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シャナ王国戦記譚  作者: 越前屋
第四章
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第四章 65話 ブラック企業三銃士

「この役立たずども!!」


聖都ランスにあるゼノン教の総本山では荘厳な雰囲気に似つかわしくない怒号が何度も響きわたっていた。

その音源を辿ると、教皇の部屋へと行き着く。


その教皇の部屋では恰幅のいい壮年の男が頭から湯気を出して怒っていた。


「まったく、何たるザマだ。異教徒共に言いようにやられるとは……。帝国も案外に頼りがいがないわ」


教皇は腹の底から沸き上がるイライラを押さえつけようとするかのように親指を噛んだ。


「しかし、この状況は不味いの」


やっとの思いでスペンサーは怒りを沈めると、今後の対応策について考え始めた。


「う~む、無事に戻ってきた聖堂騎士団が僅か1万足らずか……。これでは聖都を守りきれん」


過去聖都ランスは一度として陥落をした経験のない難攻不落で知られていた。

とはいえ、いかに堅城である聖都ランスとはいえ、3万程度の軍勢では守るのは難しい。

そもそも聖都ランスが陥落しなかったのはゼノン教の総本山であることが大きいのだ。

聖都ランスを攻めれば、もれなくゼノン教から破門という有難いプレゼントを送られては攻めたくても攻めれないというものだ。

そして、それこそが聖都ランスを守る最強の盾であった。

だが、シャナ王国にはその最強の盾が通用しない。

バロモンド枢機卿を抱き込むという奇策で破門という切り札は効力を失ってしまったのである。


「むぅ、帝国に援軍を求めるべきか…」


しかし、その考えをすぐにスペンサーは捨てた。

自尊心の高いスペンサーにはいかに緊急事態とはいえ、聖都に他国の軍隊を駐留させるのは己が無能だと喧伝しているのに等しいと考えたのである。

そんなことは死んでも出来なかった。

だが、状況は事態の先送りを許さない。

すぐにでも王国軍が攻め寄せるかもしれないのだ。


ちょうどそんな時だった。

スペンサー教皇がああでもない、こうでもないと悩み始めていた所にシャナ王国から使者が来たという知らせが舞い込んだのは。


「ラファエル王からの使者じゃと? どうせ、無条件降伏を勧めに参ったのじゃろ。すぐに追い返せ」

「いえ、それが和睦をしたいと言ってきております」

「和睦じゃと……?」


スペンサーはシャナ王国側の意図を計りかねた。

とりあえず、会うだけ会うかとスペンサーは腹に決め、使者を教皇の執務室に通すことにした。



教皇の執務室に使者が通されると、彼は早速用件に入った。


「本日、私が参ったのは教皇様と和睦を結びたいがためです。こちらがラファエル陛下の書簡でございます。どうぞ、目に通してご覧下さいますよう」


使者が恭しく両手で書簡を差し出すと、スペンサーは尊大に受け取った。

和睦と言っても何らかの条件を付けてくるのだろうと思いながらも、スペンサーは書簡に目を通した。


「……んっ? 和睦の条件がどこにも書いてないぞ?」


スペンサーは何度も読み直したが、和睦の条件に関する事項は存在していなかった。

てっきり聖都ランスからの退去や賠償金の請求、教皇職からの退位といった屈辱的な条件が突きつけられると思っていたスペンサーは首を傾げた。


「はい、とりあえずは3年間の休戦を提案したいとのことです」

「ふ~む……」


スペンサーはしばらく宙に視線を彷徨わせて考え込んだが、すぐに決断した。


「分かった、和睦しよう。こちらとしても異論は無い」


あの千里眼とも称される忌々しい異教徒の意図は計りかねたが、スペンサー教皇にとっては渡りに舟であることは間違いない。

3年という期間があれば、再び兵力を整えることも可能であるし、聖都ランスが攻め込まれる危険性も少なくなる。

それにあちら側からの提案ということも少なからずプラスに働いた。

見方を変えれば、シャナ王国からのお願いを教皇が寛大に認めたという形にも見える。

これがもしこちら側からの提案であれば、ゼノン教は完全に負けを認めたことになるのだ。

少なくとも世間はそう受け取ることになる。


そういった諸々の思惑を考えたスペンサーは和睦を受諾することにした。


「それでは和睦締結ということで」

「うむ」


こうして、それぞれの思惑により、両国は和睦することとなった。



「これで唯一の進軍路を失った帝国軍がシャナ王国に攻め入ることはないだろ?」


コーラル城の一室でカズマが外交戦略について説明をしていた。


「たしかにランスからの進撃が不可能となれば、帝国軍が再び我が国に侵攻出来ないわね」


セシリアが納得したように頷いた。


「しかし、和睦しただけでは安心できないのでは? スペンサー教皇は信義に厚い方ではないようですし……」

「最悪、ランスから侵攻する帝国軍を黙認するかもしれんな」


ナシアスの言葉をフローレンスが引き継いだ。

帝国軍がランスを通過しても、スペンサーが黙認するのではと、二人は危惧した。

自分の思い通りにする為にはどんな手でも使ってくるスペンサーならば、十分に考えられる事態だった。


「んにゃ、スペンサーの性格からして今の時点ではないと思うね」


そんな二人の懸念をカズマは手で振りながら否定した。


「バロモンドによれば、スペンサーは狡猾で自尊心の高い性格をしているらしい。過去の経歴からでもそういった性格なのは推測できるしね。でここからが重要なんだけど、スペンサーは目的の為なら手段を選ばない主義だけど……。彼が動くにはある条件がある。それは100%勝てるという自信がなければ、動くことはないんだよ」


過去、スペンサーが、蹴落とした政敵は山ほどいる。

その方法を丹念にカズマが調べてみると、一つの共通点があった。

それは完全に勝てるという確証を得てから動き出しているフシがあったことである。

勝てると思ったら、スペンサーはトコトン積極的に動き出すが、少しでも不利になると途端に消極的になるのである。

恐らく、人一倍慎重な性格がそういった手段を取らせているものと思われた。


「スペンサーは意外と慎重な性格をしているんだよね。んで、現在のランスは、聖堂騎士団が壊滅的な打撃を受けたせいで落城の危機を感じているはずだ。その不安が取り除かれない限り、スペンサーが帝国軍の侵攻を黙認することはない」


ランスから侵攻する帝国軍をスペンサーが黙認して、それが破れた場合には今度こそランスはシャナ王国の猛攻の危機にさらされることになる。

そうなったとしても大丈夫なように聖堂騎士団を再編成して、まさかの時の保険を掛けておきたいとスペンサーが考えるに違いなかった。


「だから、聖堂騎士団が再編成完了するまでは動き出さないと俺は見ている。恐らく、二人の言った方法をスペンサーが取る時、それは聖堂騎士団の再編成が完了しているか、絶対に勝てるという自信が出来た時だけじゃないかな?」


ナシアスの従卒が持ってきた紅茶に口をつけながら、カズマは説明した。


「なるほど……」

「だから、これからは時間の勝負になる。俺達が鉄壁の防衛ラインを築くのが先か、スペンサー達が必勝の態勢を築くのが先か……のな。さ~て、忙しくなるぞ。二人には砦を築くのに相応しい地勢の調査や砦の建築、帝国軍侵攻時の防衛マニュアルの作成、エトセトラエトセトラ。宜しくね、お二人さん? 仕事が忙しいのは良いことだって、みのも○たが昼の視聴者からの相談コーナーで言っていた気がするし」


カズマがニンマリとブラック企業に就職してしまったナシアスとフローレンスに告げた。

しかし、カズマは忘れていた。


「それじゃ、カズマも寝る間を惜しんで働いてくれるのよね? 仕事が忙しいのは良いことなのよね」


すかさず、セシリアがカズマの言質を確認した。


「……………えっ?」

「それじゃ、早速仕事をしましょうね。ダグラス、溜まっていた書類を持ってきて。バルカン、カズマがサボらないように見張ってて。さぁ、始めましょうか。ね、カズマ?」


それはカズマもそのブラック企業の一員であることであった。

その後、コーラル城の一室でブラック企業三銃士(カズマ、ナシアス、フローレンス)が名誉の二階級特進(戦死)をしたのは言うまでもない。


大変、お待たせいたしました。

65話をお届けいたします。

今回は大変な難産でしたよ。

えぇ、書くと言うよりも仕事から帰ってきてパソコンを開く気力を出すのに苦労したほうで。

で、今回は推敲を流し読みでやったので変な文章とかあるかもしれません。

何かありましたら、感想でもメッセージでもいいのでご連絡ください。


最近、2連休がGWと同じように思う越前屋より。

次回更新は2週間後くらいを目標に頑張りますので宜しくお願いします。


感想、誤字、脱字、評価 お待ちしております。

また、更新予定日を当方の活動報告にて随時、予告します。

良かったら活用して下さい。


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