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シャナ王国戦記譚  作者: 越前屋
第四章
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第四章 77話 子供が百人出来るかな

――どうしてこうなった?


頭をしきりに捻りながら、今の状況についてカズマは考えていた。

さてさて、現在の状況を端的に見れば、諸君はカズマを羨ましがるかもしれない。

目の前には豪勢な食事が並んでいる。

いずれも出来たてで見るからに食欲をそそるものばかりだ。

さらには性格を除けば優秀なメイドが甲斐甲斐しく食事の世話をしてくれる。

服が汚れないように胸に付けるナプキンを付けてもらい、食器類の準備なども完璧にこなしている。

顔の造形も整っており、怜悧な美女メイドと言ったところか。

メイドスキーさんがいれば、涎をだしまくって欲しがるかもしれない。

だが、この程度ならば、そこらの高級メイドカフェにでも行けば、味わえるかもしれない状況である。

現在のカズマの状況はこの更に上を行く。

カズマが目線を隣に移してみれば、息がかかるほどの近さに大陸でも1,2位を争うほどの美女がいた。

金髪碧眼の美女であり、いるだけで部屋の雰囲気を華やぐ存在でもある。

そんな美女がカズマにせっせと食事を食べさせているとくれば、世の30歳を過ぎた魔法使い達が呪いの魔法を唱えても可笑しくない状況といえる。


――それだけを見ればの話だが。


「それでいつになったら縄を解いてもらえるんだ?」


手足を椅子に縛り付けられたカズマは今回の主犯であるメイドに問いかけた。

その日の仕事も終え、いつも利用している城の食堂へと向かう途中に突然、首に衝撃を感じ、気が付けば、縛り上げられた現在に至る身としては聞きたくなる。


「あまりにも呑気にしておられたのでそういうご趣味がおありかと、気を使ってそのままにしておりましたが、違うのですか旦那様?」


――無表情な顔にどこか楽しんでいるような気がするのは気のせいだろうか?


原因不明の頭痛に苛まされたカズマは頭を抱えたい気分だったが、不自由な体ではそれもままならない。

何とか、この縄を解いて貰おうと、バイト時代に培ったクレーマー対応マニュアルを思い出そうとした。


――たしか、クレーマーには5W2Hをまず聞くんだったな。


5W2Hとはそれぞれ英語の単語の頭文字から取られた造語である。

バイトや社会人などで聞いたことのある人も多いだろう。

Whenいつ whereどこで who(だれが) what(なにを) how(どうする) why(なぜ) how much(いくらで)

これらの単語を聞くことで事情が分かる魔法の言葉である。

クレーマー対応時にはこれらのことを聞き、事情を分かった上で対応を行うのである。


「とりあえず、事情を整理するためにいくつか質問をさせて下さい」

「畏まりました。ヘタレ旦那様」


グサッ


「……まず、俺は気を失ってからどのくらいの時間が立っていますか?」

「まだ、半日も立っていません。寝呆すけの旦那様」


グサグサッ


「ここはカストール家ですよね?」

「正確にはセシリア様と旦那様の愛の巣でございます、腐れ外道の旦那様」


グサグサグサッ


「誰が俺を拉致したんですか?」

「バルカン様に手伝って頂きました、お姫様のようにかよわい旦那様」


グサグサグサグサッ


「なんで?」

「旦那様のご趣味に合わせたサプライズでございます、M男の旦那様」


グサグサグサグサグサッ



「これから俺をどうします?」

「セシリア様との仲を深めて頂こうかと、未来のヒモもとい旦那様」


グサグサグサグサグサグサッ


「なぜ拉致る必要が?」

「拉致ではありません、ほんの少し強制的な御招待です。KYな旦那様」


グサグサグサグサグサグサグサッ


「いくらでバルカンを買収した?」

「今日の飲み代程度を手に握らせましたら喜んでご協力して下さいました、人望のない旦那様」


グサグサグサグサグサグサグサグサッ


「とりあえず、少し泣くので待って下さい」


質問する度に心が傷ついていったカズマはついに限界を迎えた。

他の人に見られないように俯きながらシクシクと泣いていた。

まさか5W2Hを聞いて、傷つくとは思わなかった。

そして、その姿を見ていたメイドのレナがえも言われぬ快感を感じたのか、両手で自分の体を抱きしめて悶えていた。

この腹黒ドSメイドめ……いつか、調教もとい、教育してやると、邪な未来にカズマは思いを馳せた。

しばらくして、気持ちが収まったカズマ(涙が拭けないので涙目のままだが)に無表情メイドが料理を勧めた。


「それでは旦那様、今宵は腕によりをかけて料理を作りました。どうぞ、お食べ下さい」

「お食べ下さいって……。犬みたいに食えって言うのかよ」

「それはなかなかそそられますね、旦那様。犬のように這いつくばって食べる姿。GJでございます、ポチ様」

「誰がポチだ、誰が! 俺はカズマだ! んで、それはいいんだけどさ。いやよくないけど、いいんだけどさ。この料理さ、なんか偏ってないか」


そういう、カズマの目線の先には数々の料理が鎮座していた。

一見すると、特におかしいところは感じられないが、料理の知識を持っている人間がいれば、ある特定の目的の為に作られる料理であることに気付くはずだ。

オイスターソースと絡めて焼いた牡蠣をオリーブオイルで漬けた料理

鶏を丸ごと土鍋に入れ、更に滋養にいい野菜をたくさん入れたスープ

スッポンの生き血で割ったワイン

その他にも滋養強壮に優れていると評判の料理ばかりが並んでいた。

どれも初夜前の新郎が食べる王国伝統の料理ばかりなのである。

しかも、その量はどれも食べきれないぐらいにボリュームたっぷり。

一体、この腐れメイドは何人の子供を作らせる気だとカズマは戦慄していた。

現役を退いたはずの爺さんが奇跡の復活を遂げ、孫よりも若い子供で野球チームを1リーグ作るには十分な量である。

小学校1年生で友達が百人出来るかどうかで悩む奴はいても子供が百人出来るかどうかで悩む奴はカズマだけであろう。


「……気の所為です、旦那様。それよりも、本日の天気ですが」

「こんなに分かりやすく話しを逸らす人がまだいたのか……」

「いい子作り日和ですね、旦那様」

「まさかの逸らす気ゼロか、ニュースZEROなのか!」

「はて、なんのことだか分りかねます。種馬の旦那様」


そしらぬ顔でこの無表情メイドはカズマの追及を逸らした。


「それでセシリアに酒を飲ませたのか」


普段ならば、メイドの計画を聞けば、烈火の如く反対するであろう美女が先程からカズマに甘える仕草をしているのである。

彼女の体臭からは甘い匂いに混じり、かすかに酒の匂いがしていた。


「はい、旦那様を本日ご招待いたしますとお告げしたところ、猛反対するので大の男でも倒れるというお酒を飲ませました。ちなみにセシリア様は酔いますと、親しい者に甘える傾向がございます。そう、親しければ親しいほどでございます。ヒューヒューでございます、すけこましの旦那様」


無表情な顔で囃し立てるメイドに軽く殺意を覚えたカズマだったが、それでこの状況に納得をした。

普段のセイリアであれば、絶対にやらないことをしてくるのである。


「カズマ、ほら食べて食べて。美味しいでしょう?」


ニッコリと普段は絶対にしてくれない微笑みを浮かべながら、セシリアはカズマの膝の上に乗ると、フォークで刺した肉を勧めてきた。

その途端、甘い匂いがカズマの鼻腔をくすぐり、しかも膝の上に柔らかい弾力を感じる。

しかも、目の前には頬を少し火照らせた美女が甘えてくるのである。

ドロドロに溶けた理性を再び固まらせるべく、必死に煩悩退散……喝っ!!と心の中でカズマは叫ぶが、戦況は甚だ悪かった。



「セシリア様、旦那様はいま動くことが出来ません。そういう時は口移しをするのが作法でございます」

「あ~、そっか~。分かったわ、レナ」


酔っ払い特有の多少の矛盾は気にしない思考を逆手に取った無表情メイドは巧みな話術でセシリアを誑かそうとしていた。


「待て待て待てぇ~い! 体は動かなくても口は動くから! セシリア、目を覚ませ! 口に食べ物を加えてどうする気だ!」


口に咥えた肉を食べさせようとするセシリアとそれを避けようとするカズマの争いはセシリアが疲れて眠るまで続いた。


ちょっと話が長くなったので3話に分けて更新することにしました。

次回は今週中にでもUPする予定です。


最近、電車の中で寝ていた若い女性の頭が自分の肩に寄りかかり、急遽予定を変更し、予定のなかった終点まで遠出したダメンズ代表の越前屋より。

だってさ、気持ち良さそうに寝ているし、起こすの可哀想じゃん?

彼女は気持ちよく眠れ、自分は至福の時を過ごす。

まさにWIN WINの関係。

素晴らしい。

普段は知らない親父の頭だから、WIN LOSEの関係なんだもん。

いや、ある意味 LOSE LOSEの関係か。

だからね、たまにはこんな御褒美があってもいいと思うんだ。


PS 当然の如く会社を遅刻しました。

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