第2話
ピッ──
ピッ──
ピッ──
規則正しくバイタルを知らせる生命維持装置の音が響く病室で麻由は眠っている。
その横で看護師が点滴のボトルを交換している。
痛みと消毒薬の匂い、そして誰かの気配で意識が戻る。
「入江さん、入江麻由さん。目が覚めました?」
そう声をかけられ手を握られた。
「……ん」
こもった自身の声に、記憶の糸を紡いでいく。
「……じ……こ」
握られた手に力を込めた。
「今、先生を呼びますね」
そう告げられナースコールで意識が戻ったことを伝えていた。その間も私の手を握り不安にならないようしていてくれている。
「……く、は?」
「えっ?」
「家族……は?」
自分でも息が荒いのがわかった。生命維持装置は、何かの異常値を知らせているような音を出し、看護師さんはただ私の手を握るだけだった。
「入江さん、どうですか?」
そう声をかけられる。
「主治医の北大路です。よろしくお願いします」
優しそうな男性の声が聞こえても私の視界は黒く何も見えない。
頭を打って包帯を巻かれているのだろう。
「家族は? 私の家族……」
「先生、どうしましょう」
不自然な間が私を不安にさせる。
「入江さん。意識が戻ったばかりのあなたにお伝えしなければならないことが何点かあります」
「落ち着いて聞いてくださいね」
手を握ってくれている看護師さんの声がした。
「入江さんのご両親ですが、昨夜搬送された時点で、残念ながら心肺停止の状態でした」
「…………どうして」
「事故の詳しい説明は警察の方からしていただきます。我々としては、ご両親は残念ながら搬送された時点で手の施しようがありませんでした」
そう告げる主治医と言っていた北大路先生が申し訳なさそうに話してくれた。
息が苦しくなり、身体が痙攣し始めた。
「入江さん! 入江さん!」
北大路医師の処置によりバイタルは安定し今は眠っている麻由。
数日後──
北大路医師と担当看護師の高岡さんが立ち合う中、目に巻かれた包帯を取ることになった。
部屋のカーテンを全て閉めて病室を薄暗くする。
「入江さん、今から包帯を外しますが、私が良いというまで目を開けないでくださいね」
北大路医師から言葉がかけられた。
「はい」
スルスルと巻き取られていく包帯。
「何だか少し……こわいです」
「入江さんはお花は好きですか?」
「えっ? あっ、はい」
「よかった。じゃああとで、僕からプレゼントします」
気を紛らわそうとしてくれているのだろう。高岡さんが話掛けてくれるお陰で、少しだけ恐怖心が和らいだ気がする。
北大路医師が麻由の目を覆っているガーゼをそっと外す。
「入江さん、ゆっくり目を開けてみてください」
北大路医師が麻由に語りかけた。
「……………………私」
「入江さん?」
北大路医師の問いかけに麻由は……。
「……私、目を開けてますか?」
北大路医師は、麻由の目にライトを当て瞳孔などの確認をする。
「詳しい検査をしてみましょう」
麻由にそう告げ、高岡看護師に、検査のオーダーを指示して病室を後にした。
「高岡さん。私の目は……どうなってますか?」
「ちゃんとその質問に答えられるように、検査をしましょう」
「はい」
そう返事をする麻由の頬を涙が伝う。高岡看護師は、そっと涙を拭く。
「目が見えなくても涙は出るんですね」
ひとりぼっちになってしまった麻由に追い討ちをかけるように、あの事故で視力まで奪われていた。
「こんなとき、何て言うのがいいのか……もう少しだけ僕に、入江さんの目の代わりをさせてください。すみません。こんなことしか言えなくて」