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シャナ王国戦記譚  作者: 越前屋
外伝
4/87

外伝 裏稼業

王都ランパールには倉庫が建ち並んでいる一角があった。

それらは商人が商品を保管しておく為に作られた倉庫群であった。

日中は従業員達が商品の出し入れをするなど活況であるが、これが日も落ちると、途端に人影は勿論ネズミの影一匹も見えなくなる。

だが、その日、一つの倉庫では人相の悪い男達が集まっていた。

どの男も一癖二癖もありそうな強面の男達である。

人数は十数人はいるだろう。

その男達は二つの集団に分かれ、向かい合っていた。



「約束のブツは持ってきたな?」


片方の集団から一人の男が進み出る。

どうやら、その集団を纏めている壮年の男は長年、裏稼業を渡り歩いたのだろう。

顔には細長く伸びる刀傷が見て取れた。


「あぁ。そっちこそ、現金の準備は出来ているだろうな?」


相対している集団からは頭にバンダナを巻きつけた凶悪な顔をした筋骨隆々の大男が進み出た。


「分かっている。おいっ、持ってこい」


ザ・マフィアの頭領とも称すべき壮年の男が命じると、部下が袋を持ってきた。


「袋には金貨十枚分が入っている」

「いいだろう。おいっ、ブツを持ってこい!」


袋の中に必要な枚数の金貨があることを大男は確認すると、猫背気味の部下に鞄を持ってこさせた。


「ほらよ。これが約束のブツだ。まだ、どこにも出していない新品だ」

「うむ、確かに。では商談成立だな」


二人は握手すると、それぞれの所属する集団へと戻っていった。

それは善良なる一般市民が一生目にすることのないシャナ王国の暗部であった。



巨漢の男率いる集団は倉庫の扉を開けると外に出た。


「フッフッフッ、笑いが止まらないぜ。なぁ、バルカン?」

「標準語で話すのは疲れるでやんすよ、兄貴」


先程まで見事な貫録を見せていたこっちの集団代表バルカンは疲れたように呟いていた。


「仕方ないだろ? 貫録を出すには標準語が一番なんだから。それにそのお陰で金が手に入ったじゃないか?」


猫背気味な冴えない部下は仮の姿。

本当はシャナの千里眼と絶賛評判中のカズマであった。


「兄貴、これで俺達もセレブの仲間入りっすよ! これで女の子にモテモテ間違いなしだ!」

「……これで新しい弓が買える」

「ヒッヒッヒッ、新しい実験道具でも買おうかね」


カズマの横でダグラス、ジャスティン、レスターがヒャッホーと言いながら喜んでいた。

一夜で一般的な家庭収入で10年分の稼ぎを叩きだしたのだから当然である。


「グフフフ、なんで気付かなかったのだろう。こんなところにビジネスチャンスが転がっているなんて」


マフィアから頂いた袋を揺らして、金貨同士のぶつかる音を聞きながらカズマはニヤけた。


このところカズマ達の懐は寂しい限りであった。

カズマ脱獄大作戦のお陰で近衛兵の制服のレプリカ販売がセシリアにバレてしまったことで貴重な副収入源が無くなってしまった。

このままだと貴重な老後(30代から始まるスローライフ)の蓄えができないと考えたカズマは新たなるビジネスを思いついた。

それは―――――――――


「でも、いいんでやんすか? セシリア姐御とヴァレンティナ姐御を勝手にモデルにした絵を売って? バレたら思いつく限りの地獄を味わされそうでやんすけど」


カズマは日本時代に培った技術を応用して、セシリアやヴァレンティナの絵を描き売りまくっていたのである。


「これぞ、引きこもりの勝利だ! 家でゴロゴロしながら、金を稼ごうと身に付けた特技がこんなところで役立つとは……!」


日本時代、カズマは家で可愛い二次元系の女の子の絵を描き、それを同じ高校の漫画同好会に売りつけてることでお金を稼いでいた。

ちなみにその漫画同好会はカズマの絵で同人誌を作り、利潤を上げるという方法で稼いでいたが。

さて、そのことを思い出したカズマは試しにその絵を好事家達に売りつけてみると、見る見る値段が跳ね上がっていった。

セシリアやヴァレンティナのファンだった貴族達ははこの絵にどんどん飛びついていったのである。

まさしく、入れ食いフィーバー状態。

現在では一枚の絵で一年間は暮らせるぐらいにまでなっていた。


「馬鹿だな、バルカンは。バレなければ罪は罪じゃないんだよ? 完全犯罪は犯罪じゃないんだよ!」

「オイラは何だかすごく嫌な予感がするでやんす」

「なに、フローレンス騎士団長みたいなことを言っているんだよ。いいか、セシリアは俺の副官。すなわち、副官は上官の幸せの為にはひと肌もふた肌も脱いでもらわないと」

「あぁ、これがお約束でやんすね。兄貴。後ろ、後ろ」


バルカンは人生を全て諦めきった自殺者のような達観した表情を浮かべながら、カズマの後ろを指差した。


「俺達のサクセスストーリーはここから始ま……っ!?」


る、と言いかけたカズマは背後に突如膨れ上がる殺気を感じた。

振り返ると――――――――

自動上司お仕置き夜叉姫(セシリア)様が綺麗な笑顔でおりました。

ただ、その綺麗な顔の額には強烈に自己主張するぶっとい青筋が何個も浮かべていらっしゃいましたが。

さらに彼女の後ろには近衛兵一個大隊が控えていた。


「セッ、セシリア……何でコッ、ココにいらっしゃるのでございますでしょうか?」


天国で悪魔を見つけてしまったような信じられない気分だったカズマは微妙に言葉がおかしくなってしまった。

そのこめかみには、つぅっと何筋もの冷や汗が滝のように流れ落ちていった。

その量は軽くサハラ砂漠を踏破する為に流す汗よりも多いだろう。


「そういうカズマはどうしてここにいるのかしら?」

「えっ、えーと……そう! ちょっと、皆で散歩したくなったんだよ! なぁ、そうだよな? そうと言えよ? なっ?」


カズマの言葉に呆然としていた元山賊達は慌ててコクコクと何度も頷いた。


「あら、そうなの?」

「そうなんだよ! うん、それ以上ないぐらいにそう! 誰がなんと言おうと散歩なんだ!」

「そういえば、私ね。最近、変な情報を聞いたのよね」

「へっ、へぇ~。そうなんだ?」

「そうなのよ。それでね、それは私をモデルにした絵が勝手に売り買いされているという情報だったの」


セシリアは子供にも聞き取れるような優しくゆっくりとした声で話していた。

だが、カズマ達の全身は冷や汗が洪水のように流れ落ちていった。

遠からず、脱水症状で死ぬかもしれないとカズマは思った。


「それで、もう一度聞くけど、カズマはここで何をしていたのかしら?」


カズマにはその声が地獄行きを言い渡す閻魔大王の声のように聞こえた。



「クソッ! 俺の完璧な作戦が! なんでバレた!?」

「だから、止めようと言ったでやんす!」


カズマ達は手と足と口を動かしながら王都を走り回っていた。

もはや、誤魔化すことを諦めたカズマが取るべき道は一つだけであった。

すなわち、全速力で逃走をすること。


「待ちなさい! カズマ! よくも下着姿の絵まで配ったわね! お陰で外に出歩けないじゃない!」

「待てと言われて、待つほど俺はマゾじゃないわ! それにあれは下着じゃない、水着だっ~~~~!」


さすがに下着姿は不味いと考えたカズマはセシリアの水着姿を描いていた。

とはいえ、泳げる者が少ないシャナ王国では水着という文化は無い。

その為、下着と認識するのも当然だったが。


「どっ、どうするんだよ、兄貴! 姐御が滅茶苦茶怒っているぞ!」

「分かっとるわい! こうなったら、怒りが収まるまで逃げるしかないだろう!」

「……その頃にはお爺さんになっているような」


ジャスティンが走りながら後ろを振り返ってみた。

近衛兵一個大隊を引き連れたセシリアが腰からサーベルを引き抜き追走していた。


「兄貴、何か策はないでやんすかぁ~~~~! このままだとジリ貧でやんす!」

「クソッ! こうなれば、毒を食らわば皿もテーブルもだ! ジャスティン、弓矢でセシリアの足を狙え~~~! ゴム弾なら、大丈夫だろっ! それで足止めしろ!」

「……了解」


ジャスティンは立ち止まり、抱えていた弓を(つが)えるとセシリアの足元を狙って矢(先端はゴム)を放つ。

今まで百発百中の腕を誇るジャスティンの弓矢から逃れた敵はいない。


「よしっ、このまま逃げ切るぞ……って、なんじゃそりゃ~~~!!」


セシリアは向かってくる矢を持っていたサーベルで叩き落としてみせた。

それでもジャスティンが次々と弓矢を放つが無駄であった。

セシリアがサーベルを右に左に一振りするだけで矢は無力化されていった。


「……あれは人間じゃない」

「そんなこと顔を見れば分かるわ! 見るだけで心臓に弱い人がAEDのお世話になること請け合いの表情を浮かべた奴が人間のわけがないだろう!」


ゴム弾で足止めすることを諦めたカズマ達ははまた逃走を開始していた。


「ヒッヒッフー、この国の上層部はなにをしている!? 人類の叡智が詰まった吾輩の頭脳が失われようとしているのだぞ~~~!」


いつものマッドサイエンティスト風味の笑いが、ラ・マーズ法に変わっている辺りにレスターの余裕の無さが窺えた。


「兄貴、何とかしてくれよ~~~! それでもシャナの千里眼だろ~~!」

「え~い、こういう時だけお世辞を言いやがって! よし、我が国に伝わる追撃してくる部隊を撃退する策を使うか」

「そんなんがあるなら、兄貴すぐに使おう! それで、どうするんだ?」


ダグラスがカズマに聞いた。


「まず、ダグラスは最後尾を走る」

「分かった……それで次は?」


ダグラスはカズマの言葉通りに最後尾を走り始めた。


「それで次は……ってい!! ダグラスチャフ(ミサイルの攻撃を回避するため空中に散布する金属片)、ゴー!」

「ゲエッ、って兄貴~~~~~~~!!」


カズマは情け容赦なくダグラスの足を右足で払った。

全速力の状態で走っていたダグラスはバランスが崩れるとどうしようもなかった。

石畳の道を何度も転がった。


「ダグラス~~~~! セシリアの足止めをするんだ! これぞ、秘奥義の捨てダグラス(すてがまり)だ! お前のことは忘れないぞ!!」

「兄貴の裏切りものぉ~~~~~~~!」


ダグラスが後方で何かを叫ぶがカズマは無視した。


「こうなりゃ、自棄糞(やけくそ)だ! グギャァァァァァァぁ~~~~~~~~~~~!!!!!!」


その一瞬後、ダグラスの断末魔の声が王都に響き渡った。


「クソッ、あんまり時間稼ぎにならなかったか! こうなれば、もう一回!」


だが、二度も引っかかるほどバルカン達もバカではない。

カズマの足が届かないところまで離れていた。

そんなバルカン達の警戒ぶりにカズマは捨て奸を断念した。


「兄貴、素直に謝ったほうがいいじゃないでやんすか!」

「馬鹿やろ、素直に謝ったのがそのまま辞世の句になるだけだ! このまま逃……っげ!!」


カズマは慌てて立ち止まった。

その先には先回りしていたと思われるヴァレンティナとカーラが近衛軍一個小隊で待ち伏せていた。


「カーラにヴァレンティナ! そこを通してくれ!」

「カズマ様、さすがの私も少々おかんむりですわよ?」


外見は男遊びになれた令嬢でも中身はなかなかにウブなヴァレンティナは自分の肌が外部に流れていることを怒っていた。

そう、カズマが描いたアニメチックな自分の絵とはいえ。


そうこうする間にセシリアも追いついた。


「さぁ、カズマ? 覚悟はいい?」

「兄貴、どうするでやんす?」


カズマ達はそれぞれ背中合わせになった。


「こうなれば、あの手しかないな」

「ヒッヒッフー、そんな便利な手があるなら早く使えっ! 世界の頭脳がピンチなんだぞ!」


カズマはセシリアへと歩き始めた。

そして、セシリアの目の前まで来るとカズマは立ち止まった。


「この技だけは使いたくなかったが……仕方がない。喰らえ、俺の最終究極奥義! とぉっ!!」


そういうや、カズマは空高く飛び、膝を折る。

そして、その状態で地上に着地すると両手を勢いよく地面に叩きつけた。

そこでさらに頭を母なる大地に擦りつけるとカズマの最終秘奥義が完成する。

その名も―――――――――――


「ジャンピングサマーソルト土下座だっ!!!」


カズマが恥も外聞も捨てた時、初めて出せる究極技だ。

この技を喰らった敵は怒りを和らげてしまうという恐るべき効果をもっている……!!


「ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、悪気は無かったんです。許して下さい、セシリア様」


ひたすらカズマはセシリアに許しを請う。

恥も外見もプライドも全て粗大ゴミとして捨てたカズマだからこそ出来るジャパニーズ式土下座だった。

この姿にバルカンが抗議の声を上げた。


「あんだけ、カッコよく決めて、ただの土下座でやんすか!!」

「……見損なった」

「ほらっ、お前達も早くセシリア様に土下座するんだ! 神の怒りに触れるぞ!」


カズマに促され渋々バルカン達も土下座をした。


「さてさて、どうしようかしらね? ねぇ、ティナ?」


平伏しながら、裁きを待つ囚人達を前にセシリアがヴァレンティナに話しかけた。


「そうね、セシー。私、良いことを思いついたわ。そんなにお金が欲しいなら稼がせてあげましょうよ?」


とヴァレンティナは言うとセシリアの耳元に小声で話し始めた。


「それは良いわね。それじゃ、カズマ? 上官も副官の為に自分の肌もしっかりと、ぬ・ぐ・わ・よ・ね?」


カズマに頷く以外の選択肢は……残っているはずもなかった。

セシリアの言葉が比喩でもなんでもないということを知るのはそう遠い未来でもなかった。



その後、セシリアとヴァレンティナの萌え絵が回収されると徹底的に燃やされた。

彼女らのファン達は「おぉ、神よ。我らの聖書が無残にも焚書に……」と血の涙を流しながら悔しがった。

これこそ悪名高い焚書抗萌である。

しかし、この弾圧を逃れた一部の本は現在でもシャナ王国立メディア芸術総合センター。

通称『アニメの殿堂』『国営の漫画喫茶』とも呼ばれる。

一部の熱狂的な人間が政治家を動かし作り上げた夢と無駄が一杯詰まった施設で大切に保管されている。


そして、それから数日後にはカズマ達をモデルにしたBL(ボーイズラブ)本が売り出されるやたちまち淑女達の間で大人気になり売り切れ続出となったという。

ただし、カズマは「もうお婿に行けない」と嘆いたらしい。

そのなかでもカズマとラファエルのカップリングは大好評であったという。

後世の歴史家の中にはこのBL本を根拠にカズマとラファエルは衆道関係にあったと主張する女性歴史家(ふじょし)がいたとかいなかったとか。

どうも、お待たせいたしました。久々の短編更新です。

たまにはこんなバカな話しを書きたくなる時があります。


ちょっと、仕事が忙しくてあまり推敲に時間をかけられなかったので表現がおかしい場所があるかもしれませんが、宜しくお願いします。


感想、誤字、脱字、評価 お待ちしております。

また、更新予定日を当方の活動報告にて随時、予告します。

良かったら活用して下さい。

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