外伝 舞踏会ラファエル視点
ランパール城で開かれた華やかな舞踏会には様々なもので溢れている。
己の財力、権力を精一杯主張するスーツ、ドレスで着飾った紳士淑女。
シャナ王家が雇っている楽団による、荘厳なオーケストラ。
テーブルの上に置かれている、高級珍味な料理の数々。
そして、舞踏会の主役の存在。
舞踏会では談笑する紳士淑女がそこらかしこで見える。
特に今回の舞踏会の主役である僕の周りには人で溢れていた。
「それにしても、陛下!即位、おめでとうございます!」
「私もケイフォードのような謀反人が国王になることに苦々しく思っており、
陛下の勝利を祈っておりました!」
「陛下のような名君の家臣となれたこと、誇りに思いますぞ!」
そんな耳だけでなく、全身にタコが出来る程の美辞麗句の数々に
舞踏会が始まって、数時間でゲッソリした。
グローブ宰相の進言に「なるほど〜。」と思い、
二つ返事するのも、もどかしく一つ返事で了承したが・・・・。
・・・・・今はゲイル山脈よりも高く後悔していた。
これでも幼少の時から王族の義務として、舞踏会に参加していた。
王太子の立場になっても、ある程度の追従はあったが、
父上に嫌われ始めてからはそんな事も無くなっていた。
まさか、国王になると、こんなにも言われるとは思わなかった。
カズマの気持ちが今なら良く分かる。
こんなことだったら、カズマと一緒に逃亡すれば良かったかと思う。
そんな思いをおくびにも出さずに、表面的にはにこやかに対応を心掛けていた時、
近付いてくる初老の外交官に気付いた。
「ラファエル国王、この度は国王即位おめでとうございます。
我が主、グローサ陛下も喜んでおります。」
深々と頭を下げる初老の外交官を王太子時代から何度か見かけた事がある。
僕が生まれる前からバーネット皇国の外交官として、
シャナ王国に赴任しているらしい。
たしか名前は・・・・。
「ジョ・・・セフ殿?わざわざ丁寧な挨拶、有難うございます。」
「名前を憶えていただけていたようで、光栄に存じます。」
聞き方によっては皮肉に聞こえるが、
好々爺然とした風貌がそうは思わせないのは年の功だろうか?
「そうそう、グローサ国王はご健在かな?」
「はい、病気になる事もなく、無事に過ごしておりますようで。」
「それは良かった!」
お世辞でも政治的にでもなく、これは本当の気持ちである。
王太子時代に同盟国であるバーネット皇国に友好の使者として、
グローサ国王とは何度か会った事がある。
そこらの騎士に負けない大柄な体格に常に温和な表情を浮かべた国王だった。
初めて会った時からシャナ王国では無能と蔑まれた当時の僕を何故か気に入り、
色々と親身になって貰った思い出がある。
まるで本当の父親のような存在である。
僕が目指している国造りもグローサ国王の治世が影響しているのかもしれない。
バーネット皇国はカーロライン川を中心に水運で栄えている国である。
そのバーネット皇国に住む人々は船乗り気質の人が多いからか、
親切で陽気な人柄ばかりだった。
「ただ、グローサ陛下には最近、悩み事があるようで、
そのことでラファエル国王には相談があります。」
「グローサ国王が僕に相談?」
思わず、自分に人差し指を指して聞いてみた。
「はい、実はグローサ陛下の一人娘であらせられます、ショーナ姫のことです。」
ジョセフ外交官が言った名前に言い知れぬ不安を抱いた。
ショーナ姫とはグローサ国王の二人いる子供のうちの一人である。
その頃の彼女は僕とは年齢が3つ下の可憐な王女だった。
グローサ国王は僕と同年代ぐらいの彼女をバーネット皇国滞在時に遊び相手として、
一緒に過ごした間柄だった。
当時に彼女の見た目はフランス人形のような芸術的な美しさにホッソリとしている体格が
妖精と見紛うばかりの印象を見る者に与える美少女だった。
ただし、内面には虎やら龍やら獅子などを飼っているが・・・。
ショーナ姫の性格はよく言えば、姐御肌の面倒見のいい性格。
悪く言えば、ガキ大将の性格である。
彼女から見れば、僕は年上とは言え部下、子分、下っ端のような認識だったに違いない。
そんな彼女の遊びは貴族の子女がするような、おままごとのような遊びとは無縁であった。
冒険と称して、僕を連れ、城の外に警護兵を連れずに無断で出掛けるわ、
同年代の男の子に喧嘩を吹っ掛けて、完膚なきまでに叩きのめす、お転婆王女であった。
お陰でバーネット皇国滞在時の思い出のほとんどは振り回された日々である。
その後、僕は公務を終え、シャナ王国に帰国することになったが、
彼女の噂はその後も遠く王都ランパールにまで武勇伝が届くほどであった。
そんな彼女にはいつしたか通り名がついていた。「姫将軍」と
「それでショーナ姫がどうかしたの?」
「我がグローサ陛下はショーナ姫の嫁ぎ先に苦慮しておられます。
今までも何人か、婿候補の申し出があったのですが・・・・。」
「それなら、大丈夫じゃないの?その中の誰かを選べば?」
僕の疑問にジョセフ外交官は申し訳なさそうな声で付け加えた。
「その全ての婿候補をショーナ姫が叩きのめしてしまいまして。
今では申し出は勿論、グローサ陛下がこれはと思う若者に話を持ちかけても
辞退される始末でして・・・。」
ショーナ姫は相変わらずのようですね。
・・・・ん??待てよ、何でその話を僕にする?
「そこでグローサ陛下は年少のショーナ姫とは言え、
一緒に過ごすことが出来た唯一の異性である、
ラファエル国王ならショーナ姫の婿が務まるのではないかと・・・。」
消え入りそうな声で僕に死刑宣告を告げられた。ジョセフ殿・・・・。
心配そうな顔をするぐらいなら、グローサ国王を止めて下さい。
それに一緒に過ごしたくって、過ごした訳では・・・・。
魔王に逆らう事の出来る平民がどこの世界にいるのだろう?
「それでラファエル国王、いかがですかな?」
「え〜、大変光栄な話ですが・・・。
まだまだ国王になったばかりで、国政に忙しくて、
結婚を考えられる状況ではありませんので・・・・。」
「分かりました。では、いつまでに考えられますかな?」
僕はジョセフ殿に何かをしたのだろうか?
このままだと、僕が魔王の生贄に捧げられそうな展開に。
何か状況を打開する手はないかと会場を見渡すと、
カズマがセシリアと腕を組んで、会場を後にするところだった。
「あっ!カズマに頼んだ仕事はどうなったかな〜。」
「ラファエル国王!お待ち下さい!」
慌てて、生贄を呼びとめようとする声が聞こえるが、
命の危機を前にした僕には走り始めた足を止めるわけにはいかない。
そのまま会場を全速力で後にした。
我が城ながら、どこをどう走ったか、分からないが、
気が付いたら、城の片隅に造られた中庭に着いていた。
休む場所はないかと辺りを見回していると、男女が踊っている姿が目に付いた。
逢引現場かと思ったが、よく見ると、僕の良く知っている人物だった。
普段のカズマは減らず口を叩いて、セシリアに成敗される姿に見慣れていた所為か、
どうも雰囲気が良すぎて、脳が二人を認識出来なかったらしい。
「へぇ〜、いつの間に良い雰囲気になったね。」
カズマのぎこちない動きをセシリアが上手くカバーしている。
ある意味、夫婦の理想像みたいなダンスだった。
「やっぱり、僕の勘も満更じゃないね。」
うんうんと茂みに隠れて、一人頷いていると
誰かが匍匐前進しながら、僕の隣に移動した。
「おや、陛下でやんすか?陛下も覗きでやんすか?」
「そうだけど。・・・バルカン、その格好は?」
今のバルカンの格好を見た人の対応は一つ。
即座に警備兵に通報するという行動のみだろう。
バルカンは全身に木やら葉を付けた格好で周りの風景に溶け込んでいた。
何だか、モコモコした不気味な物体が動いているように見える。
もし、僕が現代の地球に生まれていたら、ギリースーツと表現していたことだろう。
「これは『あなたの本性を覗いちゃう君』でやんす。
レスターにこの日の為に作って貰ったでやんす。」
「・・・まぁ、警備兵に見つからないようにね。」
「大丈夫でやんす。夜な夜な何度もこれで警備兵の目を掻い潜った実績があるでやんす。」
どうりで最近ランパール城で葉っぱのオバケが出るという噂が流れているはずだ。
とりあえず、警備の責任者には僕から言っとくとしよう。
「それで、いつからカズマとセシリアの仲が良くなったの?」
「そうでやんすね、一週間ちょっと前ぐらいでやんすかね?」
「ふ〜ん。この様子だと、セシリアのお母さんに良い報告が出来そうだ。」
案外、この分だと結婚するのも時間の問題かもしれない。
そんな風に考えながら、いつまでも不器用な二人を眺めていた。
ちなみにその後、2、3日風邪を引いてしまったことを
カズマとセシリアには内緒にしていた。
お待たせいたしました。
今回はラファエルの結婚話を載せた話を書いております。
次回はシャナ王国の内政についてと嵐の前の静けさのような話となっております。
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