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シャナ王国戦記譚  作者: 越前屋
第二章
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第二章 23話 舞踏会

シャナ王国では王族や国のお祝い事があると舞踏会が開かれる。

そんな舞踏会は貴族にとって、最も重要なイベントの一つだ。

舞踏会ではそれまで縁の無かった貴族との縁が出来たり、

情報を仕入れたりと貴族にとっては、

社交場であると同時に己の出世に関わる重大事項であった。


特に王家主催の舞踏会は国内最大規模の大きさになる。

王族は勿論、主要な大貴族も揃って参加する、

王家主催の舞踏会は中級、下級貴族にとって垂涎の舞踏会であった。


王家の人間に気に入られれば、出世の糸口になる可能性もあるわ、

大貴族と知りあえば、美味しい汁が吸える可能性もある。


しかし、さすがに貴族全員を呼ぶわけにもいかないので、

下級貴族(領地はなく、名ばかりの貴族)などは生涯で一度呼ばれるかどうかである。

ただ、大きな戦功を立てた場合でも、名誉の褒美として呼ぶ場合はあるにはある。


他にも、特別に舞踏会への出入りを許された商人にとっても

大きな商談のチャンスとなりうる。

何せカモとなる金持ちが至る所にいるわけだ。

その為、一部の商人は貴族にお金を渡し、口添えをして貰い、舞踏会に参加する程である。


そんな事情を抜きにしても、舞踏会で綺麗な服を着て、

踊りたいと思う少女達の夢の場所でもある。


この夜、そんな舞踏会がランパール城で開かれていた。

内乱終結後の後始末も一段落着き、ケイフォード王子との内乱に勝利したラファエルがシャナ王国の統治者であると国の内外に宣伝する為に舞踏会を開く事をグローブ宰相が提案し、ラファエルが承認した為だ。


舞踏会の名目は「新国王即位のお祝い」である。

これにより、明確にラファエルが勝者であることを

人々に見せつける事になる狙いがあった。


この新国王主催の舞踏会には国内の有力な貴族が全員参加するほど

盛大なものになっていた。

他にも同盟国である、バーゼット皇国からもお祝いの使者が訪れていた。

その為、城の大広間には贅を凝らした服装で紳士、淑女が腐るほど歩きまわっていた。


そんな欲と夢を抱えた人々が集まる舞踏会で、唯一仏頂面で参加している人間がいた。

言わずと知れたカズマである。


カズマは高校生時代から人混みを非常に嫌っていた。

更に肩の凝る場所も加わった日には

仮病や冠婚葬祭などの予定を理由に参加しない程である。


ちなみにカズマの今までの自己申告した病気やら冠婚葬祭の予定を含めると・・・。

カズマの人生が10回は生まれ変わるぐらいの怪我(瀕死)、病気をしている。

また親戚中の皆さんもそれぞれ3回は死亡して葬式を挙げられているわ、

バツ5ぐらい結婚させられている計算になる。

もはや一流の詐欺師も青くなるほどの嘘の数々である。



そんな、カズマだから、ラファエルから

「戦勝会&新国王即位のお祝いに舞踏会が開催されるから参加して。」

と聞くや、即座に国外逃亡を計った。


だが、三日三晩に渡る近衛騎士団の騎士達を全員を動員した追撃部隊による追撃の末、

セシリア率いる部隊に捕らえられた。

付近の住人は恐ろしい重犯罪者が逃げているのかと錯覚したほどである。


こうして歴史上、ただ一人の為に近衛騎士団を動員することになった男は

セシリアの監視の下、王都に連行されていった。


王都につくと、セシリアの説得

(口ではなく、剣と拳によるモノを説得と評すかどうかは置いとくとして)により、

舞踏会に出席することを渋々カズマは承知した。


そして、舞踏会に出ても恥ずかしくない貴族の礼儀作法、テーブルマナー、言葉遣い、

ダンスなどをセシリア先生の下、徹底的に学ぶことになる。


何とか舞踏会当日までにはどうにか格好がつくぐらいまでには上達していた。

とはいえ、カズマが積極的に人前に出ることは無く。

大広間の隅をバルカンとともに陣取っていた為、あまり意味が無かったが。




「何で俺が舞踏会に参加しなければいけないんだ?

可笑しいじゃないか。俺は一般市民だぞ?

こういう肩が凝るイベントの参加はセレブの義務だろ。」

ブツブツ文句を言いながらも舞踏会の片隅で皿に乗せられたローストビーフを食べていた。


「そもそも、参加のお誘いがあったのは兄貴だけではないやんすか?

何で、オイラがこんな所に参加しているでやんすか・・・。」

カズマの隣で全てを諦めきったバルカンがいた。


彼も舞踏会用に彼の巨体でも入るオーダーメイドのシックな黒服を身につけていた。

ただし、どこから見ても紳士には見えない風体である。

傍から見ると、招待客というより、カズマのボディーガードにしか見えない。


本当なら舞踏会に参加するのはカズマだけであった。

だが、カズマはどうせ死ぬなら、出来るだけ多くの人を道連れにする、

テロリスト的思考、主義者だったのがバルカンの不幸だった。


他にもカズマの部下であるダグラス、アイザック、レスターも

強制参加させられていた。

ジャスティンだけは強制参加の命令が来る前に狩りに出掛けて、

行方不明となって、舞踏会から逃れていた。


ただ、バルカン以外のメンバーは案外初めての舞踏会を楽しんでいた。

舞踏会が始まるや、

ダグラスは淑女のナンパに忙しかったし、

レスターも美食家で煩いので、

王宮の料理人が腕によりをかけた料理と上等なワインを楽しんでいた。

アイザックに至っては妖艶な美女に変装して、

気の毒な紳士諸君を取っ換え、引っ換えダンスパートナーを代えていた。


ちなみにカズマを舞踏会に参加させて張本人であるラファエル新国王は媚びへつらう貴族の相手に忙しそうにしていた。

そんな中年親父達に囲まれた中で食べる料理には愛情エキスならぬ、

中年エキスがタップリ混入してそうで非常に不味そうだ。

ガンドロフ将軍もラファエルの補佐に回り、中年エキス製造機達の相手をしていた。


そんななかでルーク騎士団長のみは男の夢を叶えていた。

ルークはシャナ王国で最も人気のある騎士団長である。

優美な顔、品のある態度、剣の腕前、新国王からの厚い信頼など

どれを取ってもハイスペックな彼はこの世界に魔王が現れたら、勇者になるタイプだろう。

そんな白馬に跨った王子様として相応しい優良物件である彼には

貴族の淑女達によって、親衛隊が結成されていた。

そんな親衛隊の淑女に取り囲まれ、ハーレムを十重二十重に形成していた。


それにしても、買い手がたくさん付いているルークに比べて、

買い手のつかない超不良物件のダグラスの哀れな姿は際立っている。


麻布に建てられた新築の豪邸と

過疎化に悩む地方に建てられた木造の築30年の物件並みの違いである。

ことごとく淑女達に振られ、一人寂しく踊っている姿は涙を誘うモノがある。


そんなダグラスを眺めて、料理を食べるだけの無駄な時間を過ごしている

カズマを見つけて、近づいてくる妙齢の淑女がいた。




「お初に御目にかかります。カズマ殿ですね?

レヴァン・ヴァレンティナと申します。」


いきなり妙齢な美女から優雅にお辞儀されたカズマは面喰っていた。


「え〜と、レヴァン・・・?」


「はい、レヴァン家は私の兄が継いでおり、王家より侯爵の地位を賜っていますのよ?」


悪戯っぽく、微笑んだ姿は異性を蕩かせる艶姿だ。

品の良い紫のパーティードレスに身を包んでいるが、

彼女の豊満なスタイルのせいか、非常に官能的な印象を与える。

大胆にカットされた胸元には人類最後の秘境ともいうべき、

二つの巨大な山が見えている。


また、深いスリットから覗く太ももが更に彼女の美しさに相乗効果を生んでいた。

周りの紳士達も彼女に熱視線を送りながら、

喉をゴクリッと音を立てている姿がそこらで見られた。

そんな男の性を迂闊にも連れている淑女達に見られた紳士達は

足を踏まれ、抓られることになった。


そんな周りの紳士達のことを気にすることなく、

ヴァレンティナ嬢は己の目的を果たすべく行動を起こしていた。


「カズマ殿は素晴らしい智謀の持ち主だとか?私、頭の良い人には弱くて。」


そう言うや、カズマの腕を取ると女性の象徴を押し付けた。

カズマの腕の形に押し潰された胸は「フニョンッ」と音を立ててそうである。


「まさか、ヴァレンティナ嬢の新しい相手はあの風采の上がらない男なのか!」


「誰だ、あの男は?」


「あれはもしかして、噂の賢者か!」


「副官に無理矢理セシリア嬢を任命したという下等か・・・・!」


「おのれ〜!セシリア嬢に飽き足らず、ヴァレンティナ嬢まで!」


どうやら、噂に尾ひれに背びれ、しりびれ、胸びれ、腹びれまでもが

付きまくっているらしく、

段々とカズマを見つめる視線の中に殺意が混じり始めている。


「今夜、空いているかしら?良かったら私の屋敷で一緒に飲みなおさない?」


事態についていけないカズマの耳元に口を寄せると囁くように呟いた。


「貴様!!コロス!」


「ゼノン神様!どうぞ、お許し下さい!私はこれより人を手に掛けねばなりません!」


「おいっ、至急刺客を集めろ!これ以上奴の毒牙にかかる女性を守らねば!」


「今夜中に襲撃するぞ!」


しかし、囁くように呟いた言葉は紳士諸君の地獄イアーに全て聞こえたらしい。

カズマを中心とする輪を中心に殺意が急速に膨れ上がっていった。


このままだと、カズマの命は今夜までらしいと誰もが思った時、

声にならない(どよ)めきが入口付近にいた参加者から発せられた。


どうやら何者かが歩くたびに群衆から(どよ)めきが起こっているらしい。

そんな何者かの歩行に合わせて、

会場の入口から徐々に(どよ)めきがカズマ達へ近付いてきた。


それに気付いたバルカンがそちらを見て、

口を大きく、(あご)が外れるぐらいまで開けて停止していた。

何を見ているのかと気になって、振り返ったカズマも同じく石の彫像と化した。


その彼らの視線の先にはカズマの副官が歩いていた。

メドゥサの様に目だけではなく、

セシリアを構成する全てのパーツのどれかを目にした人々も石にしていった。


慎ましくも胸元が多少開いた白いドレスに身を包んだセシリアは

幻想的な美しさを演出していた。


普段、女性用の軍服を身につけている姿に見慣れているカズマには

初めて見る女性らしい装いは想像以上に破壊力があった。

特に胸元から少しだけ見える二個の白い白桃は理性という機能を

極悪なコンピューターウィルスの如く破壊し尽くした。


そんなセシリアは呆然としているカズマの前で立ち止まった。


「あら、ティナじゃない?」


カズマと腕を組んでいるヴァレンティナを見て、優雅に微笑んだ。


しかし、その笑みからは先ほどの群衆の殺意とは比べ物にならない殺意が発せられていた。


「久しぶりね?セシー?」


こちらもセシリアに負けず劣らず、華やかに挨拶をする。


だが、美女二人の華やかな挨拶のはずなのに、

互いに宣戦布告をしているように聞こえてくる


「そうね。ところで、ごめんなさい。カズマは今夜、私といる予定なの。

それでは行きましょう、カズマ?」


素早くカズマの腕と組んでいたヴァレンティナの腕を外し、そこにセシリアが納まるや、

カズマの腕を引っ張り、出口に向かっていく。


「ちょっと、待ちなさい!」


慌てて追おうとするヴァレンティナ嬢に・・・


「ダグラス?ティナの相手をして貰ってもいいかしら?」


一人寂しく踊っていたダグラスにセシリアが声をかけるや・・。

風のようにヴァレンティナの前に現れた。


「お嬢さん、私がご相手を務めましょう?」


よっぽど、異性と踊りたかったのか、

嬉しそうに彼女の手を取り、ダンス会場に連れていこうとする。


「ちょっと離しなさい!無礼者!」


カズマの耳元にはその声と同時にダグラスの悲鳴(若干、嬉しい響きが混じっている)と

何かを巻き込んで倒れる音が聞こえたが、

その頃にはカズマとセシリアは舞踏会を出て行くところだった為、

群衆に隠れて見えなかった。


その二人の姿を追いかける者もおらず、

この夜に二人の姿を見た招待客はいなかった。


これで23話目となります。

今回の話はやっぱり、中世とくれば王道の舞踏会のシーンは外せない!という思いで書き上げました。

ヴァレンティナ嬢については構想段階では初期からいたのですが、出す機会が無く・・・。ここまでズルズルと出番が遅れました。

やっと、彼女が登場するのに相応しい舞台が整い、登場することになりました。


次回ではカズマとセシリアが舞踏会から抜け出した、その後の話となります。


感想、誤字、脱字 お待ちしております。

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