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シャナ王国戦記譚  作者: 越前屋
第二章
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第二章 25話 風雲急

まだ日が高い昼間でも人を睡眠へと誘う、暖かい日差しが王都を差し込んでいた。

そんな昼寝日和のこの日、

ランパール城の国王の執務室に向かう廊下をセシリアと一緒にカズマは歩いていた。




「何も仕事をサボって寝ていたからといって、弓を射かけるのは止めてくれ。」


寝癖の付いた頭をワシャワシャと掻きながら、愚痴が出てしまった。


「真面目に仕事をしてくれるなら、私は何もしませんよ。」


副官としての能力はどれを取っても有能で更に美貌のセシリアは

引く手 数多(あまた)の人材だが、

全ての物事が完璧な人物がいないようにセシリアも数少ない欠点がある!


それが上司に対する寛容さだと常々、俺は思う。

今日も眠気に誘われて、王都にいくつもある昼寝専用隠れ家の一つで寝ていたら、

矢が突如俺に飛来してきた。

幸い髪の毛数本が犠牲になっただけで済んだけど、あと少し矢が横にズレていたら・・・。

これからの人生を頭に矢が刺さったまま過ごすことになっていたことだろう。

頭蓋骨(ずがいこつ)に矢が刺さったままで寝返りをうつのにも

苦労する人生なんて嫌過ぎる。


「それで仕事って何だよ?」


「陛下がこれからの国の運営についてじゃないかしら。」


「相談ねぇ・・・。」


相談されてもねぇ?

やっとこさ、セシリアに(しご)かれて、書類仕事には慣れてはきたが・・・。

現実の国政と戦略ゲームなどの国政の違いに最近、頭を抱えていた。


ゲームだったら、ボタン一つで勝手に国力のパラメーターが上がってくれるが、

現実では当たり前だが、そんなことはないことを思い知らされる。


「別にカズマに全ての国政をやれという話ではない。

陛下が期待しているのはカズマの奇想天外な思いつきよ。」


「奇想天外な思いつきか・・・。」


そう言われると、真実をどうも言いにくい。

俺が『ローランド大返し』を考え付いたとセシリア達には思われているが、

過去の戦訓を参考に考えただけだしなぁ。

まぁ、そう思われたほうがこれから色々やるにしても動きやすいのは確かだから、

皆の勘違いを積極的に訂正しなくてもいいかなぁとも思う。


「そうよ。ほら、もう執務室に着くわよ?」


セシリアに言われて、廊下の奥に二人の衛兵が守る扉が見えた。

扉の前にいる衛兵に軽く会釈をして、扉を開けた。


「おーい、来たぞ〜。」


「あぁ、カズマ。よく来たね。」


執務室の机に座りながら、白い法衣を着た男と対面していたラファエルは

俺とセシリアを手で招いた。


「ん?お客さんがいるのか?後のほうが良いか?」


「私の用事は終わりましたので、大丈夫です。それより、あなたがカズマさんですね?

私はゼノン教シャナ管区の責任者をしています、枢機卿のバロモンドと申します。」


バロモンドが握手を求める為に頭を覆うフードを外したことで、

虫一匹殺さなそうな聖職者らしい、優しいハンサムな顔立ちが露わになった。


「枢機卿?確か、スペンサー教皇の次に偉い人だっけ?」


バロモンドが差し出した右手を握りながら、ゼノン教の組織図を思い出していた。

確か、ゼノン教は教皇を頂点として、その次の高位聖職者が枢機卿だっけ?

その枢機卿はシャナ王国、セントレイズ帝国、バーネット皇国の

三カ国に一人ずつしかいない、聖職者の超エリートだったような。


「私自身は大した者ではありませんが、枢機卿の地位をゼノン神から頂いております。」


エリートの人にありがちな、高慢な様子は一切なく、

聖職者の理想象を具現化した存在のようだ。


「それでは、私はこれで。諸君らに神の加護があらんことを。」


バロモンドは握っていた俺の手を離すと、

ゼノン教独自の祈りを素早く捧げると扉の外へ出て行った。


「あれがシャナ王国中で騒がれているバロモンド枢機卿ね?」


それまで黙って眺めていたセシリアが感心するように言った。


「何か気に入らない野郎だなぁ。」


超エリートなのに丁寧な物腰で非の打ちどころがないバロモンドだったが、

どこか気に入らない。


「気に入らないって。彼がシャナ王国中の女性達が憧れている枢機卿よ?」

「そもそも俺にとってはハンサムと蚊とゴキブリは三大絶滅してもいい種なんだよ。」

「ハンサムなことが気に入らないだけじゃない。」


呆れたようにセシリアが俺を眺めている。


「それで相談って何だ?」

「あぁ、クーダ医師の事だけどね。」

「クーダ医師って、ラファエルに新しい医療をする許可を貰いに来た奴か?」


ラファエルが言ったクーダ医師とはシャナ王国で腕利きと評判の医者である。

そのクーダ医者が先日、外科の研究許可を貰いに王宮まで来ていた。


この世界での医療行為は基本的に医者が煎じた薬を服用して、

病気を治療するだけの内科だけである。


現代日本のように手術で病巣を取り除く外科的治療方法は確立されていなかった。

この外科を大きく阻んでいるのが、ゼノン教の存在である。

ゼノン教では人の体を傷つける事は人の体を作った

ゼノン神に対する冒涜であると考えられていた。

これが医療の行為に対しても、人体を傷つけることには禁じる要因になっていた。


現代日本から来た俺にしてみれば馬鹿馬鹿しい理由だ。

外科の発展で救われる命があるのに、人を救うべき宗教が禁じるとは皮肉な話だねぇ。


とりあえず、ゼノン教との関係で悩んでいたラファエルに俺が外科の良さを話すと、

腹が決まったのか、許可を出す事を決めた。


「そう、そのクーダ医師の治療方法について、早速ゼノン教から文句がきた。」

「あぁ、さっきの客人はその要件できていたのか。これだから、頭の固い宗教は嫌いだよ。」


年金、政治家の汚職など色々問題があったが、

何だかんだで日本に生まれて良かったなぁと、この世界に来て今更にして思う。

食事には困らないし、命の危険もそこまでない。

どこぞの宗教みたいに神風テロを命じられることもない。

世界的に珍しい、基本的には無宗教の国柄は俺の性に合っていたなぁ。

織田信長の一番の功績は日本を無宗教にしたことだろうと常々、俺は思っている。


「丁重に断ったけどね。」

「そのうち救える命が増えたら、そんな文句も無くなるだろう。」


「ただ、ゼノン教にかなりの影響力があるのは確かだから。

実際、ゼノン教と繋がりのある貴族の間に妙な動きもある。

それを牽制する意味でもグローブ財務卿に金貨1000枚ぐらいを寄付するように頼んどいたよ。」


「げっ!金貨一枚で庶民の家族が一年は暮らせる金額だろ?てことは・・・・。

1000年は寝て暮らせるじゃん・・・・!俺も宗教でも起こそうかな?

寝て暮らしても生きていける理想の職業の様な気がしてきたわ。」


何て、羨ましい職業なんだ!

何もしなくても、人が金をくれる職業がこんなところにあるなんて!

俺が目指すべき職業は教祖なのでは?これは神のお告げなのではなかろうか?


「何、不謹慎なことを言っているのよ。それに新興宗教はゼノン教の弾圧対象よ?

一生追われる人生が良かったら、止めはしないけど。」


「げっ、そうか・・・。折角、天職が見つかったと思ったのに・・・・。」


あぁ、俺のバラ色の未来が萎んでいく・・・・。

思わず、ガックリと床に両手を付きながら、やっぱり宗教は嫌いだと思い直した。



俺が思わず、人文字でorzを体で作っていた頃。


バロモンド枢機卿がランパール城の無人の廊下を一人で歩いていた。


「あれがカズマか・・・。スペンサー教皇が危惧していた『大いなる災厄』か?

とても、そうは見えませんがねぇ。」


廊下を歩きながら、バロモンドは呟いた。

3日前にスペンサー教皇から密使がバロモンドのところに来た。

その密使はスペンサー教皇からの書状を携えていた。

その書状によると、スペンサー教皇はヨシトゥーネ王と同じ髪色、目の色でなおかつ、

シャナ王国の内乱を一瞬で治めたカズマが

『大いなる災厄』をもたらす者と考えているらしい。

その為、どんな手段を使ってでも、カズマを殺せという指令だった。


「さてさて、ラファエル王との信頼も厚いようですし、王に殺させるのは無理そうですね。

そういえば、今回のクーダの件はカズマが王に助言したようですし。

ここを突っつくとしますか。彼には悪いですが、私は枢機卿で終わる気はないのですよ。

彼には私の出世の為に踏み台になって貰うこととしましょう。」


自らの考えを纏めると、己の未来に踏み出すかのように力強く歩き出した。


シャナ王国に風雲急を告げようとしていた。


というわけで25話目更新です。

今回はゼノン教との全面対決前夜になる感じの話となっています。

そうそう、文章中に出てきた織田信長については念の為、補足しますが、信長はキリスト教には寛容だったそうです。ただ、それまで根付いていた仏教を徹底的に弾圧したので、現代日本が無宗教になった要因の一つが信長だと筆者の考えを入れただけですので。


それでは次回はカズマが大変な事に・・・?


感想、評価を頂けると筆者が小躍りするか、ショボーンとしますが、それはともかくお待ちしております。

また、誤字、脱字の指摘でもけっこうです。

宜しくお願い致します。

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