第5話
今日は祖母と二人で、近所のスーパーに買い物へとやって来た麻由。
「あっ、落ちちゃった」
麻由は手に持っていた鞄を落としてしまった。
「麻由ちゃん、ちょっと待ってね。今拾うわね」
「おばあちゃん、ありがとう。ごめんね」
「落ちましたよ」
おばあさんよりも一足先に鞄を拾ってくれた人の声に……。
「もしかして、高岡さんですか?」
耳馴染みのあるその声は、間違いなく護のものであった。
「入江さん!」
隣の祖母に視線を移すと、挨拶を始める護。
「退院のとき以来ですね。」
「高岡さんのお名前は、よく麻由から聞いていますよ」
「もう、おばあちゃん!」
「そうなんですか。わぁ、ちゃんと看護できてたかな?」
そんなことを言いながら麻由の様子を目視で確認する護。
「入江さんの笑顔が見れてうれしいです。もし何かあったら……これ、僕の連絡先です。仕事中は出れませんが、気づいたら折り返し連絡します。それじゃあ、これから勤務なので、失礼します」
「お優しい方ね。麻由ちゃん、いい人に担当していただいたのね」
久しぶりに祖母が嬉しそうに話しかける声を聞いた。
「さぁ、麻由ちゃん。お買い物して帰ろうか」
「うん。今日は何食べよっか」
外出はやっぱり怖いけど、おばあちゃんや、高岡さんとも繋がっている。
暗闇に射した一筋の光は、この先も、麻由の心を照らしていく──
◇◆◇◆◇◆◇
ある日のこと──
「麻由ちゃん、少しはお外に出たらどうかしら? 視覚障害の人が利用できる制度があるみたいだから一度お話聞いてみるのはどうかと思っているんだけど」
突然祖母から言われた事について行けずカッとなってしまった。
「何も見えないのにどこで何をしろって言うの」
自分でもわかってはいた。
一生このまま、何もせずに生きていくことなんか出来ないということを。
おばあちゃんに声を荒げたことも間違っているんだ。
わかってる──
わかってる──
こんな時、高岡さんなら──
「そうだ、ほら。麻由ちゃんの担当看護師さんだった高岡さんなら、お話聞いてくれるんじゃないかしら」
「そうかもしれないけど、あの人は病棟の看護師さんであって訪問看護の看護師さんではないから」
本当は話してみたいと思っているけど断られるのがわかっているのに「はい」なんて言えないよ。