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シャナ王国戦記譚  作者: 越前屋
第二章
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第二章 32話 囚われの姫君との対面

バルカン達は雑木林で朝から『囚われの姫君救出大作戦』の準備をしていた。


「それにしても、この服どこから調達したの?」


セシリアはアイザックが着ている服を摘まみながら、バルカンに聞いた。

元山賊の面々が着ている服は男なら一度は着てみたい服10年連続No1の呼び声も高い近衛騎士団の制服だった。


「山賊が物を手に入れる方法なんて一つしかないでやんすよ。」

「まさか・・・・?」

「いや、嘘だから。それ、近衛騎士団の騎士から賭けの形に巻き上げたやつだし。」


ちょっと、カッコ良く言ってみたかったバルカンの嘘を一緒に巻き上げていたダグラスが即座に本当のことをバラした。


「・・・・それにしても、よく人数分用意出来たわね。」

「それどころか、あと50人分ぐらいあるし。」


呆れたように呟くセシリアにダグラスは事もなげに言った。


「・・・・・・・・そんなに制服を持ってどうするつもりだったの?」

「勿論、売り飛ばすに決まっています。世の中、マニアはゴキブリ並みに多いですからね。最初、賭けの形に制服を貰ったものの処分に困っていたら、カズマの兄貴が助言をしてくれてね。いや〜、これが近衛騎士団の制服を着てみたいマニアにバカ売れで。俺達の懐は潤うどころか洪水状態ですよ!」


セシリアの疑問にダグラスが答えた。

ちなみに稼いだ、お金はカズマ達6人で平等に山分けをしていた。

その金額は山賊稼業が馬鹿らしくなるほどであったらしい。


「・・・・・もし、王都に戻ったら、フローレンスに近衛騎士団の引き締めをお願いしようかしら?」


最早、呆れた感情を通り越して、頭痛を感じ始めた頭にセシリアは白魚のような指を額に当て、軽く揉みほぐした。


「それじゃ『囚われの姫君救出作戦』の最終確認をするでやんすよ」


頭痛を患ったセシリアに構わず、バルカンが準備をというか、近衛騎士団の制服に着替えを終えた元山賊達を見渡しながら、昨夜説明した作戦の確認を始めた。


「作戦は単純明快、ダグラスでも分かるでやんす。近衛騎士団になったオイラ達が収容所に潜入。隙を見て、兄貴を救出し、あとはトンズラするだけでやんす。」


「私はどうすればいいの?」


「セシリアには隊長の役をお願いするでやんす。いくら、オイラ達が近衛騎士団の制服を着たといっても、ちょっと上等な服を着た山賊にしか見えないでやんすから。でも、シャナ王国名門カストール侯爵であるセシリアが率いているとなれば、収容所の所長も信じざるを得ないはずでやんす。」


バルカンの説明にセシリアは大きく頷いた。

セシリアの目から見ても、変装になれているアイザックは別として、その他の元山賊達は散々であった。各々、髭を剃る、髪を撫でつけるなどの努力をした後は窺えたが、残念ながら、制服だけでは隠しきれない無法者のオーラが滲み出ていた。バルカンに至っては彼の巨体が入るサイズが見つからず、無理矢理一回り小さいサイズの制服を着ていた。その為、どんな過酷な耐久テストでも行われないであろう実験が行われていた。端的に言えば、バルカンを覆う制服は極限まで引き延ばされており、いつボタンが弾け飛ぶか分からない程、ピチピチの状態であった。


「それでは今から収容所に潜入開始でやんす。」


バルカンの言葉と同時に元山賊改め、近衛騎士団は収容所へ行進を始めた。



かつて「バトゥーリの墓場」とまで称された、バトゥーリ収容所は大きく生まれ変わっていた。クーダ医師によって、衛生環境が著しく改善した結果、病気で死ぬ者が減ったからだ。後にこの出来事はグランバニア大陸の予防医療の原点となるが、割愛する。


また、収容所内の治安も牢名主ダリウスによって、喧嘩などの囚人同士の争いも起きなくなっていた。

そうなると、病気で死ぬこともなく、定期的に食べ物が配られる収容所はそこら辺の町よりも住み良い場所になっていた。

どの囚人達も和やかに収容所生活を楽しみ始めていた。

その中で最も収容所ライフを満喫していたのはカズマである。

収容所にはセシリアが大量の仕事を持ってくることもなく、お仕置君に追い回されることもないカズマは朝昼晩関係なく寝ながら暮らしていた。


その為、寝ることに関しては一切妥協しないカズマは木を切り倒して、デッキチェアや簡易ベッドを作り、昼はデッキチェアに寝そべりながら、温かい日差しを全身に受け、夜は簡易ベッドに潜り込み、熟睡するのが日課となっていた。

患者が大幅に減り、暇になったクーダ医師はそんなカズマを見て「おそらく収容所をここまで満喫出来る人物はグランバニア大陸でもカズマ殿だけだと思いますよ。」と周りに洩らすほどだった。


しかし、この日はカズマの様子が違った。

普段なら日が高くなる昼時まで、簡易ベッドでカズマは熟睡しているはずだったが、この日は早朝には目が覚めてしまっていた。

仕方がなく、カズマは気分を変えて、手作りのデッキチェアに寝そべってはみたが、これまた眠る事が出来なかった。


「あれ、おかしいな?さすがに寝過ぎて、体が睡眠拒否を起こしたか?いや、俺の体に限ってなぁ・・・・。どうも、何か嫌な予感がするな。」


カズマは念の為、周りを見渡してみたが、囚人同士が長閑に過ごしている姿以外、特に変わった光景は無かった。

・・・・いや、いつもの収容所の風景のはずだが、カズマは何か違和感があるような気がした。その違和感の正体を確かめるように注意深く周りを見直した。

そして、違和感の正体に思い立った。


「そういえば、看守の人数がいつもより少ないような。」


よくよく見てみると、囚人から見える範囲にいる看守が少ないのである。

谷底を見渡すことの出来る崖の上に作られた監視塔には通常3〜4人程の看守が詰めているが、良く見てみると、2人程しかいない。

さらに看守の少なさに気が付いてみると、看守達が崖の上を巡回する頻度も減っているように感じる。


「う〜ん、気のせいか?」


そうは言ってみたものの、その言葉をカズマ自身、信じる事が出来なかった。

何せ、カズマが早起きした時の運の悪さは身を持って知っていたからだ。

そもそも、カズマにとっては寝ている時だけが現実を忘れられる時なのだ。

その為、カズマにとっては起きていること自体、運が悪いことになる。

それでもカズマは運の悪さから逃れようと、目を閉じて、しばらく眠気が来るのを待った。


結局、カズマは眠ることは出来なかった。

何故なら「カズマ?」という天敵の言葉が聞こえたからだ。



この日、看守達は抜き打ちで来たセシリア侯爵率いる近衛騎士団の査察に大慌てだった。

バトゥーリ収容所の所長は領地を持っていない下級貴族出身だが、何度かランパール城に出仕した経験があり、セシリア侯爵の顔を見た事があった。

冷静に見れば・・・・。いや、どう目を凝らしても怪しさ抜群の近衛騎士団を名乗る集団だったが、シャナ王国屈指の大貴族であるカストール家の当主を務め、現在は王の側近として、国政に関与しているセシリア侯爵がいることで、特に疑いもせずに収容所の中へ招き入れた。まさか、侯爵の地位にある人が近衛騎士団の名を語って、囚人の脱獄を計画しているとは思わずに・・・・。


そのセシリア侯爵はバトゥーリ収容所の管理体制などを査察する為に抜き打ちで来たという説明を所長に信じこませると、もっともらしく『出来るだけ多くの看守の話しを聞きたい。』と言い、必要最低限の看守を残し、大部分の看守達を一室に集めることに成功した。


セシリアは看守達が集まったことを確認すると、看守達の前に姿を現した。


「私の名はセシリアと言い、陛下より侯爵の地位を賜っている者だ。その陛下の命により、本日、バトゥーリ収容所に抜き打ちで査察に来た。ついてはこれより、諸君から収容所の問題点、不満をあらかじめ聞いておきたい。呼ばれた者から所長室に来てもらうことにする。まずはそこのお前からだ。」


とりあえず、近くにいた看守を侯爵は指差すと、所長室へと連れて行った。

最初の看守が連れていかれてから、しばらくすると、近衛騎士団の制服を纏った特徴らしい特徴のない中性的な顔立ちの騎士が適当に残った看守のうち一人を指差し、連れて行く。

それが何度か続き、徐々に部屋に残る看守が少なくなっていた。

しかし、残った看守達は特に心配せずに隣の同僚と世間話をしながら、呼ばれるのを待っていた。連れていかれた同僚は話しが終わったら、先に仕事場に戻っているのだろうと思いながら・・・・。


所長室では近衛騎士団の査察団が熱心に、そして、素早く仕事をこなしていた。


「随分と手際がいいわね。」

「何せ、オイラ達はこれで飯を食っていた時期もあるでやんすからね。」


バルカンは話しながらも、手を休めることなく、手際良く、看守の手足を縛っていった。


「一丁あがりでやんす。ダグラス、こいつを隣に運ぶでやんす。」

「あいよ。」


猿轡を噛ませ、手足を縛られた看守をダグラスは肩に担ぐと近くの部屋に運んでいく。

実は近くの部屋には既に縛られた看守達が床に転がされていた。


「あと何人ぐらい、残っているの?」

「集めた看守は今ので最後でやんすが、監視塔などに残っているのがまだ50人程残っているでやんす。」


バルカンの言葉にセシリアは難しい表情を浮かべた。

セシリアを含め、集まった元山賊は38人。

一方の看守はセシリア達に100人程、縛られたが、それでも、元山賊以上の人数が残っていた。とはいえ、武装自体は素手の囚人が相手なだけに人の身長ほどの長さがある棍を持っているだけである。勿論、囚人が暴徒と化した時の為に剣や弓を武器庫に保管しているが、こちらは真っ先にバルカン達が押さえていたので、真正面から戦っても、負ける事はないだろう。しかし、出来るだけ流血沙汰は避けたいと思うセシリアは悩んだ。


「これ以上は時間的にも一人一人、看守を縛っていくのは難しいでやんす。そろそろ、兄貴の救出に動いたほうがいいでやんす。幸い、所長の身柄はこちらにあるでやんすし、所長を人質にするしかないでやんす。」


「・・・それしかないわね。ちょっと、所長を連れてきて。」


セシリアに言われ、山賊の一人が所長のいる部屋に向かった。

しばらくすると、所長を連れて、戻ってきた。


「侯爵、これは一体何事ですか!今すぐお止め下さい!」

「申し訳ございませんが、それは出来ません。あなたには人質になってもらいます。あまり、手荒なことをしたくはありませんので、おとなしく、付いて来て下さい。」


セシリアが所長の手を結んでいた縄を切り落とすと、所長の背中にはバルカンがナイフを突き付けた。


「それでは参りましょうか。」


武器庫や逃走経路に必要最低限の元山賊を配置すると、カズマが収監されている谷底へと歩き出した。囚人が脱走を難しくする為か、何度か、右へ左へと迷路のような通路を歩き、谷底へと行くことが出来る唯一の通路に陣取った検問所が見えて来た。


「所長、どうかしましたか?」

「・・・・実はセシリア侯爵が下の囚人の様子を詳しく見たいとの仰せだ。」

「下に査察ですか?分かりました、門を開けます。」


所長の説明に納得した看守は門を開け始めた。完全に開け終わるのを確認すると、ダグラス、アイザックは油断していた看守の後ろに素早く回り込み、首に手刀を叩きこんだ。

手刀を叩きこまれた看守は為すすべなく、床に倒れ伏していった。

倒れ込んだ看守をダグラス達は脇から手を入れ、検問所の死角に運び込んだ。


「それじゃ、行くわよ。」


検問所にダグラスとアイザックを残し、セシリア達は谷底へと向かっていった。

しばらく歩き続けると、谷底に着いたセシリア以外の一行が最初に目にしたのはその野晒しになった状態の広場だった。しかし、収容所の中というよりは田舎の風景のような奇妙な長閑さを感じさせた。極悪な囚人と思わせる者はおらず、穏やかに過ごしている姿が長閑さを演出しているのかもしれない。そんな墓場と言われた収容所の予想以上の長閑さに目を奪われていた一行の中でセシリアだけは目的の人物を見つけていた。

どこから持ってきたのか、デッキチェアに寝そべった、覇気の欠片どころか砂粒ほどもない青年だけを見続けていた。


お待たせいたしました。32話をお届けいたします。

本当でしたら、今回で脱獄までをかくつもりが・・・。


あれよあれよと話を書いていたら、長文になってしまい、ここで話を区切ることに・・・・。

でまぁ、次こそは脱獄、逃亡編になると思います。(多分)

はい、次回の更新も一週間を目途にしたいと思いますので、どうぞ、宜しくお願い致します。


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