最終話
2回目の脳死判定を受けた護は、最期に両親に抱きしめられオペ室に向かった。
移植の連絡をもらった麻由も病院に到着すると、オペ室へと向かう廊下をストレッチャーで移動した。
「麻由ちゃん、頑張ってね」
「頑張るのはお医者さんだよ」
「もう麻由ちゃんたら」
「ふふっ、わかってるよ。おばあちゃん」
このふたりをなんとも言えない表情で見守る看護師の姿もあった。
麻由の移植が叶うということは、誰かの一部を頂くということ。
それは決して喜ばしいだけでは済まされない事実であった。
ドナーはもちろん、そのご家族や関係者の気持ちを考えると、麻由の祖母は胸がいっぱいになった。
「どうか命のバトンが繋がりますように……」
そして──
◇◆◇◆◇◆◇
オペから数日が経ち、麻由の包帯が取れる日がきた。
病室のカーテンは閉められ薄暗い中でその時が刻々と近づいていた。
「入江さん、それでは包帯を取っていきますね」
北大路医師が、麻由に声を掛けた。
「はい」
麻由の返事を聞き、北大路医師が麻由の包帯を外し始める。
「入江さん、ゆっくりまぶたを開けてください」
北大路医師が麻由に話し掛けた。
「はい」
麻由がゆっくりまぶたを開ける。真っ暗だった世界に光が差し込んできた。
「入江さん、視力取り戻せているようですね」
麻由の表情を見てそう声を掛けた北大路医師。
「北大路先生はじめまして」
「あはは、そうだね。僕はずっと診てきたけどね」
「麻由ちゃん。よかった。本当によかった」
「おばあちゃん……私」
「何も言わなくていいのよ。たくさん考えたんでしょ? 暗闇でひとり、全部をこの小さな肩で背負って来たんだものね」
抱き合い、声を上げ、麻由と祖母は心から喜びを分かち合った。
移植を無事に終えて視力を取り戻した麻由──
その後、麻由は退院の日程が決まった日に、護の事故のことを聞いた──
そして、射した光の裏にあった真実という名の陰を麻由は知った──
◇◆◇◆◇◆◇
月日は流れ──
休学扱いになっていた大学に一年遅れで復学する事が決まった。
天国から両親や護が見守ってくれて応援してくれてるはず。
そんな3人に看護師になる事を約束した。
「お父さん。お母さん。私、まだそっちにはいけない。こっちでやりたいことを見つけたから。だからさ……見守ってて下さい。胸を張って、顔をあげて、頑張ってるとこを見せるから。ふたりの娘だもん、何だって出来るよね。じゃあ、行ってきます」
麻由は両親の写真が飾られた仏壇に手を合わせ、家を出た。
「おばあちゃん、行ってきまぁす」
「はぁい。気をつけて行ってらっしゃい」
足取り軽く、久しぶりの学校にワクワクする麻由。
──あのね、護。
──今日から大学生なんだぁ。看護学生だよ。
──実習服楽しみだなぁ。看護師さんみたいだもんね。見た目だけなら。
──ふふっ、見せてあげたかったなぁ護に。
──なんて言ってくれたかなぁ。
──見ててね。そこから。
──護からもらったこの光は、私の未来を照らす希望の光だから。