第二章 21話 決戦の後始末
ケイフォードを倒してから一週間が経過していた。
その間、我ら無能貴族尻拭い部隊(王兄派幹部達)は戦後処理に勤しんだり、初代王の資料漁りに奔走したりと不本意に忙しい毎日だ。
戦死した兵の遺族へお金を渡し、
戦闘で壊れた箇所の修理の指示などサービス残業をこなす日々に涙しながら過ぎて行った。
特に俺は国王特別参謀補佐官 (雑用係?) として、容赦なく働かされた。
書類の書き方を間違えるごとにセシリア特製お仕置が待っているという
獅子は千尋の谷へ我が子を何度も突き落とす方式で仕事を行わされた。
おかげで、戦闘での傷(馬に揺られて出来た擦れ傷に痛む股)よりも
書類仕事での生傷のほうが多い生活だし。
そんな生活に俺は労働基準法を早急に作る事を
ラファエルに進言しようと固く心に誓っていた。
ともあれ、戦後処理も一息つき、セシリア副官に開放されて、
当初の目的だった初代王、源義経について調べていた。
「だぁ〜!何だよ、どの資料も異世界から戻れることについては
書いていないじゃんか〜。どれも、義経を称える資料ばかりだし・・・。」
城のすぐ近くに作られた王立図書館で調べてみたが、
出てくるのは、初代王を称える内容の本か政策についての本ばかり。
異世界の「い」の文字すらない。
しかも、この異世界ではファンタジーの世界なのに魔法なんてものはない。
当然、異世界送還とかの便利な魔法なんてない・・・。
内乱が終わったら、即行で帰る計画は
無駄な公共工事が住民からの反対で工事再開の目途すら立っていないような有様だ・・・・。
考えてみれば、義経の墓がこの世界にあるぐらいだから、
地球に帰る事は出来なかったのか、
帰る方法は知っていたけど、兄と仲が悪くて、帰る気がなかったのかのどちらかだが・・・。
どうやら前者の可能性が高そうだな。
しかも、こちらの世界と地球では流れる時間が違うらしいことも問題だ。
本当なら、800年程時がズレているはずなのに、
たった100年しかズレていないのだ。
地球では俺がいなくなってから24年経っている可能性すらある。
まぁ、異世界と地球では流れる時間が一定という保証もないので、
逆に一週間程度しか経っていない可能性もあるが。
ただ、言えるのはこちらの世界で時間が流れれば流れる程、
ズレる時間が増えるのが頭の痛い問題だ。
現代版、浦島太郎になるのは勘弁したい。
どうしたもんかと悩む俺に
「そっちはありましたか?」
副官としての立場と言いながら、手伝ってくれているセシリアが近寄って来た。
「いや、全く。」
手をパタパタさせながら成果を伝える。
「そうですか。まぁ仕事はたくさんありますし、元の世界に帰るまでたくさん出来ますね。」
そういって、ニッコリ笑う姿は凄く魅力的なのだが・・・。
俺は地球に戻る前に非業の死(過労死)を遂げるのではなかろうか?
それにしてもケイフォードを倒した翌日から、
セシリアが俺に対する態度が優しくなったような?
心なしか、お仕置が優しくなった気もする。
いや、そんな非ノーマルの世界に目覚めたわけではないぞ?
「そうそう、陛下が呼んでいましたよ。」
無事、王として君臨する事になったラファエルは王の執務室で、
一週間休みなしに、お祝いに駆けつける貴族(私は無罪ですよと訴える貴族)の
謁見で忙しいはずだが?
「どうやら、第二王子派の軍事部門と内政部門それぞれの責任者の
処遇についてらしいです。」
セシリアに言われて、思い出した。
内政部門の責任者グローブ財務卿は王都の自分の屋敷にいた所を捕らえられた。
処遇についてはフローレンス将軍が王都に着いてから考えようと言う事で、
とりあえず屋敷で謹慎中らしい。
一方の軍事部門の責任者フローレンス将軍はローランド要塞でギルダースと戦っていた。
ローランド要塞ではギルダース対フローレンスとの熾烈な戦いが行われていたらしいが、
さすがに百戦錬磨のフローレンス将軍が守る要塞を攻め落とすことは出来ず、
ギルダースは無念にも撤退していったらしい。
それと同時に王の使者がローランド要塞に到着していた。
「王都へフローレンス将軍を召喚する」というラファエルの指令を使者が一言一句違わずにフローレンス将軍に伝え、ケイフォードの敗戦と死亡も知らせた。
噂ではフローレンス将軍を慕っている部下達は彼に亡命することを勧めていたらしい。
軍事部門の責任者として、ラファエルと対立していたフローレンス将軍は良くて死刑、
悪くて、一族皆殺しと断罪されても文句が言えない身の上では亡命を勧めたくなるだろう。
だがフローレンス将軍は彼らの意見を退けると、鎧を脱ぎ囚人服に身を包み
罪人が入る檻の馬車に入って少数の兵とともに王都に向かったようだ。
彼にとって、もはや作戦が失敗した以上は責任者である自分の首と引き換えに、
5万人の部下の命乞いをするつもりなのは聞いた人柄からでも明らかだろうね。
その彼がついに王都到着まで、数時間と迫る位置まで来たので、
対処すべく俺を呼び出したと思われる。
「あぁ、成程ね。分かった、すぐ行くよ。」
イスから立ち上がって、大きく伸びをすると、
集めた資料を戻すように図書館員に伝えると、王の執務室へ向かった。
セシリアと連れだって、執務室に到着すると、ガンドロフ、ルークは先に来ていた。
「やぁ、カズマ!お疲れ様。」
ウンザリするほどの腐れ貴族共に謁見したラファエルはやつれていた。
俺だったら、そんな面倒臭い事は放置して、国外逃亡する事を考えるけどな。
「それで、グローブ財務卿とフローレンス将軍のこと何だけど。
ケイフォードの遺言通り、取り立てたいのだけど・・・。」
上目使いで俺に頼み込んだ。
何度も思ったが、ラファエルは狙ってやっているのだろうか?
時々、一部の腐った女子が喜びそうな、仕草をやるのは止めて欲しいと切に思う。
「良いんじゃない?優秀な人達らしいし。それでどのくらいの地位で取り立てる?」
「とりあえず、ケイフォードが与えたのと同じ地位に据えようかと思うけど?」
反対されると思っていたのか、安心した様子で話している。
そんなに情に流されない性格に思えたのだろうか?
むしろ、かなり情に脆いことに自信はあるのに。
ダンボールに入った子犬がいたら、
迷わず拾って、犬を飼いたい人に売り飛ばすぐらい情け深いくらいだぞ?
「今までの地位に取り立てるのは反対だね。」
「えっ?駄目ですか・・・。」
反対されるとは思わなかったのだろう。
見る間に悄然と萎れた。
相も変わらず、ポーカーフェイスの出来ない王だ。
それにしても、まだ最後まで言ってないのだが。
小学校の先生に言われなかったのだろうか「坊主、人の話は最後まで聞け」と。
いや、この世界に小学校はないか。
「今の地位から更に引き上げるべきだね。グローブ財務卿は宰相に。
フローレンス将軍は近衛軍司令官に任命したほうがいいと思うね。」
「カズマ殿、それはどうしてですか?」
興味を惹かれたのか、それまで黙っていたルークが声を掛けた。
「まず、2点ある。それだけの地位でも務まる能力があるのが、まず1点。
2点目は国内の優秀な人材を集める布石だね。」
俺は指を一本ずつ立てて、理由を説明した。
「1点目は解ります。私も彼らのことは良く知っています。
両者ともに優秀な人材であることは衆目一致ですからね。
ですが、2点目については?」
「優秀な人材に宣伝する良いキッカケになると思う。
新国王は優秀な人材を身分に囚われずに取り立てるという噂が全土に広がればしめたもの。
国という巨大な組織を運営するのに、優秀な人材はいくらいても足りないからね。
特にシャナ王国にはね。」
そもそも、俺達が忙しく仕事をする事になったのは
能無し貴族が幅を利かせている所為だった。
100年で建国の理念を忘れ、シャナ王国は徐々に腐ったらしい。
出世するのに賄賂は当たり前、財政は無駄使いと使い込みの二重奏に加え、
度重なるセントレイズ帝国との戦で財政は火なんて生温い紅焔の車であった。
そんな中で多少なりとも財政を好転させているグローブ財務卿の手腕は
さすが、ケイフォードに見込まれただけの事はある。
一方のフローレンス将軍は大軍を効率的に動かす統率力の手腕は
近衛軍司令官として相応しい。
「成程、確かに。一石二鳥ですな。」
納得すると、ルークはあっさり引き下がった。
ガンドロフ将軍も特に意見はないらしい。
・・・・これがラファエルの恐ろしさを感じる瞬間だ。
皇子時代に貴族達からは惰弱な皇子として揶揄されていたらしいが、
俺から言わせれば、ある意味恐ろしいほど君主向きの皇子である。
それも英君の類である。
確かに戦場で先頭に立って戦う事も、議論で相手を言い負かすことも出来ない。
だが、ラファエルの人を見る目は勿論、人を使いこなす能力については段違いである。
彼の能力を一言で言えば、適材適所のたった四文字だ。
しかし、トップに君臨している人物が必要とする能力にこれ以上のモノはない。
本来であれば、主君の若い時から配下として付き従った子飼いの家臣は
自分よりも上位に新参者が職に就くのを嫌う傾向がある。
「俺のほうがお前よりも昔から仕えていたのに」と不満に思うからだ。
そんな一般人が抱く不満をルーク、ガンドロフ将軍は自分の事よりも主君の事を考える忠義に厚い人柄がそんな考えを一瞬でも脳裏には出て来ない。
そんな忠義に厚くて優秀な人材がどれ程いるだろう?
そんな人物を二人も付き従わせているラファエルの恐ろしさが良く分かる。
「そうだね。じゃ、カズマの案でいこうか。」
俺がそんな事を思っているとは本人は露知らずに能天気に処遇を決めた。
こうして、二人の処遇はあっさりと決まった。
後の歴史家が言うには、ここからシャナ王国はかつてない発展を遂げる
礎を築くことになったらしい。
さすがに毎日の更新は厳しそうです・・・。
出来るだけ、3日に一度の更新を目標にしていきたいなぁと妄想しています。
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