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シャナ王国戦記譚  作者: 越前屋
第二章
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第二章 37話 天国と地獄

思わず、自分の髪を垂直に逆立てられた柱のような髪型に変えちまったが

・・・あ、ありのまま 今 起こった事を話すぜ!

『おれが湯に浸かっていたと思っていたら、いつのまにか誰かが入って来ていた』

な・・・ 何を言っているか わからねーと思うが

俺も何をされたのか わからなかった・・・

頭がどうにかなりそうだった・・・

覗きだとか盗撮だとか

そんなチャチなもんじゃあ 断じてねぇ

もっと、恐ろしいものの片鱗を味わったぜ・・・ 

(カズマの日記より抜粋)



「・・・さぁ、やって参りました!本日はカズマの理性 対 煩悩の三十六回戦を行います。試合会場はここ、カストール侯爵家の居城レイナール城ドームよりお送りいたしております。解説は私、カズマの脳内悪魔と実況はこれまたカズマの脳内天使でお送り致しておりますが、実況の天使さん!大変な試合になりましたね?」

「そうですね~。一打出れば、逆転サヨナラですからね~。カズマの理性としましては是が非でも煩悩を抑えて貰いたい所ですね~。」

「やはり、そうですか。それにしても、本日の試合はやっぱり、エース、セシリア投手が素晴らしかったですね。」

「えぇ~。彼女の無駄(ぜいにく)のない、美しい投球動作(プロポーション)から繰り出される直球は威力十分です~。カズマの理性から見事な奪三振ショーでしたからね~。」

「そうですね。さて、打席には四番ヴァレンティナ選手が入ります。まだまだ、胸の成長が著しい、期待のヴァレンティナ選手です。さて、ピッチャー振りかぶると、投げた!これをヴァレンティナ選手が打った、大きい、大きい!!入った、入った~~!!場外ホームラン!!!推定飛距離(バスト)100センチを超える、特大のアーチ!場内は煩悩の割れんばかりの拍手が起こっています!!」




・・・・・・・現在カズマの思考回路は混乱をきたしており、それを無理矢理、言語化すると、上記のようになってしまうぐらいに。


何故、こうなったかはカズマ自身、把握が出来て無かった。メイドに勧められたことだし、収容所にいた時の体中の垢を落とそうと、カズマが久方ぶりに体を洗い風呂に入ったところまでは何事も無かった。しかし、鼻歌交じりに良い気分で湯に浸かっていたら、突如、セシリアやヴァレンティナが風呂場に入って来たのだ。慌てて、近くにあった口からお湯を出す等身大サイズに作られたライオンの彫刻の影に隠れた。幸いなのか不幸なのか、ライオンの彫刻は大きく、カズマ一人分ぐらいの死角があった。その死角に慌てて、カズマが飛び込んだのである。

現在のところ、セシリアとヴァレンティナはカズマがいることに気付いていないようだった。と言っても、死角で身を潜めているカズマの姿は女性用の風呂に覗きをしている変質者と言われても、弁解は出来ないだろう。そう考えたカズマはダンボールに隠れて、敵の目を掻い潜る伝説の傭兵の如く、息を殺して、ひたすら、気付かれない事をイエスや仏にギリシャ神話の神々、果てはゼノン神にも祈った。何故、このような状況にカズマが陥ったのかはフォルラン侯爵の追撃部隊から逃れた直後まで話を遡る。



カズマ達はフォルラン侯爵の追撃部隊から逃れると、街道脇で休憩と食事を取る事にした。本当ならば、落ち着ける場所まで逃げたかったが、追撃部隊から逃れるために半日ほど、飲まず食わずの逃走劇で全員が精根を使い果たしてしまっていた。その為、休憩を取らないことには誰も一歩も動けないほど、疲れきっていた。


「それでこれからどうするでやんす?」


乾パンによく似た、ビスケットを固めたような非常食を各人が頬張りながら、今後の事を話し合う事にした。


「・・・フゥッ。さすがに逃亡先までは考えていないよ。」


さすがに移動手段が徒歩の異世界に来ていたカズマは地球にいた時よりも体力は増えていたが、それでも、今回の逃走劇でカズマの体力は赤ゲージまで落ち込んでいた。もはや、最弱モンスターであるスライムの一撃でも死ぬぐらいの疲労困憊ぶりである。何とか、カズマは乾パンっぽい非常食を食べていたが、先程まで猛烈に動いていた頭の回転は完全に止まっていた。また、カズマの目は死んだ人のようにどんよりと濁っており、スーパーに置いてある死んだ魚の目のほうが生き生きしているように見えるほどだった。そんな、カズマを見かねたのか、セシリアが意外な提案をした。


「それならば、ここから少し行った所にカストール家の居城があります。そこに逃げ込んではどうでしょうか?」

「そうしてくれたら、有難いでやんすが・・・。本当にお家が断絶するでやんすよ?」


セシリアの発言にバルカンは目を見張った。もともと、セシリアは自分がカズマの救出作戦に参加することでカストール家に迷惑がかかるのを恐れたため、自分を勘当するように母親に手紙を送っていたのだ。そのセシリアがカズマ達をカストール家に招き入れると言っているのだ。すなわち、カストール侯爵家はカズマに与すると、グランバニア大陸中に宣言するのに等しい。内心はどうあれ、カズマ達を敵と認定しているラファエル国王はカストール家を討伐する軍勢を送らざるをえない。また、ゼノン教からも、何らかの動きを見せることだろう。


・・・・つまりは貴族にとっては命よりも大事な家名が消えてなくなるのだ。


「勿論、分かっているわ。シャナ王国建国時から代々、続く名門カストール家が無くなるとしたら、ご先祖様に申し訳ないと思うわ。だから、私一人でカズマの救出に行くことにしたのだから。でも、今度の事で気付かされたわ。」


そこで、セシリアは一旦、言葉を区切ると、息をそっと吐いた。そして、自分の気持ちを改めて、皆に伝えた。


「・・・シャナ王国が無くなるのは、もっと、ご先祖様に申し訳ないということよ。今回の事で陛下はまだ王になったばかりで、地盤が弱いことを痛感したわ。今のままではフォルランの専横を阻む事が出来ないし、ゼノン教の横やりも阻止する事が出来ないわ。そんな状態でセントレイズ帝国に攻められれば、滅ぼされる運命しかないでしょうね。陛下が好きだと言った、この美しい自然に溢れた国をとても守り切ることは出来ないわ。だから、例え、カストール家が消えて無くなろうと、動かなければいけない。『シャナ王国に尽くせ、家名は後から付いてくる』これがカストール家の家訓よ。我がカストール家はこの家訓に従い、カズマ達に力を貸すことを誓います!」


セシリアは自分の決意を一気に言い切った。その美しい顔に迷いは無かった。そんなセシリアの思いにそれまで黙っていたカズマが口を開いた。


「・・・それなら、俺は『一宿一飯の恩義はレム睡眠よりも深く、羽毛布団よりも(値段が)高い』という我が家の家訓に従う事にしようかな。俺ことカズマはセシリアの恩義に応え、この世界にいる限り、セシリアの為に力を貸すことをここに誓う。」



カズマは言っているうちに照れたのか、そっぽを向きながら、右手の人差し指で頬を掻いていた。そんなカズマの様子にセシリアは頬を赤く染めていた。カズマは冗談めかして、誤魔化していたが、紛れもなく、カズマの本音が聞けたことにセシリアは喜んだのだ。


しかし、この状況を唯一、快く思わない女性がいた。ヴァレンティナはこの状況に軽く、頬っぺたを膨らませて不満の意を示していた。もともと、カズマを籠絡するのは兄に言われたこともあるし、ライバル視するセシリアに対抗する意識もあった。しかし、短い間だったが、カズマと行動してみて、その凄さを肌で知った。一体、この広いグランバニア大陸で幾人がカズマと同じ事を考え付けるだろう?南と見せかけ、東の街道へと向かい、追手の人数を減らし、金貨をバラ撒いて、時間を稼ぎ、極めつけは近衛騎士団第三軍団を利用して、追手を排除することを・・・。


ヴァレンティナは性に対して奔放に見えるが、実はまだ、誰にも貞操を捧げた事は無かった。ヴァレンティナはこれぞという人物が現れるまで、貞操を守って来たのである。そこにカズマが現れたのである。今回のカズマへの援軍はその能力を見極めるつもりだったのだが、予想以上のカズマに知らず知らずのうちにヴァレンティナは惹かれ始めていた。そんなヴァレンティナは恋の戦で不利だからと言って、白旗を上げるほど、お人好しではない。例え、戦況が敗色濃厚でカズマとセシリアが相思相愛の段階までいっても、今まで培った手管を使い、奪い取るまでのこと。そう考え、ヴァレンティナは逆襲の手段を思いつくと、即座に実行した。


「それなら、馬を提供した私はカズマの命の恩人よね?」

「え?そりゃあ、まぁ。」


カズマがとりあえず、頷いた。すると、カズマから言質を取ったヴァレンティナはニヤリと笑うと、次の瞬間、核爆弾を放り投げた。


「それなら、私は一宿一飯の恩義よりも深くて、高い命の恩義よね?ということはどんな私の望みでも聞いて貰えるわよね?たとえば、私と今晩、ベッドの上で一緒に過ごすとか?」


傾国の美女もかくやという妖艶な表情で言うと、胸を強調するように腕を組んだ。その動作からどう考えても単純に寝るということではないだろう。


「ナッ、ナナナ!それは駄目です!それにそれを言うなら、私もカズマの為に収容所へ侵入しましたので、私も命の恩人はずです!」


突然の核爆弾発言で非常食が気管に入り、咳きこんでいるカズマに代わり、セシリアが反対を表明した。


「別にいいじゃない?まだ、カズマには婚約者も妻もいないのでしょう?ならば、私と同衾しようが、構わないはずではなくて?」

「駄目と言ったら、駄目です!カズマは国王特別参謀補佐官という大事な役職に就いている身です。女にうつつを抜かす暇などありません!」


ヴァレンティナとセシリアが激しく言い合いをしている横で気管からやっと、非常食を吐きだしたカズマは二人に気付かれないようにこそこそと移動を始めた。それに気付いたバルカンがカズマに尋ねた。


「兄貴、二人を止めなくていいでやんすか?」

「バルカンが止めたいなら、止めはせんぞ?そのかわり、馬に蹴られて、死んでも知らんぞ。」


そう言うと、カズマは一足先にカストール家の居城へと向かった。バルカンが止めに入れば、馬に蹴られるだけで済むが、当事者であるカズマが止めに入れば、馬どころか恐竜に蹴られることになるだろう。それを知りながら、あの喧嘩に飛び込む勇気などカズマには無かった。カズマが移動を始めると、元山賊達も移動を始めた。そんな状況になると、さすがのセシリアとヴァレンティナも移動せざるをえなかった。


こうして、一行は目的地をカストール家の居城と定め、移動を始めたのである。その後、何とか、カストール家の居城であるレイナール城に着くと、それぞれ疲れた体を癒すべく、寝る者や暖かい食事にありつく者など多岐に分かれた。そして、カズマは日本人らしく風呂で体を癒すことにした・・・。そこで何が起きるかを知らずに・・・。



セシリアとヴァレンティナが体を洗っている間、カズマは後悔していた。何故、自分は隠れてしまったのだろうと・・・・。大きな声で自分が入っている事をセシリア達に伝えれば、穏便に済んだのではないかと言うことにカズマは遅まきながら、気付いた。とはいっても、既に後の祭りだが・・・。


そんなカズマが思いに耽っている間にセシリアとヴァレンティナは体を洗い終えていた。カズマが我に返る頃には二人は揃って、お湯に体を沈めていた。


「それにしても・・・。ティナはどうして、私達が東の街道にいると思ったの?」


それまで疑問に思っていたセシリアがヴァレンティナに聞いた。フォルラン侯爵の部下達ですら、南の街道だと思っていたのだ。どうして、ヴァレンティナだけは東の街道だと分かったのだろうとセシリアは不思議に思っていた。


「あぁ、それね。う~ん、そうね?一言で言えば、偶然かしら。」


ヴァレンティナの説明によると、王都を秘密裏に副官のカーラと何人かの兵と共に抜けだしたは良いものの、この程度の人数ではカズマの助けにはならないだろうとも考えていた。王都のレヴァン家の屋敷には100人程度の兵ならば、いるのだが、それを連れて行くとなると、さすがにその動きをフォルラン侯爵に知られてしまう。今はまだ、情勢がハッキリするまで、カズマに味方することを伏せておきたいアルバートとしては屋敷の兵を連れていくことを許可出来なかった。そこで、ヴァレンティナはレヴァン家の領地に戻ってから、兵を連れて、カズマに馳せ参じるという迂遠な道程をすることになったのである。しかし、これが幸いすることになろうとは誰も想像しなかった。


実はレヴァン家の領地はカストール家の領地の隣なのである。・・・つまりはレヴァン家の領地から収容所へと向かう最短の道こそ、東の街道から収容所へと繋がる道なのだ。その為、ヴァレンティナは収容所へと向かう途中でカズマ達と出会ったのだ。もし、ヴァレンティナが王都で兵と馬を連れていくことが出来ていたら、ヴァレンティナは南の街道を目指していたことだろう。その結果、カズマとは会う事は無かったに違いない。


「何が幸いするか分からないものね。」

「そうね。お陰で、カズマには十分な恩を売る事が出来たわ。」


ヴァレンティナはセシリアにそう呟いた。そのヴァレンティナにも、疑問に思っていた事があった。東の街道でカズマと会った時、ヴァレンティナが説明する前に何故、カズマは味方だと思ったのだろう?


「ねぇ、聞いてもいいかしら?何故、カズマは私が味方すると思ったの?東の街道で会った時点では敵味方とも分からないはずよね?」


セシリアならば、知っているだろうと思い、ヴァレンティナは聞いてみた。


「あ~、それなら、私も疑問に思って、後でカズマに聞いたわ。それによると・・・。」


カズマの話した内容を要約すると、レヴァン家当主のアルバート侯爵と直接会ったことはないが、事前に噂やら情報などで人柄については正確に把握していたらしい。

その結果、現実主義の野心家という人物像を導き出していた。さて、その人柄から考えて、フォルラン侯爵やゼノン教と手を結ぶ事は考えられないとカズマは言った。ただの野心家だったら、フォルラン侯とゼノン教とかと手を結ぶだろうけど、アルバート候は現実主義者という彼の側面が結ぶことを選べないらしい。


何故ならば、アルバート候は現実主義者ゆえに周りの状況まで見えてしまう。フォルラン侯爵やゼノン教と手を結べば、確かに一時的には権力を手中に収めることは可能だが、中長期的には権力を失うと計算しているはずだ。シャナ王国で実権を握っているのはフォルラン侯でもスペンサー教皇でもない。ラファエルである。そのラファエルがカズマを頼みにしていることは一目瞭然である。さて、ここで問題だが、寵愛している家臣を殺されて、何も思わない王がいるだろうか?答えは絶対にいない。いくら、温厚なラファエルでも許すことはないだろう。ラファエルが生きている限り、アルバート侯が出世することはありえなくなるのだ。これが愚王であれば、王にとって代わる事を考えたかも知れないが、ラファエルは少なくても愚王ではない。しかも、ラファエルの配下にはガンドロフ、ルーク、フローレンス、グローブなどの有能な臣下がおり、彼らがアルバート候と戦う事になれば、負けるのは必然と言える。その事から考えて、アルバート候がカズマに敵対することはないとカズマは考えていたらしい。


「とは言っていたけど、もし、ヴァレンティナが敵だったら、カズマでももう手の施しようがなかったから、最終的には運を天に任せていたらしいわ。アルバート候が推測通りの人物であることをね。」


「なるほどね。」


セシリアの説明にスッキリした表情をヴァレンティナは浮かべると、おもむろに立ち上がった。


「それじゃ、のぼせるといけないし、もう出ましょうか?」

「そうね、そろそろ出ましょうか。」


お風呂から上がった二人は脱衣所で着替え、風呂場を後にした。

彼女たちが消えた事を確認すると、カズマはライオンの彫刻から姿を現した。


「あ、熱い・・・。意識が飛・・・ぶ。も・う・・・死・にそ・・・う・・・。」


カズマの体力は限界に達していた。長時間、お湯に入っていたことと、極上の二人の美女がいたことによる、急激な血圧上昇が追い打ちをかけていた。

鼻血は出そうになるわ、頭がクラクラするわ、気持ち悪いわで、カズマの意識は朦朧としていた。それでも、何とか不屈の精神力で脱衣所に着いたが、そこでついにカズマは力尽きた。脱衣所にて裸で倒れ込むカズマに皆が気付くのはしばらく、経った後だった。


今回の話はちょっと、予定を変更しています。

予定では新キャラを出す予定でしたが、

前話で説明しきれなかった部分や指摘された部分の補足した話になっております。

ただ、夜中の奇妙なハイテンションで書き上げた所為か、

はたまた、やる夫板Ⅱを見ながら、書いていたせいか、

カズマが壊れてしまいました・・・。(汗)


感想、誤字、脱字、評価 お待ちしております。





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