第二章 36話 逃亡劇終幕
カズマ達の前方に敵味方不明の騎馬隊が出現した。その騎兵隊に対し、カズマはどう丸めこもうかと待ち構えていたが、騎兵隊の先頭を走る若い女性がカズマの目に入った瞬間、どうやら、無駄な心配をしていたらしいと気付いた。その若い女性の名前はレヴァン・ヴァレンティナ。レヴァン侯爵家当主アルバートの実の妹である。舞踏会で初めて会い、カズマを色仕掛けで迫って以来の再会だった。そのヴァレンティナ嬢が騎兵隊を率いていたことを知ったカズマは即座に味方だと判断した。ちなみに、味方だと判断したのは断じて、ヴァレンティナの色香に惑わされた訳では無い事をカズマの名誉の為に言っておきたい。というか、言わないとカズマの心臓がもう一人の美女によって、強制的に活動停止する恐れがあるので無理矢理にでも言わせてもらうこととする。
そもそも、ヴァレンティナが舞踏会でカズマを誘惑したのは男性として、魅力的に映ったから・・・・・・・・・と思うほどカズマは自惚れてはいなかった。おそらく、アルバート候が新国王の側近として、出世しそうな若造を青田買いするために妹を送り込んだのだろうと思っていた。その妹が騎兵と共に現れたのはカズマとフォルラン侯爵のどちらがシャナ王国の中枢に戻っても大丈夫なように掛けた保険だろう。もし、カズマがシャナ王国で返り咲いた場合の為にアルバートが置いた布石と見ていた。その証拠が妹を送り込んだという事実である。カズマを捕縛するのなら、わざわざ、妹を送り込む必要はない。適当な部下に命じればいいのだから。その為、カズマはこの集団を味方だと見なした。事実、カズマの味方に来たのだが、カズマはこの判断をすぐに後悔することになる。
「カズマ様、憶えておいででしょうか?レヴァン家のヴァレンティナですわ。」
早速、意中の相手を目ざとく見つけると、数多の男を陥落させてきた微笑みを浮かべながら、近付いてきた。更に馬に揺られている為、二つの大きな女性の象徴がマグニチュード7の揺れを起こしていた。この地震の揺れに男どもは立っていられるはずもなく、カズマの周りにいた男達は次々と前屈みになりながら、座りこんでしまった。
「ティナ、久しぶりね。こんなところで何をしているのかしら?」
カズマの周りで唯一、ヴァレンティナの色香に惑わされないセシリアが額に青筋を浮かべ、カズマへの進路を塞ぐようにヴァレンティナの前に立ち塞がった。
「あら、決まっているじゃない。カズマ様の力になりに来たのよ?」
ヴァレンティナは馬から降りると、受けて立つと言うかのように、セシリアの目の前に立った。二人は視線を交錯させた瞬間、カズマには火花が飛び散っている幻惑が見えた気がした。そのまま、睨みあう二人を誰が止めるか、カズマとバルカンの間で押し付け合いが始まったが、ヴァレンティナが連れて来た部下のうち、唯一の若い女性が進み出た。
「ヴァレンティナ様、時間がありません。そろそろ、移動したほうがよろしいかと。」
「それも、そうね。カーラの言う通りだわ。それでは、カズマ様、一緒に参りましょう?」
ヴァレンティナはカズマに向かって、手を差し出した。どうやら、馬に相乗りしようと言う事らしい。
・・・・・それにしても、馬の背中という狭い空間に男女が体を密着させ、なおかつサスペンションなんていう無粋なモノがない、馬の背中に揺られて、事故が起きないはずがあるだろうか?いや、ない!ちょっと、手が滑って、ヴァレンティナの[検閲削除]や[言論統制]に触っても事故に違いない。
・・・・・そんな不埒なことを考えていたカズマは自然と「大人の階段登る~♪君はまだ、魔法使い(30歳を過ぎた勇者がなる職業)さ♪」と無意識に18歳未満の子供は絶対に歌ってはいけない歌詞を口ずさんでいたが、次の瞬間、頬に強烈な痛みを感じた。
「セシィリャ、イヒャイ!イヒャイ!ユリュシテクリャハイ!」(訳:セシリア、痛い!痛い!許して下さい!)
どうやら、セシリアがたおやかな二本の指でカズマの頬を強烈に捻じっていたらしい。しばらく、雑巾が乾くまで絞ろうというのか、丁寧に、丹念に、根気良く捻じっていたが、あまりの痛みに恥も外聞もプライドも無く、謝るカズマに気が済んだのか、セシリアは頬からやっと指を放した。
「・・・え~と、ヴァレンティナ、腸を千切りにされるぐらいの断腸の思いだけど、相乗りは断るよ。それと、バルカン達の分の馬ってある?」
恐らく、天下統一を前に本能寺で炎に包まれた第六天魔王のような無念の表情を浮かべたカズマはヴァレンティナの申し出を丁重に断った。
「馬は部下と私が乗っている分だけよ。カズマ達よりも先回りするのに時間が無かったから用意出来なかったわ。」
「まぁ、仕方ないな。援軍に来てくれただけでも有難い。」
カズマはヴァレンティナに礼を言うと、考えを纏め始めた。正直、逃げ切るのに、時間稼ぎをもう一回する必要を感じていたカズマはヴァレンティナの援軍で何が出来るかを考え始めた。
・・・・戦うのは論外。ヴァレンティナが援軍に来たから、元山賊と援軍で総兵力は約90人に増えた。100騎ぐらいの追撃部隊と互角に戦える兵力にはなったが、それでも戦うには兵力が少な過ぎだな。相手は追撃部隊以外にも本隊が200人の騎兵がいる。それが戦っている間に援軍として、現れたら、もはや打つ手なしだ。馬が全員分あれば、逃げ切れるが・・・。
「それにしても、よくアルバート侯爵がカズマの味方をすることを許したでやんすね。」
「勿論ですわ。お兄様はレヴァン家を大きくするという野心がありますもの。カズマは賭けるのに値するということよ。といっても、まだ大っぴらに味方するとは言えないから、しばらく私がカズマのところにいるのは白豚饅頭(フォルラン侯爵)には内緒ですけど。」
カズマが考え事をしている間にバルカンがヴァレンティナに話しかけていた。何気なく、聞き流していたカズマだったが、ある一言が気になった。
・・・・まだ、フォルランにはヴァレンティナが俺の味方をしている事を知らない?そういえば、セシリアもまだ俺の味方をしていることを知られていないから侯爵の顔パスで収容所に侵入出来たんだよな?ということはヴァレンティナも同じことが出来ると言う事か。
「よっしゃ!逃げ切る為の、最後のピースが埋まったぞ!」
カズマは自分の太ももを大きく一回叩くと、全員に聞こえるように言い放った。
「それでどうするでやんすか?」
「あぁ、今から言うよ。ヴァレンティナ、悪いけど、全員で逃亡するのは無理だ。ヴァレンティナの部下は置いて行くことになる。悪いけど部下の馬をバルカン達に渡して欲しい。勿論、部下達は捨石にしない。部下達には、ある芝居をして欲しい。ちょっと、副官は来て貰ってもいいかな?」
カズマの言葉に先程、ヴァレンティナとセシリアの喧嘩を止めた紅一点の女性が近付いた。どうやら、彼女が副官だったらしい。さきほどは気付かなかったが、よく顔を見てみると、なかなか整った顔立ちだった。
「私が副官のカーラですが、一体、何をすればいいのでしょうか?」
上司とは違い、カーラはなかなか生真面目な性質らしい。そういえば、どこか学級委員長という役職が似合いそうな顔立ちである。
「俺達が去った後に、フォルラン侯爵の追撃部隊が通るはずだから、彼らにたまたまヴァレンティナとこの街道を通りかかったら、賊が現われて、いきなりヴァレンティナを人質に取られたと言って欲しい。そうすれば、侯爵家の令嬢を見殺しにする判断が犬に出来るかな?ご主人様の意向が気になって、強硬手段を取るのに躊躇するはずだ。」
「なるほど。」
カーラはなるほどと大きく頷いた。確かにカズマの言う通りにすれば、ヴァレンティナが連れて来た部下は無事だし、唯一の武器である牙を封じられた犬では獲物を捕らえる事は出来ないだろう。
「でも、収容所でオイラ達の手口は相手に知られたでやんす。そんなに都合よく、レヴァン家の令嬢が現われて、人質になったと思うでやんすか?オイラだったら、グルだと思うでやんすけど。」
バルカンの疑問にカズマはあっさりと答えた。
「それなら、それで構わない。しかし、内心ではそう思っても、果たして、猟犬は牙を使えるかな?」
そこでカズマは一旦、言葉を区切ると、ムフフフと笑った。
「もし、間違いだったら?もし、勘違いだったら?もし、本当に人質だったら?そんな次々と湧き上がる自分の疑念を無視出来るかな~。俺は無理だと思うよ。」
状況的にはグルかもしれない。しかし、それはあくまでも状況証拠。直接証拠には成りえない。もし、その考えが間違っていて、カズマ達に強硬手段を取り、ヴァレンティナが死亡した場合、追撃部隊の面々は全員軽くて、処刑だ。下手すると、一族郎党、老若男女の全てが処刑されることになる。レヴァン侯爵家にはそれだけの力がある。下級貴族ならば、あるいは泣き寝入りもするかもしれないが、レヴァン家はザーム家には劣るとはいえ、上から数えたほうが早いほどの上流貴族の家柄だ。そのレヴァン家の求めをフォルラン侯爵でも拒めないだろう。むしろ、部下思いでもない侯爵なら、あっさり人身御供にと差し出すことだろう。そんな血塗られた未来になるかもしれないのに、推論だけで強硬手段を取れるわけがない。
「俺達を絶対に追撃部隊は攻撃できない。誰だって、己の身は可愛いさ。」
「お話は分かりました。この者達には芝居をして貰うとします。しかし、私はヴァレンティナ様の副官です。ヴァレンティナ様を一人には出来ません。私はヴァレンティナ様と一緒に参りたいのですが?」
ヴァレンティナの副官としては当然の要求だろう。そう考えたカズマはあっさりと許した。
「別に良いよ。それじゃ、みんな馬に乗るぞ。」
カズマの号令とともにヴァレンティナの部下達が降りた馬にカズマ達は跨った。余った馬は鐙や鞍を外すと、無人のまま走らせた。あくまでも、賊がヴァレンティナを人質にし、追いかけて来られないように馬をどこかに走らせたという工作に見せるように。そういった一連の工作を終えるとカズマ達は東の街道を走り始めた。それと同時に追撃部隊が現れた。追撃部隊はまず、所在無さげに街道で立っているヴァレンティナの部下を見つけると、慌ただしく事情を聞き、ヴァレンティナが人質になったと言う話しを聞かされた。
その話しを聞き、百騎将は厄介な事になったものだと唸った。
しかし、そんな百騎将の様子を見て、ヴァレンティナの部下は人知れず忍び笑いをしていることに百騎将は気付かなかった。もし、気付いていれば、フォルラン侯爵の天下がしばらく続く事になっていただろうと、後の歴史家は言う。しかし、残念ながら、未来予知の能力など持っていない百騎将が知るよしもない。そして、これが第二章34話の追走劇へと繋がることになる。
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百騎将麾下の騎兵はカズマの計略により、大分遅れての追撃だったが、あれよあれよと言う間にカズマ達に追い付いていた。さすがに馬での移動距離は徒歩とは比べ物にならず、ウサギが寝ているあいだにカメはゴールを目指したが、十分な距離を稼ぐ前にウサギが起き出し、猛然とゴールを目指しているようなものだ。
その為、百騎将率いる、追撃部隊の騎兵達はあと少しで任務を完了出来るところまで来ていた。何故ならば、彼らの主君であるフォルラン侯爵が最も憎む宿敵カズマを既に視界内に捉えていたからだ。あとは縄でカズマを縛りつければ、任務は終了・・・・のはずだった。
しかし、彼らがそう思い始めてから、一刻も時を刻んでいたが、いまだにカズマを捕縛する事が出来なかった。それは徒歩で逃亡していたカズマ達が馬を調達していたこともあるが、最も大きな理由は弓矢を使う事が出来ない事だ。
「おのれ!弓を使えば、一発で捕まえられるというのに!」
百騎将は歯噛みしながら、弓矢を使えないことを口惜しんだ。
「仕方がありますまい。レヴァン家のご令嬢が人質になっていては、迂闊に弓矢を使えば、ご令嬢に当たる危険性がありますし。」
百騎将の隣にいた副官が馬に乗りながらも器用に肩を竦めながら、言った。平地で立っている状態ならまだしも、馬に揺られている状態では弓矢を精確に標的に当てるのは困難だった。下手すると、令嬢に当たる危険性もあるし、弓矢に逆上した賊によって、殺される危険性すらある。
冷静に物事を見ている副官の言葉に苦虫のフルコースを朝昼晩、食べさせられたような顔を百騎将は浮かべた。こうして、百騎将にとっては甚だ不本意ながらも、この不毛な追撃戦がしばらく続けざるをえなかった。
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逃走しているカズマ達をただ追うだけという、カズマ達にとっては単調な追走劇は一刻程続いた。一方の追撃部隊は弓矢を放つ事を禁じられ、ただただ、一方的にジャスティンが弓矢を放ち、その度に射られた兵士が落馬していくので、緊張感とストレスを強いられた。ただ、ジャスティンの矢が無くなってからは安心して、追いかける事が出来ていた。
それからしばらくすると、さすがに追撃部隊から攻撃は無いとは言え、長時間の逃走劇に元山賊達は疲れを見せ始めていた。かといって、休憩を命じる事が出来ないカズマは「頑張れ、あともう少しだ!」という在り来りな言葉しか仲間に声を掛けられなかった。これが喉の渇いた兵士に「梅の林があるぞ」と言い放ち、喉の渇きを癒した乱世の奸雄ならば、もっと気の利いたことを言えるだろうが、あいにくと男の象徴を切った祖父がいないカズマは何も思いつかなかった。
ただ、その状況に突如として、変化が起きた。元山賊達の前方にカズマが目当てにしていた集団が見えたのだ。その瞬間、カズマの口に笑みがこぼれた。その笑みはまるで、死んでも敵将を退却に追い込んだ、チート軍師が上手く敵を罠に嵌めた時に軍扇の下で浮かべる表情に酷似していたかもしれない。
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カズマ達の前方に現れた集団。それはバルカン達と違って、本物の近衛騎士団達である。彼らはガンドロフ将軍に率いられた近衛騎士団第三軍団に所属する第5連隊である。その近衛騎士団第三軍団は練度向上のために演習に来ていたのであった。
近衛騎士団は総勢5万人を数える大所帯である。その5万人の軍勢を5つに分け、軍団を構成している。その軍団を第一軍団、第二軍団、第三軍団、第四軍団、第五軍団と呼ばれ、それぞれの軍団を万騎将の位にいる軍団長が率いていた。彼らの普段の任務は主な所で王都防衛や国王の警護などが任務であるが、別に全ての軍団がそれらの任務に就いているわけではない。彼らはローテーションで任務を交替しており、第一軍団がランパール城の警護に就いていれば、第二軍団は非番、第三軍団は訓練などといった形でそれを週に一回、任務を交替しているのである。今回は第三軍団が訓練を行う週であり、ガンドロフ将軍に率いられ、東の街道沿いの平野部で演習を行っていた。演習は陣形の組み立てや模擬演習など多岐にわたっていた。
そんな第三軍団の中でも最も西側・・・つまりはバトゥーリ収容所に最も近い位置にいた近衛騎士団第三軍団第5連隊は突如として、土煙を巻き上げながら、近付いてくる集団に気が付いた。集団の数は土煙でよくは見えなかったが百数十人程度らしいことも分かったが、さすがにその人数の山賊が一万の軍勢に突撃をするとも思えぬし、どこかの領主の兵だろうと千騎将は考えたが、万が一のことを考えて、第5連隊は応戦態勢を整えることを命令すると同時にガンドロフ将軍と万騎将などの軍団上層部に伝令を送り出した。
千騎将の命令で第5連隊は槍を扱いて、敵味方不明の集団を待ち受けていると、どうやら、先頭を馬で走っている集団は近衛騎士団の制服を付けている事が分かった。しかし、同僚らしいことは分かったが、彼らの顔に見覚えが無かった。といっても、5万人もいる近衛騎士団だ。軍団が同じでも、知らない同僚はいるし、ましてや、他の軍団所属であれば、知らない人のほうが多い。その為、第5連隊の騎士達はその事については深く考えなかった。その同僚らしき集団の中から、一人の若い男が先頭に抜け出した。その若い男にはやる気という単語から最も遠い人種のような雰囲気を漂わせていたが、第5連隊に気付くと、大きく口を広げた。
「我々は第四軍団に所属する近衛騎士団だ!セシリア侯爵、及び、レヴァン家侯爵令嬢ヴァレンティナ様の警護中にフォルラン侯爵の兵に扮する山賊に襲われ、追われている!その証拠に奴らの懐には我らから奪った金貨があるはずだ!援護を頼む!」
その若い男が言い放つと、いつの間にか傍らにいた妙齢の美女二人も若い男の言い分を補足した。
「我が名はカストール家侯爵セシリア!不埒な山賊どもと戦うために手を貸して欲しい!」
「私はレヴァン家令嬢のヴァレンティナと申します!どうか、お助け下さい!」
この二人の美女の言葉を聞くや、千騎将は即座に第5連隊へ命令した。
「第5連隊はセシリア侯爵とヴァレンティナ様を援護しろ!山賊どもに指一本触れさせるな!」
千騎将の命令に第5連隊の騎士達は槍の穂先をセシリア侯爵達の後方へと向けた。すなわち、哀れなる山賊達に・・・。千騎将は何度も王都での守備をしており、シャナ王国のVIPの顔は全て覚えていた。その中にはセシリア侯爵や、レヴァン家のご令嬢ヴァレンティナの顔も含まれていた。若い男の言葉だけでは信じられなかったが、侯爵などの言葉であれば、別である。
「援護感謝する!」
「御助力感謝する!」
「助けて頂き、有難うございます!」
第5連隊の横を馬で通り抜けざまに若い男や侯爵、ご令嬢が礼を述べていく。彼らが通り過ぎると街道を塞ぐように第5連隊は布陣した。不埒な賊は一歩も通さないと言うかのように。第5連隊が布陣を終えると同時に100人を下回る程度の山賊が馬に跨りながら、現れた。なるほど、侯爵たちの言葉通り、どこから調達してきたのか、一般の山賊と違って、統一された鎧を身にまとっていた。フォルラン侯爵家の兵と言われれば、信じてしまうかもしれなかった。
「我らはフォルラン侯爵家の者だ!先程の一行はカズマ及び、それに類する賊どもだ!道を開けて貰おう!」
山賊の中で最も身なりが良い格好をしている中年の男が横柄な態度で道を開けるように求めて来たが、第5連隊は構えを崩さなかった。
「全くもって、笑止千万!山賊にしてはなかなか知恵が回るようだが、考えが浅いわ!その方らの悪事全て、我らは見破っている!大人しく、武器を捨てよ!」
千騎将が手で合図をすると、第5連隊は山賊を包囲し始めた。更に周りの部隊も続々と第5連隊に援軍として、現れ、いつの間にか、十重二十重に包囲網を構築していた。
事態に気付いた山賊の頭(?) は誤解を解こうと、必死に弁明を繰り返したが、千騎将以下、全ての近衛騎士団員はその言葉に惑わされることは無かった。最終的には武装解除をせざるを得ない状況に追い込まれ、全員が捕縛された。さらに第5連隊が彼らの懐を探ってみると、領主の兵にしては多額の金貨を忍ばせていた為、これが山賊だと断定される判断材料となった。しかし、不思議な事に被害者であるはずの第四軍団と名乗る若い男とセシリア侯爵、侯爵令嬢のヴァレンティナはどこかへ走り去ってしまっていった。その為、第三軍団の責任者である万騎将は念の為、山賊達が主張する身元を王都で照会を行った。山賊と疑われた者達が解放されるにはその照会された結果を待たねばならなかった。
しかし、その照会の結果を知るまでの時間はカズマ達が行方を眩ませるのに十分な時間となった。真相を知ったガンドロフ将軍は「ワシをダシに使うとは味な真似をする小僧よのぉ!」と言うや、豪快に笑ったという。一方、フォルラン侯爵は収容所に向かう途上で、話を聞き、地団駄を踏んで悔しがったらしい。
この出来事より、以後、カズマは「シャナの千里眼」と謳われるようになる。
金貨を街道にばら撒くことで時間を稼ぎ、東の街道の先にまるでヴァレンティナがいるのを予め知っていたかのように絶妙なタイミングで馬を得ると、更にその先には近衛騎士団第三軍団が演習を行っていた。
まるで、第三者にはすべての物事がカズマの都合のいいように進んでいたように見えてしまう。果たして、これは偶然なのだろうか?それとも、伝説に謳われる千里眼を己の身に宿し、全ての事象を見通したのだろうか?
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―――――――――その者、カズマ。
その両目は千里眼。全てを見通し、あらゆる事象を知る千里眼。
幾度の危機も彼の者を傷つける事は叶わぬ。
例え、全知全能の神といえども・・・・・。
お待たせいたしました。遅くなりましたが、36話目となります。
卒論などがあるため、遅れがちですが、どうぞ、これからも御贔屓に。
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