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シャナ王国戦記譚  作者: 越前屋
第三章
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第三章 49話 睡眠妨害の代償

その日、天蓋付きの豪奢なベッドでラファエルは健やかな眠りについていた。

当然と言えば、当然である。

まだ時刻は夜が明けたばかりであり、外は薄暗く、静寂を保っていた。

どんなに早起きの年寄りでも、温かい布団の中で眠っていることだろう。


しかし、その静寂を突如として、破られた。

いきなり、何者かが扉を蹴飛ばすように開け、ズンズンとラファエルの下へと歩き出したのだ。

その乱入者は一直線にベッドの脇まで歩き、騒ぎに気付かず、寝入っているラファエルをしばし見据えた。そして、おもむろにラファエルの胸倉を掴むと激しく頭をシェイクさせた。


「アッワワワワワワ!!!なっなななななにごと!?」


現在進行形で行われている、強烈な頭のシェイキングはラファエルから眠気を追い出すのに十分だったようだ。

ラファエルが起きたことを確認すると、乱入者はようやく手を止めた。


「起きたか?」

「……カ、カズマ?」


狂った三半規管を元に戻すべく、ラファエルは頭を軽く振り、現状を把握した。

そして、ようやく乱入者の正体を知った。


「ど、どうしたの、こんな時間に?」

「何か、夜が明ける前に目が覚めちまって。」

「……へっ?」


訳が分からないラファエルは気の抜けた返事しか返せなかった。


「うむ、こんな時間に俺が起きると言う事はシャナ王国、滅亡の危機が迫っているに違いない。ラファエルも起きていたほうがいいと思うぞ? ノストラダムスやマヤ文明とかの予言より、俺のほうが確かだからな」

「………………へっ?」


最後まで事態がよく分からなかったラファエルはそう返事をするしかなかった。

ラファエルがカズマの言ったことを理解するのは、その少し後に息を切らせて、やってきた伝令兵の話を聞いてからだった。



息も絶え絶えだった伝令兵を下がらせると、ラファエルは側近達を執務室に急遽、呼び寄せた。

ただ、ルークはローランド要塞に戻っており、また、ガンドロフ将軍も己の領地に野暮用で戻っていた為、二人は召集されなかった。

それ以外のフローレンス、グローブ、セシリア、レヴァン兄妹といった面々は集まった。


「国境から緊急の報告が来た。セントレイズ帝国軍が王都ランパールを目指して、進撃中らしい。敵は推定15万~30万人。この中には聖堂騎士団の連中も加わっているらしい。率いているのはコーウェン将軍のようだね」


重々しく、ラファエルが事態の深刻さを集まった側近達に語った。


「では、カズマ殿が恐れていた事態に……」

「その通りだね。敵にも頭の回る参謀がいるらしい。ランスから王都までの道のりに敵の大軍から守りきれる城などは存在しないからな。そこに気付けば、わざわざ難攻不落のローランド要塞を攻める必要が無いことは一目瞭然だからな」


どの国に対しても中立の立場であるゼノン教は今まで国家に加担する事は無かった。

その事実はランスから敵軍が雪崩れ込む事などないことを示している。

代々のシャナ王もランス周辺に要塞など築いたところで無駄だと考え、何も手を打たなかった。

まさか、ゼノン教が敵対する事態になるとは夢にも思わず……。

それゆえ、ラファエルの代になっても無防備な横腹を晒し続けていた。


「こっちも烽火台や伝令兵などを配置して、警戒していたお陰で事態に気付くのが早かったのは不幸中の幸いね」

「そうだね。カズマの言葉が無かったら、完全に奇襲攻撃になっていたからね」


もし、カズマの言葉が無かったら、ラファエルは今でも気付く事は無かっただろう。

その結果を想像した、ラファエルはゾッとする思いを味わった。


「セントレイズ帝国軍は王都に着くまで、どのくらいかかる?」

「ランスから王都までの道のりやったら、どないに早くても、10日はかかると思われまっせ~」

「……10日ね。少ないと見るべきか、多いと見るべきか。」


ラファエルは腕を組み、悩むように言う。


「ちょっと、短いな。あと、もう少し時間があれば、領主軍を召集出来るが、相手も呑気にそれまで待ってくれないだろう。近衛騎士団などを含めて、いま動かせる戦力は10万人ぐらいだ。」

「まぁ、十分十分。それだけいれば、取れる作戦の幅が広がるよ」


少々不安な気持ちになっていたフローレンスをカズマが安心させるように言った。


「それで、カズマ様、これからどうしますの?」

「基本戦略は城外に出撃して、迎え撃つことになる。籠城しても援軍の当てはあるが、敵軍にそれ以上の援軍がやって来る可能性がある。短期決戦で勝ち、一気に敵をシャナ王国から追い出さないといけない」

「だが、コーウェン将軍と言えば、帝国にその人ありと言われた猛将。それに兵士達も精鋭集団のはず。果たして、上手くいきますかな?」


どこか面白そうにアルバートは言った。実際、アルバートはこの事態を楽しんでいた。

フォルラン侯爵とカズマが争っていた時、アルバートはフォルラン侯爵側につこうとしていた。

だが、妹であるヴァレンティナの言葉で思い留まり、カズマに肩入れした。

結果は見ての通り、フォルラン侯爵は敗れ、カズマが再び台頭した。

お陰でカズマとラファエルに恩を売る事ができ、レヴァン家としては万々歳の結果だった。

今回の危機も今までのことを思い出せば、カズマが無策で帝国軍に挑むはずがない。

そう思うと、アルバートは極上のエンターテイメントを楽しみに待っている観客のような気分になれるというものであった。


「勿論、その為に色々準備をしてある。既に王都周辺にはこの時の為に様々な罠を張り巡らしてあるし、バーネット皇国にも援軍の要請をする使者を送った」


伝令兵が帝国軍襲来の報を聞くと同時にカズマは抜かりなく、援軍要請の使者を送っていた。


「バーネット皇国のグローサ王は陛下と親しいゆえ、援軍を送るかもしれん。ましてや、シャナ王国が滅亡すれば、次は我が身。送らざるをえないだろう。だが、援軍を編成するにはある程度時間がかかります。ましてや、到着するまでには……」

「無論、時間がかかるな。俺の狙いは別にある。帝国軍の上層部から末端の一兵卒にいたるまでの全員にバーネット皇国から援軍が来る可能性を知らせることが狙いだ。ついてはグローブ宰相。細作を放って、帝国軍に援軍の噂を流して欲しい。俺の策には絶対に欠かせないから」

「任せておくんなはれ」


グローブは力強く頷いた。


「そういえば、帝国軍の進路上にいる領主達はどうするの?」


こういった突発的な事態に領主達は混乱していることは想像に難くない。

何らかの命令を王都から与えねば、何をしでかすか分からないと思った、セシリアはカズマに聞いてみた。


「そうか、忘れていたな。そうだな、帝国軍の進路上にいる領主には領民の避難を優先させよう。それから、城を捨てても罪を問わないことを急いで伝えて。城に籠ったところで、帝国軍の攻撃を耐えられないだろうし。無駄な犠牲を出したくない」

「うん、それがいいね。すぐに伝令兵を出すよ」


王都までの道のりには敵の大軍に囲まれても、大丈夫な城は無く、下手に籠城されては無駄な犠牲が出る。それを嫌ったラファエルはすぐに伝令を出すことにした。


「それじゃ、今のところ、こんなモノかな。それぞれ、準備をしておいて。また、事態が変わり次第、召集するから」


とりあえず、決めなければいけないことも決め終わり、ラファエルが会議の終了を宣言した。

それと同時にカズマがブツブツと恨みのこもった声を出した。


「……帝国軍の所為で仕事が山のように出来ちまった。フフフフフッ、これで睡眠が削られること確定だな。帝国軍に睡眠妨害の恨みは恐ろしいということをDNAの1個1個に刻みつけてやる。待っていろ、全員、悪夢しか見られぬ体にしてやるからな」


地獄の底から聞こえてきそうな声でカズマが呟いた。

金銀財宝よりも貴重な睡眠を妨害したセントレイズ帝国軍にカズマは復讐を強く誓った。

ちなみに、その日、ギルバートは悪夢にうなされたとか、うなされなかったとか。


この後、カズマ達は策の準備に余念が無く、帝国軍が来る前には終わらせていた。

だが、カズマの策は思わぬ形で阻まれることになる。

それは帝国軍と王都のちょうど間に位置していた、コーラルと呼ばれる城が大きく関係する。

かつて、ドーバー伯爵が城主として治め、ドーバー伯爵亡き後にその息子であるナシアスが後を継いだ、その城はカズマのタイムスケジュールを大きく変えることになろうとは、さすがのカズマも気付かなかった。


お待たせいたしました。49話をお届けいたします。

今回は久々に王都へ視点を戻しました。

次回は新キャラが登場する予定です。


また、気付いた方もいらっしゃるかとは思いますが、

登場人物を話の先頭に移動しました。

前々から、中途半端な位置で気になっていたのですが、

割り込み機能が追加されたので、この度移動する事が出来ました。

ついでに本編とは関係ない外伝も先頭に移動しました。

これで見やすくなったかと思います。

それでは、次回も宜しくお願いします~。


感想、誤字、脱字、評価 お待ちしております。

また、更新予定日を当方の活動報告にて随時、予告します。

良かったら活用して下さい。

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