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シャナ王国戦記譚  作者: 越前屋
第四章
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第四章 75話 親指を下に向けるのは止めましょう

シャナ王国からバーネット皇国へと帰還したショーナ皇女とジョセフは早速、父グローサ王に報告をしていた。

愛娘の報告に目尻を下げながら、うんうんと頷きっぱなしのグローサの姿はとても一国の王には見えなかった。


「それでラファエルの奴は元気にしていたか?」

「元気にしていたわよ。私が話し掛ける度に元気に体を震わせていたもの」


それは恐怖で怯えていただけでは?と近くで聞いていたジョセフは思ったが、聞き流すにとどめた。


「それで、ラファエルとの間に何かなかったのか? こう燃え上がるような」

「う~~~ん、特には無かったわね」

「そんなことはないだろう。ほらっ、悪い魔女に攫われたところを颯爽とラファエルが助けただとか。竜に生贄にされそうになったところで通りすがりのラファエルに助けられただとか。そういった、危機を一緒に乗り越えた二人が最後にブチューとなるような出来事とかあっただろう?」

「ありません」


嘆願するように言うグローサにショーナ皇女はにべもなく否定した。


「そもそも竜や魔女なんて、吟遊詩人のお話しでなければ出ませんよ。大体、その配役がおかしいです。どちらかと言えば、攫われるのはラファエルで救うのは私です」

「それはそうだが……」


がっくりと項垂れたグローサだったが、次の瞬間にはジョセフのほうをギロリと睨みつけていた。

……ちゃんと、二人の仲を取り持ったのか、あんっ?

そんなグローサの感情を察したジョセフは慌てて弁明をした。


「それがですね、陛下。先方にはそれとなく、話しをしたのですが……。反応が今一つで……。何とか、ショーナ皇女と引き合わせようとしたのですが、肝心の皇女がカズマ殿と話し込んでしまいまして。とても二人を引き合わせる状況ではありませんでした」


額に冷や汗をびっしりと掻きながら、ジョセフは言葉を並べた。

そんなジョセフに以外にもショーナ皇女が助け船を出した。


「すみません、父上。シャナの千里眼と噂される方。是非とも話しがしたかったのです」

「むぅ、まぁよい。機会はいくらでもあるだろうしな」


愛娘には甘い父親はすっかり怒りを鎮めてしまった。


「それよりも、父上。御相談したいことが」

「うむ、なんじゃなんじゃ? お前の欲しい物は何でもやるぞ! もう新しい軍船が欲しくなったのか? それとも名馬か? おぉ、それとも自分の騎士団が欲しくなったのか? よしよし、分かった。早速、近衛騎士から選抜して作ることにしよう」


気の早いグローサは早速、近衛騎士団長を呼ぼうとしたが、ショーナ皇女が止めた。


「それも欲しいですが、違います。これからの皇国のことについてです」

「……ふむ、言ってみろ」


途端にそれまでのおちゃらけた姿を一変させ、王の顔となったグローサが続きを促した。


「私はカズマ殿と話しをする機会を得ましたが、その者は面白いことを申しておりました。これからの大陸は帝国、王国、皇国で三分割し、それぞれの国は同盟を結び、戦力ではなく、経済力で競い合うのが理想だと。私としてもその案は皇国にとっても旨みがあると考えます」

「ふむ……」


グローサ王の反応を見たショーナ皇女はここが攻め時だと感じると更に熱心に話しを続けた。


「現状、皇国の戦力では帝国全土を掌握するには兵力が足りません。それは王国も同じです。このままではジリ貧状態なのは明白。帝国には無尽蔵の兵力と有能な王と臣下が揃っております。戦力では我々と比べ物になりません。事実、コーラルの戦いで9万もの帝国兵を帝国失いましたが、既に帝国では軍の再編成を終えようとしています。たった数カ月ですよ。たった数カ月で帝国はあの大敗を無かったことに出来る国力を持っているのです。皇国にとっては致命的な敗北が帝国にとってはかすり傷に過ぎないのです」

「たしかにその通りである」

「そこで帝国と和睦をし、国力ではなく経済力で勝負すれば、勝敗は分からなくなります。我が皇国には水運があり、隣国の帝国には巨大な市場があります。両国で貿易が始まれば、巨大な利益を生むはずです。さすれば、経済的には五分に持っていくことも可能かと思われます。そうして、帝国を併吞出来るまでに国力を蓄えれば、我々にも大陸統一の目が出てきます」

「……。」


ショーナ皇女の提言にグローサはしばし、押し黙った。

しばし、時間が流れ、黙考をしていたグローサは閉じていた目を開き、ショーナ皇女を見据えた。


「確かにその案は最善だろう。皇国にも益がある。それは認める」

「では……」

「だが、皇国としては現状では取れん方策だ」

「何故か、お聞きしても宜しいでしょうか?」

「まず、第一に和睦するには両国であまりにも多くの血が流れている。民と貴族の敵愾心はあまりにも大きい。おいそれと、和睦を唱えれば、敗北主義者と罵られよう。それだけならまだしも内乱が起きる可能性もある。臆病風に吹かれた王を廃する為とか適当な理由でな」


グローサ王にそう言われれば、ショーナ皇女は反論出来ない。

何故なら、その懸念はあるからだ。

人間、将来の利益よりも感情にどうしても流されてしまう。

それは仕方がないかもしれない。

家族の命を奪った仇を許すと言うようなものである。

王と言えども、絶対的な権力者というわけではない。

どちらかといえば、利害の調整者である。

その調整のさじ加減を間違えれば、反乱が起きるのは必然と言えた。


「確かに王国ならその方策を取れるだろう。かの国では王の権力が増している。実力ある貴族はラングレーの戦いで力を失った。絶対王政を敷くことのできる土台を持っている。王国が和睦をしたとしても反乱が起きる可能性は低いだろう。だが、皇国は違う。いまだに諸侯は無視できない力を持っている。下手に和睦をすれば、反乱を起こす輩も出てくる。そうなれば、帝国はその機を逃さず、反乱を煽りたてるだろう。内憂外患に陥った皇国は滅びるしかない」

「しかし、このまま戦い続ければいずれ滅びる可能性もあります。力がある今のうちに和睦をしなければ、帝国が応じる可能性が無くなります」

「慌てるな。現状ではと言ったはずだ」


いきり立つショーナをグローサは片手で制した。


「誰にも気取られずにその土台を作れば、将来的には可能かもしれん。諸侯に根を回し、根気よく説けば俺も堂々と動ける状況になるはずだ。とりあえずは静かに動くことにしよう」


グローサの言葉にショーナはひとまず胸を撫で下ろした。


「それにしても期待したものは得られなかったが、ショーナを王国に送って良かった、良かった」


さて、問題のショーナの縁談は動かなかったし、どうしようかなと悩み始めたグローサをショーナが爆弾を投げ込んだ。


「あっそれと、私が欲しい者は何でもくれるのよね?」

「うむうむ、なんでも欲しい物をあげるぞ。ほらっ、ダディに言ってみなさい。もう何でも叶えてあげちゃう」

「じゃ、ラファエルとの縁談話を進めてちょうだい」

「……!! dady不jいこ、xwせdcyhぐあああああああああああああああああああああ(ry)」

「ちょっ! 苦しぃ! 痛い! 暑苦しい! 陛下! ラリった患者みたいな言葉を叫びながら、私を抱きしめるのは止めて下さい! Good Jobと言いたいなら、親指を上に上げて下さいっ! 下に向けたら、私に死ねという表現で……グエッ!」


良い感じにジョセフの首をグローサはその太い腕で締めながら、何度もバンバンとその背中に叩きつける。

一足早い紅葉がその背中に咲き乱れていることだろう。

しばらく、その状態を続けたグローサだったが飽きたのか、哀れなるジョセフの体を解放した。

死の抱擁から解放されたジョセフは壊れた人形のようにその場で崩れ落ちた。

そんなかつてジョセフだったものを気にすることなくグローサは興奮した様子でショーナを見た。


「とうとうお前にも春が! もう、ラブロマンスが何もないなんて言っちゃってあったんじゃないかショーナたん! でで、何があった? 怒らないから言ってみなさい! ただ、さすがに婚姻前に子供が出来てたらダディ怒るけどNE! ちょっと、戦争の準備を始めちゃうYo」

「別に魔女、邪神、妖精、精霊、魚人、人魚、吸血鬼、堕天使、巨人、魔王、ドラゴン、オーク、ゴブリン、トロール、ミイラ、エルフ、ドワーフ、リザードマン、ワーウルフ、インキュバス、スライム、ゴーレム、グローサと戦っていないわよ」

「なぁ、最後に愛すべきダディの名前が入っていなかったか?」

「別に魔女、邪神、妖精、精霊、魚人、人魚、吸血鬼、堕天使、巨人、魔王、ドラゴン、オーク、ゴブリン、トロール、ミイラ、エルフ、ドワーフ、リザードマン、ワーウルフ、インキュバス、スライム、ゴーレム、ダディ、ウザイ、キモイと戦っていないわよ」

「なぁ、ダディ泣いてもいい? どこかの種族風に言ったけど、あれ最後の本音だよね? 本音が混じっていたよね?」


しくしくと王座で器用に膝を抱えてグローサは泣いた。

そんなグローサを気にしたようでもなくショーナ皇女は話しを続けた。


「カズマが欲しいけどね。ラファエルの家臣だから駄目と言われたのよね。それで私考えたのよ。それならラファエルと結婚しちゃえば、自動的にカズマも家臣になるということよね? だから、ウザィ。縁談進めて? いいでしょっ?」

「おっけ~~! 分かったYo、マイスィートドーター! 可愛い娘の為なら、ジョセフをシャナ王国に送るよ! だけど、少し泣いてもいいかな? 字面だけならウザィとダディは似ているけど、その言葉は思春期のダディの心をズタズタにする魔法の言葉だよ」


涙目のウザィ……ダディグローサは倒れ伏しているジョセフを起こすべく、顔を


バチンッ、バチンッ、ボキッと力強くビンタし始めた。

ジョセフが目を覚ますのは当分先のことになるだろう。

それを尻目にショーナは不敵に笑っていた。


「うふふふふ、狙った得物は逃がさない主義なの。待っていなさい、カズマ」


ショーナはシャナ王国の方角に顔を向けていた。


えー、長らくお待たせいたしました。

75話を更新しました。

そして、11月更新予定と大嘘をブッこいたのは私です。

どうも、すみません。

微妙に執筆を離れていた所為か筆がのらずに明日は書けるだろうと考えていたらいつの間にやらハッピーニュイヤー。

これが「明日からやるよ」の法則なんですね。

さて、やっとこさ婚姻話が動き始めました。

2020……2012年までには最後まで書き上げたいなと思っています。

うん、絶望的だけど頑張ります。

次回も宜しくお願いします。

それと、生存報告遅れてスミマセン! 越前屋はしぶとく生きているんでよろしくお願いします。


次回目標は3月までに……

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