第一章 11話 元山賊全員集合
「そういう訳で、私はこれから、あなたの副官を務める事になりました。」
俺に宛がわれた部屋に来るなり、美人な軍人さんはそう言い放った。
ただ、その顔はエリート社員が本社から地方の支社に左遷されて、
左遷先の上司に挨拶する時の顔に似ていると思うのは気のせいか?
「もしかして、報酬?」
「違います!!もし、指一本でも私に触れたら、剣の錆にしてくれます!」
カチリと音がした手元を見ると、鞘から少し飛び出た、剣が見えた。
すごく手入れをされている剣特有の綺麗な銀の光を放っている・・・。
うん、よく斬れそうだ。
「うん、そうだね。理解したよ。君は任務で副官として来た。
だから、剣は元の位置に戻そうか?」
俺の言葉に、やっと物騒な剣を鞘に戻した。
「そうそう、紹介するけど。バルカンは知っているよね。
それで、あっちの四人は俺が連れてきた奴な。
左から、ダグラス、アイザック、ジャスティン、レスター。」
「ひゅー。華がないと思っていたけど、ついに俺にも春が・・・!」
ダグラスは顔の造形は整っているが、
その空気よりも軽い態度(浮いているとも言うが)の所為なのか。
イマイチ、女性に人気がない。
そんな彼は感極まった顔をしているが、諦めたほうが良いと思う。
セシリアは侯爵を継ぐ身だし、文武両道の高嶺の花だ。
しかも、この花は特大の毒の棘付きである。
花を摘もうとする者がいようなら、容赦なく刺すだろうし。
「お前・・・。鉄壁城塞の異名もあるセシリア侯爵を知らないのか?
結婚の申し込みをことごとく断っているし。
1日に届く、ラブレターの量はあまりにも多すぎて、
燃やすのに三日三晩掛かると噂があるって評判だぞ。
お前には無理、無理。」
アイザックは何処にでもいるような普通の人の外見である。
特徴らしい特徴がないのが特徴かもしれない。
中性的な顔立ちで、優男に見えるが、ボーイッシュな女性にも見える。
その為、男にも女にも変装をして、周りを驚かす趣味があった。
実際、ダグラスは何度もアイザックが変装した美人に騙されていた。
その変装術を生かした情報収集で「彼が知らない物は皆も知らない」と悪名高い。
聞いた噂によれば
もし、彼が知っている情報を世間に流せば、
シャナ王国は大幅な人事刷新が行われることだろうと。
ある意味、国の命運を握っている男である。
アイザックだけは最も敵にしてはいけない男である。
「・・・・・・・・宜しく頼む。」
大陸の全人類の不幸を全て、背負いこんでいるかのような男こそはジャスティンである。
無口で暗い表情をしている男だが、彼には余人には真似が出来ない特技があった。
彼が弓に矢を番えた時、彼の真価が表れる。
彼の弓術は速射、遠射、的当ての全ての技術が常人より遥か上を行く猛者である。
中世にスナイパーという職業があれば、彼は第一人者であろう。
13のコードネームを持つ、無口な東洋人の先祖はもしかしたら彼かもしれない。
「ヒッヒッヒッ、人体実験のサンプルが増えたな。」
ある意味、生まれる時代を間違えたマッドサイエンティストのレスターである。
ある時、俺がうろ覚えの知識で話した、気球を再現した時は驚いた。
と言っても、人間の半分ぐらいで人が乗れるサイズではないが。
それでも、紙で大きな袋を作り、
熱した空気を逃がさない作りの気球をたった1週間で作った。
俺は彼の発明家としての才能には本当に驚かされた。
伊達にエジソンの性格をねじ曲げて、研究馬鹿にした男ではない。
もし、現代の地球に生まれていたら、ノーベル賞を取っていたかも知れん。
まぁ、あの常人とは違う価値観で作る、
研究内容では審査員の目には止まらないかもしれんが。
そんな、個性溢れる挨拶に
「・・・私は侯爵の地位を陛下から頂いている、セシリア将軍よ。」
こちらは不承不承の最低限の挨拶だ。
これが、「カズマ五人衆」と「カズマの愛刀」として、その名を大陸全土に名を馳せる事になる6人の最初の出会いである。
「それで、俺達はどうしやすんか?」
「そうだな、アイザックは王都ランパール周辺の調査を頼む。
情報は多いに越したことないし。」
「おぅ、任せな!次はどんな職業の変装しようかな〜。
ここは踊り子、シスター、メイドのどれにしようかしら?迷うわね。」
そんな事を呟きながら、部屋から出ていく。
それにしても、頼むから男の声から女の声に変えていくのは止めて欲しい。
非常に気持ちが悪い。
「俺らに出来る事はそれだけだね。あとは第二王子派の動向次第だし。
各自、自由に過ごしていいよ。俺も寝て果報を待つとしようかね。」
「じゃ、俺はナンパでもしてようかな。」
「・・・・訓練する。」
「ヒッヒッヒッ。私は研究でもしているかね。」
自由人の俺に影響されたか、
山賊になるような奴は堅苦しいのが嫌いな自由人の気質があったのか
揃いも揃って自由人として相応しい行動を取るようになっていた。
各自、己の欲望に忠実になって、部屋から出て行った。
「じゃ、俺もベッドに・・・。」
俺も続こうとすると・・・
「私が副官になったからには、キッチリ働いて貰います。」
セシリアがキッパリと言う。
更にどこからか取り出したのか、一瞬で机の上に山ほどの書類が・・・。
「いや、俺はまだ無職だし・・・」
「ちゃんと、役職も貰いました。国王特別参謀補佐官です。」
「なっ・・・!そんな役職聞いた事無いぞ!!」
「先程、陛下に作って貰いました。
作戦の立案、準備、その他諸々の仕事をして貰います。
さぁ、今日中に終わらせて貰いますよ?」
「バッ、バルカン!」
「さて、おいらはローランド要塞を見て回ろうでやんす。」
無情にも、味方を見捨てて戦場から撤退していく裏切り者の姿だった。
「今日中に終わらせて下さい。終わらないとうっかり、手が滑るかもしれません。」
その手には鞘から抜かれた切れ味抜群の剣が握られていた。
「だっ、騙された!ラファエルの野郎、嵌めやがったな!!
俺のまったりスリープ生活を・・・!!」
「はい、机はこちらですよ。」
そう言うと俺の襟首をむんずと掴むと、机まで引っ張って行く。
生まれ変わっても、セシリアの子供にだけにはなるまい。
だって、彼女は熱心な教育虐待ママになるに違いない。
そんな考えを抱きながら、絶望的な量の仕事に取り掛かった。
・・・・次の日の朝、山賊5人衆は机の上で灰色に燃え尽きたカズマを見つけた。
5人は戦死した戦友の墓を前にしたかのような目で黙祷と合掌を厳かに行った。
これから5日後、討伐軍が出陣したという情報が入るまで、この光景は続いたという。
これで、カズマが連れてきた山賊全員紹介できた〜。
やれやれ、それにやっとセシリアとカズマの絡みまで来れた。
ツン期からデレ期にいくまで、もうしばらくお待ちください。
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