第一章 3話 賢者の真偽
「当時、この周辺は治安が悪化していました。
騎士を巡回させて、治安回復を図っていましたが、山賊の被害が増えていきました。
しかし、それがある時を境に被害が無くなりました。
不思議に思い、部下に調査させました。」
ゆったりと思い出しながら、ルークは言葉を紡いでいく。
「それが賢者のお陰なの?」
「そうです。調べてみると一人の賢者が村人に知恵を授け、
一晩で山賊を壊滅させてしまったのです。
ですが、更に驚くべきは山賊達が今では賢者に心服して、
村人と一緒になって農作業をしていることです。」
「山賊を処刑しなかったのですか?」
軽く、理知的な碧の瞳を見張った。
「村人は殺そうとしたのですが、賢者が止めたのですよ。
そして、命を助けられた山賊達は感激して、賢者に心服しました。
今では村人として暮らしています。
しばらくして、別の山賊が出現した時には、村人と一緒に武器を持ち、撃退したそうです。」
「なかなかの傑物と申すべきですのぉ〜。
山賊を一晩で壊滅させた手腕もさることながら、
その後に村人と問題が何も起きていないのが信じられんのぉ〜」
人が心を入れ替えるのは難しい。
それが、何十人もの山賊だった者が何も悪事を働かずに
村人と一緒に生活が出来るのは奇跡に等しい。
「常人には不可能な事を成し遂げています。
賢者の話を聞いてから行動しても遅くはないかと思うのですが、
いかがなさいますか殿下?」
「いかがも何もないよ。すぐに会いに行こう!」
「殿下、なりません。御身に何かあったらどうしますか!
会いに行くのなら、私とガンドロフ将軍で行きます。
殿下はこちらでお待ち下さい。」
王太子ラファエルを生んだレイナ王妃は産後の肥立ちが悪く、
まもなく息を引き取った。
それ以来、セシリアは王太子ラファエルの母や姉の様な役割を背負っていた。
「いや、駄目だよ。その人が欲しいなら自分の足で会いに行かないと。それが礼儀だよ。」
後の歴史家がラファエルを名君と評価するのは、彼が優秀な君主だからではなく、
彼の周りには優秀な人材を揃え、使いこなしたからである。
彼は優秀な人材には自らの足で会いに行く為、優秀な人材が残らず登用に応じた。
わざわざ、国王という国で最も偉い人物が自分の為に足を運ぶのである。
「士は己を知る者のために死す」と云う。
人は自分を必要としてくれる人の為には、力になりたいと思う生き物なのである。
「それにしても、相変わらず、セシーは過保護じゃのぉ〜」
「ガンドロフ将軍も私の事はセシリア将軍と呼んで下さい!」
美女の怒号とともに歴史が動き出した。
多くの歴史家はここをラファエル皇子の決断が大きな転換点を迎えたと考えている。
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