外伝 舞台裏
第二王子派総大将ケイフォードを打ち取ったが、ラファエルは沈んだ気持ちでいた。
だが、そんな総大将とは関係なく一般兵は浮かれていた。
捕虜の監視や警備などで最低人数の兵士はまた働いていたが、
それ以外の兵士は酒を飲んで喜び合っていた。
生きていられた事やこれから配られる褒美について早くも皮算用しながら、
夜を徹して、宴会を行い、酒を飲みまくっていた。
ラファエルも特に止めはせず、「疲れたから、先に休みます。」と言い寝てしまった。
王都の住人も騒ぎを知ってはいたが、どうやら王太子派が勝ち、お祭り騒ぎを始めると、
そこは抜け目のない商人などが、商売を行い始めた。
商売熱心な酒場の店主も店を再び開けるなどお祭り騒ぎに火を注ぎながら
騒ぎはいつしか王都全体に広がっていった。
そんな、お祭り状態の王都でセシリアはカズマを探していた。
ケイフォードを打ち取った後も捕虜の扱いなどで、一般兵のように騒ぐことも出来ずに、
王太子派の幹部は忙しく働いていた。
セシリアも夢中で働いていたが、途中でカズマがいない事に気づいた。
どうせ、サボっているのだろうと城の中を探しまわっていたのである。
そして、城の3階奥の部屋の使われていない客室にカズマの右腕として、
付き従っていたバルカンが部屋の前で仁王立ちしていた。
「今晩はバルカン。カズマを探しているのだけど、この部屋かしら?」
「あぁ、カズマならこの部屋でやんす。」
「そう、じゃ中に入るわね。」
寝ているなら、叩き起こして、大量の仕事をやらせようと思いながら、
ドアノブに手を掛けようとしたが、バルカンが退かない事に気づいた。
「ちょっと、カズマに用があるから、そこを退いて下さる?」
「スマンが今日だけは勘弁してくれないでやんすか?」
すまなそうな顔をしているが、動く気はないようだ。
「どうしてなの?」
いつもは黙って、カズマを見捨てるバルカンの態度に疑問が湧いた。
「男には人には見せたくない表情があるでやんす。兄貴にとって、今がその時でやんす。」
部屋の前に仁王立ちして、何者も通さないと体で表現していた。
ここ何週間かの付き合いで、強面の顔からちょっとした表情を
読み取る事が出来るようになったセシリアは
その表情の中に優しい顔をしている事に気づいた。
そして、部屋からすすり泣くような声が聞こえることに気づいた。
「カズマは泣いているの?」
「・・・あぁ、兄貴は人が死ぬと必ず泣いてくれるでやんす。
特に兄貴の策で死んだ人が出た場合は特にでやんす。」
「何でそんな事で泣くの?身近な人が亡くなったわけではないのに?」
聞き様によっては冷酷な言葉に聞こえる言葉である。
だが、これがこの時代での全ての人の考え方である。
この時代、医療レベルは気休めに近いだろう。
ちょっとした風邪で今まで元気だった人が亡くなる世界である。
人々にとって、死とは身近な存在であった。
身内や親しい人の死は悲しむが、周りの人間まではそこまで悲しまないのである。
それゆえ、セシリアが冷酷な人物と言うわけではない。
この世界ではそれが常識なのだ。
そんな、この世界の常識的な疑問にバルカンは答えた。
「聞いた話によると、兄貴のいた世界では
若くして死ぬ人は、ほとんどいない世界らしいでやんす。
だから、この世界に来て、ちょっとした事で人が死ぬ事に驚いていたでやんす。
それに兄貴は普段、憎まれ口を叩いていますが、あれは表面的な部分でやんす。
本当は誰よりも優しい人でやんす。」
彼のような、腕力が物を言う世界で生きていた人なら、
軟弱者と思うだろうに優しい人という評価には驚いた。
私自身、普段の憎まれ口を叩いているカズマを思い浮かべると信じる事は出来なかった。
「信じられないでやんすか?オレっちも信じられなかったでやんす。
・・・・あの降伏した晩まで。」
目を閉じながら、バルカンは語り出した。
「俺達が兄貴の罠に引っ掛かった時、何人か山賊仲間は死んだでやんすよ。
穴の落ち方が悪かったのか首の骨を折ってでやんす。
たしかに村人を襲った山賊だから殺されても文句は言えないでやんす。
でも、そういった理屈なんてどうでも良いでやんす。
ただ、仇を取ってやるという思いしかなかったでやんす。
だから、降伏したフリをして、仲間の仇を取ろうと、
降伏した晩、隙を見て兄貴を殺そうとしたでやんす。」
淡々と話す姿を見てみると、私を信じさせる為の作り話ではないことがよく分かった。
「でも、兄貴の部屋の前まで来た時、聞こえたでやんす。
俺の死んだ仲間に対して「すまない」と泣きながら、謝っている声が聞こえたでやんす。
何て、甘い奴だろうと思ったでやんす。
普通、山賊に罠を掛けた奴が死んだ山賊達に泣くでやんすか?
でも、そう思ったけど、部屋に踏み込むことは出来なかったでやんす。
甘い人だけど、俺にとって、一生を預けるに相応しい人だと感じたでやんす。
そして、決めたでやんす。何があっても兄貴を守ると誓ったでやんす。
それ以来、おいらは兄貴の傍らで守っているでやんすよ。」
思い出話を話し終えたが、身動かなかった。
おそらく目を瞑ったまま、あの日の誓いを思い出しているのだろう。
「セシリアは兄貴を甘くて弱い人間だと思うでやんすか?」
そう言って、試すように私を見た。
以前の私なら迷わず、軟弱者とバッサリ切り捨てていたかもしれない。
だが、不思議とそんな思いは抱かなかった。何だか愛おしい思いすらする。
私の好きなタイプの男性は誰にも負けない剣士で、家柄の良い男性だったはずなのに。
最も嫌いな部類に入るはずの剣の腕はサッパリで
憎まれ口を叩くカズマにこんな思いを抱くなんて・・・。
夜中で良かったと思う。こんな暗闇でなければ、赤い顔を見られていたかもしれないから。
それから、夜が更けて、朝日が昇るまで、
2人はカズマの部屋の前で静かに立ち尽くしていた。
カズマの泣き声をBGMに・・・。
今回は外伝という形でお届けいたしました〜。
カズマとセシリア・・・。
本当に世話が焼ける二人です。
まぁ、まだまだ結ばれませんけどね〜。
それと、バルカンのちょっとした裏話も盛り込んでみました。
ドラゴンク●ストみたいにあっさり生死を共にする仲間になるわけないよな〜という考えで入れた設定です。
次回では新敵キャラを出す予定です。
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可能な限り、返事は致します〜。