外伝 お仕置き君
外伝につきましては本編を読んでから読むことを推奨します。
特に読まなくても本編に差し障りはありません。
カズマは現在の日本から異世界へ渡った稀有な人間だ。
しかし、その事実を知っているのは、ラファエル王と側近だけである。
その為、それ以外の人からはただ平民出身と周りの人間には知らされていた。
だが、仮にもラファエル王の側近である。
大きい屋敷を持つのは貴族のステータスになっていたので、
カズマにも屋敷を支給する話もあったが、
本人が貧乏気質の所為か嫌がった為、
城の一室がカズマの部屋として割り当てられた。
ここでも、カズマの貧乏気質が如実に表れた。
最初は国賓待遇で最上級のロイヤルスイートな一室であった。
一泊するのに何百万、何千万とかかる部屋なのは間違いなかった。
天蓋付きのフカフカベッドに必要以上に広い部屋に、
「どんな所でも、例えトイレだろうが、戦場だろうが眠れる。」
と豪語するカズマでも、何だか肩が凝る造りに圧倒され、
即日、部屋替えをラファエルに頼み込んだ。
その次に割り当てられたのが数段劣る下級貴族などが泊まる客室であった。
この部屋には満足したカズマはここを拠点に生活をしていた。
そんな部屋に夜遅く、カズマの個性的な部下達が顔を揃えていた。
力自慢のバルカン、ナンパ師ダグラス、変装の達人アイザック、
中世の狙撃手ジャスティン、マッドサイエンティスト レスターの
カズマが大陸に誇る5人衆がいた。
「それで、俺達をこんな時間に呼んだ理由は何でやんすか?」
「俺、明日はデートだから早く寝たいんだけど。」
「私は踊り子のバイトがあるので早くして下さい。」
「・・・明日は狩りに出かけたい。」
「ヒッヒッヒッ、作りたいものが溜まっているのだがね?」
それぞれ、明日の予定に思いを馳せていた5人は不平タラタラに集まっていた。
そんな5人を集めたカズマは全員が揃った事を確認すると
部屋の中を歩き回っていた足を止めた。
「君達を呼んだのは他でもない。
シャナ王国存亡に関わる事が起きるからだ。」
ロウソクの火がユラユラ揺れながら、カズマの顔を映し出している。
いつになく、カズマがシリアスな顔なのが、珍しい。
それが、セントレイズ帝国が攻めてきたのか、
バーネット皇国が同盟を破棄したのか、
まさしく史上最大の危機が訪れた事を連想させる程、珍しく深刻な表情である。
「まさか、セントレイズ帝国の奴らが攻めて来たんでやんすか?」
「いや、それよりも更に、憂慮すべき事態だ。」
そう、言葉を区切ると。
「毎朝、悪魔による、不当な弾圧が行われている。
ランパール城の一室に拉致をするやいなや、問答無用の不当な労働を押し付け、
少しでも休もうものなら、
対サボリ上司お仕置道具と称する悪魔の兵器による容赦ない弾圧!
このような、人権侵害が行われていいものだろうか?
断じて否!我々は要求すべきだ!
朝寝、昼寝、夜寝の三大欲求を満たす社会を!」
まるで、第二次世界大戦のドイツ総帥閣下が乗り移ったかのように、
熱弁を手振り交え、演説を行うカズマの顔は新興宗教に騙されている一般信者のよう。
「悪魔・・・。セシリア嬢が聞いたら、殺されますぜ?」
「その三大欲求を満たす社会はシャナ王国終焉の時のような・・・。」
「ヒッヒッヒッ、ちなみに対サボリ上司お仕置道具を作ったのは私ですが。」
ある程度の事態を把握した部下達は思い思いに呆れた言葉を吐いていた。
「愚か者!このままでは、私が過労死するのは間違いない!
そうなれば、シャナ王国はセントレイズ帝国に滅ぼされるに違いない!」
「その自信はどこからでやんすか・・・。」
「というかだな!お前かセシリアに変な道具を渡していたのは!
見ろ、この背中のミミズ腫れの数々を!
ムチの先端に鉄の重りを着けやがって!
細かいコントロールが効く上に、鉄で威力倍増じゃねぇか!」
レスターの白衣の襟首を掴むやいなや「ガクガク」と前後に強烈なシェイクを加える。
「ヒッヒッヒョエー!止めてくれ〜!俺が悪かった〜。
研究資金が欲しいからアルバイト感覚でセシリアの依頼を引き受けただけだぁ〜!」
人々を恐怖のどん底に叩き落とすマッドサイエンティストがカズマによって恐怖に歪んだ顔は断末魔の瞬間に立ち会った人間の素敵な顔であった。
しばらくすると、カズマの気が済んだのか持っていた襟首を離した。
解放されたレスターはまるで壊れたリカちゃん人形のように倒れ伏した。
そんなレスターが回復するのを用意していたバケツの水をぶっかけて無理矢理叩き起すと、第二次世界大戦中の日本の警察よりも更なる取り調べ(拷問)がカズマにより行われた。
「まだ、作った物はあるか?」
「えーと。対サボリ上司お仕置道具5号までなら完成していますが・・・。
明日までに納品する約束になっていました。」
トレードサウンドだったレスターの笑声もすっかり鳴りを潜めている。
レスターは素直に持参したカバンの中から物騒な武器がゴロゴロ取り出した。
「お前な・・・。この弩は何だよ?」
「それは状況に応じて色んな攻撃を楽しめる夢の武器だ。
対サボリ上司お仕置道具2号君だ。
色んな矢を使い分けて、ゴム弾に炸裂弾、ペイント弾など豊富なバリエーションで
遠距離からお仕置出来る優れものだ。」
嬉々として説明するレスターに頭を抱えたくなった。
「この、革袋と中に入っている赤い液体は何だ?」
「中には、とりあえず辛い食べ物全てを混ぜた特製催涙弾だ。
寝ている上司に投げつければ、一発で起きる優れたお仕置道具だ。
対サボリ上司お仕置道具3号君と名付けてみた。」
「起きるどころか、涙と鼻水で仕事出来ないだろ!」
思わず、レスターに投げつけたが、
手元が滑って、ダグラスの顔に当たった。
声にならない悲鳴を上げて、転がりまわっていたが、
しばらくすると、赤目をむいて、悶絶していた。
どうやら、あまりの辛さに体が認識するのを拒否して気絶を選んだようだ。
「あまり辛いのも問題のようですね。貴重な実験データが得られて良かったです。
更なる改良が必要ですな。」
「しなくて良いわ!」
思わず怒鳴った。
気づくのが遅れていたら俺が喰らっていたかと思うと戦慄すら覚える。
「次にこの粉は何だ?」
「それは対サボリ上司お仕置道具4号君です。
発想の逆転をしてみた、素晴らしいお仕置道具です。」
胸を張って誇るレスターを見て、言いようのない不安が押し寄せる・・・。
何故だか、本能寺で休んでいた織田信長のような気分になるのは気のせいか?
「結局、どう使うんだ?」
「飲ませるだけです。後は耳元で言葉を囁くだけでその言葉通りに行動します。
これで勤勉な上司に早変わり!副作用として、綺麗なお花畑が見えたり、
とても気持ち良い気分になれますが、しばらくすると4号君がまた、飲みたくなります!
そんな些細な問題もありますが、
勤勉な上司に生まれ変わるのですから致し方ないでしょう!」
とりあえず、その得意満面の顔に2号君(ゴム弾装填済み)を向けると、
連続発射でノックアウトしといた。
「・・・にゃにをしゅるのでしゅか?」
強制整形手術を施した顔に慣れていないのか上手く喋れないようだ。
「お前を生かしとくと全人類に不幸が訪れるからな。処刑をする事決定した。」
「お、お待ち下さい!今度こそは自信作です!
対サボリ上司お仕置道具5号君を見て下さい!」
俺のズボンに縋りついてくるのが鬱陶しいので最後の自信作とやらを見ることにした。
レスターはカバンに入っていた最後の道具を二つ取り出した。
それは木の棒の先に金属の四角い物体を付けている奇妙な道具であった。
そのうちの一つを手で強く握りしめながら、最後の問いかけをする。
「で5号君とやらだが、殴って起こすと言ったら、
お前で起きるかどうか今スグ試すからな。」
「違います!この対サボリ上司お仕置道具5号君は使い捨てです。
先の金属の箱の中には、私が発明した特製の火薬を詰めています。
サボっている上司にこれで殴れば、強烈な爆発で叩き起す新兵器です!」
その言葉を聞くと同時に5号君を握り絞めた右手を大きく振りかぶったが、
手榴弾のように近くの俺まで爆発に巻き込まれたら嫌なので、
試しに一つ窓の外に落としてみた。
落して数秒後に、強烈な閃光と爆発が暗い闇を明るくした。
その爆風は局地的に激しい突風を辺りに巻き起こし、窓ガラスを軒並み破壊していった。
警備兵と近衛兵が慌てふためいているのが、風に乗って聞こえる狼狽した声で分かった。
間違っても、断じて人を起こす道具ではない。
「さて、レスター君。
絞殺、銃殺、圧殺、斬殺、刺殺、爆殺、毒殺、殴殺、屠殺、撲殺、扼殺、虐殺、吊るし首、八つ裂き、轢き殺し、焼き殺し、引き回し、打ち首、焙り殺し、噛み殺し、鉄の処女、水死、磔、逆さ磔、ギロチン、電気椅子、スペイン長靴、五寸釘、ユダのゆりかご、猫鞭、三角木馬、リッサの鉄棺、火頂、猫の爪、ラック、ガロット
などの選択権が君にはあるが、どれがいい?」
バルカンに命じて、椅子に縛り付けたレスターを前に
古今東西の処刑、拷問の道具を声に出して挙げてみた。
「待って!待って下さい!ほんのお茶目な発明です!
決して、面白がって作っていません!
特にカズマの苦しんでいる姿が面白かったなどとは思っていません!」
足をバタバタさせながら、
アメリカ大陸がすっぽり埋まる墓穴を掘りまくるレスターを冷たい眼で眺めながら
「そうか、サボリ上司パワハラ風地獄特盛フルコースセットを望むか・・・。
それも良かろう。」
「嫌じゃ〜!自分が痛いのは嫌じゃ〜!
痛くしていいのはモルモットだけだと法律で決まっているんだぞ!?」
そう叫んで暴れる音に安らかな眠りについていた
ダグラスが3号君のダメージから遂に起きた。
「ダグラスまだ生きていたか?」
「う〜ぅ、辛い・・・。」
そういって、水を探しているのか倒れたまま、
手だけをテーブルの上に伸ばしてレスターを叩き起こすのに使った、
水がまだ入っているバケツを探しているようである。
ただ、非常に残念ながら彼の手の先には5号君スペアが置いてあった・・・。
ダグラスの手に当たった5号君はテーブルを
6人が見ている前でスローモーションのように転げ落ち・・・・。
強烈な閃光と爆発を部屋に撒き散らした。
・・・・・・・・次の日。
セシリアがドアを開けると、カズマやバルカンなど6人が倒れ込んでいた。
全員、妙に煤けている。
部屋にいたっては象が少々過激なフラメンコダンスをしたかのような有様となっていた。
とりあえず、部屋の掃除をメイドに言いつけると、
「さぁ、よく休めましたね。
今日も仕事がたくさん溜まっていますよ。」
何事もなかったかのように
不肖の上司であるカズマの襟首を慣れた手付きで掴むと仕事室に連行していった。
その日、仕事が終わる頃には、
カズマの背中にはミミズ腫れの他に、
丸いゴムの形をした痣、赤く腫れあがった皮膚、火傷の傷が増えていたという。
外伝2つ目です。
まぁ、勢いだけで書いた外伝ですなぁ。
物語関係ない話だとなんでこんなに筆が進むのかしら・・・。
え〜〜それで、残念ながら書き貯めていたストックが少なくなってきましたので、次回は17日に更新したいなぁと思います。どうも、スミマセンが宜しくお願い致します。
感想、誤字、脱字 など幅広く募集中〜。