第三章 47話 セントレイズの千里眼
ランパール城の執務室で会議が行われている時、奇しくもセントレイズ帝国の帝都ガルディでも会議が行われていた。
セントレイズ帝国の帝都ガルディは、かつて広大な平原であった場所に作られた。
帝都の周りには三重に作られた巨大な濠と城壁で囲み、難攻不落の都市と化していた。
城の分類上はシャナ王国の王都ランパールと同じ城郭都市である。
だが、同じ城郭都市でも帝都ガルディは王都ランパールの2倍以上の規模を誇っている。
王都ランパールは元々、山だったところに作られた為、その山以上の規模で王都を作り上げるのは不可能であったことも一つの要因であるが、最大の要因は当時のシャナ王国とセントレイズ帝国の国力の差であった。
セントレイズ帝国は広大な国土に加え、その国土には農作地に適した、豊かな土地が多数あったがゆえに王都ランパールよりも規模の大きい帝都を作ることが可能であった。
その上、現在では皇帝の位に就いた、ギルバートが辣腕を振るい、両国の国力はますます離れていっていた。
さて、そのギルバートは執務室で腹心のローグウッド宰相と隣国のシャナ王国の情勢について、話していた。
「ワッハッハッ、ゼノン教を内部分裂させるは討伐軍を破るは、『シャナの千里眼』とやらは中々、私を楽しませてくれる」
ローグウッドから報告を聞いた、ギルバートは心底、可笑しそうに笑った。
「陛下、笑いごとではありません。これで、シャナ王国は完全に一枚岩になった様子。今まで、準備していた内通の策が全て、無駄になりました」
そんな陛下の様子にローグウッドは現状を認識させるべく、冷静な言葉で諫めた。
「あぁ、ラングレーの戦いで戦死したフォルランとかいう小物のことか?」
「はい、我らがシャナ王国に攻め入る時の陽動ぐらいは期待していたのですが……」
フォルランは自分が王から快く思われていなことは知っていた。
彼のしてきたことを考えれば、当然と言えば、当然だろう。
だが、それと納得するかは別問題であった。
そこで、フォルランはセントレイズ帝国と内通する道を選んだのである。
「どうせ、シャナ王国を攻め滅ぼした後に、処刑するつもりだったのだ。余計な手間が省けたというもの」
「しかし、陛下。フォルラン候だけでなく、今回のことで、内通を承諾していた者達も我らとの関係を慌てて、絶っております。どうやら、ラファエル王が貴族達の屋敷を強制捜査しているようです。その屋敷は反国王派と疑われる者達の屋敷のみだった点からもラファエル王の狙いは明らかです。シャナ王国の膿を出し切るつもりでしょう。この強制捜査で我らとの内通が表沙汰になった者も勿論、強制捜査が行われなかった者も恐れをなし、我らとの内通を慌てて、止めました」
「ほう?間髪入れずに行動したのか。機を見るに敏だな。少々、見直したぞ」
ギルバートはラファエルを見直すことにした。
彼が最初に抱いたラファエルの印象は惰弱と優柔不断だった。
多少は家臣から慕われているようだが、父親に唯々諾々と従い、最終的には国を追われそうになるなど、惰弱と優柔不断の極みのようにしか見えなかった。
ギルバートが同じ立場であれば、父親を隠居に追い込み、邪魔な弟など、処刑するところである。
その為、ほどなく、ラファエルは殺されるか、バーネット皇国に亡命することになるだろうとギルバートは思っていた。
だが、事態はギルバートにとっては思わぬ方向へと進んだ。
劣勢だったはずのラファエルがケイフォードを打ち破ったのである。
ギルバートにとっては久方ぶりに予想が外れた出来事だった。
「ラファエル王はどうやら、中々の名君とお見受けいたします。カズマを得てからの飛躍ぶりには目を見張るものがあります。ゆめゆめ、侮る事がないように」
「心配するな、ラファエルが王に就いてからは一度たりとも私は侮っていない。全力で叩きつぶすに相応しい相手だ。それよりも、今回の事は悪い事ばかりでない。そうだろう、ローグウッド?」
「陛下の仰る通りです。早速、スペンサー教皇より、使者が密書を携えて参っております」
ローグウッドは深く頭を垂れて、主の慧眼を讃えた。
そして、ローグウッドは赤い衣を纏った使者から、受け取った密書を懐から取り出すと、主に手渡した。
それをギルバートはざっと密書を流し読んだ。
「陛下、それで内容はいかがでしたか?」
「ふむ、予想通りの内容だな。8割はくだらん説法だな。残りの2割も手を組むことが神への崇高な奉仕だという表現が延々と書いている。どうやら、神とは奉仕しないと、天国に連れて行ってくれぬらしいぞ?無料では天国に連れていけぬとは、随分と人情味溢れる神のようだ。初めて、神に親近感が湧いたな」
密書を机の上に放り投げると、ギルバートは皮肉交じりに呟いた。
「しかし、これで大義名分が手に入りました」
「あぁ、ゼノン教に仇なす、シャナ王国を征伐するという大義名分だ。私達にとっても渡りに船だ。手を組むことにしよう」
「畏まりました。それと、手を組むにあたって、私に策があります」
「ほぉ、さすがだな。それでどんな策だ?」
おもむろにローグウッドが考えた策を話し始めると、ギルバートの顔は徐々に綻んでいった
「お前はセントレイズの千里眼だよ。シャナの千里眼が慌てふためく姿が目に浮かぶ。まさか、長年、我々を苦しみ続けていたローランド要塞を無効化出来る方法があるとは」
ギルバートは高らかに笑いながら、己の軍師に最大級の賛辞を送った。
「それではスペンサー教皇に協力を願いましょう」
「あぁ、段取りは全て任せる。それから、極秘裏に軍団を動かす準備をせよ。大陸統一への一歩だ」
「既に軍団は出撃準備に入るよう、命じてあります。あとは陛下の命令一つでいつでも出撃可能です」
「さすがだな。では軍団を出撃させろ。スペンサーの返答が届き次第、シャナ王国に雪崩れ込め。総大将にはコーウェン将軍を任じろ」
ギルバートはローグウッドの仕事ぶりに満足そうに頷くと、矢継ぎ早に指示を出していった。
「御意。勇猛で名高いコーウェン将軍なら適任でしょう」
「ここからは時間との勝負だ。一ヶ月以内にランパールを落とす。シャナの千里眼よ、今までの相手とは一味も二味も違うぞ?」
即断即決を旨とするギルバートはついにシャナ王国に向け、その鋭い牙を突き立てようとしていた。
それから、5日後にはスペンサー教皇から返答が届いた。
その内容はギルバートを満足させるものであった。
即日、セントレイズ帝国軍は進撃を開始した。
その数は20万人。過去に帝国軍の編成した侵攻軍としては規模が少ないが、その分、帝国の誇る精鋭達が集められていた。
これは数よりも進軍速度を重視した結果、最低でも王都ランパールを叩くのに必要な20万人が先遣軍として、出撃することになったからであった。
彼らの名目上は演習だったが、その目的は一刻も早く王都ランパールを叩くことだった。
シャナ王国に最大の危機が訪れようとしていた。
お待たせいたしました。47話となります。
話しが短いため、思ったより、早めに仕上がりました。
今回は帝国視点になっています。
帝国軍がシャナ王国に雪崩れ込むことになりますが、
その前に旧ゼノン教視点の話しを挟む予定です。
次回も宜しくお願い致します。
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