第一章 17話 1勝?99勝?価値があるのは・・・?
ランパール城が王太子派に侵入を許す直前、
ケイフォードは王の執務室で仕事をしていた。
シャナ王国は建国当時、有能な臣下が綺羅星の如く揃っていた。
しかし、時代を重ねるにしたがって、貴族が堕落するのは歴史の必然と言える。
彼が王都を治める頃には有能な臣下を探すのは
広い海に投げ込んだ指輪を探す程難しい時代になっていた。
その為、彼の臣下で仕事を任せられるのは現在の所、
フローレンス将軍とグローブ財務卿しかいなかった。
そのうち、フローレンス将軍は近衛軍などを率いて、
王太子派を叩くべく王都を留守にしていた。
残っているのはグローブ財務卿しかいない。
そのグローブ財務卿も無能な貴族の尻拭いをするのに多忙である。
必然的に、ケイフォードの仕事量も終わりが見えない程、山積みになっていた。
ラファエル軍が奇襲を行った夜も、いつもの如く執務室で仕事をこなしていた。
「やれやれ、この国には無能な貴族しかいないのか。一刻も早く、優秀な人材を揃えねば。
セントレイズ帝国を倒すのに時間がかかるな。」
そんな悩みがこの頃の彼の悩みであった。
「また、横領か・・・。建国から100年に渡る腐敗の積もった量がこれ程とは。
ラファエルにガンドロフ将軍、ルーク騎士団長が味方に付いたのが痛恨だな。
あの二人がこちら側につけば、5年でセントレイズ帝国と国力を並べてみせるのだが。
私の臣下に忠誠と能力で肩を並べる事が出来るのは、
フローレンス将軍、グローブ財務卿しかおらん。」
今でもガンドロフ将軍、ルーク騎士団長が味方になってくれたら
近衛騎士団長などの重要なポストや
侯爵などの中小貴族にとって、垂涎の地位を約束するだろう。
ここら辺、ケイフォードは決して、無能な王子ではない。
有能な人材であれば、取り立てる度量の広さがあった。
もしもカズマがラファエルよりも先にケイフォードに出会っていれば、
宰相の地位をポンッとあげていたかもしれない。
まぁ、本人は国外に亡命する程嫌がるだろうが。
ともあれ、歴史にはifがない。
そんな思いを心に隠し仕事をこなしていくと、にわかに城外が騒がしくなった。
「城外が騒がしいようだが、何事だ?」
「はっ!火事が発生したという情報もありますが、まだ状況が分かりません。」
すぐに、外に控えていた警備兵を呼び出すが、
彼らにも何が起きているのかは分からなかった。
何とも言えない不安が彼を襲ったが、神ならぬ彼に事態を見通す事が出来なかった。
彼がラファエル王太子との戦で犯した唯一の失策は
フローレンス将軍を送り出した事で気を抜き、厳戒体制を取らなかった事だけであった。
彼は城門や見張りの警備兵を増やして、警戒すべきであった。
そして、カズマはこの唯一にして
最大の弱点を見抜き、ラファエルに逆襲の機会を与えたのである。
だが、これをケイフォードに油断があったとして、
非があったと後世の歴史家が唱えているがこれは酷な評価といえる。
何故なら、カズマは近代日本の出身で、なおかつ三国志や戦国時代マニアである。
彼には豊富な古代の戦争の情報があった。
その為、戦術の勝利よりも戦略での勝利の大事さを
数々の歴史で嫌と言うほど知っているからである。
有名な話で古代中国の歴史に凄いのか凄くないのかよく分からない72個の黒子がある伝説の不真面目中年親父と歴代最強のガキ大将の二人が覇を競ったことがある。
ガキ大将は最強無敵、喧嘩上等で、
100戦あれば99戦をKO勝ちする史上最強の番長。
一方の不真面目中年親父は100戦中1勝しか出来ない
万年一回戦負け弱小野球部並みに弱いパシリ君。
数字だけ見れば、ガキ大将の圧勝である。
しかし、歴史書にはガキ大将が天下を統一したという記述は見当たらない。
例えて言うならば、ガキ大将の99勝は学生時代の喧嘩での勝利であって、
唯一の敗戦は人生の後半を刑務所で過ごすような負け人生である。
不真面目中年親父の99敗は学生時代のどうでも良い喧嘩の敗戦で
最後の1勝は人生の後半は起業した会社がドンドン大きくなって、セレブの仲間入り、
たくさんの美女を周りに侍らせてのウハウハの勝ち人生である。
つまり「どうでも良い99勝するより最後の1勝を上げたほうが価値があるよ」
という教訓である。
その為、今回の戦の場合、フローレンス将軍率いる軍勢に勝っても
どうでも良い勝利でしかない。
勝った所でまたケイフォードは兵を募って、再び圧倒的な兵力で戦う事になるだけである。
しかし、ケイフォードを倒せば、
もはや王弟派が立ち直ることが不可能な最終にして最大の勝利である。
つまり、歴史上の戦の数々を本やゲーム、ネットで安易に入手出来る(戦術だけでなく戦略のスケールで)カズマとケイフォードには圧倒的なアドバンテージがあったのである。
しかし、そんな事情を知らない歴史家達はケイフォードを愚物と見るしかなかった。
ともあれ、現在の彼はそんな未来の評価などを知るよしも無く、事態の把握に努めた。
そして、恐るべき情報がついに警備兵から知らされた。
「申し上げます!ラファエル軍が城に攻め入っている模様。
現在、城の警備兵が防戦に努めていますが、城の死守は困難です!
至急、脱出をお願いいたします!」
右手を床に付けて、片膝を立てて座り、臣下の礼を取りながら要点だけを述べた。
「近衛軍はどうした!何故、ラファエルがここにいる!」
「近衛軍は真っ先にラファエル軍に急襲されました!
また、情報が錯綜しており、フローレンス将軍が敗北したとの情報もありますが、詳細は分かりません。
もはや、陛下を守る者は城の警備兵数百人程度です!
ラファエル軍は何万人いるかも分かりません。至急、城を落ち延びて下さい!」
「・・・分かった。落ち延びることとしよう。
捲土重来を図って、必ずや王都に戻って見せよう。」
そういうと、信頼出来る警備兵数名を連れて、城の何でもない客室の一つに彼らは向かった。
実はその客室には代々の王のみに語り継がれた、王族専用の脱出口があった。
普段暖炉として、使用する場所にそれはあった。
暖炉の壁のレンガは取り外しが可能で、緊急時にはその道から、
城外の森に隠してある穴から脱出が可能であった。
だが、彼らが脱出することは結局叶わなかった。
客室のドアを開けてみて、ケイフォードは驚愕した。
彼の腹違いの兄ラファエル、ガンドロフ将軍、ルーク騎士団長、セシリア、
そして、見慣れない黒髪黒目の異国の風貌をした若者が待ち構えていたのである。
17話目をお届けいたしました〜。次回でやっとこさ決着がつく感じです。
ちなみに個人的にはガキ大将のほうが好きですね。
彼は日本だとあまり知られていませんが、三国志最強の武将呂布よりも最強です。50万人の軍勢を3万人で打ち破ったり、(赤壁の戦いでも24万対5万程度です)28騎で数千人の軍勢を追い払ったりとチート級の強さを持っています。惜しむらくは彼は王の器ではなく、あくまでも将軍の器であったことでしょう。と言っても、最強の猛将でしょうが。
もし、三国志の蜀に彼がいたら、蜀が天下を取っていたかも分かりません。まぁ、孔明ちゃんに「反骨の相あり」と言われて処刑されたかも分かりませんがね。
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