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シャナ王国戦記譚  作者: 越前屋
第一章
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第一章 16話 手品ショー

王都ランパールは未曽有(みぞう)の事態に陥っていた。

建国以来一度も敵に城門を破られ、市内に軍隊が雪崩れ込んだ事は無かった。

しかし、この夜は違った。


敵対勢力を足止めすべき城門は何者かによって開け放たれ、敵軍が雪崩れ込んでいった。

普段は警備兵が時折巡回するだけの夜の王都の市内は敵軍の兵士が

引っ切り無しに走り回っている音が辺りに響いていた。


しかし、この軍隊は不思議な事に喚声一つ上げず、静かに行動していた。

また、敵軍であれば、当然行う雑兵による略奪や放火なども行われなかった。


その為、眠りについていた住民もさすがに不穏な物音で気付いてはいたが、

家に入り込む敵兵がいないので、わざわざ危険な外に避難するよりも

家に閉じこもって震えていた。


市内は時折、警備兵と敵軍の兵士による小競り合いの音以外は静かな夜であった。

そして、これにより静かな夜の不穏な気配に気付くことが出来ず、

第二王子派が事態に気づいたのは敵が城の中まで侵入を許した頃であった。


しかし、その頃には王都ランパールを守るべき、近衛軍は無力化されていた。

それどころか、ケイフォード軍の指揮命令伝達機能はとうに失われてしまった。

戦っている者は各々が個人で戦っているに過ぎなかった。


王都には近衛兵、1万人が詰めていたが、深夜という遅い時間帯に加え、

まさか王太子派が攻めて来るはずがないという先入観が彼らを油断させていた。


近衛兵の待機所、詰め所、兵舎などの近衛軍の重要な施設は

勿論、上級指揮官などの有事に命令を出すべき指揮官が休む屋敷も

真っ先に敵軍の兵士に踏み込まれていった。

寝ている者や起きている者も多勢の敵軍の兵士に為す術がなく、捕虜とされた。


この時のケイフォード軍を人間の体で表現すれば、

頭を真っ先に切り落とされ、脳からの命令を伝達すべき神経もズタズタに切り裂かれ、

最後に手足をも切り落とされていくようなものだ。

最後に残って、なおかつ無事に動いているのは心臓だけという有様だった。




そんな王都のランパール城まで一直線に伸びている大通りには

敵軍の兵士が忙しく走り回っていた。

その大通りの中腹(ちゅうふく)には王太子派の幹部が勢揃いしていた。



「城壁にいた警備兵をほとんど捕縛しました。」


「近衛軍第四中隊が降伏しました!」


「ランパール城に大きな抵抗はありません!」


「ケイフォードは現在、居場所が不明!引き続き、捜索中!」


「ランパール城1階は占拠に成功!」


「住民に大きな混乱はありません!」


「近衛軍のうち約8000人は捕虜としました。

また、何人か抵抗した近衛兵がいましたので、斬り伏せました。」


続々と前線から報告が引っ切り無しにラファエルの下に寄せられた。

そして、どの報告も順調である事を裏付けている内容であった。



「ここまで順調にいくとはね・・・。」


「未だに信じられませんな〜。」


「ケイフォードには同情しますよ、彼を敵に回したことをね。」


王太子派の幹部の表情は大がかりな手品を見せられた観客の様であった。

カズマが寝ることも許されずに準備していたのは物資などの移動だけではない。

王都の施設の中で優先すべき、

攻略目標もカズマを中心とした王太子派幹部による軍議で決めていた。


指揮官が休んでいる施設、近衛軍の兵舎、伝令兵、警備兵の詰め所などを

簡単に作った王都のジオラマに優先順位ごとに色違いのピンを立てて、

攻略目標を決めていった。


何も知らない敵対勢力の土地と違って、かつて暮らしていた土地なので、

詳細なジオラマを作ることが出来たのが大きかった。


その中で、ラファエル軍全体に軍規として、一般兵の略奪、放火、関係のない者達の殺害などの禁止や攻略目標以外の施設への攻撃の禁止などの細かい軍規も決定した。


この軍規はこの時代の他のどの軍規よりも遥かに厳しく。

軍規違反の兵士は勿論、直属の上司も死刑を命じられる程の厳しさであった。


これは奇襲による有利な状況が無駄な行動で不利になるのを防ぐ意味合いがあり、

カズマのうろ覚えだった現代の軍隊の軍規も参考にされた。

ちなみにラファエル軍の軍規はこの後もこれを継承していくことになる。


この時代の軍規はとりあえず、

直属の上司の命令に従えや味方同士の喧嘩の禁止などで民に対する軍規はなかった。

雑兵が民からの略奪などをしても国王は戦争に参加した褒美として黙認されていた。

雑兵にとっては戦争とは略奪と同意義であった。


軍紀の乱れが軍の崩壊を意味する事を知っているカズマが強く訴えたこともあるが、

温和な性格のラファエル国王も戦争で民が難儀するのを見てられなかったからでもあった。


今まで、一部の仁義を大切にする将軍が率いる軍勢以外では

初めて、国を挙げての厳しい軍規であった。


この後、シャナ王国軍が不思議と敵国の民衆から嫌われることは無かった。

これによる恩恵は計り知れない恵みをシャナ王国にもたらすことになる。




この壮大な手品を考え出したカズマは眠そうな目を擦りながらあるタイミングを図っていた。

そして、伝令兵のある報告を聞き、時が来たと判断すると


「そんじゃまぁ、仕上げに取り掛かるとしましょうかね。」


今日の史上最大の手品ショーを作り上げた手品師の一言で、


王太子派幹部は終幕に向けて、動き出した。

こうして、ランパール攻防戦は佳境に入った。


お待たせいたしました〜。

これで16話になります〜。

申し訳ありません。実はまだ、手品のタネを全部出し切っていないのですよね〜。

まぁ、手品といっても、大方のタネは明かして、ちょっとしたタネですが・・・。


次回ではケイフォード対ラファエルの最終局面になります。お楽しみに?


誤字脱字感想お待ちしております。


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