤にして、手で顔を隠しながらテーブルに突っ伏した。


 「おっさんか? お前は! あ、いや、おっさんだったな」


 「失礼な。コレでも精通前の美少年ですよ?」


 「精通…、してないのにそれかよ」


 「精通した暁にはハーレムを作るために邁進したいと考えています」


 握りこぶしをグッと掲げるケーゴであった。


 「…好きにしてくれ」


 「ハーレムとか、ませたガキネ」


 「理想的な遺伝子だそうでバンバン子供作って全世界にバラ捲けと言われていますからねぇ。トアさんもどうです?」


 「お、俺ぇ?」


 「はい。良い面も悪い面もあるでしょうが、遺伝子情報の冗長性を高めるためにも別の世界で長く生きた遺伝子はとても貴重です。そんなトアさんには最低でも三、四人ぐらいは娶って貰いたいと考えますが?」


 「い、いきなりそんな事を言われてもなぁ」


 「そうですね。トアさん達にはあまり馴染みのある事ではないのでしょうが、親が子を育てるというのは肉体的にも、精神的にもかなりの重労働です。それでも自分の子供ならば耐えられ、幸せを感じると言うのが親というモノですが、いきなりその覚悟を持て、と言うのは酷なのでしょう。先ずはネチャネチャ、グチュグチュ関係から始めるのが良いでしょうね」


 「い、言い方…」


 トアの抗議を受け流しつつ、ケーゴは異世界通販からトアたちの世界の避妊薬や精力剤、感度上昇薬等を取り寄せる。ケーゴ自身も興味があったからかなりの数を一気に購入する事になった。


 「コレは十日に一回の飲み薬タイプの避妊薬ですね。コレは三ヶ月までなら安全に流せる薬ですか。こちらは子袋に押し込むと次の生理まで効果があるものですか。今回は取り寄せ無かったのですが、女性が子を成す能力を完全に無くしてしまう薬まで取り寄せ出来るのは驚きでした」


 「あの、店長、宜しいでしょうか?」


 マリカが配られた避妊薬や精力剤を見ながら聞いてきた。


 「はい? なんでしょう?」


 「これらの避妊薬はこちらの世界でも作る事が出来るのでしょうか?」


 「いえ。前にお渡しした男性専用精力剤と同じく、こちらでは作るのは難しいでしょうね」


 「そうですか。皇国でも貧しい者の中には身体を売る女性も少なくありませんので、その女性たちの一助になると期待したのですが」


 「そうですね。弱い毒草を多めに飲んで、酷い体調不良を意図的に引き起こして流産させるとか、意図的に死産させて強引に流してしまうなどの方法もあるのでしょう。ですがそれらは、元の身体に戻る事は稀で、ほとんどは直りきらない体調不良を抱えたり、結果的に死んでしまう事の方が多いというのが現実ですね」


 「はい。中には孕む事が無いという触れ込みの薬もあるそうですが、大抵は偽物らしいです。そして孕んで、無理矢理流して、結果として苦しみながら死んでいくそうで、街で情報収集を行うと十に一つはそんな話が聞こえてきます」


 流れた後生きていれば、ヒールタブレットを使って体調を戻す事も出来るが、身体を売るしか無い女性に高額の魔法薬は手に入れる事は出来ない。


 「ちょっと待ってください。フクフク。妊娠しないようにする魔法って構築可能かな?」


 台所にある棚の上の方で眠っているように見えるフクフクにケーゴが聞く。


 「以前の魔法大国にはあったよ。精力増強、狂乱するぐらいの感度上昇や媚薬効果みたいなのから、無理矢理惚れさせるとかの外道なのもあったね」


 「魔法大国が滅んで良かった、と言うのは不謹慎でしょうか…」


 「変な生物をいっぱい作ったり、末期には敵国の人を直接改造とかしちゃってたからねぇ。僕も滅んで良かったと思っちゃうよ」


 「で、その避妊魔法は他の効果に変更出来ない様にしつつ、あんまりお金を持っていない人たちでも入手出来る様にってのは出来る?」


 「他の効果って?」


 「永久に妊娠しなくなる、とか、無理矢理に妊娠させるとか。それと魔法で流しちゃうのも出来ない様にとか媚薬系に改造も出来ない様なのがいいなぁ」


 「えーっと、ああ、誰かが他人に掛けちゃう事が問題なんだね。うん、確かに拙いね。すると、うーん、術式も、魔道具も魔法薬も応用されちゃうかぁ」


 フクフクはフクロウらしく頭全体をクルクルと回しながら悩んでいる。


 「直ぐじゃ無くて良いから、考慮に入れておいて」


 「判ったー」


 そこでケーゴは姿勢を改める。


 「まぁ話は逸れましたが、トアさん達には私と一緒にここで働いて貰って、私の活動を助けて頂きたいと思っています。その上で、子供を育てていける環境である事は考慮の一端と思って頂ければ、と考えます」


 「ああ、一応その方向で考えてみる」


 そして今後の大雑把な方針を考える。


 まずはトアたちがこの世界になれる事が大切と言う事で、機甲兵を夜中に静音飛行させて移動し、聖域周辺の街を見て回る事を推奨した。その案内はルナテリアとマリカが勤め、ルナテリアたちには戦闘機動は絶対に行わないという条件で無人機の二機に乗って貰う事にした。聖域には一機の無人機が残り、ケーゴの守りを担当する。


 成獣が居るとは言え黒い悪魔との戦闘はかなり無理があると考えられるからだ。


 そして二十日から三十日程度でトアたちに一応の確認をとり、その後に本格的に従業員になってもらう、と言う事にした。


 気がかりなのはその時間で黒い悪魔がどのような進化を遂げるか、だった。


 単純に分裂して襲ってくるだけなら対応は簡単だ。だが、ロンゴや共和国の宇宙戦艦、その艦に乗っていた幾人もの乗員を取り込んだモノが、単に分裂して襲ってくるだけとは考えられ無かった。


 当然この世界の人々や魔獣たちをも取り込んでいるだろう。


 この世界の神であるジワンも、時間は掛かるだろうが、何らかの進化の準備をしているとの兆候は感じていた。


 しかしケーゴやトアたちだけで対応出来る規模では無いのは、トアたちの戦いの結果を聞いて判っていた。なので世界を巻き込み、世界の人々に魔獣と戦う以外にも黒い悪魔と戦う事も求める事にした。


 そして各国の神殿に魔力浄化装置がある程度行き渡ったところで、多くの神々から神託を下ろす事になった。


 曰く、『人よ、黒き悪魔をこの世から駆逐せよ』と。


 そして天より飛来した黒い悪魔の情報を聖域から各神殿に知らせる冊子を送り、神託を歪んだ受け取り方になるのを防ぐ事にもなった。


 後に『魔王』と呼ばれる事になる黒い悪魔と人との長い戦いが始まろうとしていた。

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これ以上は『不思議屋』と言う店とは関係の無い話になりそうだったので、『不思議屋』の話としては区切りを付けたかった、と言う所が大きいです。

またいつか、この世界の未来を書き足したいと想います。


次回作は現代高校生が通う一つの教室全員が『ばぁちゃる』な世界でMMORPG的な冒険をする物語を考えています。

あ、クラス転移ではありません。チートもありません。現代人ですので犬や猫でさえ倒す事に苦労する感じです。興味がありましたら、そちらでもお付き合い頂ければ幸いです。

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