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シャナ王国戦記譚  作者: 越前屋
第二章
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第二章 38話 噂は千里を走る

カストール家の領地はバーゼット皇国との国境沿いから少し離れた場所に位置していた。その領地は毎年、豊富な穀物を生み出す、シャナ王国有数の肥沃な土地柄であった。それはバーゼット皇国とシャナ王国の国境を流れる豊かなカーロライン川がカストール家の領民の畑を常に潤していたからである。また、シャナ王国は全体的に山がちな地形だったが、バーゼット皇国との国境沿い周辺の地形は基本的に平野部が広がっており、その中にはカストール家の領地も含まれていたことも領地を豊かにする要因になっていた。

さて、そんなカストール家の居城であるレイナール城では評定が開かれようとしていた。


「全く、昨日は天国と地獄を味わったぜ。」


十数人で一気に食事が取れるダイニングテーブルの一角でカズマは愚痴っていた。昨日、カズマは脱衣所でしばらく気絶していた所為か、体の節々が痛んでいた。それでも、クーダ医師に処方して貰った薬のお陰か、気分は悪くなかった。


「折角、お膳立ていたしましたというのに。全く、未来の旦那様は病気ですか?」


カズマの後ろに立っていた、レナと名乗る怜悧なメイドさんが毒舌を吐きながら、呆れた顔でカズマを見ていた。それにしても、どうやら、昨日のハプニング大賞を計画した首謀者はレナだったらしい。そういえば、風呂に入るように勧めたのもこのメイドさんだったことをカズマは思い出した。おそらく、セシリアとヴァレンティナも言葉巧みに風呂場へと誘いこみ、罠を作り上げたに違いない。まったくもって、石兵八陣の罠よりも性質が悪い。日本には『据え膳食わぬは男の恥』という言葉もあるが、据え膳二人前分を喰いきれるほど、カズマは大食漢(おとこ)ではなかった。


「あらあら、それだとセシリアちゃんに子供が出来ないわね。母さん、孫が早く抱きたいわ。レナさん、ちょっと町で男を野獣に変身させる薬を買って来て下さらない?」


ダイニングテーブルの席に着いている人の一人に大人の女性がいた。彼女は名前をカトリーヌと言い、先代カストール侯爵の妻・・・つまりはセシリアの母親である。そのカトリーヌは年相応に落ち着きのある大人の女性なのだが、その表情の端々にどこか少女めいたモノを感じさせる。


「それは良きお考えかと存じ上げます。早速・・・。」

「いや、買わなくていいから!そもそも、なんで俺の下半身が機能不全を起こしている事、前提に話が進んでいる!?」


本当に買いに行きかねないレナをカズマは必死で制した。


「だって、母さんとしては孫が早く欲しいわ。それなら、セシリアに不満があるのかしら?ねっ、カズマさん、セシリアのどこに不満があるの?お義母さんに話してみない?」


「もう、お母様!カズマとはそういう関係では!」


それまで黙っていたセシリアが堪らず、声を上げた。そのセシリアは耳まで真赤にしながら、腕をプルプルさせていた。怒っていいのか、恥ずかしいのか、照れていいのか本人にもどういう表情を浮かべたるのか分からないないようだった。


「あらあら、この子ったら。母さんを甘く見てはいけないわ。王都の噂は我が家にも入ってくるのよ?男に興味が無かったセシリアちゃんが上司(カズマ)と愛人関係にあるとか、新婚さんみたいに毎朝、上司(カズマ)を甲斐甲斐しく、起こしているとか。母さん、どんなに嬉しかったことか。」


カトリーヌ夫人は嬉しそうに笑っていた。この夫人なら金曜日の週刊誌やお昼のワイドショーを喜んで見そうな人だとカズマは思った。それと同時に、フライデーされる芸能人の気持ちが異世界に来て、身に染みて、分かったカズマだった。


「違います!それよりも、レイナール城に来てしまった私が言うのも何ですが、私を勘当したのではなかったのですか!」


セシリアはカストール家に迷惑がかかる事を気にして、事前に勘当するように手紙を送っていたのだが、カトリーヌ夫人はセシリアを勘当する為の行動を一切、していなかったらしい。そのことを知ったセシリアはカトリーヌ夫人に詰め寄った。


「何故、母さんが可愛い娘を勘当しなければいけないの?」

「だって、私は・・・。」


セシリアの言葉をカトリーヌ夫人は遮った。


「勿論、先祖代々、守ってきたカストール家が無くなるのは死んだ父さんには申し訳ないと思うわ。でもね、母さんはたった一人の娘を信じるわ。セシリアもそれが正しい道だと思ったのでしょう?」

「はい・・・。」


セシリアの返事にカトリーヌ夫人は頷くと


「だったら、あなたは自分の信じた道を行きなさい。母さんは母さんの信じた道を行くわ。」


先程までの面白がっていた顔を真面目な顔に変えて、カトリーヌ夫人はセシリアに言い聞かせていた。母親の愛情に触れたセシリアは嬉しそうに頷いていた。


「それで、カズマさんとはどこまで進んだの?」

「もう!だから、私はカズマとは・・・!!」


しかし、カトリーヌ夫人が真面目な表情を浮かべていたのは一瞬だけであった。すぐに悪戯っ娘のような、生き生きとした表情を浮かべると、セシリアを再びからかった。それに再び、顔を赤くしたセシリアが反論をし、レナが茶々を入れ、カズマに精神的ダメージを的確に与えるという無限ループでダイニングテーブルの周りは騒がしくなった。


・・・・しばらくして、脱線していた話しが本線に戻ってきた。


「それで、今後のことですが。おそらく、我々がカストール家に逃げ込んだことは何人もの領民が見ておりますし、遠からず、シャナ王国中に広がると考えたほうが良いかと。」


有能な副官に戻った(若干顔はまだ赤いが)セシリアが皆に現状を報告していく。


「つまり、フォルランとかの耳に入るのは時間の問題か・・・。カストール家で匿われていることを知れば、次は討伐軍が結成されるな。その場合の大体の兵力は推測出来るか?」

「そうですね・・・。仮にも我々は国賊にされましたし、全軍を挙げての討伐軍となれば、少なく見積もっても10万人でしょう。」


セシリアの冷静な言葉にカズマは唸ってしまった。ケイフォードがローランド要塞に討伐軍を送った時でさえ、5万人程度である。今回は少なく見積もっても、その2倍以上。付け加えれば、カズマ達が籠っているレイナール城はローランド要塞ほど難攻不落の城ではなかった。


「カストール家が動員できる兵力は?」

「約1万人がカストール家で動員できる兵力です。」


つまり、戦力差は10倍以上。笑いたくなるぐらいの戦力差である。一般的に攻城戦では攻め手は守り手の3倍以上が必要と言われている。籠城しても勝ち目が薄いと思わなければいけなかった。その上、例え勝ったとしても、また、次の討伐軍が編成されるだけという、無限ループが待っている。


「兄貴、どうするでやんすか?」


バルカンは信じきった口調でカズマに聞いた。バルカンの考えではカズマが先の事を何も考えずにレイナール城へ逃げ込むことは考えられなかった。おそらく、何か手を考えていることだろうとバルカンは思っていた。


「一応は考えてある。バルカン、俺が東の街道へ逃げる前にダグラスとアイザックに頼んだのを憶えているか?」


カズマの言葉にバルカンは思い出した。収容所前でカズマが二人に何か耳打ちしていたことを・・・。


「俺は二人にラファエルへ伝言を頼んだ。それは討伐軍の総大将にフォルランを任命することとフォルランに与する貴族に出兵を命じて欲しいとね。」


カズマはニヤリと笑いながら、言葉を続けた。


「戦力差が10倍以上で、その上、指揮官が優秀だったら、手の施しようがない。でも、実戦経験も指揮官としての経験もないフォルランが総大将ならば、話は別だ。軍は大きくなれば、なるほど統率が難しい。統率力のない者が大軍を率いれば、精鋭の軍もただの烏合の衆。その上、己の利しか考えない貴族が率いる軍勢など怖くない。そんな張り子の軍勢なら俺達が勝つ。」


言い終わると、カズマは集まった人間を見渡した。そして、見渡した全員が希望の光を見たような表情を浮かべていた。


「たしかにフォルランが指揮官として、有能だという話は聞いた事がないわね。」

「さすがは賢者と讃えられるカズマね。」


セシリアは納得したというように何度も頷き、ヴァレンティナはカズマを褒め湛えた。


「とはいっても、策が無ければ、多勢に無勢。力押しで俺達が押し負けるのも事実。策を練る為にも、この辺の詳しい地形をバルカンは至急調べて欲しい。」

「分かったでやんす。」


バルカンに命じ終わると、セシリアとヴァレンティナをカズマは見据えた。


「セシリアには戦の準備を、ヴァレンティナはその手伝いを頼みたい。カトリーヌ夫人には領民や家臣に事情を説明して欲しい。」

「分かったわ。」

「分かりましたわ。」

「そんな他人行儀な呼び方じゃなくて、フレンドリーにお義母さんと呼んで頂戴?」


セシリアとヴァレンティナの肯定の返事にカズマは頷き、カトリーヌ夫人の言葉には全力でスルーすると、次はクーダを見た。


「クーダには負傷者が出た時に軍医を頼みたい。薬、包帯や医療に必要な道具の手配をお願いしたい。」

「腕が鳴りますな~。病気でも怪我でも任せて下さい。」


「頼んだ」と一言クーダ医師に告げると、ジャスティンとレスターのほうにカズマは体を向けた。


「ジャスティンとレスターにはあるモノを誰にも気づかれずに捕って来て欲しい。」

「ヒッヒッヒッ、何だ?」

「・・・・・?」


戦とは関係がなさそうなカズマの命令に二人は首を傾げた。


「ちょっと、耳を貸せ。ゴニョゴニョだ、分かったか?」


二人の耳を借りると、何かを耳打ちした。聞き終わると、二人は謎の命令に納得していた。


「くれぐれも言うが、誰にも見つかるなよ?」

「ヒッヒッヒッ、分かった。俺達に任せてくれ。」

「・・・・・・・・了解。」


レスターは新しいオモチャを貰った子供のような良い笑顔を浮かべ、ジャスティンは傍目には酷く命令に不満げな顔を浮かべていたが、付き合いの長いバルカン達には口元が少し(ほころ)んでいる事に気付いていた。


「それじゃ、各自、仕事に取りかかってくれ。」

『パンッ』


カズマは一回手を叩いたのを合図に全員が己の仕事を全うすべく、部屋を出ていった。

そして、部屋に残っていたのはカズマだけとなった。

全員が部屋から出たことを確認すると、カズマは独りごちた。


「まぁ、ダグラスとアイザックには別の事も頼んだけどね。もう、しばらく皆には内緒にしとくか。さてと、俺はもうひと眠りするか~。」


手を大きく伸ばし、軽くストレッチをすると、カズマは部屋をあとにした。



ちなみにその後、カズマが寝ている事に気付いたセシリアが国王特別参謀補佐官殿に天誅を加えるのはまた別の話である。


今回で38話目を更新します。

11月15日の夜に更新しますと言っていたのですが、思ったよりも早めに書き終わりましたので投稿します。

でも、嘘は言ってませんよね?今は15日の深夜ですから・・・・。(笑)

それと、越前屋の活動報告にちょいちょい更新日の予定を載せるかもしれないので、ちょいちょい見るといいかもしれません。

それでは~~。


感想、誤字、脱字、評価 お待ちしております。

マカルト様前話での誤字指摘有難うございました~。


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