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シャナ王国戦記譚  作者: 越前屋
第二章
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第二章 44話 対ゼノン教の切り札

追撃を終えたカストール軍の別動隊と本隊は一旦、ラングレーに戻り、カズマ達と合流した。合流すると、さすがに日も落ち、移動が困難だと判断し、ここで野営することが決まった。野営する事が決まると、兵士達はテキパキと天幕を作り始め、ほどなくして、全ての天幕が出来上がった。


その後、討伐軍残党の襲撃を警戒する為、野営している陣地の周りを見張りの兵などが周囲の警戒にあたったが、それ以外の兵については酒が振る舞われた。

そこらかしこで兵達による宴会が行われたが、セシリアやカズマなどはひと際大きい天幕で今後の事を話し合っていた。


「我が軍の損害は500人前後です。そのうち、死者が50人前後、200人ほどが重傷者です。ただ、死者に関しては今後、増える可能性があります。一方の戦果は少なく、見積もっても1万人以上は討伐軍に打撃を与えたものと思われます。また、死体の一人をフォルラン侯爵本人と先ほど、確認しました。他にも、数名の領主が死亡したものと思われますが、現在、確認作業中です。また、10万人分の食料、および武器。更に多額の軍資金も鹵獲しました。報告は以上です。」


カストール家に仕える千騎将の一人が最終的な戦果と損害を報告した。それは想定以上の戦果だった。早いうちにフォルラン侯爵が戦死したことで討伐軍の瓦解が早まり、戦果の拡大に繋がったのだ。


「御苦労さま。捕虜はどのくらいいる?」

「3千人ほどおります。」

「それじゃ、王都までの道のりで必要な食糧と水を渡して明日には解放して。とても捕虜まで手が回らないわ。ただ、負傷者については完治するまで治療をしなさい。傷が治り次第、開放で。」

「畏まりました。」


解放した捕虜が再び、武器を手に取り、軍に加わる事を危惧する声もあったが、3千人もの捕虜を監視する手間などを考え、解放することが決まった。幸いにも10万人分の食糧を鹵獲出来たので、そこから食糧が分けられることになった。

セシリアが捕虜や敵兵の負傷者などの処遇を千騎将に指示し、一段落すると議題は今後の方針へと移った。


「それで、今後のことだけど。おそらく、次の討伐軍が編成されるのも時間の問題だわ。」


いまだにシャナ王国はカズマを重罪人として、指名手配されている。これが解けない限り、討伐軍は編成されることになる。しかも、次は近衛軍を中心とした精鋭軍だろう。その絶望的な状況に全員が深刻な顔になっているかと思いきや、希望に満ちた表情でカズマを全員が凝視していた。


「・・・・困った時の俺頼みかよ。俺は三頭身の青ダヌキじゃないぞ?まぁ、セシリア達が追撃している間に待ちに待った速達が届いたけど。ダグラス、入って来い!」


カズマの呼びかけに天幕の入口からダグラスが入って来た。ただし、食料などを入れる大きな麻袋(割れモノ注意の札が張り付けてあった)に何かを入れ、肩に担いでいたが。さらに時折、その麻袋はピクピクと動いており、職務熱心な騎士に見られたら、職務質問は避けられないだろう。


「いよ、久しぶり!セシリア姐御にヴァレンティナ様ではないですか!隣にも美女がいるし!くぅ~、帰って来て良かった!よろしければ、このダグラスと一晩のアバンチュールを一緒に過ごしませんか?今ならソフトタッチ、ハードタッチの二つのモードから選べます!」


肩に担いでいた麻袋をダグラスはドスンと地面に放ると、中から「グウェッ!」という声が聞こえた。しかし、ダグラスは特に気にせず、ヴァレンティナとカーラにナンパをしていたが、次の瞬間にはカーラから鉄拳を顔面に貰い、あえなく撃沈した。


「・・・・それで、麻袋の中身は?」

「バルカン、ちょっと開けてくれ。」

「はいでやんす。」


バルカンはしゃがむと、麻袋の口を縛っていたロープを解いた。すると、中から人間われものが出て来た。


「バロモンド枢機卿!?」


それはゼノン教シャナ管区の責任者として、君臨する若き枢機卿だった。しかし、現在は口には猿轡をかませ、体中をロープで縛られていた。ただし、亀甲縛りというマニアックな縛られ方をしていたが・・・。


「・・・・・何で普通に縛っていないの?」


カズマは頭を抱えながら、ダグラスに聞いた。


「フフフフフッ。このダグラス、常に性教育に関する勉強は怠りません。最近、やっと縛り方を憶えたので、ちょうど良い実験台になって貰いました。ムチ、ロウソク、ボンテージ、目隠し、木馬、女装を極めし、この俺に死角はありません!あらゆる、女性の要望に応えて見せましょう!」


なかなか腰の入った、カーラのパンチを受けながら、何事もなかったかのように立ち上がったダグラスは得々として、語った。異性に好かれる努力の仕方を180度3回転半捻りぐらいに間違っていることに本人だけ気付いていなかった。その証拠にダグラスを見る、女性陣の視線にはブリザードが吹き荒れている。


「・・・まぁ、それは置いといて。というか、無理やりにも置かすけど、バロモンド枢機卿の縄を解いてくれ。話がしたい。」


即座にバロモンドを縛っていた縄はバルカンが持っていた、ナイフで切り落とされ、猿轡も外された。


「・・・それで私に何の用ですか?私には人質としての価値はありませんよ。信仰の為に命を落とすなら本望です。それよりも、カズマ殿?大人しく捕まり、主の許しを受けるべきでしょう。さすれば、慈悲深き主もあなたの罪を許されるかもしれません。」


久方ぶりに自由の身となったバロモンドは多少、疲れた様子を見せたが、自分の置かれた立場をすぐに悟ると、カズマに教えさとした。

その姿は罪深き人間を諭す聖人のように見えた。また、その顔には私心など微塵もなく、本気でカズマの身を案じているようにしか見えない。カズマを除いて・・・。


「いやはや、まだ罪を犯していない人間を処刑するような神が慈悲深いとは恐れ入るね。まぁ、それはともかく、俺は君を人質にするつもりはない。ただ、ビジネスの話がしたい。」

「さて、ビジネスとは?私は俗世の話には興味はありませんが。」

「ふむ、こんなに人がいたら、本音では話せないか。全員、天幕の外に出ていてくれないか?」

「兄貴一人で大丈夫でやんすか?護衛を付けたほうが・・・・。」

「大丈夫だ。バロモンド卿は賢い方だ。下手な行動を取るはずがない。」


バルカンの懸念にカズマは自信満々に大丈夫だと告げた。


「分かったでやんす。でもすぐ外にいるでやんすから、何かあったら、すぐに飛び込むでやんすよ?」

「あぁ、頼む。」


ただ、カズマには絶対に大丈夫だという自信があった。カズマはバロモンドの目を見て、推測していた通りの人柄だと感じたからである。


そうこうしているうちに全員が天幕の外へと出ていった。カズマはそれを確認すると、バロモンドに向きなおった。


「さて、バロモンド卿。演技は止めて貰えないか?」

「・・・演技とは何のことですか?」


バロモンドはいかにも何の話か分からないかというように首を左右に振った。


「そもそも、初めて会った時から違和感が俺にあった。どうも、ゼノン教を盲信的に信じている枢機卿にしては何かが違うとね。それで気が付いた。バロモンド卿は盲信的な信者特有の濁りと狂気に満ちた目をしていない。その目にあるのは打算と野心だ。違うかな?」


形ではバロモンドにカズマは疑問形だったが、その口調は断定していた。


「そうだとして、それを世間に公表しますか?」

「いや、公表しても否定されれば、それまでだし。それよりも、さっき言った通り、ビジネスの話がしたい。」


カズマは腕を組みながら、本題に入った。


「伺いましょう。」


バロモンドはカズマの話に興味を持ち始めていた。久しぶりに己の仮面を外して、人と話す事をバロモンドは楽しんでいたのかもしれない。いつのまにかバロモンドは信徒達を前にしている時のような雰囲気は微塵もなく、敏腕ビジネスマンのような冷徹に己の利益を求める者のような雰囲気に変わっていた。


「単刀直入に言おう、俺達と手を組まないか?」

「ふむ、私にメリットはありますか?」


ビジネスの話と聞き、大体予想がついていたのだろう。バロモンドの顔には驚きが無かった。


「もし、俺達と組めば、教皇になれるよう全面的にバックアップしよう。」


バロモンドはカズマからの申し出を素早く、吟味し始めた。それを見てとったカズマは顧客に新しいビジネスを提案するかのように説明を始めた。


「通常、教皇職は教皇が死ぬまで、退位することはない。つまり、現在の教皇であるスペンサーが死ぬまで、バロモンド卿が教皇になることはないということになる。スペンサー教皇はまだまだ頑健な方だ。恐らく、スペンサー教皇が寿命を迎えるのは何十年という時間が必要になってくるだろう。さて、バロモンド卿が教皇になるには何十年後か。・・・・だが、何事にも例外がある。」

「・・・・まさか、弾劾審問会か!」


さきほどは驚かなかったバロモンド卿も今度は驚愕の声を上げざるを得なかった。

この弾劾審問会こそ、カズマが考えた対ゼノン教の切り札の一枚であった。


お待たせいたしました。44話を更新します。

中々、忙しく、更新が遅れました。

次回の更新目標は一週間前後で・・・。


それでは。

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