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シャナ王国戦記譚  作者: 越前屋
第三章
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第三章 46話 他人の空似

バロモンド枢機卿がシャナ管区をゼノン教から分離させてから、一ヶ月が経っていた。

その間にカズマは「大いなる災厄をもたらす者」という、歩く疫病神のレッテルをバロモンドが綺麗に剥がしてくれた、お陰でラファエルが命じた処刑命令などは完全に撤回された。

こうして、カズマは再び、国王特別参謀補佐官という地位をラファエルから与えられ、シャナ王国は以前のような日常を取り戻した。



その日、国王の執務室にはセシリアとラファエル、バルカン、グローブ、ミノムシ(?) の5人がいた。


「いい加減、仕事を真面目にして欲しいわ。」


セシリアはヤレヤレ困ったものだと言いたげに溜息をついていた。

そんな彼女の前には簀巻(すま)きにされたカズマがミノムシのような姿で転がされていた。


「くそっ、他人の空似作戦でも駄目なのか!」


カズマは必死に身を捩りながら、絶望の呻き声をあげた。

なぜ、カズマがミノムシのコスプレをしているかの理由は単純明快だ。

カズマが仕事をサボって、逃亡しようとしたところをセシリアに現行犯逮捕され、簀巻きにされたのである。

それでも脱獄を諦めない不屈の逃走犯(カズマ)はセシリアの目を盗み、毛虫のような動きで器用に体を動かし、逃亡を図っていた。

その動きは毛虫嫌いの人間がいたら、間違いなく悲鳴上げる程、酷似している。

前世は毛虫と言われれば、思わず頷いてしまうことだろう。

とはいえ、そう簡単にセシリアの目から逃れられるはずもなく、彼女が指をパチンと鳴らすと、バルカンにあっさりとカズマを再捕獲していた。


「いや、顔が似ている奴なら、いるかもしれないでやんすが・・・。黒髪黒目の人間はこの城に兄貴しかいないでやんすよ?」


今度は逃げられないように、セシリアの指示で執務室に置いてある机の脚とカズマの手足を縄で結びつけながら、バルカンはカズマの作戦の穴に突っ込みを入れた。


「・・・うん、それでカズマを呼んだのは今回、ラングレーの戦いに参加した、領主達に行った、強制捜査の報告が来たよ。」


とりあえず、ラファエルは仕事の話しを進めることにした。


ラングレーの戦い後、討伐軍に参加した領主達はカストール軍により、大打撃を受けていた。もはや、往時の勢いを反国王派の領主達は失っていた。

そこで、これを機会に反国王派の領主達や腐敗した役人達をシャナ王国から一掃すべく、カズマがラファエルに進言していた。

この進言を是としたラファエルは近衛騎士団を動かすことにした。

討伐軍に参加した領主達が反国王派であることは疑いないのだが、王とは言え、罪無くして、彼らを処分する事は出来ない。

そこで、反国王派の領主達を処分する名目を得るべく、近衛騎士団を動員して、反国王派領主達の屋敷などを強制捜査することにしたのである。

そのついでに腐敗した役人達の屋敷も強制捜査が行われた。

その結果は・・・・。


「不正蓄財、横領、贈収賄、権力の濫用、人身売買、敵国との内通etc。うん、犯しておらへん犯罪を探すほうがややこしいわ。」


手元にあった報告書を見ながら、グローブは領主達や役人達が犯していた犯罪の数々を挙げていった。


「それじゃ、お家取り潰しの名目は出来たわけだ?」

「むしろ、お家取り潰しでも、軽いぐらいの罪状やなぁ。法に照らせば、一族郎党皆殺しになるんやないかぁ?」


シャナ王国に限らず、セントレイズ帝国やバーネット皇国でも罪が重い場合には連帯責任として、犯人の親類縁者も罰せられるのは常識であった。


「それじゃ、一族郎党皆殺しにするのか?」


そう言いながらも、カズマにはラファエルがどういう判断をするのか、分かっていた。


「いや、領主や役人については罪の重さに応じて、裁くつもりだけど、それ以外の者は貴族から平民に落とすだけで済ますよ。甘いかな?」

「激甘だな。まぁ、激辛味よりも俺好みだけどな。」


カズマは器用に肩を竦めて、ラファエルの判断を婉曲に支持した。

なんだかんだと言っても、カズマも根っこの部分では似た者同士なのである。


「それで、取り潰した後の領地の管理をどうするかせやけど。いくつかの領地は能力のある下級貴族や陛下を王太子時代から付き従っていた家臣に褒美として、配りまっけど、大多数は陛下の直轄地にする予定や。」

「領地は全て、配ってもいいと思うのだけどね。僕には十分な領地があるし。」


申し訳なさそうに、ラファエルは呟いた。


「いや、ほとんどの領地を王の直轄地にするほうが正解だ。ラファエル、何で反国王派の連中がここまで勢力を拡大したか分かるか?」


カズマはシリアルな表情(簀巻き姿のまま)でラファエルに質問した。


「・・・僕に王としての才能がないから?」


しばらく、カズマの質問について、ラファエルは考えてみたが、それ以上の答えは出なかった。


「違うな。簡単に言えば、力がないからだ。」

「力・・・・?」

「王は常に唯一無二の絶対的な存在でなければならない。だが、現在のシャナ王国は長年の腐敗と内乱で王の力は衰え、その存在からかけ離れつつある。だから、フォルラン達はラファエルを侮ったわけだ。自分達を掣肘するほどの力がないと思って。その結果、好き勝手に動きまくって、今回の事態になったわけだ。・・・ラファエル、今お前がすべきことは王の力を強めることだ。その方法として、没収した領地を直轄地にすることが必要だ。単純に言えば、領地が一番広いやつが王なわけだからな。ラファエル、お前は力を付けてから、お前の理想とする国造りをすればいい。今は力を付ける時だ。」


カズマはラファエルの足りないところを諭した。

どんなに優れた理想も力が無ければ、理想のままで終わるのだ。


「王の仕事は難しいね。」

「俺なら、全力で投げ出すな。もう、ドラフト1位で指名されるぐらいの球速で。」

「・・・ドラフトの意味がよく分からないけど、カズマが羨ましいよ。」


フゥ~とラファエルは溜息をつくと、万感を込め、一言呟いた。


「いやいや、そんなに褒められても。」

「褒めていないわよ・・・。」


セシリアもこの手のかかる上司を持ったことに溜息をつかずにはいられなかった。

しばらく、ほのぼのとした時間が過ぎたが、まだ話は残っていた。

カズマが頃合いを見て、話しを切り出した。


「それで、国内は一段落したわけだが・・・・。まだ、国外が残っている。」

「・・・・セントレイズ帝国と旧ゼノン教だね?」


そのことは既にラファエルも検討していたのだろう。

すぐにラファエルにもカズマが言わんとしている事に気がついた。


「あぁ。これで黙っているほど、スペンサーは聖人じゃねぇ。シャナ王国が完全に敵に回った、今、やつらが頼るのはシャナ王国と敵対している国家になる。そして、現状でシャナ王国と唯一敵対している国家はセントレイズ帝国しかいない。この両者が手を結ぶと考えたほうがいいだろうな。」

「そうやな。なんぞ動きがあれば、何らかの前兆があるはず。セントレイズ帝国の主要都市と旧ゼノン教の総本山ランスにいる細作を増員しまひょ。」


カズマの意見を聞き、グローブ宰相が王に提案した。


「それがいいね。細作に送る者の人選はグローブに任せるよ。」

「畏まったんや。」


早速、セントレイズ帝国などに送る、細作の人選をしようと、執務室を後にしようとしたグローブ宰相をカズマが呼び止めた。


「それなら、アイザックを貸そう。あいつなら、どこにでも潜り込めるし、何らかの兆候も見逃さないはずだ。それに、今はちょうど、ランスに潜入中だ。この任務にうってつけだ。」


アイザックはバロモンド枢機卿が寝返らなかった場合に備えて、ランスでカズマと猫被り枢機卿が密会していたという噂を流すという任務に就いていたが、他にも彼には別の任務があった。

それはランスに集まるグランバニア大陸中の情報と旧ゼノン教の情報を逐一、カズマに流す任務であった。


元々、ランスはグランバニア大陸の中央に位置している立地と旧ゼノン教の総本山という特異な立場ゆえにグランバニア大陸中の情勢が入って来やすい環境にあったからである。

ランスには毎日、グランバニア大陸中から巡礼に訪れる信者と各国で行商をする商人達で行き交っていた。

その人数は膨大であり、それはそのまま、入ってくる情報の多さを意味している。

彼らは各国の様子や噂などを運び込んでくるのだ。

一つ一つは他愛のない噂でも、それを繋げていけば、各国の情勢が丸分かりになる。

とはいえ、そういった些細な情報同士を繋げて、各国の情勢を正確に導き出すには鋭い洞察力が必要になってくる。アイザックにはそういった能力が備わっていた。

そこで、カズマはアイザックをそのまま、ランスに留まらせて、情報収集の任務を与えることにしたのである。


「それは助かるんや。アイザック殿なら、きっと、精確な情報を持ち帰ってくれはるでっしゃろー。有り難く、お借りしまんねん。」


カズマからの好意をグローブ宰相は有難く受け取った。


「それから、シャナ王国の地図はあるか?」

「はい、これよ。」


ミノムシ状態で動きが取れないカズマの代わりにセシリアが地図を机の上に置いた。


「今までの防衛体制を変える必要がある。ローランド要塞だけでは敵の進撃を防ぐことが出来ない。」

「ローランド要塞では敵の進撃を防げないの?」

「あぁ、俺ならローランド要塞を無効化できる。」

「シャナの絶対防壁と謳われたローランド要塞を無効化に出来るだって?」

「少し考えれば、簡単なことだ。」


カズマが言って聞かせた内容はラファエル達に固定概念の危険性を認識させるのに十分なモノだった。


「確かに危険だね。カズマに対策はある?」

「ハッキリ、言って、今の時点ではしたくても出来ない。ローランド要塞に防衛を頼り切っていたから、それ以外の城では敵の大軍を止められないのは分かっている。だからと言って、新たな要塞を作るにしても時間がかかる。それに今は国内を一つに纏め上げる必要がある。今のうちに国内を纏め上げないと、戦わずにして、敗北する。俺たちに出来る事は一刻も早く、国内を纏め上げて、相手に攻撃する機会を与えないようにするしかない。」

「でも、もし、相手がカズマの考えを思いついたら・・・・。」


セシリアが不安そうな声で危惧した。

当然だろう、カズマの考えを敵が思いつけば・・・・


「シャナ王国はあっという間に敵の侵入を奥深くまで許すことになるな。」


カズマが断定した口調でシャナ王国に訪れるであろう未来を推測した。


「と言っても、考えがないわけではない。」

「それは?」

「まぁ、あくまでも仮定の話だ。時期が来たら、話すよ。それよりも、2倍3倍相手よりも早く行動しないと負ける。時間との勝負だ。」

「確かにそうだね。」


カズマの言葉に全員が頷き、この日の会議はこれで終了した。


その日、王都ランパールの上空にはフワフワした白い雲ではなく、今にも嵐や竜巻などを巻き起こしそうな陰鬱とした黒い雲が太陽の光を完全に遮っていた。

王都はまるで夜になったかのように、一寸先も見えぬ、黒い(とばり)が落ちていた。

それはまるで戦雲のようであったという。



会議が終わってから、3日後には不正を働いたことが発覚した役人は残らず、免職された。

そして、その空いた職には才があっても、それまで、その能力を発揮する機会が無かった、下級貴族や平民達が就いていった。


また、近衛騎士団の調査で犯罪が発覚した反国王派の領主はお家取り潰しなどの処分が下され、罪を犯していなかった領主はお咎めなしの裁定が下された。

とはいえ、ほとんどの領主が何らかの罪を犯していたので、お咎めなしとされた領主はごく一部であったが。


さて、そのお家取り潰しで空いた領地の大半が王家の直轄地にされた。

残りをラファエルの腹心やそれまで領地を持っていなかった下級貴族などに分け与えられたが、それでも、没収した領地が広大であったので、家臣達には十分な領地が与えられた。


これ以降、王の力は絶大になった。

それは直轄地が大幅に増えたことで、王家の税収が跳ね上がったことで火の車だった財政も一息つく事が出来たことやシャナ王国の領土の大半を親国王派の領主達で占められたことが要因であった。


これにより、シャナ王国の隅々までラファエルの影響力が浸透することになった。

しかし、いまだ、シャナ王国は安泰ではなかった。

それは隣国からシャナ王国へと大きな風雲が直後に吹き荒れようとしていたからである。

明けまして、おめでとうございます。

予定より1日早いですが、46話目となります。

今回で第三章に入りました。

お気づきの方もいらっしゃるとは思いますが、

いよいよ、セントレイズ帝国との戦いに向かう章となる予定です。

次回の話は帝国目線の話になる予定です。

2010年も宜しくお願いします。orz


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