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シャナ王国戦記譚  作者: 越前屋
第四章
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第四章 70話 対暴君矯正お仕置道具君

ひとそれぞれに生活のサイクルというものがある。

それは朝起きたら、すぐに朝ご飯を食べる人、歯を磨く人、「遅刻遅刻」と叫びながら食パンを食わえて走り出す人。


おそらくシャナ王国でも随一の豪奢さを誇る王の執務室ではラファエルが仕事前のティータイムを楽しんでいた。

まだ、煎れたばかりなのだろう。

ラファエルの持つカップからはホカホカの湯気が立ち上っていた。


その書状を一文読む度にラファエルの顔は天国に旅立つ寸前の人のように青ざめていった。

そして、最後まで書状を読み切ると、ラファエルは座っていた椅子をはね飛ばしながら立ち上がった。


「…大変だ! すぐにでも対策を練らないと!?」


持っていた書状を投げ捨てるとラファエルは近所のガキ大将に虐められて未来量産型青狸ロボットの名前を連呼しながら近所を疾走するN少年のように「カズ~~~~マ~」というエコーを部屋に残してその場を去っていった。


あとにはラファエルを半狂乱に追い込んだ書状が机の上にヒラヒラと落ちていった。

その書状の差出人にはグローサという名とこの度の戦の勝利を記念して友好使節団を派遣する旨が書かれていた。

また、その使節団の代表にはショーナの名前が書かれていた。


カズマの部屋に飛び込んだラファエルは早口で事情を説明した。


「つまりはだ、そのショーナ皇女が来るだけの話だろ。別にいいじゃん。幼馴染なんだろ?」


カズマは呆れ顔で息を切らしてゼーハ、ゼーハと荒い息を吐いているラファエルを眺めた。

そんな些末なことよりも机の上に乗っている書類を早く片付けないと、どんなお仕置きが己の身に降りかかるか分かったものではない。

そう思うとカズマは身震いしてしまった。


「へぇ~、あの有名なバーネット皇国の戦乙女が来るんでやんすか?」


カズマの執務室でいつものように駄弁っていたバルカン達が口を開いた。


「そのショーナ皇女とやらは有名なのか?」


保護者役のダグラスに付いてきたオフィーリアが彼に質問した。

最近の彼女はダグラスの後を付いて回るようになっていた。

いまだにカズマ達には心を開いていないようだが、ダグラスにだけは心を少し開かせているようだった。


「知らないのかよ! 今を時めく戦乙女だぞ! ガルダカ海戦では軍艦の舳先に立ち将兵を鼓舞して味方を勝利に導き、他にも当時バーネット皇国領内を荒らしまわっていた最強最悪のラクシー海賊団をたった一晩で壊滅に追い込んだ女傑だぞ! そして、それに増して重要なことはだ……」


そこでダグラスは言葉を切った。

それに引き込まれるようにオフィーリアが喉をコクリと可愛らしく息を呑む。


「重要なことはじゃ……?」

「それは……美人ということだ!」

「へっ??」

「いや~、楽しみだな~。(ナマ)ショーナ姫。他国にも響き渡る美しさだもんな。勝利の女神とか呼ばれるぐらいだしさ。なっなっ、カズマどうしよう? シャナ王国に訪れたショーナ姫が俺に一目惚れしちゃうかもしれん!! 他国で育まれる身分差の恋! くぅ~、萌えるぜ!」

「いや、ないから」


カズマは右手を左右に振りながら冷たく否定した。

それと同時にオフィーリアがその小さい足で思いっきりダグラスの脛を蹴飛ばしていた。

ウギャーと叫びながら膝を抱えるダグラスをオフィーリアは冷たく見下ろしていた。

そんないつもの漫才を披露が一段落すると、ラファエルが話しを続けた。


「ぜん…ぜ…ん違うよ。カズマはショーナの恐ろしさを知らないんだ」


深呼吸を繰り返して息を整えると、ラファエルはやっと言葉を絞り出した。


「まぁ姫将軍とか虎姫という異名が付いているぐらいだから普通のお姫様じゃないのは分かるが」

「そんなのまだまだ甘い表現だよ! むしろ破壊女神や人間最終兵器、|フィアンセクラッシャー《婚約者殺し》とでも言ったほうがふさわしい存在だよ!」


カズマが仕事をしている執務机に、ラファエルは渾身の力で両手を叩きつけた。

その振動は机の上に置いてあったカズマの汗(当社比サウナで流す量)と涙(フランダースの犬最終回を見た時に流す涙の量)と血(致死量なみ)の賜であった書類の山を崩れさせるには十分であった。


「ノォッッッッッッッ~~~~~~~~~~!!!!」


両手を頬に当てたカズマが天に届けとばかりに絶叫した。

もしもその光景を絵にすれば、あら不思議。

名画ムンクの叫びとなることだろう。


「そんなことよりも早く名案を考えてよね、カズマ!」


余計な仕事を増やしてくれた元凶は嘆き悲しむカズマに構うことなく己の意見を押し通した。

その瞬間、ブツンッ! と何かがブチ切れた音が同じ部屋にいたバルカンは確かに聞こえた気がした。


「そんなことだとぉぉぉぉぉぉっっっっっっっ!!!! 貴様は睡眠我慢耐久レース仕事をサボって寝たら駄目よそんな上司には対サボリ上司お仕置道具君シリーズでお仕置きよ生活24時を耐えた末に出来た愛と涙と汗と努力と不眠の結晶をそんなことの一言で片づけるのかっ!?」」


隈の付いた目に一杯の血の涙を浮かべたカズマがその一言にブチ切れた。


「フッフッフッ、さぁ()にも愚かな王よ? 最も偉大なる神であらせられるヒュプノス(眠りの神)様の怒りをその身に喰らうが良い。対サボリ上司お仕置道具2号君、改め、対暴君矯正お仕置道具2号君。さぁ、お前の真価を見せつけてやれ」


|包丁を片手に路上で振り回す《通り魔》危ない生業をしている人々のような血走った目をしたカズマは机の引き出しから弩を取りだした。

そして自然な動作でカズマは照準をラファエルの額に合わせた。


「ちょ……っと、カズマ? ねぇ、カズマさん? カズマ様? 目が逝っちゃっているような気がします。 というかその弩をどうする気?? 冗談……ですよね?」


ラファエルはやっと事態の深刻さに気付いた。

だが、それはとても遅かった。

カズマはラファエルの質問に答えることなく、素敵な笑みを浮かべて呟いた。


DIE!(死ね!)



僕が悪かったよ! と叫びながら逃げ回るラファエルを執拗に追いかけまわすカズマを遠目に眺めていたバルカンは傍にいたグローブ宰相に話しかけた。


「結局どうするでやんすか、宰相?」

「どうしたもこうしたもないわな。同盟国のそれも友好の使者を断る理由なんてありまへん」


脇目も振らずにカズマの部屋に向かって走っていた主君に付いてきたグローブ宰相が答えた。


「その噂のショーナ皇女はいつぐらいに来るんでやんすか?」

「書状によるとや、10日以内には来るそうや」

「なるほどでやんす。まぁ、陛下達には頑張って貰うとして」

「そうそうそれでやね。ショーナ姫の来訪を歓迎する為に舞踏会を開くことになったんやなぁ。ほんでバルカン殿には是非参加して頂きたく……」

「なんでそうなるでやんす! オイラがそういうの嫌いなのは知っているでやんしょ?」


前回の舞踏会で淑女達に怖がられて四六時中、居心地の悪い思いをしたバルカンは即座に拒否反応を示した。


「そないなこと言われても。バルカン殿もラングレーの戦いやコーラルの戦いで戦功を上げてますやん? 優れた騎士は舞踏会に招待するのが古今東西の恒例やで」

「いや、オイラは全力で遠慮するでや……って、なんでオイラの口を塞グぅモガモガッ!」


突如、背後からバルカンの口を塞ぐ存在がいた。


「おっと、バルカンは黙ってな。それで舞踏会だな。分かった。この俺が責任をもって参加させよう。当然、俺も参加してもいいよな?」

「勿論えぇーよ。ほならカズマ殿一行は参加とゆうことで」

「フッフッフッ、これで俺にもチャンスが……。このチャンス決めるぜ」


美女との出逢いの為ならば仲間を売ることも辞さないダグラスの下心で濁りまくっている瞳は燃えていた。


こうして、カズマの預かり知らぬところで舞踏会の参加が決まった。



同時刻、シャナ王国とバーネット皇国の国境沿いにて


「楽しみね。あの泣き虫ラファエルがどこまで成長したか。うふふふふ」


儚げな姿をした女性が上品に笑っていた。

どうもお待たせいたしました。

最近は仕事が忙しくなかなか投稿出来ずに申し訳ない。


月一ペースの投稿となるかと思いますが、宜しくお願いします。

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