第一章 14話 決戦前夜
ラファエル軍、総勢1万人は王都ランパールを目指して、全速力で向かっていた。
兵糧は必要最小限に留め、
武器もある程度の数は王都ランパールの近くまで運びこむ事に成功していた。
その為、身軽な兵士は通常の行軍よりも早く走る事が出来た。
その結果、10日かかる道のりを6日で踏破したのである。
王都ランパール近くの野原に着くと、まず疲れきった兵士を休ませた。
そして、ラファエル軍は奇襲に相応しい夜になるのを待つことにした。
6日間をほとんど馬に揺られながら、乗っていた為、股が赤く擦れて、歩くと酷く痛かった。
「イテテッ。このままだとお尻の皮が剥けるぞ。絶対に俺は二度と馬に乗らん。」
そんな事をブツクサ言いながら、
お尻を摩っている男が稀代の智者として名を馳せる事になるのだが・・・・。
後世の人は今の彼を見て、信じる事が出来るだろうか?
「あなた、一度も馬に乗った事は無かったの?」
優雅に馬を走らせていた、セシリアが呆れた目で見てくる。
「当たり前だ。乗馬なんてハイソな乗り物なんて乗る機会があるか!」
「まぁ、平民では仕方がありませんね。」
それで納得したように頷いていた。
セシリアは俺が異世界から来た事を知ってはいるが、詳しい話をしていないから
俺が平民だと認識しているだけである。
ちなみに、この時代、現代の我々が想像するほど馬は一般的な乗り物ではなかった。
意外な事ではあるが、この時代の平民にとっても、
そこまで身近な乗り物として馬はいないのである。
移動手段は徒歩という原始的な方法であった。
馬を育てるには、多額のお金が掛かるため、平民が所有することはなかった。
せいぜい、行商人が移動用に持っているぐらいである。
軍人になって、馬を乗る例が無いわけではないが、
軍馬に乗るのは、大抵 貴族である。
貴族の場合は下級貴族から上流貴族まで小さい頃から、馬に乗る機会がある。
その為、軍馬は馬の扱いに慣れている者と慣れてない者であれば、
騎兵を育成する手間が省ける前者に軍馬を支給するのが合理的な考え方である。
だから、平民で兵士になる者は歩兵にされるのが通常であった。
俺の場合はそもそも、馬が身近に存在していない。
せいぜい、競馬で見るぐらいである。
今も昔も、乗馬が出来る環境の持ち主はお金持ちと相場は決まっているらしい。
「バルカンがもっと優しく馬を走らせてくれたら良かったのに。」
「無茶を言わないでやんす。全速力の状態では無理でやんす。
しかも兄貴はオイラに掴まっていただけではないやんすか。」
バルカンがあきれ返っていた。
俺が乗馬なんて芸当が出来るはずもなく、俺はバルカンと相乗りでここまで来た。
どうせなら、男よりも女が良かったが、
セシリアに腰を回した場合、途中で蹴落とされて、落馬する可能性は
爆弾を解除するのに赤と青のコードを纏めて切って爆発するぐらいの確率だったので断念した。
そんな、俺がお尻を痛める原因となったのが、俺の提案だったのが恨めしい。
時はローランド要塞の軍議まで遡る。
「討伐軍には俺達以外の軍勢と戦ってもらう。」
「私達以外の軍勢とは?」
「討伐軍とラファエル軍以外の軍勢がこの近辺にいるだろう?」
俺はそういうと、地図が置いてあるテーブルに近付くと、ある一点を指差した。
俺の指差した先を見た、5人は絶句していた。
俺の指差した先には「セントレイズ帝国」という文字があったからである。
「シャナ王国との国境沿いだから、当然、大きな前線基地がセントレイズ帝国にある。
それが此処のセードルフ要塞。城兵は5万人いる。
そして、城主のギルダースは野心家で有名だな?
このローランド要塞を餌にすれば、必ず出陣してくる。」
長年、セントレイズ帝国は大陸統一を目論んでいた。
その為、幾度もシャナ王国を侵略したが、一度も国境を突破出来なかった。
ローランド要塞が街道に栓をするが如く、行く手を阻んだからである。
ローランド要塞は山を利用した天然の要塞であったのを更に人工的に手を加えて、
難攻不落の要塞になっていた。
また、シャナ王国に通じる街道はローランド要塞の傍らにある街道を通って行くしかなく。
例え、要塞を無視して、シャナ王国に攻め入っても
補給線を襲われれば、軍勢は枯渇して全滅は必至であった。
いつしか「シャナの絶対防壁」と呼ばれるようになった所以であろう。
このローランド要塞を陥落する事が出来れば、シャナ王国攻略が成ったも同然である。
その場合、実力主義のセントレイズ帝国では戦功第一も夢ではない。
「しかし、どうやって、ギルダースと討伐軍を戦わせるのですか?」
ルークが興味を持った表情で聞いてきた。
「ギルダースに俺たちがセントレイズ帝国に亡命したと伝えれば良い。
そうすると、ギルダースは今なら無人のローランド要塞を落とせると考えて
軍勢を率いてやって来るだろう。
すると、そこには入城した、フローレンス将軍の軍勢がいるとどうなるだろうね?
フローレンス将軍対ギルダース軍の一戦が起こるのは間違いないね。
その後、ギルダースが撤退するにしても、
俺達をフローレンス将軍はすぐには俺たちを追いかけては来られまい。
いつ帝国軍が再び攻めるか分からない状態で、
ローランド要塞を迂闊に留守には出来るはずもない。
つまり、俺達には絶対的な時間のアドバンテージが貰える。」
俺が説明を終えても、皆の顔が呆けたままであった。
でまぁ、その後はご存じの通り。
ギルダースにはルークが使者として赴き、亡命すると嘘の情報を流して、餌を撒いた。
他にも兵糧、武具を王都近くまで移動する準備。
止めに、討伐軍が油断するように、
ワザと村人、町人に姿を見せながら、セントレイズ帝国に向かう軍勢を偽装した。
そして、討伐軍が出陣したと聞くや、森に軍勢を隠し、
討伐軍をやり過ごして、王都ランパールに向かったのである。
今頃、ローランド要塞にギルダースに攻められている頃合いだろう。
ケケケケッ!俺の睡眠を奪った代償だ!フローレンス将軍は思いつく限りの不幸になれ!
と思いながら仕事に励んだのを誰が俺を攻められよう?
この作戦を準備するのに、毎日セシリアの監視(眠ったら、剣でチクチク刺される拷問)により
貴重な睡眠時間を削らされ、朝になるとバルカン達に合掌される生活を送るはめになった。
そして、やっと準備が終わったと思ったら、
6日間、馬に揺られてまたもやロクに眠れなかった。
フローレンス君、睡眠の恨みは結構深いのだよ?
そんな俺の怨念は遠く離れたギルダースとの戦いの指揮を執っていたフローレンス将軍に悪寒を与えたとか与えなかったとか。
とりあえず、奇襲の頃合になるまで時間もあることだし、
久しぶりに貪るように眠る事にしよう。
そんな感慨を抱きながら、草むらで横になると、自然と眠りについた。
カズマの他にも草むらで久しぶりに体を横にして眠る兵士がそこかしこで見られた。
兵士達のイビキが唱和されて、これから戦場に向かうとは思えず、
どことなく長閑な雰囲気を醸し出していた。
しかし、この後、王太子派×第二王子派の最大にして、最後の激戦が幕を開ける事になる。
14話をお届けいたしました〜。
決戦前夜といたしまして、今作で詳しい策の全体像を書いております。
でまぁ、あまりデレてくれないヒロインもデレイベントが2、3話後にはフラグが発生いたしますので、少々お待ちを・・・・。
己の文章力の拙さをあと少し目を瞑っていただければ幸いです・・・。(汗)
感想、誤字、脱字をお待ちしております。