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第4話

事故から3週間が経過したある日、怪我も快方に向かいそろそろ退院が視野に入ってくる頃となった。


 主治医から麻由へ伝える日程などを看護師長と話している。


「入江さんの退院についてですが、ケースワーカーさんには既に連絡済みです。それから、退院した後に施設に入るのかどうかも含めて、本人の意見を聞いてから、退院看護師の手配はしようと思いますが、いかがでしょうか?」


「そうですね。そういう方向で進めましょう。まず入江さんへ伝えてからご本人の意向に添えるようしましょう」


 病棟としての意見がまとまった。


 そして、その時がやってきた。


 麻由の病室には、主治医の北大路医師、担当看護師の高岡看護師、退院支援看護師の三上麗奈看護師、移植コーディネーターの倉澤誠人、そして麻由の祖母の雅子の5人が揃っていた。


「それでは、検査結果など踏まえて今後のお話をさせていただきます」


 北大路医師が話し始めるその横で高岡看護師が看護記録を広げて北大路医師の横で控えている。その後ろにコーディネーターの倉澤と退院看護師の三上看護師が見守っている。


「検査の結果、入江さんの視力回復は残念ながら治療では戻ることはないと思われます。検査結果が出揃った時にカンファレンスを行いました。そこで移植という選択肢があることを話し合いました」


 ゆっくり丁寧に話していく北大路医師。麻由やおばあさんの様子を見守っている高岡看護師。


「移植に関してはコーディネーターの倉澤が架け橋になりますので質問や不安などなんでも相談していただいて構いません」


 さらに言葉を続けた北大路医師。


「麻由さんの気持ちを最優先してお考えいただいて大丈夫です。退院に関しては、退院看護師の三上が病棟看護師の高岡と連携して入江さんのご希望に添えるようしたいと考えます」


◇◆◇◆◇◆◇


 病室には麻由と祖母の雅子の2人になる。


「麻由ちゃん、お家で一緒に暮らしましょう」


 祖母の雅子は、麻由に優しく話しかける。


「何もできないのに帰ったらおばあちゃんに迷惑かけるだけ。何もかもおばあちゃんに頼りきりの生活だよ。そんなに軽く言ったらダメだよ」


 キツイことを言っている自覚はあったが、自分自身で止められなくてつい祖母に八つ当たりをしてしまっていた。


「麻由ちゃん。あなたは私の家族よ。大切な家族なの。迷惑なんて思わないし、この歳になって頼りにされるのはうれしいことよ」


 祖母にそう言ってもらえることは嬉しいけど、今までの生活がガラリと変わるのはわかりきっていた。見えていたものが全く見えない世界で何ができるのか。できることなんてほぼゼロに近い。麻由はそう思っている。生活すべてにおいて介助が必要になる。それは麻由にとっても本意ではない。悔しくてやりきれない事のひとつである。


「麻由ちゃん、北大路先生が仰っていた移植の事もおばあちゃんは賛成よ。下さる方には本当にお気の毒で申し訳ない気持ちでいっぱいだけど、それで麻由ちゃんの目にもう一度光が戻るなら、受けてもらいたい。おばあちゃんそう思ってる」


「……おばあちゃん」


「我慢も遠慮もいらないから、一緒に暮らそう。そのあとに何があろうと、その時に決めればいいこと。麻由ちゃん、おばあちゃん家においで」


 溢れ出る涙は、見返りなんて求めていない無償の愛を感じたから。


 家族ってそうだったと、改めて思い出した麻由であった。


◇◆◇◆◇◆◇


「私……おばあちゃんと暮らします」


 麻由は自分の気持ちを主治医の北大路医師や高岡看護師に伝えた。


「退院後はおばあちゃんの家で生活することになりました。ただ祖母に凄く迷惑をかけてしまう事が気がかりです」


 不安を口にする麻由。


「退院後は支援センターからリハビリとか外出の支援などもあるようなので退院看護師の三上にご相談ください。そして移植の決断もされているんですよね。移植コーディネーターの倉澤にも登録のお願いをしておきます」


 きちんと向き合っている姿にホッとした高岡看護師。


◇◆◇◆◇◆◇


 数日後──


 退院の日の午前中に北大路医師から退院前回診を受けて、退院の許可が降りた。


 病棟事務員の職員が退院の支払い請求の伝票を病室で退院の準備をする祖母の雅子に手渡す。


「麻由ちゃん、おばあちゃん一階でお会計してくるから待っててね。戻ったらまた一緒にお片付けしましょうね」


 そう言って祖母は会計のため病室を出ていった。


 麻由の病棟のナースステーションで会計済みが確認されると忙しくなる看護師。


 点眼薬など必要なものを回診後、薬剤部へオーダーしていたものがナースステーションへ届けられた。それを持って麻由の病室へ向かう。


 おばあちゃんと笑顔で話す麻由。


「入江さん、退院おめでとうございます。こちらは点眼薬です。朝晩2回の点眼薬です。忘れずに点してくださいね。もういつでも退院なさって大丈夫ですよ」


 そう伝えると、


「入院中は本当にお世話になりました」


 麻由は丁寧にお礼を告げた。そしておばあちゃんと一緒に退院をして行った。


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― 新着の感想 ―
[一言]  おばあちゃん自身も子供を失ったばかりなんだよね。  …強いなぁ。
[良い点] かなりつらい出だしでもう、頑張ってと応援せずにはいられません;; 過酷な運命を強いられたけど、おばあちゃんがいてよかった…… これからどうなるのか、目が離せません!
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