第一章 9話 軍議後編
ローランド要塞最上階の城主の部屋では奇妙な緊張感と期待感で満ちていた。
誰もが、俺の一挙手一投足に注目しているのが分かる。
ラファエルの周りの側近達が有能なのは分かった。
その有能な人材が揃って、頷いていると言う事は恐らく、
第二王子派も気づかない可能性が高い。
俺よりも切れ者ではなければだが。
「まさか、野戦で勝つ方法でもあるの?」
ラファエルが希望に満ちた顔で聞いてきた。
「いや、ないよ。」
一言でその希望を絶望に変えてやった。
その顔は勝利が当然だと思っていた桶狭間で織田軍に奇襲を受けた
今川義元の顔のようであった。
「ないのですか・・・。」
絶望を浮かべた表情で聞いてくる姿に嗜虐心が湧き上がったが、
時間も無いことだし、話を進めることにした。
「そもそも、何で戦おうとしている?俺達の敵はケイフォードだろう?
こっちに来るフローレンス将軍の軍勢は無視するべき。
王太子派全軍で王都を急襲すれば、王都を守備している近衛軍たったの1万だけ。
それなら数字上では互角の戦いになる。
その上、予想外のところからの奇襲でこちらが主導権を握ることが出来る。
その主導権を握った俺達が勝つ。」
俺の不敵な顔から放たれた言葉にセシリアが早速噛みついた。
「賢者が聞いて呆れるわね。
そんな事をしたら、ケイフォードと戦っている間に背後から
フローレンス将軍の率いる軍勢に襲われて、私達は全滅よ!」
セシリアの発言を皮切りに
「儂もセシリアの言う通りだと思うのぉ。」
ガンドロフ将軍
「私もそう思います、賢者殿」
ルーク騎士団長も同じ意見を口にした。
だが、3人は次の瞬間で強烈な悪寒を感じたらしく、身震いしていた。
人を不安に陥れる笑い声を俺が発したからだ。
邪悪に「ウケッケッケッケッ」と笑う、そんな俺の姿を見て。
「なっ、何が可笑しいのよ!」
3人を代表してセシリアが詰問すると
「いや、あまりに予想通りの懸念だったからね。当然、何もしなければ全滅だね。
そう、何もしなければね?」
ちなみに、そのセリフとともに不敵に笑う俺の姿を見たバルカンは後年
「兄貴は賢者というより魔王に近い存在でやんす。
もし、この世に魔王がいれば、あんな笑い方をするに違いないでやんす。」
と親しい友人に語ったらしい。
「フローレンス将軍には俺達以外の軍勢と戦ってもらう。」
「私達以外の軍勢とは?」
「ローランド要塞の軍勢以外のフローレンス将軍の軍勢と
時間稼ぎぐらいは戦える程度の軍勢がこの近辺にいるだろう?」
そういって、部屋の中央の机に広げて置いてある地図に歩み寄ると、
俺はある場所を指差した。
その場所を見て、皆の顔に驚きが広がっていった。
これが、オルデン村で1日中やることもないので、
劣勢なラファエル軍の逆転劇の方法を暇つぶしに考えていた作戦である。
まさか、ニートの暇つぶしに考えた作戦を
本当にラファエル軍が採用する事になるとは思わなかったが。
「まさか、そんな策があるとはのぉ。」
この場にいる、どの人間の人生よりも長い軍歴を誇る、老将でも
こんな奇想天外な作戦は聞いた事がなかった。
「うん!カズマの作戦を採用する!」
ラファエルにとっては絶望的だと思われていた状況に、
一筋も十筋も光が差し込んだ気分なのだろう。
ラファエルの号令により、作戦名「ローランド大返し」が決定した。
果たして、カズマが示す軍勢とは一体?
援軍なのか?それとも、王弟派を裏切る軍勢がいるのか?
シャナ王国は激動の年を迎える。
いらっしゃいませ、
TAKOSUさん感想を有難うございます。
勢いだけで己の稚拙な文章を誤魔化しているだけですが・・・。
テンポに関しては、以前書いた話のストックがあるので、このハイペースを可能にしています。
さすがに、ストックが残り少なくなると、隔週の更新になるかと・・・・。(汗)
さて、今作で9話目になります。
今回の話ではついに策があかされます。
まぁ、戦国時代の歴史に詳しい人なら簡単に分かるかと思いますが、元ネタは豊臣秀吉の「中国大返し」を参考にしています。
それを私なりにアレンジしてみました〜。
次作では、セシリアとカズマのコンビが
完成することになります。
それでは。
誤字脱字感想カモ〜ン。