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シャナ王国戦記譚  作者: 越前屋
第三章
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第三章 51話 シャナ王国随一の石頭集団

シャナ王国に侵攻している帝国軍の総大将コーウェン将軍は壮年の武将である。

15歳で初陣を経験して以来、コーウェン将軍の軍歴は輝かしい武功で彩られていた。

槍働きは勿論、采配においても他の追随を許さない程の猛将である。

その采配は猛烈にして、勇猛果敢。

コーウェン将軍が指揮をとれば、帝国軍の一人一人がまるで火の玉に変貌するかのように錯覚を覚えることだろう。

ギルバートが彼を総大将に据えたのは必然であったと言えよう。

そのコーウェン将軍、率いる帝国軍はシャナ王国に侵攻し、半分以上の行程を終えていた。

その間、散発的な戦闘はあったものの特に問題なく、計画通りに侵攻していた。


「将軍。どうやら、敵は我らの奇襲に慌てふためいているようですね。散発的な戦闘はありましたが、組織的な抵抗は皆無です。これなら陛下の後詰めを待たなくして、王都を陥落出来そうですな」


副官がコーウェン将軍に楽観的な見方をした。

実際、帝国軍がシャナ王国領に侵入してから、シャナ王国軍の反撃など無きに等しかった。

ランスからの侵攻が予想以上に上手くいっているように副官には感じられた。

しかし、コーウェン将軍は別の感想を抱いていた。


「戦に楽観は禁物だ。戦が計画通りに進むことなどない。必ず、何らかのアクシデントが起きるものだ。そのアクシデントを上手く乗り切ったほうに勝利の女神はほほ笑む。それにどうも、シャナ王国軍はこの状況を冷静に対応しているようだ。我々が王都に着く頃には王都防衛の準備を終えているかもしれん」


コーウェン将軍は両方の眉を器用に上げ、副官を窘めた。

彼は猛将と呼ばれているが、だからといって、己の武勇を盲信して、退く事を知らない突撃馬鹿ではない。

冷静に戦局を見ることの出来る猛将にして、名将なのだ。

これには副官も目を大きく開け、驚いた。


「まさか……?」

「そのまさかだ。最初こそ、散発的な戦闘が起きていた。だが、今は全くと言っていいほど、起きておらん。これは無駄な戦闘をするなという命令が王都から来ているのではないか?」

「しかし、我が軍に恐れをなして、散発的な戦闘が起きなくなったのかもしれませんのでは?」

「無論、そう言う可能性はある。だが、シャナ王国軍が既に事態に気付いている可能性もあるということだ。勝って兜の緒を締めよと言う言葉もある。勝った後でさえ、油断するなと言っているのに、戦う前から油断しては更に危ない。くれぐれも油断するな」


戦場とともに人生を過ごしてきたコーウェン将軍の言葉には重みがあった。

そのことを感じ取った副官もコーウェン将軍の訓戒を胸のうちに留めた。


「それで、この街道の先に城はあるのか?」

「はい、コーラルと呼ばれる城があるようです。ただ、特別に堅固という話は聞いておりません。また、物見の兵も放っておりますし、まもなく、城の様子が分かるでしょう。……どうやら、戻ってきたようですな」


副官は遠くから土煙を巻き上げながら、戻ってくる物見の兵を目に留めた。

しばらくして、物見の兵が報告に来た。


「報告、報告!将軍閣下に報告です!」


物見の兵は馬から飛び降りると将軍の前で膝をつき、報告を始めた。


「それでコーラル城の様子はどうだった?」

「それがコーラル城に多数の兵が詰めておりました。どうやら、籠城しているように思われます」


物見の兵は息を切らしながらも、詳細にコーラル城付近の様子を話した。

ふむと一言呟くと、コーウェン将軍は腕を組んだ。

ここに来て、急にシャナ王国軍が籠城している理由をコーウェン将軍は分かりかねた。


「城にいる兵の数とかは分かるか?」

「それが分かりません。ただ城の規模からして、3000人は越えていないと思われます。また城周辺には伏兵の様子や罠などもありませんでした」


その間にも副官が要領よく、物見の兵から城の様子などを聞いていった。

そうして、大体のことを聞き終えると、副官は物見の兵を下がらせた。


「そうか、ご苦労だった。戻っていいぞ」

「はっ」


物見の兵が下がっていくと、副官はコーウェン将軍に向きなおった。


「それで、将軍。いかがなさいますか?」

「とりあえず、城の様子を見てから方針をそれから決めても遅くはないだろう」

「畏まりました。先陣に前進を命じます」


コーウェン将軍の命令はあっという間に先陣に伝わり、コーラル城を目指して、前進を始めた。



城の中で帝国軍の攻撃を待ち構えているマーシャル軍2000人を指揮するナシアスはブラッドと共に城壁の上に立ち、徐々に近づいてくる帝国軍を見据えた。

見晴らしの良い所から帝国軍を見ると一人一人がアリのように小さく見える。

しかし、そのアリの大群は緑に恵まれた美しい景色が埋め尽くすほどいた。

さしずめ、進路上にいる生き物を次々と喰らいながら、ひたすら突き進む軍隊アリの大群のようであった。


「どうやら、帝国軍のお出ましのようだな」

「左様で。年甲斐もなく、血が(たぎ)りますな」

「ブラッドも年なのだから、気を付けねば。戦う前に高血圧で死んでしまっては私が困るぞ?」

「ナシアス様、心配御無用でございます。私は人より血の気が多い性質ですが、今まで一度たりとも血管が破れたことはありません。この程度の高血圧など私にとっては日常茶飯事でございます」


澄ました顔でブラッドはナシアスに冗談を言った。


「そうだな、愚問だったよ」


その冗談にナシアスは笑った。

ひとしきり笑うと、ナシアスは背後を振り返えった。

城壁の下にはマーシャル軍の将兵がナシアスの下知を今や遅しと待ち構えていた。

誰一人として、大軍を前に恐れることなく、不敵な笑みを浮かべていた

彼らはナシアスの決断を聞き、籠城する事を志願した者達である。

無論、生きて還れないであろうことを覚悟して。

そんな彼らを前にナシアスは最後の言葉をかける。


「諸君、ついに帝国軍が来た!恐らく、我々は全滅するだろう。だが、そう簡単にこのコーラル城をやらぬ。我らはシャナ王国随一の石頭集団よ!愚かだと言われることをやろうとしている不器用な者達の集まりよ!だが、我らは頑固さでは誰にも負けぬ!頑固の意味には、自分の考えを変えられないという意味の他にももう一つある!一度取りついたら死ぬまで離れようとしないという意味だ!各々、各持ち場を頑固に守れ!帝国軍のやつらにシャナ王国随一の頑固者の戦いぶり、とくと思い知らせてやれ!」


ナシアスが一息でそれだけのことを言いきると、眼下にいる石頭達は歓声を上げた。

それをナシアスは右手で制し、最後に宣言した。


「今から諸君は私の友人だ!同じ戦場を共にする戦友(ゆうじん)よ!さぁ、共に帝国軍と戦おうぞ!総員配置につけ!」


その言葉と同時に2000人もの石頭達による大歓声が上がり、各持ち場へと散っていった。



コーラル城、近くまで進軍した帝国軍は敵から弓矢の届かないギリギリの地点で停止した。


「副官、城の様子をどう思う?」


兵士達には小休止を命じ、コーウェン将軍と副官はコーラル城を見ることの出来る場所で城の様子を観察していた。


「不気味なほど静かですな。伏兵が潜む森のようです」


副官が忌憚なく己の意見を言った。

彼の言う通り、コーラル城は奇妙な静けさを保っていた。

とても敵軍を前にした城の反応ではない。

普通であれば、一つや二つ敵から罵声が上がったりするのだが、コーラル城に籠る敵軍からは一切あがっていない。

副官の言う通り、伏兵が潜む森のような不気味さである。


「大軍を前にして、恐れ震えているだけならば、問題ないが……。城壁の上にいる敵兵の動きを見れば、あの城は違うことが分かる」


コーウェン将軍の視線の先には城壁の上で統制の取れた動きをする敵兵を捉えていた。

森に潜む伏兵のごとく、静かなのは完全に統率された兵だからだ。

そして、そのことはコーウェン将軍に一つのことを推測させた。


……どうやら、コーラル城に籠る将は凡愚ではない。


多数の兵達を完璧に統率している将が凡愚であるはずがない。

長年戦場で生活しているコーウェン将軍には分かった。


「この戦、簡単には勝たせて貰えぬらしい」


コーウェン将軍はそう呟くと同時に闘争心が湧きあがってくるのを感じた。

久方ぶりにコーウェン将軍を満足させる敵が現れた事を喜ぶかのように。


後にコーラル城攻防戦と名付けられた戦いが始まろうとしていた。


お待たせいたしました。51話となります。

次回、戦闘シーン突入予定。

現在、急ピッチで仕上げています。

次回も宜しくお願い致します。


感想、誤字、脱字、評価 お待ちしております。

また、更新予定日を当方の活動報告にて随時、予告します。

良かったら活用して下さい。




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