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シャナ王国戦記譚  作者: 越前屋
第三章
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第三章 56話 二番目に遭遇したくない敵

帝国軍と王国軍はコーラル城にほど近い地で対峙していた。

帝国軍はコーラル城を包囲する際、小高い丘に陣地を築いていたが、王国軍が援軍に現れたことでより有利な地形を得ようと5千の兵をコーラル城包囲の為に残し、近くにあったセイジュという名の山に陣地を移していた。

その山は王国軍の援軍がコーラル城へと向かう進路を阻む位置に存在し、帝国軍が援軍を阻むには手頃な山であった。

一方の王国軍はその山の麓に広がる平地に陣を設けた。

双方にとって、負けられない一戦である。

帝国軍はここで王国軍を叩けば、王都ランパールを楽に陥落させることが出来る。

逆に王国軍はここで負ければ、シャナ王国は滅びることになる。

その為、両軍はただならぬ熱意でもって対峙していた。



「しかし、コーラル城の攻略に手こずった時はどうなるかと思いましたが……。王国軍の主力がわざわざ援軍に来てくれるとは有り難い限りですな」


山の上に作られた帝国軍の陣地から遠くに見える王国軍を眺めながら副官が言った。

本当ならばコーラル城を落とした後にも王都ランパールを陥落させるという難題が待っているはずだった。

だが、王国軍がコーラル城を救う為に王都をノコノコ出て来てくれたお陰でその問題も無くなったのだ。

副官にとっては王国軍が援軍に来てくれたことをナシアスに感謝したいほどだった。


「さて、私は逆にそれが気にかかるがな。シャナ王国側も馬鹿ではない。当然、そのことを想定していたはずだ。我々に必勝する策を用意したのか、それとも……?」


コーウェン将軍としても喜ぶべき状況ではあった。

コーウェン将軍は城攻めよりも野戦を得意としていた。

野戦ならば同数の敵でも負ける気はないし、ましてや自軍の半分の敵に負けるはずがない。

ただ、今まで数々の窮地を救ってきたコーウェン将軍の勘が敵を侮るなと警告を発していた。


「それとも……?」

「ハッハッハッ、楽しみだな。シャナの千里眼と呼ばれし、智謀の策。どのようなものか、楽しみで仕方がないわ。全軍に出撃準備を命じろ」

「畏まりました」


副官が陣幕を出て行ってもコーウェン将軍はいつまでも不敵な顔をしたままだった。



王国軍の陣地前では王国軍の主だった幹部が帝国軍の陣地を眺めていた。


「それにしても軍師殿?」


しばらく一緒に帝国軍の陣地を眺めていたヴァレンティナの副官カーラがおずおずとカズマに話しかけた。


「ん? 何か聞きたいことがあるのか?」


カーラが話しかけるのは珍しいなと思いながらカズマは応じた。


「はい。疑問に思っていたのですが、何故援軍に賛成したのでございますか? 帝国軍に野戦で勝つ困難さはカズマ殿も御承知のはず。情けよりも理を優先する方と思っておりましたが?」


どうも腑に落ちてないのか形の良い眉をよせながらカーラが聞いた。

その姿は学級委員の女の子が分からないことを教師に質問している様子に似ているなとカズマは漠然と思った。


「おいおい、それじゃ俺は人の情けを知らない悪賢い悪魔みたいじゃないか」

「……違いましたか?」


本気でそう思っているのかカーラは目を見張って驚いていた。

その様子を見たカズマは自分のガラス(防弾ガラス製)のハートが少々傷ついたことを感じた。


「……まぁ、いいけどね。それじゃ、何で援軍を送ることにしたのか、だったっけ?」


はいとカーラは生真面目に頷いた。


「理由は三つあるけどね。一つはラファエルが気に入っているから。アイツは自分のことを無能だと感じているみたいだが、こと人物鑑定に関しては誰にも負けない才能がある。アイツが気に入るやつは大抵、ある分野においては一流の奴だ。そんなラファエルが気に入ったナシアスという奴もその可能性が高い。優秀な人材はのどから手と足と内臓が出るほど欲しいからな。二つ目はラファエルの支持率をあげる為だ。グランバニア大陸にラファエルのクリーンなイメージを浸透させるのが狙いだ。シャナ王国の王は情け深いという評判が立てば、それだけこちらに有利に働くだろ?」


人差し指を立て、横に振りながらカズマは解説した。


「そうですね。しかし、今回の戦は何が何でも負けられないはずです。それぐらいのメリットでしたら援軍を出すべきではないのでは?」

「いや、ところがぎっちょんちょん。そうはいかなくなっちゃったんだよね、これが。それは3つ目の理由にある。今、シャナ王国は一つに纏まっていると思うか?」

「……お世辞にも纏まっているとは言い難いですね」


さほど考えることなくカーラはカズマからの問いかけに答えた。


「その通り。シャナ王国を豊かにする為とはいえ、貴族達を粛清するという荒療治をしたばかりだ。当初の目的では徐々に貴族達からの不満の声を減らすはずだった。だが、帝国軍が予想以上の早さで侵攻してきたことで計画が頓挫したわけだ。今のシャナ王国はどこから裏切り者が出てもおかしくない状況になっている。さて、そこで必死に戦っている忠臣を王が見捨てたという話がシャナ王国に広まったらどうなると思う?」

「……っ!!」

「そう、裏切りのネズミ算式だな。たとえ、大局的に見た判断だとしても見捨てたことに対しての言い訳にはならないわけだ。なぜなら、見捨てるような状況を招いたのも結局は王の所為だからだ」


王都周辺での攻防戦が最もローリスクだと思いながら、援軍にカズマが賛成した最大の理由はそこにある。

カズマがこの状況で思い出されるのは戦国最強の呼び声高い武田家の滅亡を決定づけたある城の戦いである。

その城は徳川軍に囲まれて、武田家当主勝頼(信玄の息子)に援軍を求めていた。

だが、勝頼は援軍を送らなかった。

いや、送れなかったというのが正しいだろう。

その頃の武田家は度重なる戦いで援軍を出せるほどの余裕がなくなっていたのだ。

結果、城は城兵が餓死寸前になるまで包囲され、最後には玉砕した。

これ以降、武田家全体に不信感が広がり、沈みかけたタイタニック号から大量のネズミが逃げ出すような状況になったのである。

カズマにはシャナ王国も武田家と同じ末路を迎える気がしてならなかった。


「軍師殿、勉強になりました」


頭をペコリと下げカーラはカズマに礼を述べた。

その顔には素直にカズマを尊敬する念が含まれていた。

カズマにとっては知っている歴史から想像した推理だったので面映ゆかった。


「あいよ~。またいつでもどうぞ~」


手のひらをヒラヒラさせながらカズマは照れていることを誤魔化した。

それと同時にフローレンス騎士団長が寄ってきた。


「それでどうする、軍師殿? どうやら、帝国軍は動く様だぞ」


フローレンス将軍が言うように帝国軍の陣地内では兵士達が慌ただしく動き回っており、遠からず攻め寄せるのは確実だった。


「なぁ、帝国軍の陣地の様子はどう思う?」

「まさしくコーウェン将軍が率いるに相応しい軍勢ですな。槍の穂先は一本たりとも乱れることなく、上から下の者まで己の仕事を弁えており、コーウェン将軍の手足の如く動く。将軍の位にいる者ならば、一度は率いてみたいと思う軍勢です。戦場では二番目に会いたくない軍勢ですな」

「二番目? じゃ、一番目は?」

「決まっております。将軍から一兵卒に至るまで女兵のみで編成された軍勢であれば、全く勝てる気がしませんね。即座に降伏を選びますよ」


フローレンスはユーモアたっぷりに肩を竦めてみせた。


「……たしかに戦場では絶対にお目にかかりたくない軍勢だな」


セシリアやヴァレンティナ、カーラなどが槍や刀を手に突撃してきたらと思うと即座に回れ右を選択するだろうなとカズマは頷いた。

……騎士道精神という高尚な考えではなく、女性陣を怒らせた後の災いを恐れて。


「まぁ、それはともかくだ。帝国軍が精強なのは分かった。それに加えて20万の大軍か」

「近衛兵団や騎士団などはそうでもありませんが、領主の兵には今度の戦を不安視しているものが多いようです」

「まぁ、見事な奇襲攻撃を喰らって、さらに自軍の倍の兵力差という現状を見れば、不安の一つや二つや、一万ぐらい出てきて当然だな。やっぱり、帝国軍に一撃を喰らわせて、不安を取り除いてやったほうがいいな」


むぅとカズマは唸ると考え始めた。

現在の状況で帝国軍と戦えば、少し不利になっただけでも領主の軍勢が崩れる恐れがあった。

あとはなし崩しに全軍潰走という、全くもって笑えない状況に陥るのはカズマとしても勘弁願いたかった。

帝国軍と決戦する前に大勢(たいせい)に影響しない小競り合いでもいいから勝ち戦が欲しかった。

先に勝ってしまえば、王国軍にある不安を取り除くことが出来るとカズマは判断した。


「ここは戦の常道に従うべきだな」

「戦の常道と言うと?」

「自軍よりも弱い敵と戦い続ければ、百戦百勝なり。これ不敗の名将の真理なり。相手にいるだろ? ……カモにするにはちょうどいい敵が?」


カズマはニヤリと笑い帝国軍の陣地の一角を指差した。

その一角には聖堂騎士団の旗がはためいていた。


お待たせいたしました。

予定よりも2日早めに投稿します。

何か思ったよりも順調に書きあがっているんですよね。

とはいえ、予告通りの日付に投稿したほうがいいですかね?

もし、予告通りがいい方はご連絡下さい。


さて、今回は前哨戦の序章みたいな位置ですね。

次回から前哨戦が始まりますのでお楽しみに。


感想、誤字、脱字、評価 お待ちしております。

また、更新予定日を当方の活動報告にて随時、予告します。

良かったら活用して下さい。

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