第一章 2話 賢者の噂
自宅警備員カズマに会いにきた、良いとこのお坊ちゃん、おっかない騎士、別嬪の姉ちゃんの正体は一体?
時を数時間遡る。
質実剛健という言葉をそのまま建築したかのような無骨な作りのローランド要塞がセントレイズ帝国との国境沿いにあった。
セントレイズ帝国とシャナ王国の国境に横たわるゲイル山脈。
その山頂の一つに築かれた対セントレイズ帝国との最前線にして、「シャナの絶対防壁」と称された堅固な要塞であった。
この要塞はセントレイズ帝国の侵略を恐れた、3代目の王によって築かれた。
そして、現在ローランド要塞の城主の部屋には3人の人間がいた。
「殿下、現在ケイフォード派は盛んに他の貴族を仲間に引き入れています。
その為、王都ランパールは完全に掌握されていると思われます。
1か月以内には軍勢が押し寄せるものと思われます」
形のいいスタイルをピッチリとした軍服がその体のラインを浮き出している。
理知的な碧の瞳と光り輝いている金髪を肩まで垂らし、
サーベルの様な冷たさを感じさせるクールビューティーが報告する。
彼女こそは名門カストール家を継ぐ若き、侯爵の称号を持つ女傑である。
「そうか・・・。あと1カ月以内に到着するのか。
ガンドロフ将軍、ここまで来る兵力はどのぐらいになると思う?」
造形は整っているが全体的に柔らかい印象があるせいか、
人が見たら温和か頼りなさそうという印象で評価が分かれそうな若い男が頭を抱えながら
もう一人の明らかに還暦を超えている筋骨隆々の老人に聞いた。
「そうですのぉ〜。大体5万〜7万といったところですかのぉ〜。
ケイフォードが掌握している近衛騎士団の1万を
王都の守備に残すとして、残りの4万を中心とした軍勢に
ケイフォード派の貴族が1万〜3万は加勢すると思われますなぁ。」
軍服が所々、色落ちているのが軍歴を物語っている。
その軍歴が40年は超えているだろう。
その豊富な軍歴は数々の戦功を立てた歴史でもある。
これが「シャナの老虎」とセントレイズ帝国とバーネット皇国から
恐れられている猛将である。
自慢の髭をさすりながら答えた。
「あ〜ぁ、どうしよう!どうしよう?要塞の兵力は1万人しかいないし。
いざとなったらケイフォードは15万人ぐらいの兵力は用意出来るだろうし。
どうにもならないよ!」
それまで必死に取り繕っていた
王者の威厳(青い顔と断続的に恐怖で震えている体が台無しではあったが)
を纏めて、ごみ箱に放り投げると錯乱状態になった。
そんな惰弱な主君を金髪美女の一声で立ち直らせた。
「殿下、我々は何としてでもこの事態を乗り越えなければなりません。
何らかの方策を考えましょう。」
「でも、セシー姉さん?」
「殿下、セシー姉さんはお止めなさい。
セシリア将軍かセシリアとお呼び下さい。」
賢い姉が出来の悪い弟をたしなめるように諭す。
幼いころから幼馴染として姉弟同然に過ごした為、
ふと気を抜くと愛称で呼んでしまうラファエル王太子を窘めた。
「わかっているよ。セシー・・・セシリア。それで何か対策はない?」
「現在、我々が取るべき方策は2つだと思われます。
1つはこのまま反乱軍を待ち受け、籠城して援軍を待つこと。
2つ目は要塞を捨ててセントレイズ帝国に亡命して捲土重来を図ることです。」
「やっぱり迎え撃つことは出来ない?」
「現状では不可能です。
ガンドロフ将軍が申した通り、我々の5倍〜7倍の兵力が来るでしょう。
とても勝ち目はございません。取るべき道は2つだと思います。
1つ目は他の貴族が援軍に来るかどうかですが、
日和見を決め込んでいる貴族が多くいる現状では期待出来ません。
援軍が来ない籠城は下策です。現状では2つ目が上策だと思われます。」
冷静な口調で現状を淡々と説明する。
「それしか、方法はないのかぁ・・・。」
議論の方向性が一つに纏まりかけた時に
扉のノックと同時に一人の男が入室する。
「あっ、ルーク。」
「殿下、方策は決まりましたか?」
温和な微笑を湛えた、端正なるマスクは
女性からは称賛と陶酔を男性からは嫉妬と怨嗟を与える程である。
彼こそはシャナ王国、随一の剣士。
ガンドロフ将軍を剛の剣と称すなら、彼は美の剣。
彼の華麗なる剣技は一種の芸術ですらある。
「この要塞を捨てて、セントレイズ帝国に亡命しようかと思うのだけど。どう思う?」
「そうですね・・・。確かにその方策が現状では最良だと思いますが・・・。」
常に颯爽としている、彼にしては珍しい。
歯切れ悪い口調で案の支持を表明した。
「どうしたの?何か不安がある?」
自信など欠片も持ち合わせていない、
ラファエル王太子が何か案に不安な要素でもあるのか聞き返した。
「いえ、私もその策が良いかと思います。
ですが、我々には武はあっても、残念ながら智がありません。
智を持った、賢者に聞いてみては如何でしょうか?
また、違った策があるかもしれません」
「ここに賢者がいるの?」
すかさず、藁にも蜘蛛の糸にもすがる気持ちのラファエル王太子が目を輝かせる。
「私が知っている、賢者はここにはいません。
この要塞近くのオルデンという小さな村に住んでいます。」
「この近くに有名な賢者が住んでいるなんて、聞いたことがありません。」
「えぇ、私が彼を知ったのはラファエル王太子が来る、2年前のことです。」
ルークが手を顎に当て、頭の片隅にあった賢者の情報を検索して、言葉を紡いでいく。
ふぃ〜。ある程度のキャラをやっと出せたわ〜。
ではでは。
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